WS-121️⃣

清水良典「あらゆる小説は模倣である。」からの出題。世田谷学園(2015②)の過去問。世田谷学園は入試講評を公開しており、各問の正答率が分かる。

問一 語彙。合格者の二問完答は32.9%。一問正解は48.2%。不正解は18.9%。両方不正解は致命的。
A    一世を風靡する…その時代の人々がことごとく受け入れ従うようにする。ある時代に圧倒的に流行する。
B    股にかける…諸方を歩き回る。各地を飛び歩く。

問二 説明選択。完答60.1%。一問正解は34.6%。不正解は5.3%で致命的。ロマン主義の説明がなされている意味段落はL1~15。消去法でも可。
ア   × ロマン主義が「日本を中心に一世を風靡した」とは書いていない。L4「キリスト教的な抑圧や窮屈な道徳から、人々の心を解放した」のだから主にキリスト教圏で流行したものと推定される。
イ   ○ L3「個人の自由な独自性を発揮しようと生まれた運動」でL4「人々の心を解放した」とある。
ウ   × L4「キリスト教的な抑圧や窮屈な道徳から、人々の心を解放した」とあり、「強化する方向」には向かない。
エ   × L6「ひたすら読者を酔わせるような華麗な比喩や、美しい言葉遣いでコテコテに固められたような作品」なので「直接的でわかりやすい表現」ではない。
オ   × L10「アラブやアジアなどの辺境世界、あるいは夢幻の世界や神秘的な現象を描く」ものでL13「どんどん現実離れしていった」のだから「読者に馴染みのある舞台」ではない。
カ   ○ L13「どんどん現実離れしていった」結果L14「現実を直視しようとする写実主義や自然主義に乗り越えられていく」とあるので適合。
キ   × L8「今日に甘々の恋愛小説や恋愛を歌うポップ・ソングなどは、その末裔といえる」とあり、「現在の文学作品にはその痕跡を認めること」が出来る。

問三 説明選択。正答率82.7%。不正解は17.3%で致命的。線部延長すると「詩じたいよりも『詩人』という人種が偶像視されるように、/芸術作品に先立って平凡人からかけ離れた『芸術家』という特別な存在あると考えるのがロマン主義である」となる。「ように」以前が具体、以後が抽象。よって抽象部分を言い換えた選択肢を選ぶだけ。直前のL31「芸術の作者はそれだけで神秘的な存在」、L29の「ロマン主義は詩人や芸術家を、普通の人間と区別される特殊な天分を備えた存在と規定した」などもヒントになり得る。手がかりが豊富であることから易問。
ア   × 「詩の内容」との比較ではなく、L32「芸術作品」としての詩そのものと比較。また「偶像視」は「崇拝の対象として見る」ことで、本文ではL31「神秘的な存在」として見ることなので「憧れ」は若干ずれる。
イ   × 「詩の内容」との比較ではなく、L32「芸術作品」としての詩そのものと比較。また「詩がどのように作られたかの方に人々が興味を持つ」は「偶像詩」の言い換えにならない。
ウ   × 「作品の出来」には踏み込んでいない。また「作者の生き方や発言が大きな注目を集める」は「偶像詩」の言い換えにならない。
エ   ○
オ   × 「詩人という存在」は「奇妙な存在だと考え」られていない。「偶像視」されている。

問四 理由選択。正答率58.8%(不正解は41.2%)。線部延長すると「その辺のオッちゃんオバちゃんにも、何かを創る能力はいくらでも備わっている」となる。ここだけで判断しても良いが、分かりにくければ形式段落を読む。直後に具体例が並びL44「市井のあちこちにいたりする」と結んでいることや、L45「『天才』的な作者は、今日では必ずしも特別な存在ではない」といった表現を根拠とする。また線③直前のL39「大なり小なりの創造は、もはや特殊な能力ではない」もヒントになる。
ア   × 「その辺のオッちゃんオバちゃん」と関連しない。問に応えておらず論点ズレ。
イ   × 「おしなべて」とは「全体にわたって。一様に。概して」という意味。「『天才』的な作者」が皆「平凡な人々」であるのではなく、「『平凡な人々』の中にもいる」というニュアンスなのでズレる。
ウ   ○
エ   × 「注目すべき」とは書かれていない。
オ   × 「すべて」が強意表現。言い過ぎ。
問五 理由抜き出し。正答率35.2%(不正解は64.8%)。問四と関連。設問文に「かつて」とあることに気がつけば容易。「今日/今」と「かつて/昔」が対比。「創造」について、問四で見たとおりL37「<しかし>今日の日本を含む先進国では~創造は、もはや特殊な能力ではない」とあり、それゆえ線部④「創造は(選ばれた少数者にだけ許された特権ではなく、)市井のさまざまな人々に行き渡っている」と言える。これと対比して、かつては線部④「創造は選ばれた少数者にだけ許された特権」であった。「選ばれた少数者」とはL35「芸術や趣味に興じていられる富裕階級」のことなので、L34「それは社会構造そのものが、苦しい生活に忙殺される庶民階級と芸術や趣味に興じていられる富裕階級に、はっきりと分かれていた時代であったことと不可分である。」の文頭を抜き出す。

問六 説明選択。正答率36.9%(不正解は63.1%)。線部延長すると「<たとえば>村上春樹が、神宮球場の外野席でヤクルトの試合を観戦している最中に、ふと小説を書こうという考えが舞い降りてきた、と自ら明かしているのは有名なエピソードである」となる。「舞い降りてきた」に関して、L59「だから、その時彼に舞い降りてきたものをもう少し正確に言い直すと、それまでの日本の小説家の書き方ではなく、自分が好きなヴォネガットやチャンドラーのスタイルのまま、いわば翻訳のような文体のまま書けば良いのではないか、というアイデアだったことになる」とある。これを得た場所が線部⑤新宮球場の外野席である。同じ内容がL80「村上春樹にとって『降りてきた』ものは、(天から授けられたオリジナルな才能というよりも、)いわば過去にさんざん親しんだものを有効活用するアイデアだったことになる」にもある。注意すべきはL55「霊感のようなもの」は「霊感」ではない。筆者は「霊感」について否定的である。オの誤答が多いが、「固有の物語観」が言い過ぎ。本文にはあくまで創作や文体のスタイルについてしか書いていない。
ア   ○
イ   × 「神」はいない。
ウ   × 「神」はいない。
エ   × L55「霊感のようなもの」は「霊感」ではない。
オ   × 「固有の物語観」が言い過ぎ。本文にはあくまで創作や文体のスタイルについてしか書いていない。

問七 ⑥説明記述。問六と関連。○は3.7%しかいないが△は51.8%。×は半分以下(44.5%)なので△は取るべき。筆者の考える「オリジナリティ」を答える。設問文の「村上春樹に関する話からわかることを踏まえて」という条件からL52以降が解答根拠となる。筆者の意見と一般論の対比。世田学の記述問題については抜き書きではなく、言い換えや複数の箇所をまとめる能力が求められるが、本問においてはL80~82を写せば要素は揃う。
<筆者の意見/筆者の考える「オリジナリティ」/村上春樹に関する話からわかること>
L81「過去にさんざん親しんだものを有効利用するアイデア」
L61「自分が好きなヴォネガットやチャンドラーのスタイルのまま、いわば翻訳のような文体のまま書けばいいのではないか、というアイデア」
→村上春樹は過去に読んだ小説を参考にして作品を書いた/オリジナリティは過去に親しんだものを有効活用するアイデアである/オリジナリティに必要なのはアイデアである③
<一般論/一般的な「オリジナリティ」のイメージ/筆者によって否定されるもの>
L80「天から授けられたオリジナルな才能」
L21「天から降ってきたインスピレーション」
L50「霊感」
→オリジナリティは天から授けられるものではない/オリジナリティは才能によるものではない/オリジナリティは霊感とは異なる③
A.村上春樹は過去に読んだ小説を参考にして作品を書いているので、オリジナリティとは天から授けられたオリジナルな才能ではなく、過去に親しんだものを有効活用するアイデアのことだと考えている。/村上春樹が過去に読んだ小説を参考にして作品を書いたように、オリジナリティは必ずしも天から授けられるものではないこと。

問八 ⑧説明記述。○は0.7%、△は69.1%。×は30.2%しかいないので部分点は欲しい。問七と関連。筆者が「問題」視しているのだからマイナス側。直後に「小説の書き方そのものは近代以降、様々な思想や方法が出現し、新しくなっていった」とありプラス側。これを<にもかかわらず>でつないだL18「『作者』という存在についてだけは、今なお特別な存在のように見るロマンティシズムが存続しているのである」がマイナス側なので、これを詳しく説明する。実際は線部に続く二段落をまとめれば手がかりが揃う。
<問題①/「作者」に関するもの>
L18「『作者』という存在についてだけは、今なお特別な選ばれた存在のように見るロマンティシズムが存続している」こと
L29「特殊な天分を備えた存在」
L31「神秘的な存在」
→「作者」を選ばれた存在として見る見方が残っていること/「作者」を特別視していること④
<問題②「作品」に関するもの>
L21「天から降ってきたインスピレーションに従って、それまでなかった芸術作品を創造する」
→作品とは、天から与えられた霊感によって独自に創造されたものだと未だに思われている/「作品」の創造には才能が必要だと思われている④
A.作者は選ばれた存在であり、その作品は天から与えられた霊感によって創造されているという考え方が未だに信じられているということ。/選ばれた存在である作者が、天から与えられた霊感によって独自の作品を創造することこそが文学の本質であるという考え方がいまだに人々に信じられていること。

問九 正誤選択肢。完答27.6%。一問正解56.8%。両方不正解は15.6%で致命的。本文全体にかかるため原則として消去法を用いる。
ア   × 「ロマン主義を支持したのは、主に庶民階級」ではない。L35「富裕階級」でないとロマン主義/文学を含むL35「芸術や趣味に興じていられ」ない。
イ   ○ L18「『作者』という存在についてだけは、今なお特別な選ばれた存在のように見るロマンティシズムが存続している」とある。問八と重複。
ウ   × L14「写実主義や自然主義に乗り越えられ」たとは書いてあるが、「確実に進歩」は言い過ぎ。
エ   ○ L86「あいまいな格好良い言葉で現実を覆い隠すことが、ロマン主義の得意技なのである」とあり、一致。
オ   × 「偶然の機会を待つのが一番」とは書かれていない。
カ   × 「盗用」、「否定されるべき」とは書いていない。むしろ評価している。
キ   × 道徳的には正しいかもしれないが、本文内容とは一致しない。不明である。また必ずしも「すぐれた作品作りにつながる」とは言い切れない。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?