「学校のトラブルの多さに悩み、娘を離島留学させることにしました」〜保護者インタビュー〜
自由登校を見守る会「カスミソウ」の会員である保護者へのインタビュー企画です。今回協力していただいたのは、小4の娘さんがいて働くシングルマザーのTさん。学校でのトラブルの多さから離島留学した経験についてお話しいただきました。
小学校に入学してからトラブル続きの日々。環境を変えることに
小4の娘を抱え、フルタイムで働くシングルマザーのTさん。保育園時代は何の問題もなかったと言います。
Tさん「保育園時代はむしろ、身体の発達は早い方でした」
運動神経も良く活発だった娘さんは、リーダーシップをとり、周りを助けてあげる方でした。それが、小学校に入り、落ち着きのない行動が増え、勉強に集中しにくい様子が見られてきたと言います。
また、特定のお友達とトラブルが起こったのをきっかけに、度々トラブルが起こるようになったそう。
Tさん「1年生の後半から友達と喧嘩になって学校から電話が頻繁にくるように。ちょっかいを出され、我慢できずに手が出てしまったり、その反動からか他の子とのトラブルになったり、教室を抜け出したりと、問題行動が続きました」
娘さんが学校や友達への不満を口にすることも増え、Tさんはスクールカウンセラーや発達支援センターに相談しましたが、参考になるような具体的なアドバイスは得られませんでした。
Tさんとしては何とか学校生活を普通に送れるよう、娘に言い聞かせたり、励ましたりしながらも、時にはきつく叱ってしまったこともあったと言います。
「2年生になってもトラブルの頻度は変わらず、衝動的に手が出てしまったり、授業に集中できず、カウンセリングルームで折り紙やお絵描きなどをして過ごす事もありました。『周りの環境が娘にあっていないのか』と思うようになり、このままではダメだと環境を変えることにしたんです」とTさん。
身体を動かすことが好きな娘さんですが、放課後に遊べる友達はインドアタイプの子が多い状況でした。娘さんはゲームなどでそれなりに楽しんでいる様子でしたが、決してゲームに没頭する感じではなかったと言います。
たまに公園で遊べる友達がみつかると、目を輝かせて学校から帰ってきて、嬉しそうに出かけて行くのを見ると、もっと外で自然を感じながら遊ばせてあげたいなと思うようになりました。そんな時に、自然豊かな環境で地域ぐるみで子どもを見守る「離島留学」の制度を知ることに。
親子で離れて暮らすことを決め、娘を離島留学へ
離島留学とは、少子化や過疎で廃校のリスクがある各地の離島で、全国から子どもを募集して留学生として受け入れる制度です。原則1年間、子どもは親元を離れ里親宅や寮で生活し、現地の学校に通学します。自然豊かな環境や助け合いの文化がある地域で生活し、自立体験になると昨今人気です。
Tさん「元々、娘は人懐こい性格で人との関わりが大好きで、物怖じしない行動力もあります。年長くらいの時から一人でキャンププログラムに参加していました。『離島留学』の制度もキャンプ情報を調べていてたまたま見つけたんです。娘本人も大変興味を持ったので申し込むことにしました」
体験留学などの準備を経て、3年生の春から離島留学をすることに決めたTさん。親元を離れ、里親の家で他の留学生と共に暮らし、そこから学校に通学する生活がスタートしました。
クラスメイト3人という少人数の学級。綺麗な海と豊かな自然。そこでの環境は娘さんに合っていて楽しんでいる様子だったと言います。
Tさん「最初は娘も楽しんで生活している様子で安心していました。でも、夏休みに一時帰宅があり、その後、離島に戻ってから問題行動が目立ってきたんです」
娘さんは学校に慣れてきた頃から多少の落ち着きのない行動はあったようですが、秋以降は問題行動が目立つようになりました。学校でのかんしゃくが頻発し、クラスメイトとのトラブルが起こったり、教室を飛び出してしまうことも。先生や里親とやり取りして対処を検討してきましたが、結局、原因は良くわからなかったのだと言います。
Tさん「もしかしたら勉強が苦手で、学校生活がストレスだったのかもしれません。教科書に殴り書きをしたり破いたり、クラスメイトにちょっかいを出して授業を妨害したり、勝手に教室を抜けてしまうなどの問題行動が続きました。娘にも『このままでは留学を途中でやめないといけないよ』と何度も伝えました。娘は『嫌だ、ここにいたい』というものの、問題行動は変わらない状況で・・・」
娘さん自身もなぜこんなにかんしゃくを起してしまうのか、悩んでいたようです。先生方も3月の留学満了まで何とか継続できるように、試行錯誤を繰り返してくださっていました。ただ、その後の話し合いの中で「継続することが本人の負担になるのではないか」という意見になったと言います。
「苦渋の決断とはなりましたが、冬休み前に途中終了して帰宅させることになりました」とTさん。
フリースクールを経て、スモールステップで地元の公立小学校に戻ることに
Tさん「娘は早く前の学校に通いたい様子でしたが、問題行動の理由がわからない状況の中でいきなり学校に戻すのが私は不安で・・・。とはいえ、仕事がある中、ずっと家で娘の相手をするわけにもいかず、ネットで情報を得て、たどり着いたのがフリースクールでした」
離島留学から戻った後は、近くのフリースクールに週5回で通い始めた娘さん。フリースクールには小学1年生から高校生まで幅広い年齢の生徒がいました。異年齢間の交流があり、勉強にしばられないのんびりした雰囲気は娘さんに合っていました。
「不思議と年下には面倒見がよく、年上には可愛がられるので大きなトラブルは起こりませんでした」とTさん。
Tさんはこのままフリースクールでもいいかなと思っていたのですが、4年の春になると、娘さんは『放課後に友達と遊びたいし、学校に行きたい』と言い出したそう。そこで、6月から週1回、通い始め、少しずつスモールステップで登校日数を増やしていきました。夏休みを挟んで5ヶ月ほど経った現在は、週4回で登校しています。
度々起こるかんしゃくに困惑。発達障害の診断を経て・・・
問題行動を自制できていない様子を見て、Tさんは帰京後すぐ、過去に発達相談で相談した医師を頼り、医療機関を受診。その後、通院を重ねる中で娘さんにはADHDや自閉スペクトラム症の傾向があることがわかりました。現在は投薬治療に加えて、大学のカウンセリングサービスで定期的に親子面談も受けています。
現状ではフリースクールや学校で大きなトラブルを起こすことはないものの、家でかんしゃくを起こすなどの問題行為は度々あり、ひどい時には児童相談所に相談したと言います。
Tさん「何度か児童相談所の人が家まで訪問しフォローしてくれました。それ自体はありがたいことですが、かんしゃくが落ち着いている時に来てもらっても、娘は萎縮するだけであまり効果はなかったように思います。また、緊急的な対処法として警察を呼ぶことやショートステイの利用もアドバイスされましたが、かんしゃくを起こしている時に連れて行けるわけもなく、現実的ではないと思いました」
Tさんとしては、かんしゃくや問題行動を起こしている最中に、落ち着くまでの間、一旦距離をおける環境がただただ欲しいのだと言います。特に夜間帯は頼れる場所もなく、自分の気持ちの置き場もなく、それが今一番辛いのだそう。
Tさん「今後の理想は、娘自身が客観的に自分を理解し、苦手なところを周囲に頼れるようになることです。誰しも苦手なことはあるし、困った時は助けてもらえばいいのですが、今の娘を見ていると、『全部自分でやろうとして、できなくて落ち込む』という負のスパイラルを繰り返しています」
勉強はやればできないことはないものの、苦手意識が強すぎてなかなか取り組めないそう。ただ、算数検定やそろばん検定、プログラミングなど好きなことも出てきて、楽しんで取り組める活動が増えてきました。
ADHD特有の衝動的な行動もある一方、行動力は娘の強みだとTさん。
Tさん「知らない場所に一人で行くことも躊躇せず、知らない人ともいつの間にか仲良くなっているタイプです。ただただ人が好きなのですが、うまくコミュニケーションをとることや感情のコントロールが苦手なんです」
Tさんは苦手なことがあっても、得意なことを伸ばしていけば大丈夫だと思っていると言います。
Tさん「私自身も友達と飲みに行ったり、ショッピングを楽しんで、意識的にリフレッシュの時間を取るようにしています。また、ADHDや発達障害の子への効果的な関わり方について、本もたくさん読んで行動理解に努め、娘も以前と比べれば、だいぶ落ち着いてきたと感じます」
娘さんは不登校や登校渋りではないものの、カスミソウのイベントには定期的に参加してくださっています。カスミソウに来ると、抱えている問題は違っても学校教育に馴染めないという共通点があるのを感じるそう。
Tさん「特に子どもは学校が中心の狭い社会にいて、自分から取り巻く環境を広げる事は難しいと思います。カスミソウのように学校以外の友達や居場所という環境が広がることは、悩みを抱えている子どもたちも『学校生活が全てではない』と思え、安心できるのではないでしょうか」
娘さんも人と楽しむイベントも大好きなので、カスミソウが親子の居場所になっているとのこと。居場所の1つとしてのカスミソウを大切に思ってくださっている様子でした。
取材・文:hiromin(北区会員)
イラスト:ミナコーラ