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 庭の命たち

  怠惰に移ろう夏の午後の陽が、いつの間にか透明な鋭さを見せ始め、庭先のミズナラの影を芝生の上に細長く描く季節の到来を告げている。
 今朝早く、わたしは朝食の締めくくりのコーヒーをぼんやりとすすりながら、芝生の上に落ちている一枚のトウ楓の真っ赤な葉を見つけた。
そんな季節になり始めているのか、、、トウ楓の樹は未だ緑に覆われているというのに、、、
それにしてもいつまで続くのか、この昼の暑さときたら、、、、
 突然、ガラスのような空を切り裂く鋭い鳴き声が聞こえる。まだ早すぎるではないか、モズである。そういえば昨日ハシバミの折れた小枝に、ちいさなトカゲが横向きに刺さっていたっけ。あれは奴の仕業に違いない。干乾びているところを見ると、二三日前にやってのであろう。それにしてもなんと見事なと、わたしは感心してその串刺しの干乾び始めているトカゲを眺めた。
憐れなトカゲは、置き去りにする暇もなかったらしく尻尾だけがだらりとぶら下がっている。あの美しいモズが...。この干物を彼は何時食べに来るつもりなのか?おそらく来はしないであろう、とっくに忘れてしまっているに違いない。去年もそうだった。

 浅い春の頃、雪の布団を破ってスノウドロップの群れが頭を持ち上げ始める。今では樅木の根元から年々その輪を広げ、眠い冬の夜明けの中で
「おーい春が来るぞ」と言いたげである。

 秋、東屋の南側に、クロッカスの球根を植え付けておいた。果たしてまだ雪が融け切らないうちから針のような葉を出し始めたので、わたしは慌てて「早すぎるよ」と落ち葉で覆っておいた。やがてちらほらと黄色い花を見せはじめ、そして見事な大群となっていった。ところが、ある年を期にクロッカスの数が減ってゆく。水仙もスズランも、スノウドロップと競うように増えてゆくのに、どうしたことかクロッカスだけは年々減ってゆくのだ。
そしてある年、とうとう一つもなくなってしまった。
この話の結末はこうだ。水仙やスノウドロップやスズランの球根は毒を含んでいるそうなのである。ところがクロッカスだけには毒がない、そこであの忌まわしい野鼠どもが、わたしの大切な春の使者を食い尽くしてしまったののであった。
朝、裏庭に直径20㎝ぐらいの不思議な穴がいくつも掘られているのを見つけた。それほど深くはない。何物の仕業か、暫らく不明であった。が、ある朝、東屋の角をたいそう美しい狐が一匹走り去ってゆくのを見た。
わたしは思わずほくそ笑んだ。
ヘヘーン、野ネズミども!クロッカスの仕返しだぞ、思い知れ。
      






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