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【読書記録】堀川アサコ『幻想郵便局』【特技:探し物】

「綺麗な表紙だな」というのが第一印象でした。
そして、文庫の裏を読み、心惹かれ、図書館で借りてきました。

就職浪人のアズサは「なりたいものになればいい」と親から言われてきたけれど、「なりたいもの」がわからない。特技欄に”探し物”と書いて提出していた履歴書のおかげでアルバイトが決定。職場は山の上の不思議な郵便局。そこで次々と不思議な人々に出会う。生きることの意味をユーモラスに教えてくれる癒やし小説

本書あらすじより。


郵便局、就職浪人の主人公、そして癒やし小説
心温まるハッピーストーリーなんだろうな~^^なんて、ワクワクで本書を開きました。
そして、裏切られました。

この本はあらすじ等は何も知らず、文庫裏の情報量で読むべき本だと思います。
小説で「サムネ詐欺」と思ったのは初めてです。(サムネ詐欺という訳でもないですが)

ネタバレ無しで、心に残った部分を引用します。

「アズサちゃん。そのお金、いらないなら祖母ちゃんにちょうだい」
 祖母ちゃんがそう云ったのは、わたしが幼稚園に通っていた時だ。毎年やる『お店屋さんごっこデー』が終わった日のことだった。
 お店屋さんごっこデーは、園児たちが折り紙や粘土で作った『商品』を、先生が作った幼稚園マネーで売ったり買ったりする催し物だ。(中略)
「祖母ちゃん。これはオモチャのお金だから、幼稚園のお店屋さんごっこじゃないと使えないんだよ」(中略)
「こういうのを持ってると、天国で良い土地が買えるんだよ。祖母ちゃんはむこうで家庭菜園をやるんだ。植えるものだって、もうしっかり決めてあるからね」(中略)
「でもさあ、祖母ちゃん。天国におさいふ持っていくの難しくない?」
「なに、簡単、簡単。死んだらお棺に入れて、祖母ちゃんと一緒に火葬場で燃やしてもらうんだよ。燃えると煙になって天に昇るものね。云ってみりゃ、煙の宅配便だわね」

p.37~p.38

「あまり深刻に考えなくていいんだから。アズサちゃんの生活の中にだって、在るのに見えないもの、存在を感知しないものは、他にもたくさんあるはずだよ」
 いつも歩いている通りの建物が取り壊されても、そこになにが建っていたのか思い出せないのは、よくあることだ。四つ葉のクローバーは、それが幸運の御守りだと云ってみたところで、よっぽど目を凝らして探さなければ見つからない。

p.117

 実は自分の就活で不採用通知を見たとき、胸の奥にはやっぱりこんな気持もあった。
 まだしばらくは、今の自分のままで居られる。
 だって落ちちゃったんだもん。
 だから明日もまた、昨日と同じわたしで居るしかないんだもん――。

p.182

「――だから、クルマの運転中にほんの少し、意識が途切れたわけですよ。正直、あれは居眠り運転とは云えないと思いますよ。いや、正直、居眠り運転ではあるわけですが。しかし、文句云われる筋合いじゃないな。誰を巻き込んだわけでなし、正直」
 正直を連発するのは、正直さとは懸け離れて生きてきたことを無意識に弁解しているからなのだろうか。

p.190

 意識は鮮明なのに記憶だけが曖昧なのだ。帝王切開で息子を産んだ時、手術が終わって起こされた時も、ちょうどこんな具合だった。
 ――エリさん、エリさん。終わりましたよ。
 誰かがそんなことを云い、麻酔のため術中のことはなにも覚えていない彼女は、苛々と眉をしかめた。
 ――なにが終わったって?ともかく、さっさと手術しちゃってよ。
 あの時のことは、何度思い出しても笑ってしまう。手術前と手術後が繋がって、彼女にとって肝心の手術はなかったも同然。しかし、息子は無事に誕生し、エリさんは母親になった。

p.194

「それでいいんじゃない?夢と希望ってのは危険物なんだから」
「そういうもの?」
「そりゃ、夢を実現させるのは尊いことだと思いますよ。でもさ、夢をかなえるためには、人とケンカしなくちゃならない場面だってきっと出てくるよ。夢ってのはね、戦って勝ち取らなくちゃならないんだから。さわらぬ神に祟りなし、よ」

p.222


「癒やし小説」かは疑問ではありますが、心は温まる内容でありました。

トップ画像は「ひなげし」の写真をお借りしています。



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