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【お話し】月光~妖精と龍~(14)

 暁飛(こうひ)とミリーは暁飛の洞穴で一緒に暮らすようになった。
以前は何もなかったねぐらだったが、花が飾られ、テーブルが置かれ、その上にも竹を切った花瓶が置かれ 生花が挿してある。

 空布も健在で夜は2人仲よく寄り添って眠る。
最初の頃、暁飛がミリーを潰してしまうのではと気にしていた。
最終的にミリーが暁飛の鬣(たてがみ)の中で眠ることにして、暁飛も安心して眠るようになった。
 
 ある日、暁飛はふと思い付いてミリーに聞いた。

「そういえばミリー、おぬしはどこで生まれたのだ?花から生まれたのだろう?」

谷の星の花のお世話をしていた顔を上げた。

「私?私は少し離れた所にある花畑・・花壇?の中にあった、紫色のカンパニュラから生まれたの。」

「カンパニュラ・・とは、どんな花だ?」

「濃い紫でね、花弁がヒラヒラして綺麗なのよ!ケイゴさんが種から育てたの!」

「ケイゴ?民の様な名だな。」

「そうなの!ケイゴさんは人間だよ。お花を育てるのが上手なの!自分の花壇を少しずつ広げて花畑にしている途中なのよ。」

「人間が育てた花から妖精が生まれるのか?」

人間が育てた花は 育てた人間の想いや思惑がこもるので、妖精が生まれ辛いのだ。

「・・・?生まれないの?」

「我は聞いたことが無いが。」

「・・そう言えば私も無いわねぇ。」

2人して首を傾げた。

ミリーが何かを思い付いた様に顔を上げた。

「そうだ!ケイゴさんに会いに行こう!」

「ご健在なのか?」

人間と妖精とでは寿命が随分違う。
妖精が少し前だと思っていても、人間では、本人は天に召されていて ひ孫が孫を持っている様な事もある。

「たぶん。私生まれてから30年ぐらいだから。初めて生まれた花から顔を出したら ケイゴさんが驚いて私を見てたのよ。その時は かなり若くて、街でお仕事もしてたから・・。何もなければいると思うのだけど・・・。」

「もしいなくても、そなたは傷付いたりしないか?」

「・・・いなければ悲しいし がっかりするわきっと。でも元気で会えたら嬉しいわ!」

「・・・そうか。明日にでも行ってみるか?」

「うん!」

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


 ケイゴは街に住む青年だった。
年は30前後か。
ミリー達の住む場所からは 随分と遠く離れた街の中に、妻と子供と暮らしていた。
ミリーや暁飛が守っている場所は山深く、人間も住んでいるが 街と言うよりも山間(やまあい)の集落といった感じだ。
人々は昔ながらの生活をしながらゆっくり時間が動いていく、そんな所だ。

 ケイゴが住む街は 文明もかなり進んだ所だった。
ケイゴは最近出来た出版社に勤めていた。
街の内外で起きた事や、便利な情報等を定期的に紙に印刷して売っている会社だ。

ケイゴはその出版物の写真を撮る仕事をしている。
毎日忙しかったが、ケイゴにはひとつ趣味があった。
花を育てる事だ。
住んでいるのは街の中心部のアパートメント。
庭がないので、鉢に花の種を蒔き、育て、咲かせるのが好きだった。
窓に沿って 幾つもの鉢植えに花を咲かせていた。

 ある日、ケイゴは街から少し離れた場所に 小さな小さな土地を買った。
2、3歩で端まで歩けてしまう小さな土地。
ケイゴは足繁くそこへ通い花を咲かせていた。
2年ほどして、ケイゴはまた少し土地を買い足した。
広さは倍ぐらいになった。
花の数を増やし、種類を増やした。
ある初夏の頃、種から丹精込めて育てていたカンパニュラの花が蕾をつけた。
蕾は膨らみ、濃い紫の花が次々に咲き始めた。
ケイゴは嬉しくてよくこのカンパニュラを見に行った。

 しばらくして、もう咲くだろうと思っていたカンパニュラが なかなか開かない事に気づいた。
蕾は色づき、大きく膨らんでいるが開かない。
不思議に思ってそのカンパニュラを指でそっとつついてみた。
すると花は「ポン」と開き、そこに小さな小さな妖精が『キョトン』と座っていた。
もともとカンパニュラはそんなに大きな花ではない。
その中に収まっているのだから、ほんの小指程の大きさだ。
(人形か?)
と思ったが、目をパチクリしてキョロキョロしている姿は、どう見ても人形ではない。
小人?
そう思ったがどうにもこの、非現実的な情景にケイゴの思考は止まった。

「君は誰だい?」

                 ー続くー


ヘッダーの写真はKeigoMさんからお借りしたものです。


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