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MOBにおけるTOB価格の見方 ー 株価算定が複数の手法でなされているか個人投資家の方は確認しましょう 

今回はMOB(マネジメントバイアウト)における価格について説明したいと思います。個人投資家の方で投資先銘柄がMBOを公表するケースもあると思います、その場合にMOBでのTOB価格が「妥当なのか?」と考える先の視点です。
1年前の日経新聞記事になりますが、「企業価値の評価は適切か」ということで、片倉工業のMBOの失敗の要因が次のとおり掲載されていました。

片倉工業のMBOのケースでは、賃貸等不動産の時価の含み益を考慮するとTOB価格に対する実質的なPBRは1倍を下回るということです。MBOについては、次のとおり指針を経済産業省が公表しているところです。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/fair_ma/pdf/20190628_shishin.pdf

日経新聞の記事では、過去にMBOが失敗したケースがいくつか掲載されていましたが、その中で光陽社のケースがあげられていました。少し調べてみたところ、以下のような記事があります。少し古いですが・・・

これによると、MBOの際のTOB価格を935円としていたところ、1294円への引き上げを求めたようですね。MBOで揉めるのは株価の算定です。つまり、MBOで会社を買うのは現経営陣であるところ、現経営陣としては金銭的負担を考えるとなるべく安く買いたい、一方、対象会社の経営陣であることから対象会社の少数株主としては、なるべく高い価格でMBOを実施して欲しいというように相反する立場にあります。よって、TOB価格が揉めるのです。

光陽社のケースでは、市場株価法、DCF法の2つで算定されたようですね。市場株価は、過去平均株価で算定する方法であり、過去の株価が低いと当然ながら理論株価であるTOB価格は低くなります。一方のDCF法は将来のフリーキャッシュフローをベースに算定するので、将来の事業計画の見通しが暗い場合、算定される株価も低くなります。

とうことで、類似会社比較法であるマルチプルでの算定がなされていなかったようで、この手法によれば、もっと高い理論株価が算定されたということのようですね。マルチプルであるEBITDA倍率ですと類似会社平均が6倍強ということで1294円ということのようです。至極もっともな指摘です。マルチプル法は、PER倍率やEV/EBITDA倍率を使用するので、類似会社が複数あり、かついずれも上場会社であることがポイントにはなります。

個人投資家の方は、投資先企業がMBOをして非公開化をすることを公表した場合、そのTOB価格が妥当かどうかは、市場株価法、DCF法、マルチプル法の3つで算定しているかを見ることが重要になります。この中で2つしか手法が検討されていない場合、何故、もう1つの手法が検討されていないのか?という視点を持つことが重要です。要はTOB価格が恣意的に低い価格になっていないかの目で見ることが重要ということです。