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読書録

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読んだ本の感想などです。
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#白石一文

読書録 「生きがいについて」

神谷美恵子「生きがいについて」(みすゞ書房) 書店や図書館で手に取った本の中で心に刺さる一文を見つけた時、生きていてよかったなと感じる。 本書はそんな一冊だ。 結局、人間の心のほんとうの幸福を知っているひとは、世にときめいているひとや、いわゆる幸福な人種ではない。かえって不幸なひと、悩んでいるひと、貧しいひとのほうが、人間らしい、そぼくな心を持ち、人間の持ちうる、朽ちぬよろこびを知っていることが多いのだ。 人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。 野

読書録 「もしも、私があなただったら」2011/2023

白石一文「もしも、私があなただったら」(光文社) 目に見えないものの大切さをテーマにした連作小説集「どれくらいの愛情」のあとがきに本作が紹介されていたので読んでみた。 表題の通り自分が相手の立場になったら何を思い、どのように行動するのか、相手の立場に立つとはどのようなことなのかに主眼を置き物語は進んでいく。 「人間の愚かさはいつの時代も止まることを知らない。むしろこの世界では、そうした愚かさを身をもって演ずることこそが人生の目的なのではないか、と近頃の啓吾は考えるように

読書録「永遠のとなり」2011/2023

白石一文「永遠のとなり」(文藝春秋) 10年以上前の読書録を加筆修正して投稿する。 今と考えていることは、さほど変わっていないことに気づく。 人間の再生をテーマにした物語。 挫折や絶望に直面した時、人はどのように立ち直っていくのかが丁寧な文体で描かれていた。 いくつか印象に残った文章を引用する。 「私たちの欲望は次々と細切れにされ、その細切れごとに過剰なまでのサービスが用意され、充足させられていく。その一方で、もっと大きくて曖昧で分割のできない大切な欲望、たとえば、のん

読書録「どれくらいの愛情」2011/2023

白石一文「どれくらいの愛情」 表題作を含む4編からなる小説集。 物語の舞台はいずれも著者の出身地である福岡だった。登場人物たちの博多弁や街の描写が自然に感じられたのは僕自身、以前旅行で博多を訪れたからだろう。 著者が「あとがき」にも触れていたようにこれらの作品群には「目には見えないものの大切さ」に重点を置いている。 では「目に見えないもの」とは一体何なのか。 印象に残った台詞等から考えてみよう。 「人はどんなに辛いときでも夢だけは見ることができるのではないか。そしてそ