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ワンナイトもお持ち帰りも危険-不同意性交等罪の問題点とリスク

強制性交等罪から不同意性交等罪へ

 令和5年7月、改正刑法が施行されました。これまで強制性交等罪と呼ばれていたものが「不同意性交等罪」へと変わりました。多くの人は「自分が犯罪をするわけがない」と考えていることでしょう。しかし「不同意性交等罪」は、誰もが、場合によっては社会的地位が高い人ほど問われる危険がある犯罪となっています。
 不同意性交等罪は、罪となる行為をいくつかの類型に分類して定められています。その類型のいずれかを原因として、相手が性交等に同意しない意思を「形成」「表明」または「まっとう」することが困難な状態にさせ、あるいは相手がそのような状態にあることを利用して性行為等に及んだ場合に不同意性交等罪が成立することになります。
 これらの中には一般の方でも、特に社会的地位が高い人ほど罪に問われる可能性が上がる危険な類型も存在するのです。

ケース1:会社の部下とのワンナイト

 仕事のプレッシャーやプライベートな相談に乗っているうちに、部下と親密となり「いけるかも」と下心が生まれ、つい一度だけ一線を超えてしまった。皆さんもドラマや小説で目にしたことのあるシチュエーションかと思います。しかし、現在これは非常に危うい行動と言えます。
 不同意性交等罪の類型の一つとして「経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮(立場ゆえの影響力によって、不利益が生じることを不安に思うこと)」というものが定められています。部下が上司からの誘いに対して「断れば会社での立場が危うくなるかもしれない」と考え、性交等に同意しない意思を「形成」「表明」または「まっとう」することが困難な状態になっていたと認められれば、不同意性交等罪が成立する可能性があります。積極的に権力や立場を傘に着て性的な行為を迫る人が罪に問われることは理解しやすいと思います。しかし上司にそのような積極的な行動がなくとも、部下が「立場が危うくなるかもしれないから断れない」と感じていたのであれば、不同意性交等罪が成立する可能性があるのです。  この類型に対しては「社会生活上の人間関係では一方が他方に対して何らかの経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力を有している場合がほとんどであり、犯罪成否の基準として不明確である。」という批判がなされています。この類型がどのように運用されていくかは、しばらくは捜査機関の動きを見守っていくしかありません。
 このリスクを事前にどうやって回避するか。身も蓋もありませんが、いわゆる上下関係と評価される相手との性的な行為は避けましょう、というほかありません。
 なお、ここでは上司部下という会社での関係を前提にお話しましたが、家庭や学校での上下関係にも同様の問題があります。

ケース2:合コンでのお持ち帰り

 一流企業に就職した人が同期の仲間と合コンを行い、お酒の力を借りて気に入った相手とホテルへ…いわゆる「お持ち帰り」のシチュエーションです。ドラマなどだけでなく、友人の自慢などでも聞く話かもしれませんが、これも非常に危険な行為と言えます。
 不同意性交等罪の類型の一つとして「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」というものが定められています。相手がお酒の影響で性交等に同意しない意思を「形成」「表明」または「まっとう」することが困難な状態になっていたと認められれば、不同意性交等罪が成立する可能性があります。一気飲みを強要して無理やり飲ませるなどしなかったとしても、相手にアルコールの影響があることをわかったうえで行為に及べば、やはり不同意性交等罪が成立する可能性があるのです。
 この類型に対しては「『アルコールの影響』がどの程度あれば『同意しない意思を形成し、表明し若しくはまっとうすることが困難な状態』にあったと判断すべきか明らかでない。」という批判がなされています。
 このリスクをどのように事前に回避するか。こちらもやはり身も蓋もありませんが、お酒を飲んだ後に性的な行為に及ぶことはやめましょう、ということになります。

問題化してしまった場合、どのようにすれば最悪の結末を避けられるのか

どのような結末が待っているのか

 不同意性交等罪の法定刑は「5年以上の懲役」です。非常に重い刑罰が定められています。また、改正前の強制性交等罪は、疑いがかけられた場合、逮捕されてしまうことが多い類型でした。不同意性交等罪についても同様の運用になると思われます。
 また、日本の犯罪報道で最も多いのは、逮捕されたときです。逮捕されてしまうと、実名とともに報道される危険が非常に高いのが実情です。

トラブルのサインを見落とさないことが重要

 上記のようなケースの場合、まったくの突然に警察が家に来る、ということは少ないと思います。それより前に、トラブルになっていることを気づくことのできるきっかけがあることがほとんどです。最悪の結末を回避するためにもっとも重要なことの一つが、トラブルのサインを見落とさないことです。「行為に及んだ部下が部署を異動した」「お持ち帰りした人から怒ったLINEを受け取った」などがそれです。自身の身を護るためには、そのようなサインを決して見落とさないことが重要です。そしてトラブルになっていることに気づいたら、すぐに弁護士に相談すべきです。

相手方にどのように対応するか

 上記のサインを見逃さなければ、警察沙汰になる前に相手方と話し合う機会が得られるかもしれません。その際に決してやってはいけないのは、ご自身で対応することです。もしかしたら相手側から「直接謝罪して欲しい」と求められるかもしれません。しかしそれでもお一人で対応することはお勧めしません。当事者同士が顔を合わせると、どうしても感情的になってしまう危険があるためです。
 トラブルになっていることを認識した時点で弁護士に相談していれば、このような相手方のアクションに対してどのように対応するのかも相談して決めることができます。きちんとした弁護士であれば、まずは弁護士だけで会って話を聞いてみようとするはずです。相手方と話しをして、いわゆる示談で納得してもらえるのであれば、その交渉をしていくことになるでしょう。

警察に対してどのように対応するか

 警察沙汰になってしまった場合にもっとも重要なのが、取り調べに対してどのように対応するかです。ここでも弁護士の協力は必須です。なぜなら、普段使っている言葉が法律上どのように扱われるか、法律家でなければ判断できないからです。たとえば弁解として「ワンチャンいけると思ったんです。」などと言ってしまったとします。これはアウトです。不同意性交等罪が成立するためには「故意」が必要です。この「故意」には「もしかしたらいけない(相手が拒否している)かもしれないけどいいや」という気持ちも含まれるのです。つまり「ワンチャンいけると思ったんです。」というのは弁解になっておらず、故意を認めたことになってしまっているのです。

まとめ

 行為時は相手方は間違いなく同意していたと思うのに、あとになって無理やりだったと言われている。このような相談を受けることはよくあります。法改正によって、そんなつもりはなかったのに、不同意性交等罪の疑いをかけられてしまう人が増えるのではないかと危惧しています。もしこれまでお話したような状況になってしまった方は、落ちついて、また油断したり高をくくったりもせず、すぐに弁護士に相談するようにして下さい。最悪の結末を回避する方法をお教えします。

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