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140字小説にチャレンジする(2024.03.01〜03.31)


『名前を』
 婚活パーティーの終盤、次々とカップルが成立してゆく。
「思い出すなぁ」
 思わず言うと隣の男性が「何をです?」と聞く。
「はないちもんめの時、なかなか呼ばれなくて」
「今日のパーティーは番号で呼ばれるので名前は呼ばれません」
 むくれた私に彼が囁いた。
「なので、まず名前を教えてくれませんか」

『浮気の理由』
「おかえり。今日はギョーザだよ」
「俺の好物じゃん。サンキュ」
 彼女が作るギョーザは肉とニンニクがぎっしりでまじ美味い。
 自然、無言になり食べていると、ふと前の彼女を思い出した。
 彼女が作るやつは、いつも皮が水っぽかった。
 でも、よく喋ったな……。
 急に、前の彼女に会いたくなった。

『ズルい』
 「ズルい」って根拠が無い批判の言葉でしょ。だから使わないと決めていた。
 仕事帰り君を食事に誘う。サラリと断られた。打ちのめされた気分。心に空いた穴を満たしたくてファミレスに飛び込む。
 ……奥まった席に知らない子と君がいた。
 嘘、その微笑みを私に頂戴。
 知らず知らずつぶやいた。「ズルい」

『彼は運命』
 父子家庭だった。父は幼い私に「お前にあの星をあげる」と夜空を指さすような人だった。
 そんな父が亡くなり数十年経つ。
 私は今、夜の高原で夫と二人空を見上げている。
「なぜ私にプロポーズしたの?」
「運命だから」
「またその答え」私は笑う。
 実際運命だ。彼は父が指差した星から来た人だから。

『星を食べる』
 焼けた砂糖とバターの香りが時間と共に部屋に濃く漂う。小麦粉も砂糖もバターも元は別々の材料たち。それが混ざって美味しいクッキーになるのに。私はそうできなかった。
 星型のクッキーは小学生の頃優等生だった子に教えてもらったレシピ。
 あの子みたいに賢く生きたかった。
 私は今日、仕事を辞めた。


『完璧な世界』
 ロボットが人に替わりあらゆる事をするのが当たり前の時代。
「本当、助かるわ」
「機械は間違えないしやることが早いものな」
 女たちはロボットに憧れるようになった。
 男たちは自分をよく見せるために身体をサイボーグ化するように。
 失敗がない世界。
 失敗することが尊ばれるようになった。
 人間らしいと。


『おひなさま』
「もう別れましょ」
「捨てないでくれ!」
 うちのお雛様は毎年痴話げんかする。
 実は女雛、幼稚園だった私が持っていたバー●ー人形の男子に恋してしまったのだ。
 翌年、人形それぞれのお相手を入れ替えた。
 喧嘩はおさまり私の結婚も決まった。
 万々歳だ。
 でもこの人形たを新居に持って行く勇気が出ない。


『引っ越し』
「引っ越しって本当イヤ」
「分かる。ここで積み上げてきたのが別の場所でまた一からだもの」
「それより男と女どっちにする?」
「女は自分以外の理由で評価されがちだし」
「男だって割に合わないよ」
 寄り集まり話す彼らを見て管理人はため息をつく。
「最近はここあの世から出て行きたがらない魂ばかりで困る」


『辞める? 辞めない?』
 仕事の合間、屋上に来た。
「辞めちゃおうかなぁ」
 煙草を咥え手すりに肘をつく。
 吐き出した薄曇りの煙が青い空にたちのぼり私は目を伏せた。入社当初の私を汚しているみたいで。
 向かいのビルの一階が視界に入る。
 そういえば今日は新作スイーツの発売日だ。
「……とりあえず今日は辞めるの止めておくか」
『桜』
 米一袋より重くなった娘を後ろに乗せ自転車を漕ぐ。
 四十分かけ着いた丘の上にある公園。
「綺麗!」見上げる先には桜が咲いている。
 枝から溢れるようだ。
「花びら、ピンクっていうより白いんだね」と娘。
 おくるみに包み抱いた日を思い出す。今はもうずーっと抱っこなんて無理。
 少しだけかなしくなった。


『長い夜』
 醤油差しを取ろうとした俺の指が妻の指とぶつかる。
「あ、悪い」
 妻はギクシャクと目を逸らした。
「いつ帰ってくるんだ?」
「明日の夕方よ」
 BGMがわりに流しているテレビの音が今日はやけに白々しい。
「二泊もするか?」
「高校の修学旅行だもの」
 夫婦になって二十年。
 今更恋人みたいな夜なんて……。


『晴れの日』
「大丈夫?」
 涙ぐんだ私に課長が心配顔で聞いてくる。
「……」
 ごめんなさい。見ないで。みっともないところを見られたくない。
 課長は憧れの人なんです。
 課長が言った。
「今日は雨の後の晴れだから。よく飛ぶって言ってた。気をつけて」
 気をつけて? 相手は花粉ですよ?
 好意が憎悪に変わりそうになった。


『シークレット』
 今日は鼻高々になれた。いい日だった。
 幼馴染の彼女に「背が伸びた? 格好良いね」と言われたから。
 靴を脱ぐと母が帰ってきた。
 母がタオルでポチの足を拭き俺を見る。
「昔からそういうの好きね」
「は?」
「竹馬とか缶ポックリとか」
 俺はギクリとする。
 まさか分かっていた? シークレットシューズだと。


『詰められる』
 家に帰ると五歳の娘が出迎えてくれた。
「ただいま」のハグかな? としゃがむ。娘が言った。
「残してたプリンがないの!」
 実は俺が食べた。
 夜中、腹が減って。
 目を逸らすと俺の顔は小さな手にパチンと挟まれる。
「パパ? 私の目を見てちゃんと言って」
 実はこの時が一番嬉しい。
 真人間に戻る気がするから。


『宿題』
「宿題が先だからね」言いかけると、息子はテーブルに宿題を開げ猛然とやり始めた。
「もう! 母さんも手伝ってよ」
 戸惑う私に息子が言う。「●●ちゃんに、二人でジューススタンドに行こって誘われた!」
 あぁ、あのフルーツをその場で絞る美味しいやつね。
 よかったね、今日は私に絞られなくて。


『翻訳機』
 バイトの面接を受けるので翻訳機を買った。
「じゃあ行ってくる」
「充電してあるわね」
「大丈夫だよ、母さん」
 僕は小学一年生から引きこもっている。他人と喋る機会はなかった。だからどう喋れば良いか分からない。分からないことは怖い。
 でもこの機械が僕の代わりに喋るから。僕の気持ちをいい具合に。


『僕の彼女』
 僕の彼女は絶対にマスクを外さない。
「つけ始めたら、何だか外せなくて」
と君は目を眇める。
 心を隠されているようでかなしい。言えば君を悲しませるから言わないけれど。
 仕事帰り、彼女と初めて出会った路地をぶらついた。すれ違った学生たちの会話が聞こえる。「そういえば最近口裂け女出なくね?」


『写真の人』
「道に迷わなかったか?」
「大丈夫だったよ。途中で教えてもらったから」
 お盆の準備を手伝っていると、仏壇の引き出しから写真が出てきた。
「この人だよ、道教えてくれたの」
 おばあちゃんが急に涙ぐんだ。
「私の叔父さんだよ」
「え!?」
「南方で戦死して骨すら帰ってこなかったのにねぇ」


『私の彼』
 深夜零時。彼が部屋に入ってきた。
 来て早々「よくもやってくれたな」と詰め寄られる。
「破けたから繕っただけでしょ」
「嫌がらせだろ!」
「それより窓から入るのやめなよ」
「雰囲気ないと台無しだ」
 彼がマントをひるがえす。そこには私のつけたニンニクのアップリケが。
 吸血鬼ってホント面倒くさい。

『秘宝』
「この神殿に秘宝があるはずだ」
 すると突然女神が現れた。
「宝をただではやれぬ」
 色めき立った調査隊は自分たちの腕時計や眼鏡、孫に買ったキーホルダーまで差し出した。
 受け取ったのは古びた一本の針。
 調査隊は喜び帰った。
「新しい物の方が優れているだろうに。人間はわからぬ」女神は肩をすくめた。

『イイ女』
 二十歳ハタチになれば大人の女になると思ってた。
 三十でイイ女に。四十なら成熟した女になると。「予定と全然違うんだけど」
 鏡を見て文句を言う私に夫が答える。
「もっと歳をとれば希望通りのイイ女になれるだろ」
「あら! 私がいつまでも若いからいけないの?」「……若作りしてるうちは無理だな」


『ペンギン』
 水族館デートで沢山歩き回り疲れ切った僕ら夫婦。
 横着だけど途中で美味しそうなパンを沢山買い夕飯に。
 妻がかぶりつくパンには羊羹が黒々とかかっている。
「これ見ると連想するよね」
「ペンギンを?」
「ううん、結婚式での君のカッコいいタキシード姿」
 うちの奥さんはペンギンに負けないくらい可愛い。


『禁忌の言葉』
 姉は僕に色々教えてくれた。
 その中には女のひとに使っちゃいけない〈禁忌の言葉〉というのもあって。
 大人になり結婚した。姉の教えを守っているおかげで妻との関係は良好だ。
 禁忌の言葉……幼い頃一度だけ試してみた。化粧中の母に。
「ほうれい線があるよ!」
 そのときの怖さは今も忘れていない。


『普通』
 人のことを悪く言い被害者ぶる後輩にも、同情しておいて裏で悪口に花を咲かせる先輩たちにも馴染めなかった。
 相手を囲い込み過剰防衛して相手をやり込める「普通」が怖かった。
 結婚し子育てする今、思う。自分の子を囲い込んで指図して……これって私が嫌った「普通」じゃないの?


『修学旅行の夜』
 気配に目覚めるといつもより広い天井にパジャマ姿の君が張り付いていた。
「一人で寝るのは初めてで」君の声が震える。
 僕らは互いに半目する忍者の一族。君は幼い頃から僕を付け狙ってきた。昼は同じ学校で、夜は僕の部屋の天井裏に潜んで。
「なら、結婚しよっか」と聞いた。
 小学生の頃、修学旅行の夜。


『うちの両親』
「わ、来ちゃった」
「緊張してるな」
「代わってあげようかしら」
「あのね!」僕はたまらず振り返った。
「告白を親にしてもらうなんて最悪だ! またフラれるから止めて」
 案の定告白相手の子は「きゃっ、校長先生に教頭?!」と逃げて行く。
 僕のことになるとどうしてこうおバカになるんだ? うちの両親は。


『怪盗と探偵助手』
 まさか美術品に変装(?)するとは。
 怪盗は手下に「その壺は置いていけ」と指示をする。
「これが目玉の品だったのでは」
「いや、駄品だった」
 すると壺がぽこぽこ揺れ動く。(失礼だぞ!)と言いたげに。
 部下が去り、怪盗は探偵に電話する。
「君の助手、愉快だけど(面倒だから)張り込みさせないで?」

『怪盗と探偵助手 2』
「仏像をぐるぐる巻きなんてバチが当たりませんか」
「僕ら罰当たりな職業だから」
 忍び込んだ旧家の蔵、前当主が金に物言わせ集めた美術品たちをゴッソリいただく。緑色の仏像が恨めしげにこちらを見ていた。
 このまま放置するのも可哀想だ。
 探偵に電話する。
「君の助手、まともな変装できないの?」

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