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「安定株主神話」など捨てましょう ー 安定株主がいないと困るのか?まず困りません


政策保有株式の削減は岩盤を突き抜けていく必要あり

数日前の新聞報道でトヨタがデンソーの株式を売却した記事が出ていました。いよいよトヨタも政策保有株式の売却の動きが加速する感じですね。
2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、上場企業各社では、政策保有株式の削減が一定程度進んでいるところかとは思いますが、一方で、そろそろ「岩盤かな」と考えている企業も結構多いかと思います。「岩盤」=「これ以上は削減が困難」という意味です。はじめて聞いたという方は、岩盤という言葉は是非、覚えておくと良いかと思います。

けど、一方、資本市場の考えはどうかといいますと「岩盤も崩せ」というスタンスかと思います。岩盤も重機で掘り進めていけば、なんとか突き抜けていくことが出来る、それと同じことです。企業は、政策保有株式がゼロになるまで削減を進めることが今後も資本市場から強く求められると思います。

企業が気にする安定株主って本当に必要なの?

そもそも企業が政策保有株式の削減で懸念することは何でしょうか?
それは安定株主が減るということです。けど、これは本当に懸念すべきことなのでしょうか?つまり、安定株主がいないと本当に困るのか?という疑問です。

株主が企業に意思を表明するのは、通常、年に1回の定時株主総会の時です(勿論、株主が請求すれば少数株主権として臨時株主総会を開催することもありますが、実務上は稀ですね)。
では、この定時株主総会で上程される議案の賛成率はどの程度かといいますと、例えば取締役選任議案に関していいますと、各社によって異なりますが、概ね80%台後半から90%台であることが一般的かと思います。高い賛成率ですね。

そして、機関投資家は会社提案議案に対してどういうスタンスかといいますと、基本的には機関投資家は会社提案議案に賛成するというスタンスです。機関投資家は議決権行使基準を有しており、この基準に抵触しない限りは賛成票を投じます。そして、この議決権行使基準は基本的には緩く、資本市場のミニマム要請に応じた企業経営をしていれば会社提案の株主総会議案には基本的に賛成する内容になっているのです。ここをしっかりと理解しておく必要があります。

上場企業には、ROE8%以上が伊藤レポートで求められていますが、機関投資家が総会議案に反対をするのは、ROE5%未満が過去数年続くといった例外的な場合です。不祥事でも起きない限り、ROE5%の経営をしている限り機関投資家は賛成するのです。

まともな企業経営をしていれば安定株主ゼロでもまず困りません

というように安定株主が存在しないことで株主総会の議案が否決されるというリスクは極めて低いのです。それなのに、何故か「安定株主がいないと不安だ」という企業が多い気がします。多分、万一の場合を想定して、会社提案議案に何時であっても賛成してくれる株主がいないと漠然とした不安を感じるのでしょうね。「安定株主比率は20%はマストである」「いや、30%がマストである」などといった意味不明な話が社内で飛び交うのです。

けど、前述のとおり安定株主などゼロであっても、実際にはたいしたリスクなどないのです。企業が資本市場のミニマム要請に応えたまっとうな経営をしている限り、機関投資家も実質的には安定株主と考えてよいのです。ここをしっかり理解することが大事です。

「物言わない株主」を期待することはもはや時代錯誤


機関投資家も実質的には安定株主であると先ほど書きましたが、普通の政策保有株主とは少し違います。それは、企業に物言うことがあるという点と、企業経営がまっとうでないと判断した場合には、議決権行使で反対する場合があるという点です。「政策保有株株主=絶対に物言わない株主」であるが、「機関投資家=物言う場合もある株主」という点で違いがあります。

そもそも、日本企業はこれまで株主=何も発言しない者であることがマナーと考えてきました。だから政策保有株主の存在が有難かったのです。
けどこの考えはナンセンスの極みです。今でも企業の総務部の方などが株主総会で株主が発言するかしないか云々の些末な話を真面目な顔をして話をしていると「この人たちは、会社法の根本を学生時代にしっかりと勉強してこなかったのだろうな」と思ってしまいます。

会社法上、株主は会社の実質的所有者であり、年1回の定時株主総会で会社の運営が順調かどうかを自分たちが選任した社長はじめ経営陣に質問するのは当然の行動です。自分で会社を起業したような場合、リスクマネーの提供者である株主が質問するのは当然と誰でも考えるかと思います。

ところが、サラリーマン役員は、起業した経験もないし、また、会社の規模も大きいと株主の数も多いので、株主が質問をしたり、提案をするとその行為に驚いてしまうのです。このような考えのサラリーマン役員の方は一度、会社法の学者の書いた基本書を買って、今度の正月休暇にでもしっかりと読み込んだ方がよい気がします。

機関投資家が企業に物言うのは至極当然なのです。これまでの「物言わぬ株主」を期待するなんてことが時代錯誤かなと思います。