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【お話し】月光~妖精と龍~(13)

祝福

 谷の1日はいつもの様に過ぎていく。
幼い妖精達は暁飛の頭に乗って空の散歩に行く。
時々 大人の妖精もそれに混じる。
暁飛(こうひ)は、見回り見守りを兼ねて、あちこちへ飛んで行く。
ミリーは谷で星の花の様子を見て回った。
以前蒔いた種は芽吹き、蕾を付け、1/3程咲いている。
日の当たり具合や 風の吹き具合で色を変える星の花。
赤やピンク、黄色やむらさき等が咲き始め、優しい風に吹かれて シャラシャラと可愛らしい音をさせていた。

ミリーは この優しい音が大好きだ。
見回りながら耳を傾ける。
ミリーが来る前は、風と川と滝の音しかしなかったこの谷も、今は妖精達のお喋りや笑い声、星の花の美しい音色、何より暁飛の話す声や極まれに笑い声さえ聞こえる様になった。
夕方ゆみんとルーナがやって来た。

「あ、ミリー今日は来たのね。昨日、暁飛がしばらくミリーが来ないって心配してたわよ。」

ゆみんが言った。

「うん。今日は・・来られたよ。ゆみんとルーナこそ、この時間に来るのは珍しいわね。」

「今日は 私にしては珍しくいっぱい働いたから疲れちゃって。ここに来ると疲れが取れるからね。」

「私はこれからお仕事よ。だけど2人の様子を見に来たの。」

ルーナは優しく笑った。

「私達の様子?」

「ふふっ・・。その様子じゃ仲直りしたみたいね。」

「!」

「何?2人ケンカしてたの?それで暁飛、昨日あんなに気にしてたのか。」

ミリーは慌ててバタバタと羽を動かした。

「な、何で、それ・・ルーナ?」

「ふふっ、夕べね仕事が終わって帰ろうとした時、暁飛さんに会ったのよ。様子がおかしかったから話を聞いたの。」

ミリーは恥ずかしくて顔が真っ赤に染まっていく。

「ちょーっと待って!私、全っ然、話が見えないんだけど!!何があったの!ちゃんと説明しなさーい!」

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 暫くして、最後の空の散歩から暁飛が帰ってきた。

「暁飛ー、ありがとー。また乗せてねー。」
「楽しかったー。バイバーイ。」

「もう薄暗いから 気を付けて帰るのだぞ。」

「はーい。」

小さな妖精達が手を振って帰っていった。
その様子を見ていたゆみんが、腕組みをして感心している。

「はー、変わるもんねェ。暁飛、前は『む』とか『や』とか『構わん』とか、単語しか喋らなかったのに。」

ルーナもクスクス笑っている。

「そうね。本当は暁飛さんは、子供好きでお喋りなのかも知れないわね。」

「そういや、聞いたわよ。ミリーと恋仲になったそうじゃない。」

ゆみんはからかう様に暁飛の鼻先でニヤリと笑った。
その途端、暁飛の周りにパッと明るい様な楽しい様な空気が広がった。

「そうなのだ!我とミリーは番になる事にしたのだ!」

暁飛が 聞いた事もない明るい声で2人に言った。

「え?番?」

ゆみんとルーナは驚いた。
ミリーは、仲直りして良い仲になった事は話したが、番の事はまだ言っていなかった。
今日の今日の話だし、少し恥ずかしく照れもあった。
が、暁飛が2人にハッキリと宣言?したのだ。

「ちょっ・・暁飛・・」

ミリーが焦って暁飛の口を押さえた。
ゆみんが食いつく。

「番?番って言った?何!聞いてないわよ!」

ルーナはニコニコ顔だ。

「あら、そうなのね。良かったわね。ミリー、暁飛さん。」

慌てているミリーに暁飛は不思議そうに尋ねた。

「何を慌てている?我と番になると言ってくれただろう。気が変わったのか?」

「そうじゃない。そうじゃないけど・・あの、もうちょっと・・・」

「なら良いではないか。本当の事だし、我はこんな気持ちは初めてなのだ。これが嬉しいと言う事なのだろう?」

つまり暁飛は、ミリーと気持ちが通じて嬉しくて浮かれているのだ。
先程の暁飛の周りに広がった空気も、暁飛の浮かれっぷりが表れたものなのだろう。
流石は霊力の強い黒龍だ。

「アーハハハハ・・・・・!!」

ゆみんが大爆笑している。

「アハハ・・ミリー、これは大変ね!その辺りはミリーが教えていかないとね。まあ、おめでたい事なんだから、いいんじゃない?」

ゆみんは まだお腹を抱えて笑っている。
ルーナも珍しく声を出して笑っていた。

「暁飛さんは、情緒とかデリカシーとか覚えた方がいいのかも知れないわねぇ。」

「む?我は何か間違えたのか?」

ゆみんが笑い過ぎて滲んだ涙を手で拭いながら言った。

「間違ってない、間違ってない。プッ・・暁飛はむしろ そのまんまどこまでも行きなさいよププッ」

訳の分かっていない暁飛と、恥ずかしさのあまり黙ってしまったミリーと、クスクス笑いのルーナ、大爆笑のゆみん。
とても幸せな光景がそこにあった。

 辺りも暗くなってきた。
ゆみんは森へ帰り、ルーナは仕事に出掛けた。
暁飛とミリーは、月が出るのを谷でまっていた。

「我は何か間違った事をしたのだろうか。」

暁飛は先程の事を気にしていた。

「ううん。違うの。暁飛があんなに自分の気持ちを他の人に言うなんて、びっくりしただけ。だって暁飛、いままであまり自分の気持ちとか考えとか話さなかったから。」

暁飛は空を見上げて少し考えた。

「言わぬと言うより、分からなかったのだ。嬉しい、悲しい、楽しい、寂しい。誰かを待ち遠しく思ったり、怒りも初めて感じた。戸惑いも。」

今まで100年以上、暁飛は 日々を淡々と生きてきた。
民を守る事を仕事に、淡々と。
ただそれだけだった。

「ミリーと会って、たくさんの感情が我にもある事を知ったのだ。他の者に言ってはいけなかったのか?」

「言っていいのよ。言っていいの。でも誰彼構わずはダメよ。ゆみんやルーナ、アウルや本当に心を許した人だけにしてね。
もちろん私には、暁飛の気持ちを遠慮なく聞かせて。私も暁飛にはちゃんと話すわ。」

「わかった。」

暁飛とミリーは見つめ合い、おでこを合わせる。
2人で空を見上げれば、大きな満月が森の上に出始めた。

「行(ゆ)くか。」

「うん。」

ミリーは暁飛の頭に乗った。
2人は月夜を青い花に向かって飛び上がった。

癒しの青い花は、妖精の世界にある。
普段ミリーや暁飛がいるのは人間の世界だ。
同じ星なのだが、次元が違う。

暫く飛ぶと、次元の狭間が見えてきた。
見えてきたと言っても、ドアや壁がある訳ではなく、空気が違う。
人間界の鳥などが 普通に飛んでいるのでは気付かず素通りしてしまう。
妖精などがその狭間で霊力を放つと、妖精の世界に行ける。

ミリーと暁飛が霊力を放出しながら狭間を抜けると景色が一変した。
今まで見えていた山や湖は消え、全く違う丘や川が見えてくる。
そこからしばらく行くと、深い藍色の空間が現れる。
どんどん進むと、青い花が見えてきた。

ミリーと暁飛は 花に降り立った。
空には大きく、青く白く輝く満月が浮かんでいる。
2人は花の上で月を見上げた。

「我はミリーを命ある限り慈しみ、愛し、傍に寄り添うことを誓う。」

「私は暁飛を命ある限り慈しみ、愛し、傍に寄り添うことを誓います。」

2人は祈りを捧げ、願った。

「「どうか、月の祝福を。」」

すると、いつもの『幸せの光』よりも数倍明るく、美しい光が2人に降り注いだ。
光の中にはキラキラと青白い粒の様な光も混ざっている。
2人の心の中に温かいもので満たされていく。

気が付くと「幸せの光」は、いつもの穏やかな「幸せの光」に戻っていた。
どうやら2人は 月に祝福を頂けたらしい。
暁飛とミリーは見つめ合い、二度(ふたたび)おでこをコツンと合わせた。

「ミリー、そなたに貰ってもらいたい物があるのだが。」

暁飛が静かに言った。
ミリーは首を傾げた。

「これを受け取ってもらえぬか。」

暁飛は首をクイっと持ち上げた。
そこには、黒い鱗の中にひとつ、月の光を受け 一際輝く1枚の銀色の鱗があった。
逆鱗だ。

「え?それは・・。」

「ああ。我の逆鱗だ。これは我の心。ミリー、そなたに貰ってもらいたい。」

ミリーは少し考えて首を振った。

「何故だ?」

「暁飛、私は貴方を従えたい訳じゃないの。ただ、愛して傍にいたいの。貴方の逆鱗を私が貰ったら、何かある度に 私が逆鱗を持っているから貴方は言うことを聞いているんじゃないかって不安になるわ。だからいらない。」

ミリーは笑って逆鱗を優しく撫でた。
初めて会った時の様に。

「だが、ミリーに何も渡すことができぬ。」

「そんなことないわ。私、凄い物貰ってるもの。」

「何もやっとらん。台や椅子は拾ってきたものだ。」

「フフッ、私は暁飛の心を貰ったわ。黒龍の暁飛を私が貰ったの。私も私を暁飛にあげる。・・・違う?」

暁飛はミリーを見つめた。

「違わん。ミリー、そなたは我の最愛。我の命だ。」

「暁飛、貴方も私の最愛で命よ。」

2人は三度(みたび)おでこを合わせ愛を誓った。
甘く幸せな時間が過ぎていった。

                 ー続くー


ヘッダーのイラストと挿し絵はKeigoMさんからお借りしたものです。

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