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逆から揚力発生原理 5 (ベルヌーイとか)

 ベルヌーイの法則。
 流体の通り道を細くすると流速が上がるというやつですね。ホースのたとえをよく見ます。ホースの先を指で潰してやると流速が上がって遠くまで飛ばせるよ、と。
 揚力発生理論というと、流速の差を生むのは循環ではなくこのベルヌーイの法則であるという説明が一般的です。翼の中程が膨らんでいることで空気の取り道が狭められ、この膨らみ加減が翼の上下で違うために流速差が生まれるのだと。

 私はそれを聞いたとき、納得がいきませんでした。
 どこも狭くなってないじゃん、と思ったのです。
 実際、ベルヌーイの法則は簡潔で使いやすい説明ですが、正確性には欠けます。

 そして、この説にとって最も不都合な存在が対称翼です。これは、上下対称の翼型で、もちろん、ちゃんと飛びます。あら大変。

 ベルヌーイの法則、全く働いていないとは言いませんが、影響は極めて小さいと言わざるを得ません。

 という説明をしますと、特に物理の方から強い反発を受けることがあります。まとめると大体、「俺の先生はベルヌーイだと言っていた」という事なのですが、残念ながら、その先生も、そのまた先生からそのように教わっているので、代々間違っているのです。物理学科の中でも流体力学を専門とする人以外はそうであるようです。そして、航空や流体力学の人達はいちいち訂正しに行きません。
 意地悪ではありません。物理学科を卒業する人が毎年数万人いるのに対して、航空工学科は数千人です。文字通りの桁違い。しかも、物理の人を「説得」するのは時間が掛かりますし、ベルヌーイも完全なる間違いではないのです。航空工学科でも導入として習います。
 こうなると、訂正に時間を割く人がいないのが現実です。

 その上、テレビや雑誌では物理学の先生に聞きにいってしまうので、一般にもベルヌーイが浸透するわけです。そういえば、雑誌のNewtonもベルヌーイで説明していましたね……。
 渦理論よりベルヌーイの方が説明が簡単ですしね。

 ここまで、ベルヌーイの法則を「たいして影響してない」と言ってきましたが、これは揚力についての話で、ジェットエンジンでは大活躍です。特にジェットファンエンジン。旅客機が積んでいる直径の大きなエンジンです。こちらの話と混同された可能性もあります。

 他にも、間違い理論には同時到達理論なんてのもありました。前にテレビで見た事があります。翼の前部で上下に分かれた流れが翼の後ろで合流しますが、翼の上下の膨らみの差分、流れる距離が翼上面の方が長くなるために、翼上面では流速が速くなるというやつです。これも、対称翼が立ちはだかります。しかも、翼の上下の気圧差は実験値では約2倍にもなるのですから、無理があります。

 揚力発生原理は、一つ一つ見ていくと何も不思議なことはありませんが、目に見えない空気の流れを想像する力が必要です。これが面倒な人はシンプルな説明に飛びつきたくなる。その結果、間違い理論が繁栄するのでしょう。


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