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読書録

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読んだ本の感想などです。
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#社会

読書録 「生きがいについて」

神谷美恵子「生きがいについて」(みすゞ書房) 書店や図書館で手に取った本の中で心に刺さる一文を見つけた時、生きていてよかったなと感じる。 本書はそんな一冊だ。 結局、人間の心のほんとうの幸福を知っているひとは、世にときめいているひとや、いわゆる幸福な人種ではない。かえって不幸なひと、悩んでいるひと、貧しいひとのほうが、人間らしい、そぼくな心を持ち、人間の持ちうる、朽ちぬよろこびを知っていることが多いのだ。 人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。 野

棄てられた神

ヒルコはイザナギ、イザナミの最初の子(『古事記』)でありながら、海に遺棄された。 『古事記』には、こう記されている。 「くみどに興して、子水蛭子(ヒルコ)を生みたもう。この子は葦船に入れて流し去りき」(*くみどは寝所のこと) 水蛭子という字面から蛭のように骨のない異様な肉体で、歩くことも立つことさえもできない不具者をイメージさせて、海に遺棄することで締めくくられる。 それをオマージュした作品が手塚治虫の「どろろ」であると教えてくれたのは大学時代、農業経済図書室の司書のY

読書録「居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書」

「売上増加により収益性は改善する」、「生産性が良くなるので効率性は高まる」、「リードタイムが改善され納期遅延を起こさず顧客満足度が高まる」・・・etc 中小企業診断士試験の2次試験の答案や実務補習の診断報告書に何度、上記のようなお決まりのフレーズを書いてきたことだろう。書くたびに「何か違うな」と違和感が心の奥底に沈殿していった。 常に成長し続けなければならない、効率を高めるべきだ、という成長至上主義の言説を絶対化し、上昇志向のワンパターン思考回路に陥ることで、そこから逸脱