WS-112⃣

松村圭一郎「うしろめたさの人類学」 サレジオの過去問。豊島岡でも同じ箇所が使われている(問題は当然異なる)。同文章は別の箇所が開成、早実、海城②、香蘭でも出題されている。

問一 適語補充抜き出し。問題提起→答えの形。L14「商品交換と贈与を区別しているものはなにか?」という問に対する答えが、L15「フランスの社会学者ピエール・ブルデュは、その区別をつくりだしているものは、モノのやりとりの間に差し挟まれた『 A 』だと指摘した」。指示語「その区別」の内容はL14「商品交換と贈与の区別」。ゆえに、交換と贈与の区別をつくりだしているものを読み取る。 Ⅱ には「たとえば」が入るのでこれ以降は具体例。対比を取るとL18「チョコレートをもらって、すぐに相手にクッキーを返した」場合「交換」で、L20「クッキーを一ヶ月後に渡した」場合「贈与」となる。違いは「すぐ」なのか「一ヶ月後」なのかなので、区別をつくりだしているものは「時間」だと分かる。もしくは具体例を無視し、「交換」「贈与」をキーワードにその後の抽象化された内容L24「商品交換と贈与を分けているものは時間だけではない」の「分けている」が「区別」の言い換えだと気がつけば瞬殺。

問二 接続語。
I    直前で一旦結論が出て話題が終了している。直後で「ホワイトデーにクッキーのお返しがあるとき、それは『交換』になるのだろうか」と問題提起がなされ、次の話題に移っているので話題転換の「では」を入れる。
II   直前が抽象内容。直後が「チョコレートをもらって、すぐに相手にクッキーを返した」という具体的内容になっているので、具体例導出の「たとえば」を入れる。
III 直前が「交換」の説明、直後が「贈与」の説明となっており対比。よって逆説の「ところが」を入れる。
IV   直前がL25「チョコレートに値札がついていたら、必ずその値札を外す」という話題で、直後が「チョコレートの箱にリボンをつけたり、それらしい包装をしたり」する話題。両者とも「贈り物らしさ」の演出の仕方で共通しているので、追加を意味する「さらに」を入れる。

問三 ⑩具体化説明記述。「ほんの表面的な『印』の違いが、/歴然とした差異を生む。」を主語と述語に分割して説明。設問に「具体的に」とあるので直前のチョコレートの具体例を参考にする。「表面的な『印』」の具体化は、L39とL43で重複している「包装/リボン」を用いる。また、差異とは二者間で生じるものなので、何と何の差かを明示。線部の「違い」、「差異」の類語がL36「区別」だと気づけると良い。
<「表面的な『印』の違い」の説明/主語の内容>
(チョコレートの)包装/包み方/リボン/メッセージカード/値札を取っておく⑤
※「リボン/メッセージカード/値札を取っておく」は「包装/包み方」の一部と言えるが、設問の「具体的に」との指示から許容する。「外的な表示」は逆に抽象化された内容であるため、設問指示にそぐわないので②とする。
<「歴然とした差異を生む」の説明/述語の内容>
L35「ぼくらが『商品/経済』と『贈り物/非経済』をきちんと区別すべき」
→商品と贈り物の違いを生む/商品と贈り物を区別する⑤
※「交換と贈与の違い」②は抽象内容であるため、設問指示にそぐわない。
A.チョコレートを包装することで、商品と贈り物という違いを生じさせるということ。/買ったチョコレートを包装して渡すだけで、商品ではなくなり贈り物になるということ。/コンビニの板チョコでも贈り物らしくすれば贈る側の気持ちが相手に伝わるということ。

問四 具体例選択。対比をとって「経済的な行為」と「経済と関係のない行為」を隔てているものを読み取る。線部の言い換えがL53「みんなが一緒になって『経済/非経済』を区別するという『きまり』を維持しているのだ」。キーワードが共通するのがL75「経済と非経済の区別は、こうした思いや感情をモノのやりとりに付加したり、除去するための装置なのだ」とあるので、経済的行為か否かは「思い」「感情」の有無による。「思い」、「感情」はL69にも登場しているので、これらをキーワードとして読み取っても良い。設問は「経済的行為」を選択するので、「感情」「思い」を含まないものを選べば良い。
ア   × 「寄付」は善意という「感情」から生じる。
イ   × 「感謝」という「感情」が生じている。
ウ   ○
エ   × 「お年玉」は祖母の思いやりという「感情」から生じる。
オ   × 「合格祝い」は「感情」が込められている。

問五 脱文補充選択。比喩の理解。脱文でチェックすべきは指示語「それ」、「光」と「闇」の対比、「光を感じるために闇が必要な<ように>」という比喩、「どちらが欠けてもいけない」という結論。指示語「それ」は「どちら」で受けているので並立する二つのものを指す。「必要」と「欠けてもいけない」は類語なのでキーワードになる。L83に「不可欠」があり、L81「バレンタインのチョコで思いを伝えるためには、『商品』とは異なる『贈り物』にすることが不可欠なのだ」が脱文の具体化。
本文において「光」と「闇」のように対比されているのはL14「交換と贈与」、L75「経済と非経済(=感情)」。ゆえに脱文で「闇」に喩えられているのがL77「レジでお金を払って商品を受け取る行為」で、これにはL77「何の思いも込められていない」とあり、L80「経済の『交換』という脱感情化された領域」と言い換えられている。これに対する「光」がL78「特定の思いや感情を表現する行為」で、L81「『贈与』に込められた感情を際立たせることができる」と説明されている。
【 1 】の直後にはL80「経済の『交換』という脱感情化された領域があってはじめて、『贈与』に込められた感情を際立たせることができる。」とあり、これは脱文の「どちらが欠けてもいけない」の言い換えなのでここが適当。
1    ○
2    × L86「家族の間のモノのやりとり」とL86「店員と客との経済的な『交換』」は「どちらが欠けてもいけない」が、【 2 】の後のL88「レジでお金を払ったあと、店員から商品を受け取って、泣いて喜ぶ人などいない」とあり、これらが「どちらが欠けてもいけない」という表現にそぐわない。
3    × L97「母親の料理に子どもがお金を払うこと」は「どちらが欠けてもいけない」ことではなく、L97「ありえない」。
4    × L99「日ごろの労働への報酬」は「どちらが欠けてもいけない」ことに含まれない。

問六 説明選択。線③の「人と人との関係」の具体例の一つに「家族」が挙がっている。これに関連し、L104「家族のあいだのモノのやりとりが徹底的に『脱経済化』されることで、愛情によって結ばれた関係が強調され、それが『家族』という現実をつくりだしている」とある。これを受けてL109「それは脱感情化された『経済=交換』との対比において(なんとか)実現している」とある。指示語「それ」が指すのはL108「家族という間柄」。つまり、「経済と非経済という区別をひとつの手がかりとして、みんなでつくりだしている」というのは、「脱経済化=感情化」と「脱感情化=経済化」とのL109「対比において(なんとか)実現している」と言い換えられる。
または本文の結論となる、「経済」と「感情や思い」の両者が必要であるとの観点からでも解ける。消去法でも可。
ア   × 「のみ」が強意表現。経済のみ。
イ   × 「思いの強さに比例して成立」がおかしい。ストーカーが反例。感情のみ。
ウ   ○ 「経済」と「感情や思い」の両方あって成立する。
エ   × 「互いの感情と贈り物とのバランスによって成り立つ」ものではない。ファンがアイドルにどんなに貢いでも関係が深まることは希。感情のみ。
オ   × 「経済的なやりとりとは関係ない」わけではなく、「経済」・「感情」の両方が必要。感情のみ。

問七 ⑩理由記述。問四と連関。「好きな人に思い切って、『これ受け取ってください』とチョコレートを渡した」ことの意味と、「『え?いくだったの?』と財布からお金を取り出され」たことの意味に分けて考える。前者は本文における「非経済=感情」からの「贈与」の行動であるのに対し、後者は「経済」からの「交換」としての取引と受け取っている。つまり期待と現実のギャップによる「屈辱」と言える。対比と捉えても良い。
<「好きな人に思い切って、~チョコレートを渡した」の意味/背景>
L79「特定の感情や思いを表現する行為となる」
→好意を示そうとして贈った/思い、感情をこめて贈り物をした⑤
<「~財布からお金を取り出された」の意味/理由>
L77「何の思いも込められていない」
→相手はチョコレートから思いを汲み取らなかった/思いが否定された/商品として受け取った/渡した人は好きだという思いを汲み取ってもらえなかった⑤
A.好意を示そうとして贈ったのに、相手はチョコレートから思いを汲み取らず、商品として受け取っているから。/代金を要求していると相手に思われてしまい、贈り物であるという自分の思いが否定されたと思ったから。

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