RMライブラリー「生まれ変わった東武旧型電車(上・中・下)」

RMライブラリー271 生まれ変わった東武旧型電車(上)

RMライブラリー272 生まれ変わった東武旧型電車(中)

RMライブラリー273 生まれ変わった東武旧型電車(下)

いやはや凄いテーマが出てきたものだ、最終的に3000系列として纏められた東武の旧型車両に関する書籍がついにRMライブラリーで出版された。
従来このテーマを調べようとするとまず当たるは鉄道ピクトリアルの東武特集各号(アーカイブス含む)や保育社カラーブックス550,813号、あるいは「私鉄の車両(24)」といった文献となるだろう。カラーブックス550号は全車両の番号変遷を、「私鉄の車両」は全車両の使用台車を収録しておりその価値は色褪せない。

今回のRMライブラリー最大の注目点は3000系になった車両達の種車のプロフィールを詳細に記述していることだろう。鉄道ピクトリアル115-118,263号およびアーカイブス23,27号収録の私鉄車両めぐりにも同様の記載があるものの、今回のRMライブラリーは画像や車歴表や(車番)変遷表といった資料が多く収録されていることもあり原型の車両たちの姿により深く迫ることができる。

見どころ

このシリーズの最大の魅力は更新前の車両の鮮明な写真が豊富に収録されており、どのような車両が居たかという1両1両のプロフィールに迫ることができる。後天的な改造で裾の切欠きが無くなったなどの変化がとにかく多く複雑を極める東武旧型車を掘り下げようとするときこれ程有難いことはない。

また、ほとんどの写真のキャプションにはその後の更新後(3000系については更新直後と改番後、3070系については初代5000系時代および改番後)番号を加えているのが心憎い。
この形の車両がどう更新されたかということが一目で分かる上に種車順と更新順の車歴表が共に収録されているのもこれまでの資料にはないわかりやすさであり、どの車両がどうなったかという流れを掴みやすい。先述の資料を全て持っていた人にとっても別の角度から見ることで新しい発見があるのではないだろうか。

下巻巻末にある参考文献リストも東武の旧型車両を学ぶ上で大いに参考になるリストである。半世紀あるいはそれ以上前の鉄道ピクトリアルは流石に入手困難であると思われるが、上述のアーカイブスセレクションによって主要な内容はフォローできるのでこれらも併せて探してみることを勧めたい。なお、花上氏の「東武鉄道3000系ものがたり」は'96-10(No.627)号に収録されていることを付記しておきたい。
最後に、救援車およびサヤ8001という実にマニアックな題材にも光を当ててくれたのもありがたく、台車のルーツなど従来あまり記述がなかった点なので纏めて言及があるのは嬉しいポイント。

更新後について

本書のメインは更新前の姿であるが、更新後の変遷についても記述がある。まず本書で唯一残念な点として「3050系は全車が新栃木に、3070系は全車が栃木に配属された」という記載があった点である。3050系は多くは館林に配置されており、4R*3および2R*6が七光台に配置されていた。廃車まで館林に転属することはなく生涯を野田線で全うしている。続いて3070系は新栃木に全車両が集結した状態で廃車を迎えているが、更新から1980年代前半まで10年未満ながら元フライング東上用の5310系から更新された4R*2が更新前と同じ七光台に配置されて野田線で運用されていた。

それ以外の点は初めて知るようなことも多く、とても興味深く読み進められた。3000系更新直後の伝説的に複雑な番号について、どうにも複数の説が入り乱れていたが更新の予定表と合わせて台車順での付番と明記された事実はこれまでの疑問が氷解したことでもあり重要なテーマだろう。踏切事故復旧などの関係もありますます複雑なイメージがある3000系を読み解く上でこの表が提示されたことは一見無秩序に見える更新直後の付番を学ぶ上で大きなヒントになった。更新後の改造についても押さえられており列車無線取付けや3070系の霜取りパンタの取付けや移設のタイミングを確認出来る。また、3000系列唯一の保存車と有名なモハ3505のエピソードもおそらく本書が初出と思われ、経緯について興味深く拝読した次第。

まとめ

本書は多くの写真と体系的な記述で複雑怪奇な3000系列の更新前というなかなか近年の東武関係の出版物では光の当たりにくい分野について詳細な記述がなされており、ここを学ぶなら是非とも揃えたい文献と言える。テキストだけであれば参考文献に挙がった鉄道ピクトリアルでも充分確認できる内容が多いものの、それだけでは確認しきれない点や各種の表などによって効率的に更新前後のルーツや変遷を辿るときに大きな力をくれるだろう。

そして何より車両の情報と丁寧に紐付けられた多くの写真が見どころである。ともすれば「3000系の種車」で括られがちな個性豊かな車両達を1両1両紐解いて在るべき場所に載っているため複雑極まりない車両群を解き明かす力強い資料となっている。筆者個人としては地元の野田線にかつて走っていた車両がこのようなルーツでこんな姿でしたということを示してくれるだけで上巻購入からの2ヶ月間が楽しみに感じられるほどの充足感を得られた。

一方で更新後については参考文献を当たるのが良いだろう。本書で種車についての理解を深め、しかる後に更新後の姿を追うことで従来よりこのマニアック極まる系列をより深く楽しむことができるはずだ。

更新時点で3~40年ものの旧式車を更新し、それから20年くらい地道にローカル列車に就き続けた3000系列。地味ながらディープで味わい深い世界を堪能するために是非とも本書を上中下巻全て書架に揃えることをお勧めしたい。

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