フランス外人部隊を二年で脱走した話#三話

選抜の本会場であるオーバーニュへ

フランス外人部隊の第4外人連隊(4eme regiment etrangere )は南フランスのオーバーニュにあり通称はオーバーニュと外人部隊兵の間では呼ばれています。フォルドノジャン要塞で面接、身体検査と体力検査を通過した志願者がある程度の人数に達するとフランスの北にあるパリから南フランスにあるオーバーニュまで伍長の引率で新幹線で移動することになります。道中の旅費はもちろん無料です。
私たちは私服に着替えさせられてフォルドノジャン要塞からバスに乗り電車の駅まで移動しました。私の場合は志願から約五日後のことでした。道中では自販機でコーヒーやお菓子を買う機会もありました。久しぶりのシャバ久しぶりのチョコレートなのでとても美味しく感じました。後々の新隊員教育ではレーションのなかにあるチョコレートがあたかも通貨のように扱われることもありました。そのくらい甘いものに飢えることになるのです。財布等はすべてとりあげられていてお金はなかったはずなのですがなんで僕を含む志願者がお金をもっていたのかもう覚えていません。
移動の新幹線通称TGVの中では世間話をしたり昼寝をしたりして久しぶりに就寝時間以外でリラックスした時間を過ごすことができました。電車の中で過ごした時間は4時間から5時間ほどでした。このあとのことはオーバーニュに着くまであまり覚えていません。

オーバーニュでの生活


オーバーニュは真ん中に広い閲兵場(広場のようなエリア。奥に外人部隊のモニュメントと外人部隊の品々を収めた記念館がある。後々新兵教育訓練を終了してそれぞれの配属先連隊に振り分けられる前にここを皆で見学することになる。)があり白い建物群で構成されていました。つくとすぐに倉庫のような部屋に通され再度新しく自分たちを担当することになる彼らに自分の私物を差し出し新たにジャージと迷彩柄のゴアテックスのジャンバー(自衛隊で言う外被のようなもの。元自衛隊でない方はすみません)を受け取り落第するか合格して兵士として正式に採用されるまでそれらを着て生活することになる。フォルドノジャン要塞での生活で志願者たちは自前の歯ブラシや髭剃りで朝の身支度をしていたがここで外人部隊から新たに歯ブラシや歯磨き粉、パンツにいたるまで身の回りの品を支給され完全に自分の私物とはお別れすることになる。ちなみにこのときに時計も没収されました。
私の日本人同期はガーミンの時計とワイリーエックスの高価なミリタリーサングラスをその他の私物と一緒に預けたのですが新隊員教育機関が終わるまでの期間で盗まれていたらしいです。読者の方はすでに想像がついているかもしれませんがいわゆる民度は日本よりだいぶ低いです。物がなくなるのは日常茶飯事なので高価なものは持って行かないのが良いでしょう。(担当者やそこで働いている外人部隊兵しか入れない倉庫なのでだれが盗んだかは想像にお任せします。)
オーバーニュの選抜試験場の待機場はフェンスで囲まれていてそのなかにベンチ、鉄棒やウェイトトレーニング器具などがおいてあります。志願者たちは大半の時間をそこですごすことになります。私の場合12月に志願したので寒空の下十分な衣服も与えられずに1か月以上も過ごすことになりました。面接や検査などでだれかを呼び出す際はサイレンがなり全員が隊舎前に集合させられてその中から名前を呼ばれます。100人以上いるなかでたった一人を呼び出す際でも必ずサイレンをならし全員を集めているのでとても煩わしいものでした。夜8時ごろになるとまた集合させられ隊舎なかに入るように指示され全員でシャワーに入り就寝です。シャワーは個室タイプではなく大きい部屋の壁にシャワーヘッドが固定されているタイプのものです。左右に仕切りはありますが基本的に丸見えです。軍隊に志願する人はこれくらいは気に市内での大丈夫でしょうが逆にこれで気にしていたらこの後の外人部隊生活を続けていくことはできないでしょう。(脱走した僕が言えたことではないですが)部屋は大体10人部屋でいわゆるたこ部屋です。部屋の中に二段ベッドがいくつもおいてある自衛隊の新隊員教育隊の部屋と大差はありません。
毎晩寝る前に当直の上級伍長(カポラルシェフ)がベッドの点検にやってきます。外人部隊の教育隊と選抜試験会場のオーバーニュでは寝る前にベッドを規定通りにきれいにシーツや毛布をかぶせ点検を合格しなければなりません。ですがご心配なくそこまで細かく点検してくる人は私の経験上いませんでした。自衛隊のベッドメイクの基準にくらべればたいして難しいことではないので元自衛官の方でなくてもなんなく外人部隊の整理整頓や清掃の基準は合格することはできるでしょう。
こちらの動画はオーバーニュの選抜試験会場ですでに選抜に受かって新兵教育のためカステルノダリに送られるのを待つ新兵(通称ルージュ)達がベッドの点検とその指導をうけている様子です。



ゲシュタポでの面接

さてフランス外人部隊の選抜試験が行われるオーバーニュではゲシュタポと呼ばれる部署があります。これは外人部隊における警務隊のあだ名で(ミリタリーポリス)もちろんドイツが反ナチスを取り締まるために創設したあの悪名高い国家秘密警察のゲシュタポではなく警務隊の中でも志願者の面接や調査を担当している組織が特にゲシュタポと呼ばれています。現在は面接の際に暴力や拷問まがいのことがおこなわれることはありませんが以前はそういうことがあってそれで1940年以来ゲシュタポの異名がついているそうです。
さていう僕もとある日寒さに震えていたらサイレンが鳴らされ他の志願者全員と一緒に隊舎の前に集合させられた際に名前を呼ばれその他数名と一緒にゲシュタポに連れていかれました。
ゲシュタポは志願者が生活する隊舎のとなりにある建物の一番上の階にありました。そこにはドアの前や階段の踊り場にまで椅子が並べられそこで無言で待つことになります。絶対に志願者同士で話してはならないルールになっていますが中にはこそこそ声で話している人もいました。
面接が行われる部屋では2つの椅子と机、その上にパソコンがあり僕の面接官はロシア系らしき上級軍曹(サージョンシェフ)でした。
椅子に座るように促されることはなくたったまま英語で面接が行われました。
彼は僕が志願時に提出したケータイやパスポート、その他の書類を持っていました。彼には過去の経歴やドラッグの使用歴、犯罪歴などを聞かれました。大半の日本人は犯罪歴やドラッグの使用歴はないので問題なく潜り抜けると思います。入隊動機などを再度聞かれますがもう何度もフォルドノジャン要塞での面接で聞かれたのですらすらということができました。
英語が話せないほかの日本人の隊員はロクにコミュニケーションも取れないまま進んで合格するパターンが大半のようです。ぼくは下手に英語が話せたので日本人志願者として珍しがられたのか4回ほど同じ担当官と面接が行われました。彼は私の自衛隊歴や家族のバックグラウンドなどざまざまなことを質問してきましたが結局彼が興味本位で質問してきたように思います。彼は何回も私をおちょくってきたりしてきました。ある時、ぼくは父の名前を聞かれたのですが僕が幼いころに父と母は離婚していて父の名前を知らなかった(興味がなかった)ためその質問に答えることはできませんでした。その面接官は僕に壁に向かってほぼ密着して立つように命令しました。壁にむかって数センチのところでぼくは直立不動で立ち、「父の名前をいえ」僕「知りません」と同じやりとりを大声で繰り返していました。ぼくは元日本の自衛官、軍人ということもあり軍人らしいきびきびした立ち居振る舞い大声での返答が好印象だと思い接していたのですが彼はそれを逆手にとりぼくをおちょくってきたのでした。ある時は父の名前がわからないせいで腕立てをさせられたりもしました。50回ほど英語で数えながらしたところで立つようにと命令され終わりした。こう書くと厳しい雰囲気で面接が行われたと重いかもしれませんが面接官は終始フレンドリーでリラックスした様子でした。

爆笑面接

面接中に急に日本の歌を歌うようにと言われ、千の風にを歌ったり国家や即興のラップを歌わされたこともありました。千の風にを歌うときはもう私も完全に吹っ切れて大声でほかの部屋に聞こえるくらいの声量で歌ったためとなりの部屋からほかの志願者と面接していた面接官がロシア語で怒鳴りながら部屋に突入してくるほどでした。

外人部隊志願者への志願前のアドバイス

大半の方は志願時に英語もフランス語も話せないのでどうやって面接をするのかと不安をもたれることかと思います。ですがフランスに訳した戸籍証明書や犯罪歴がないことを証明する書類があれば面接があっさり終わることでしょう。私はパスポート以外なにも書類をもっていかなかったのでオーバーニュで五回も呼び出されて面接をうけましたが私の同期の日本人は上記の書類をすべてそろえてきていて面接には一回か二回ほど呼び出されただけで合格していました。また体に手術痕がある場合はその傷は完治していて現在運動に一切の支障がないことを証明する診断書があればそれが原因で落とされる可能性をなくせるのでこちらも準備するといいです。ちなみにですが膝が原因で落とされる志願者がたくさんいます。

クリスマス休暇 選考もストップ

私はオーバーニュにいる間にゲシュタポはクリスマス休暇に突入したようです。選考活動がすべてストップしてしまっていて私たち志願者は毎日特に意味もなく不十分な服装で寒い中日々を過ごしていました。昼間の待機場所は当然外なので無駄に寒い日々を過ごさなければなりません。私は合計一か月ほど合格までオーバーニュで過ごしました。志願を考えている方は11月と12月は必ず避けるようにしましょう。虚無の時間を過ごすことになります。



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