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MBO(マネジメント・バイ・アウト)のポイントは? ー 個人投資家が見るべき事項


MBOとは?

昨日の日経新聞でベネッセホールディングス、シダックスがMBOを公表したとの記事がありました。ベネッセの記事は次のとおりです。最大級の規模のようです。

MBOとはマネジメント・バイ・アウトで、社長・経営陣が自社の株式を取得して、非上場化する方法です。
経営陣が買い取るといっても、普通のサラリーマンの社長・経営陣が上場企業の株式を買い取るのは個人の資金面を考えると困難で、オーナー企業の社長一族(プラス経営陣)が、投資ファンド等と共同して行うケースが多いかと思います。この数年でMBOが増えているかと思います。

MBO増加の背景

MBOはどういう背景で実施されるのでしょうか?

MBOにより企業は、上場廃止になります。企業は上場していると上場コストがかなりかかります。このコストとは、東証に毎年金を払うコストだけでなく、上場に伴う諸々のコストです。例えば次のような内容です。

① 決算(単独・連結)対応に関するコスト
② IR対応に関するコスト
③ 株主総会対応に関するコスト
④ コーポレートガバナンス体制の整備に係るコスト など

これらの費用は結構な額になります。大きいところは人件費になりますが、収益を一切生み出さない間接部門の販管費が増えることになります。また、監査部門などは、上場しているが故にやたら細かいどうでも良い些末な事項をネチネチ指摘して、無理やり余計な仕事を増やすので、このようなしょうもない部門の仕事に対応する人件費も馬鹿になりませんね。

これに加えて、④に関連しますが、コーポレートガバナンスに関する対応要請が近年かなり増えています。「株価を上げろ」「英文開示を充実させよ」「社外取締役を増やせ」「資本市場と対話をせよ」などあげるときりがありません。
社外取1名起用するにしても最低数百万かかります。正直、何の価値も生まない社外取など邪魔だと思いながらも、東証の要請もあり、仕方なしに社外取を起用して金を払っている上場企業もかなり多いところかと思います(日本は、社外取締役天国かも知れません)。

というように上場することで発生するコストを考えると、上場を廃止して、資本市場のことなど気にせずにじっくりと経営を行いたいと思うオーナー企業は多いはずであり、このような場合にMBOにより非上場化を選択するということになります。

MBOにおいて個人投資家・株主が留意すべき点は?

MBOの背景は以上のとおりですが、では、個人投資家・株主がMBOで見るべき点はどこでしょうか?つまり、自分の投資先企業が突然MBOで上場廃止になると発表した場合に株主は何を見るべきかです。

答えからいいますと、MBOの価格、つまり経営陣サイドがTOBをする際のTOB価格です。これが合理的に算定されているか否かが株主が留意すべき事項です。実はMBOの際には、経営陣には利益相反の可能性があり、このためTOB価格がポイントになるのです。その理由をご説明します。

対象会社の社長・経営陣は自社の会社の株主のためにTOBに応じる際にはできるだけ高い価格で応じる方向で検討する必要があります。しかし、MOBOの場合には、TOBをする側の立場(買手側)にも立ちます。買手側の立場としてはなるべく低いTOB価格で買いたいというインセンティブが働くわけです。このように利益相反的な地位に立ち、普通に考えると買手側の立場を優先させたいと考えます。

このため、MOBの際のTOB価格は通常のM&Aの時よりも重要になり、この妥当性をめぐりアクティビストである投資ファンドと会社の間で争いに発展し、MBOが不成立になるケースも最近出ています。

TOB価格の算定方法は?DCF法は個人的には「どうかな?」・・

TOB価格の算定には、市場株価法、類似会社比較法、DCF法などがあります。ここでは詳細説明はいたしませんが、ざっくりと各手法を以下説明します。

市場株価は、過去平均株価で算定する方法です。類似会社法はいわゆるマルチプ法とも言われており、類似企業のPER倍率、EV/EBITDA倍率等を用いて算定する方法です。このマルチプル法が一番良いかなと私は思います(あくまで個人的な見解です)。

DCF法は会社の将来の予想フリー・キャッシュフローをベースに算定します。そして、このDCF法ですが、個人的にはあまり当てにならないかなと私は考えています。

DCF法でバリュエーションをされた方はご存じかと思いますが、3年~5年先の将来の事業計画をベースに価値算定をするのですが、この3年~5年先の業績予想が当てにならないケースが多いのです。
中期経営計画を策定しても、3年後の業績予想が未達に終わる企業も結構多いと思います。このように不確実性の高い将来の業績予想を前提に価値算定をするということが「果たしていかがなものか?」と私は思っています。
DCF法では、一番不確実性の高い最終年度の予想業績数値が価値算定で大きな割合を占めます。5年後の数値の精度は、正直、現時点では検証できないと思います。勿論、現時点での可能な限りの予想を立てて精緻に分析するのですが、所詮は予想に過ぎないということです。

従い、投資家・株主の方はMBOのプレスリリースが公表されたら、価格の算定について市場株価法、類似会社比較法の2点を見て、これが合理的かどうか、不明であれば会社に算定の根拠を質問をするという姿勢が大事かと思います。特に類似会社比較法(マルチプル法)をじっくりと見ることが大事かと思います。

今後、他社のMOBの事例が出る都度、プレスリリースで株価算定を眺めておくとある程度は感覚が身につくかも知れませんので、お薦めします。