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心象風景   雨の檻

雨が 空から 落ちてくる

2Hの 先の尖った鉛筆で
律儀に 線を 引くように
雨が 空から 落ちてくる

雨が描いた 檻の中
音は 遠のき
色は 抜け落ち
時は 止まり
世界は 閉ざされる

この檻の 扉を 開けられるのは 誰…?

雨が 空から 落ちてくる

心は ゆらぎ
重さを 増して
沈殿してゆく

この檻の 扉の鍵は どこ…?
 
雨が 空から 落ちてくる

あ……
声が……
笑いさざめく 声が聞こえる

空気が 波打ち 震えはじめる

角を曲がって やってくる
学校帰りの 子供たち

思い思いの 傘が 咲く

雨が描いた 檻の扉が 静かに 開く

景色は 急激に 色を 取り戻し
止まった時間が 動き出す

一人が何かを 指さして
みんなが それを 取り囲み
歓声が 上がる

思わず つられて 覗き込み

おぅ…

小さくこぼした 私の声に
オレンジ色の 学年帽が 振り返る

彼女の瞳が 問いかけている

ねえ、見た?

私は
コクリと 頷きを 返す

親指の 先ほどの 沈黙の後に

彼女の 鮮やかな 笑顔が 開く

鍵は 彼女の 手の中だったか…

生け垣の 葉っぱにはりつく
豆粒ほどの カタツムリ ふたつ
透けるような 殻が 
雨に打たれて 光っている

雨が 空から 落ちてくる

小さな 魔法使い達の 
後ろ姿が 遠ざかる

心が ようやく 動き出す

トクンと 小さな音を 立てて…



(写真はみんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
 もときさん、素敵な写真をありがとうございます。
 タイトルは「雨宿り」)









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