まじょのなみだ(25)
母は相変わらず下顎呼吸をしていたが、安定していたため
父も弟も一度自宅に戻った。
私は朝まで一緒にいるつもりで1人で残らせてもらった。
すっかり日も暮れて静かな病室の窓にはキラッキラの夜景が輝いていた。
度々脈や呼吸をのチェックに来てくれる看護師さんも、
できるだけ穏やかな時間を邪魔しないように気遣ってくれているようだった。
それまでは「ありがとう」なんて言えなかった。
お別れを覚悟するのが恐かったから。
だけど、感謝の気持ちでいっぱいだった。
意識のあるときにはとうとう言えなかったけど、せめてまだ息をしている間にいっぱい伝えようと、温かい母の手を握り、何回も何回も言った。
「ありがとう、ありがとう、ほんっとありがとう!!!」
キラッキラの夜景は、私の結婚前に最初で最後の母娘2人旅行で行った香港の景色と重なった。
「お母さーん、あのときの香港みたいやね。すっごいきれいよ~」
そう言った直後、看護師さんが入ってきた。
「ナースステーションで監視していた脈が弱くなってきた」と。
急いでみんなに再連絡。
なんとかみんなが来るまで待っててよ!お母さん!!
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