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読書録

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読んだ本の感想などです。
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#共感

読書録 「生きがいについて」

神谷美恵子「生きがいについて」(みすゞ書房) 書店や図書館で手に取った本の中で心に刺さる一文を見つけた時、生きていてよかったなと感じる。 本書はそんな一冊だ。 結局、人間の心のほんとうの幸福を知っているひとは、世にときめいているひとや、いわゆる幸福な人種ではない。かえって不幸なひと、悩んでいるひと、貧しいひとのほうが、人間らしい、そぼくな心を持ち、人間の持ちうる、朽ちぬよろこびを知っていることが多いのだ。 人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。 野

読書録『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅

上白石萌音・河野万里子「翻訳書簡『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅」(NHK出版) 仕事で疲れて何も考えたくない夜は上白石萌音さんがレストランで美味しそうに食事をしている動画を見ると癒されます。 もちろんアーティストとして「ひかりのあと」などの楽曲も素晴らしいので、まだ聴いたことがない人はチェックしてみて下さい。 そして、お時間がある方はこちらも参照して頂ければ幸いです。 上白石萌音さんは女優、アーティスト、ナレーター、エッセイストなどマルチな才能をお持ちの上、オーディショ

読書録「どれくらいの愛情」2011/2023

白石一文「どれくらいの愛情」 表題作を含む4編からなる小説集。 物語の舞台はいずれも著者の出身地である福岡だった。登場人物たちの博多弁や街の描写が自然に感じられたのは僕自身、以前旅行で博多を訪れたからだろう。 著者が「あとがき」にも触れていたようにこれらの作品群には「目には見えないものの大切さ」に重点を置いている。 では「目に見えないもの」とは一体何なのか。 印象に残った台詞等から考えてみよう。 「人はどんなに辛いときでも夢だけは見ることができるのではないか。そしてそ