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「安定株主=物言わぬ株主」でなくなる時代 ー 大手生保の議決権行使基準を確認しましょう


安定株主が物言わぬ株主でなくなる時代

ツイッターでも前に紹介しましたが、先日の日経新聞で次の記事がありました。

私もnoteで以前に似たような内容の記事を書いたことがありますが、「物言う株主」という言葉は、今後はなくなり、株主は投資先企業の株主総会の決議事項を是々非々で判断する時代が到来すると思っています。

このように株主の姿が大きく変化する中で、企業の経営トップにとって盲点になっているのが生命保険会社に対する認識です。生命保険会社(以下「生保」といいますね)と言えば、これまで安定株主の代表格と言えます。大株主である生保が投資先企業の株主総会で反対票を投じることはまずあり得ないという安定株主神話を持つ経営トップの方は大変多いと思います。

でも、この神話を当たり前のこととして信じることは少々危険な時代になりつつあると思います。

日本生命の議決権行使基準

生保の投資先企業に対する議決権行使基準をみたいと思います。ここでは生保のガリバーである日本生命保険の基準を紹介します。以下が、公表されている議決権行使精査要領です。

https://www.nissay.co.jp/kaisha/otsutaeshitai/shisan_unyou/ssc/pdf/youryou2023.pdf

議案毎に1つずつ解説していくと結構大変なので、議決権行使で重要な議案である取締役選任議案について見てみます。上記の基準の精査要領を見ると、「ROEが5期連続して5%未満が継続して、かつ営業利益率が5期連続して業界平均を下回る場合には、精査対象となる」という記載があります。

この精査要領に該当する場合には、対話を実施して細かい精査していくということになっています。そして、「収益性の改善に向けた道筋が示されていないなど業績不振に対して適切な対応策が講じられていないと判断され、対話を通じても説得的な説明が得られない場合には、反対する」とあります。

整理すると、精査要領に該当する企業とは対話をして、結果、業績改善に向けて適切な施策を講じていないと判断する場合には、取締役の再任に反対するということです。

第一生命が同意なき買収をする時代です

機関投資家と異なり生保は、これまで安定株主として不動の地位にあったわけですから、前述のとおり基準に抵触しても、今のところは基本的に対話をすれば取締役選任議案に直ちに反対するということは少ないとは思います。この点、形式基準に該当すると躊躇なく反対行使をする機関投資家とは大きく異なるところです。機関投資家ほど厳しくはないと言えます。

とは言うものの、安易に安心と考えていると足元をすくわれる可能性も大かなと私は思っています。その理由の1つは、第一生命がベネフィットワンに対して同意なき買収を提案したことです。これは結構驚きでした。

第一生命と言えば、日本生命と同様に日本を代表する安定株主であるかと思いますが、その生保が突如として日本企業の買収に名乗りを上げたのです。これにより世の中大きく変わったと個人的には見ています。これまでタブーとされてきた、同意なき買収を安定株主と言われている生保がするのです。今はこんな時代ですので、生保が業績不振の投資先企業の取締役選任議案に反対するなど何ら驚くことではなくなっているように思います。

ということで、企業としては大株主に生保がいる場合には、このタイミングでしっかりと議決権行使基準を読んで、基準に抵触する場合には会社から生保に対して積極的に対話を提案するという姿勢が大事かと思います。ほっといても生保から企業に対話の申し込みが来るのですが、先んじて動くことが大事です。