君は1人じゃない - 2018.8.15 ELLEGARDEN - THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018 FINAL w/ ONE OK ROCK

※2018年8月25日に書いたブログの転載です。

■君は1人じゃない

2018年8月15日、前週の新木場公演が台風に見舞われたのとは打って変わった晴天の下、ELLEGARDEN活動再開ツアー「THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018」はファイナルの日を迎えた。

マリンスタジアムには早朝のグッズ販売時から本当に沢山の人が集まっていた。今でこそTwitterやFacebookもあるが、エルレが活動していた当時は今のSNSのようなものはミクシィぐらいしかなく、そのミクシィもやっていなかった自分は日常生活でエルレを好きな人にほとんど会ったことがなかった。それがこの日は日本中からエルレを観るために集まったファンが続々と幕張に訪れてくる。「エルレを好きな人ってこんなにいたんだ」。もちろん中にはこの場所に来れなかった人もいるだろう。でも目の前に集まったファンを見て、CD の売り上げ枚数を聞いても持てなかった実感が湧いてきた。部屋で1人で歌詞カードを見ながら、MDウォークマンでエルレを聴いてたあの頃の自分がこの景色を見たら、なんて言うんだろうか。

ここマリンスタジアムでも、チケットを求め海浜幕張駅から会場まで、かなりの数の人がボードを持って立っていた。音漏れのために遠方から駆けつけた人も多くいる。自分は新木場公演に続きマリンスタジアム幸運にもチケットを譲ってもらうことができたが、一箇所も行けない人がいると思うと、罪悪感は拭い去れない。でも後悔しない選択を考えたら、答えは一つだった。心にのしかかる重圧は今日という日の重みだ。その重みとともに4人の姿を目に焼きつける。17時を回った頃、場内に向かう。

場所はアリーナLブロック。広い。マリンスタジアムにはサマソニで来たことはあったけれどやはり広い。けれどステージの左右には巨大なモニターも設置されている。これなら、メンバーの表情もよく見えそうだ。この会場がELLEGARDENを待ち望んだ人たちで埋まる、その時を待つ。

18時を少し過ぎたところで、会場のBGMの音量が上がり、モニターには「ONE OK ROCK」の文字が。そしてSEへ。

■ONE OK ROCK

Taka「みなさん熱中症になる準備はできてますか!?敬意をもって、このステージの上で自分たちを見せて帰りたいと思います。」

1曲目"Taking Off"。スクリーンに映るTakaは早くも瞳を潤ませている。 このツアーで、いやこのツアーが始まる前から、エルレへの愛と尊敬を何度も口にしていたTakaだからこそ、このツアーの喜びと同じだけ、それが終わってしまう寂しさも大きいのだろう。他の3人の気迫もピリピリと伝わってくるようだ。ライブハウスよりもアリーナやドームといった大箱が主戦場となったONE OK ROCKのサウンドはマリンスタジアムとがっちりと噛み合う。

そこから"The Beginning"、"Clock Strikes"とセットリストは新木場と同じ流れ。しかし新木場で見た時はあまり印象に残らなかった"Clock Strikes"でのTakaのハイトーンのロングシャウトの伸びは凄まじく、こういった大きな会場でこそその壮大なスケールは存分に発揮されるのだと思い知る。ファンの大合唱と合わさったその歌は、スタジアムを超え、会場の外にまで届かんばかりに響き渡る。

Taka「ELLEGARDENおかえりなさい。10年前彼らが活動を休止した時、僕らはバンでバンド活動をしていました。日本中を車で回って、彼らの音楽を聴きながら色んな想いにふけって、いつかあんなでっかいバンドになってやるって気持ちを常に持ちながら活動していました。バンド活動を始めて13年、色んなことが混ざりに混ざって、今日という日を迎えることができてます。」

"Take what you want"の前奏に乗せTakaが語る。改めて、エルレとの対バンが自分たちにとってどういう意味を持つのか。エルレとファンへのリスペクトを忘れずに、熱い気持ちをぶつける。この日も"Take what you want"でのTakaのロングシャウトには鳥肌が立ち、涙が出そうになった。歌声だけでここまで惹きつけられるボーカリストはそうそういない。

続く"I was King"でもTakaの振り絞るような歌声が、エモーショナルに心を揺さぶってくる。ブレない上に伸びのあるTakaのボーカルとどっしりと構えた3人の楽器隊の演奏が、客席のコーラスを巻き込み、渦巻くようにスタジアム広がっていく。

Taka「エルレが大好きで、本来ならおれらもみんなと同じチケット買ってそっちで見たいくらいなんです。でもこのツアーが決まった時、絶対にチケット取れないだろうなと思って、でもどうしても見たかったからオープニングアクトとして使ってもらおうと思って、隙間を狙ってね笑。僕がやっと細美くんと対等に話せるようになって、正直にエルレがまた見たい!と言い続けました。それから2年経って、色々な問題を乗り越えて今日を迎えられています。ONE OK ROCK知らない人もたくさんいると思いますけど、今日は僕に感謝してください。……冗談です笑。」

Taka「皆さんの気持ちを彼らにぶつければ彼らの未来も、皆さんの未来も変わるかもしれません。届くかはわかりませんが。ELLEGARDENと同じステージに立てたということは僕らにとって財産です。僕らはこの宝物を背負って、これからも自分たちの道を進んでいきます。でも今日が最後だから言うけど、あと1本だけ、ツアーやってもらいたい。だってまだ見たいんだもん。」

ここまでTakaの瞳はずっと潤んでいるように見えた。それはエルレとの対バンツアーがファイナルを迎えたことの感慨や感傷からくるものだと思っていた。でもこのMCを聞いて、それが悲しさや寂しさからくるもののように見えた。「最後」という言葉の意味が何を指すのかはわからない。けれどTakaのMCは、切実な訴えのようにも聞こえた。

Taka「ここからまだ盛り上がっていけますか?」

自身の気持ちを切り替えるようなTakaの一言から"Mighty Long Fall"へ。巨大なサークルが作られ、モッシュ、ヘドバン、シンガロンガが各所で次々と起こる。ToruとTomoyaもステージいっぱいを使い客席を煽るように激しくプレイする。熱を帯びた空気が、一体感を生み出していく。

Taka「これだけ言わせてもらうけど色んな時代に色んなバンドがいると思うけど、ハイスタでもなく、BOØWYでもなく、僕たちにとってのヒーローはELLEGARDENなんです。他のバンドをディスってるとかじゃなくてね。辛い時や悩んだ時音楽に救われて、みんなもそうだと思うけど、おれたちも同じなんだよ。彼らの音楽に救われて、自分たちも音楽やって、音楽で名を轟かしてやろうって思えた。」

Taka「普段はステージの上では先輩後輩関係なく誰にも負けないって気持ちでライブやってるけど、ELLEGARDENみたいなレジェンド級のバンドが来たらどう表現したらいいかわからなくて。」

"We are"でTakaはステージ下手からアリーナへと降り、後方のスタンド席へ駆け出した。スタンド席に立ち、アリーナからスタンド最上段まで、全員の気持ちを煽る。新木場では小さかった合唱が少しずつ大きくなり、マリンスタジアムに集まった人たちを繋げていく。

Taka「次エルレが来るんだぞ、おまえらそんなんでいいのか!!!」

"We are"の余韻の消えない中、最後の曲"完全感覚Dreamer"へ。RyotaもToruもTomoyaも、最後の曲に全てをぶつけるように身体全てを使った演奏を見せる。Takaはスタンドから再びステージへ、全力のボーカルと全速のステージングで、マリンスタジアムでONE OK ROCKというバンドの存在を証明していた。

新木場で見たONE OK ROCKが見せたのは、ELLEGARDENが復活し、そして同じステージに立てることの喜びと、エルレとファンへの敬意と愛に溢れた、祝福を体現したロックキッズのステージだった。でもマリンスタジアムで見たONE OK ROCKは、感謝と尊敬を胸に日本のトップバンドとしての圧倒的なスケールでその矜持と覚悟を見せていた。しかしそれ以上に、このツアーが終わることへの抗いようのない寂しさを振り払うかのような、願いが込められたステージだった。

ONE OK ROCK セットリスト

1.Taking Off

2.The Beginning

3.Clock Strikes

4.Take what you want

5'I Was King

6.Mighty Long Fall

7.We are

8.完全感覚Dreamer


ワンオクのライブを見て、TakaのMCを聞いて、「エルレはこのツアーで解散するのかもしれない。」という考えがふとよぎった。誰の証言も、何の確証もないが。一度生まれた疑念は消えず、エルレの出番を前に重く苦しい気持ちが心に広がっていく。「こんなに好きなバンド他にいないのにどうするんだよ。」SEが鳴り始めても、憂鬱な気持ちは晴れない。「考えても答えは出ないし、今は今を楽しもう。」無理矢理そう自分に言い聞かせる。新木場と同じ、SEの後に少しの間。


■ELLEGARDEN

Nothing I can do as well
But to dream her all the time
I'm a fuckup and I'm nuts so she's gone

Supernoca

1曲目は約束の曲"Supernova"。新木場ではいきなりイントロから入るアレンジだったが、今日は細美のギターと歌から始まるアレンジだった。それはこの10年間、何百回とライブ映像で見た、何百回と頭の中で描いたELLEGARDENの復活ライブのオープニングだった。完全な不意打ち。「えっ?」。新木場と違う?そんな頭の混乱をよそに、細美の歌に生形のギターと高田のベース、高橋のドラムを聴けば、否が応でも気持ちは昂ぶる。何百回と聴いた"Supernova"は、いつも空だって飛べるんじゃないかってくらい、心に翼をくれた。実際に空を飛べる日なんて一度も来なかったけど、でもこんな自分にも、一歩踏み出す力をくれた。ふと周りを見渡す。みんな泣いていた。みんなこの日を待っていた。それは自分もそうだったはずだ。この10年、ただこの日をずっと待ってたんだ。未来のことを考えるのは今じゃない。さっきまで心を覆っていた雲は振り払われていた。気がつけば全力で拳を上げ、モッシュの渦へと身体は吸い込まれていく。

"No.13"から"Pizza Man"へと新木場と同じ流れ。でも今日は3万8000人の観客がいる。"No.13"のジャンプも"Pizza Man"での大合唱も、波がうねるように大きな力になり、その熱とエネルギーが会場中に伝播していく。

細美「こんばんは、ELLEGARDENです!!…………ただいま。」

細美「(指に手を当てて)シーっ、静かにして。子ども以外黙ってて。『よー!外で聴いてる連中よー!!!怪我すんなよ!!!』(場内の人を指差しながら)お前らも怪我すんなよ。」

会場の外にいる音漏れを聴きにきた大勢のファンに呼びかける細美。 場内に届いてくる歓声。いつだって、ファンのことをこのバンドは考えてきた。やり方が常に正しかったわけではないかもしれない。でも自分たちのスタンスを貫きながら、それでいてファンも幸せにする方法はないか、みんなを笑顔にする方法はないかを考えてきた。その声は、会場の外で音漏れを聴いていたファンに間違いなく届いたはずだ。

会場の外のファンとも繋がった勢いのままに"Fire Cracker"へ。

To find it floating in my static dream
僕のスタティックな夢の中にはそいつが浮かんでるってのを見つけ出すために
Just sing it, sing it
ただ歌うんだ 歌うんだ
Even though I've never said the words
僕が口に出して言わなくったって
Don't fake it, no more
もうごまかすのはやめにするんだ
To find it floating in your static dream
君のスタティックな夢の中にはそいつが浮かんでるってのを見つけ出すために
Just sing it, sing it
ただ歌うんだ 歌うんだ
Even though you've never said the words
君が口に出して言わなくったって
I feel right now
感じてるんだ

Fire Cracker

サビに出てくる「そいつ」がなんなのか、リリースされた当時はよくわからなかった。でもきっと「そいつ」っていうのは、自分がずっと持っていて、でも自分では気づけていなかった信念のようなものだと思った。自分の正直な気持ちの見つけ方はエルレの音楽が教えてくれた。エルレと出会って15年、失敗や遠回り、自己嫌悪した夜は数え切れない。でも情けない自分でも、少しでもマシになりたいと、エルレの音楽とともに生きてきたつもりだった。自分の信じたものを信じ、そしてそれを信じる自分を信じた。全てのピースが揃って、自分のことを初めて愛せるような、そんな奇跡みたいなこの夜を連れてきたのは、エルレの音楽であり、そして自分自身だ。今日までの人生は間違ってなかったのかもしれない。夢のような現実がここにはある。自分として生まれて、自分として生きてきたことがこんなに誇らしく思える日は初めてだった。

"Space Sonic"、オルタナティブなコードと展開を当時のヒットチャートへ送り込んだこの曲でエルレを知った人も多いだろう。イントロが鳴るとまるで日本中を沸かせたミリオンヒットのように迎えられる。"高架線"では手拍子とともに優しい一体感に包まれる。

細美「なんも言うことないんだよな。なぜならただのバンドだから。意外と普通でしょ?こんな感じよ?今日はしこたま酒飲むから、二日酔いか三日酔いから醒めたら、今日がどういう日だったか、4人でメシでも行って話そうと思います。雄一はなんかある?」
高田「特にないです。(全員無反応)……………誰も助けてくれないんですね。」
高橋「気持ちの10%は雄一の髪型の後ろがキャプテン翼みたいになってて、それが気になって仕方がない。」
生形「10年………、こんなに待ってくれた人がいて、外にもいて、今日来れなかった人もいて。おれたちは幸せなバンドです。」

細美「懐かしい曲をやります。」

そうして始まったのは"Missing"。新木場ではサビの歌詞を間違えていた細美だが、今日は完璧に歌っている。最後のサビでは、スタジアム中の合唱を両手で煽る。これは「仲間の歌」だ。間違っても、失っても、彷徨っても、この場所に来れば1人じゃない。そしてこの記憶があれば、また明日を迎えられる。

"スターフィッシュ"、"Autumn Song"とエルレの中でも特に人気の高い曲たちが惜しげもなく披露される。満面の笑みで歌う細美。モニターに映る生形と高田と高橋の表情からも、充実感や喜びが伝わってくる。

One thing I miss at the center of my heart
ハートの真ん中にひとつだけ足りないんだ

Autumn Song

どうしようもない孤独を歌った"Autumn Song"も、みんなと一緒なら、こんなにも笑顔で歌える。

"風の日"では一際大きな合唱が起こる。細美の歌声とファンの歌声が重なる。間奏では細美の「生形ー!!」という叫びとともに、生形のギターソロへ。キャッチーで耳に残り、曲の表情を決定づけるようなフレーズの数々。エルレのギタリストはやはり生形しかいない。

細美「初めて会う奴が、多分半分ぐらいいると思うんだよ。子どもの頃両親が車の中で聞いてたって奴らや、中学生の時に『高校生になったらライブ行こう』って思ってたら活動休止しちゃった、そんな奴らばっかりだと思う。ここにいるのがELLEGARDENで、おれたちはこんな感じです。以後お見知りおきを。そして相変わらず綺麗ごとも言えずに、10年経っても周りになじめず浮き狂ってるお前らオールドファンにこの曲を捧げます。」

そうして歌われたのは"Middle Of Nowhere"。エルレを活動休止後、細美はthe HIATUSを結成した。パンクから距離を置いたオルタナティブで内省的な楽曲を表現していく中で、細美のボーカルもより深く、より遠くに、その表情は陰影を湛え研ぎ澄まされていった。そんな細美の歌声で歌われる"Middle Of Nowhere"は、マリンスタジアムに集った3万8000人の一人一人の心の奥底に届くような、完璧なスタジアムロックとして鳴っていた。

細美「ワンオクに一緒にやろうって誘ってもらって、2年前から8月15日にマリンスタジアムでライブをやることが決まっていて。おれたちこんな広いスタジアムでライブをやるようなロックスターになりたいなんて一度も思ったことないんだよ。でも最初で最後のスタジアムライブだから、今日だけはロックスターになってもいいかな?(他の3人を見ながら)な、やってみようぜ。 」

細美「1分だけもらっていい?…(言葉に詰まりながら)こんな日が来たら全部報われちゃうな。全部………。………………………おれ1分もらって何言おうとしてたんだっけ?笑。生形にパスします。」

ファンそれぞれの10年以上に、当事者であるメンバー4人は本当に沢山の想いを感じていたはずだ。その感慨を噛みしめるように話す細美。途中で感極まり、言葉を詰まらせる。

生形「おれたちね、そこの西船橋から車ですぐのとこで結成してね。週3日、1日8時間スタジオ入ってて。細美さんがその頃、この辺住んでたから、練習終わったあと車で細美さんを家まで送って行ったりしたこと思い出してた。」

細美のパスを受けた生形も、彼にしか見えない景色を思い浮かべたのか、目を細めていた。

MC明けの"Surfrider Association"は夏がこれから始まるような、第2のオープニングナンバーのように十分に温まった客席にさらに火をつけ、"Marry Me"はこれまでの片想いのほろ苦い記憶を思い出させた。そんな時もこの曲はそばに居てくれたことも。"Lonesome"のアウトロ、細美と高橋は見つめ合いながら演奏する。高橋の瞳は潤んでいるように見えた。言葉のない時間、音楽を通して、お互いの10年を語り合っているように見えた。

夜空の下で聴く"金星"は、夢に見たような世界が存在するということを、より強く感じさせてくれる。

細美「(金星を終えて)良い歌詞だよな。この曲を作った頃、正直者は馬鹿を見るってしたり顔で言ってきた周りの大人が言うように、世界がそうじゃかったらどうしようって思ってたんだけど、誇らしく思うよ。今日この日に見合う努力をおれたちがやってこれたかはわからないけど、おれたちは4人とも正直に生きてきたつもりだよ。正直に生きてきたから10年もかかったんだよ。」

細美「今日は幸せになっていいですかね? 」

細美「おれたちミュージシャンの仕事は、 お前らみてぇな臆病者共の背中をちょっとだけ押したりとか、 お前らバカ共に『大丈夫だぞ、1人じゃねぇぞ』って言ってやることだからさ。」

そんな細美のMCから歌われる"サンタクロース"は、ELLEGARDENからファンへの贈り物のようだった。

I'm Santa Claus 君に千個のプレゼント
どれもこれも安物なんだけど
Santa Claus 一年に一度だけだから
Santa Claus 君に全部あげるよ

サンタクロース

これまで何度も、エルレの音楽に背中を押され、1人じゃないと思わせてもらった。そうやってエルレにもらったものをもう1度、一つ一つ確かめながら、改めて贈られたプレゼントを受け取り、言葉にし尽くせない感謝は、涙になって瞳から溢れていく。

"サンタクロース"の余韻も消えない中、生形のギターの音が鳴る。イントロを前に確信し、次の瞬間には身体は前方に駆け出してた。一度もライブで聴いたことがなく、ずっとずっと聴きたかった曲、"モンスター"。意識よりも先に、喜びが身体を走らせる。

そういう二つとない宝物を集めて
優しくも揺れてる声と合わせて
一つ一つ片付けてく僕らは
不確かなまま駆けてく

モンスター

正解なんてものはないし、周りも自分自身も変わってく。きっと死ぬまでそうだ。でもその中で出会ったものが自分を支えてくれているし、救ってくれた声は今も胸に残っている。これはエルレの音楽と生きていく自分の人生のBGMだ。そうして生きてきた。そしてこれからも。

細美「最後のMCになっちまったな。ちなみに沢山カメラが入ってるけど、今日のライブはDVDにはなりません。ワンオクとのこの旅、別に長旅じゃねぇけどまるで映画みたいな旅で。 その映画のハッピーエンドみたいな日がここにあって。お前らそれぞれの10年の物語があって、これはそのほんの先っちょにひっついてるだけだろ?お前らそれぞれの10年をおれたちの10年で上書きするのはよくないと思うんだよ。お前たちの10年はさ、今度ゆっくり聞かせてくれよ。お前ら今日が人生最高のライブだって言うかもしれないけど、人間は忘れていくものだし、この先もっと楽しいことがあるよ。おれたちの頂点はここじゃない。でも、今日が人生で一番幸せな日です。ありがとうございました。」

この10年、「エルレの活動再開ライブを見るまでは死ねない」と半分は冗談、でも半分は本気でそう思って生きてきた。だから今日が来るのが本当に楽しみだったと同時に、終わってしまうのが嫌だった。明日から誰かとの約束のない日々を頑張って生きていけるんだろうか。でも細葉が言ってくれた。「ここが頂点じゃないよ」。生きててよかったと心から思わされた。でもそれだけじゃなく、また今日のような日が訪れることを信じたくなる言葉をもらった。本当にそんな日がまた来るかはわからない。でも信じることで、これからも続く道を歩いていける。

生方「おれはもう沢山喋らせてもらったから。本当に今日はありがとう。」

高橋「おれはこの4人が集まってやることはもうないのかなと思ってた。なんの確証もないけし、みんなで活動休止と約束したけど。でも今日このステージに立てて、まおれは座ってるんだけど笑、本当に嬉しい。ここから見えるみんなの顔見てたら、懐かしいなーって。楽屋で色々言うこと考えてたんだけど、全部飛んじゃった。」

高田「初台WALLでのライブばっか出てたんですけど、今日このステージに立って勘違いしてしまいそうです。今度からは初台WALLのブッキング断っちゃうもしれません。ありがとうございました。」

4人の声を受け、ライブは最後のブロックへ。"Red Hot"が流れると、ライブ終盤にも関わらずフロアの狂騒は何度目かのピークを迎える。就職活動で冗談抜きに何十社も落ちてた時、毎朝この曲を聴いて力をもらっていた。

ヘビーなサウンドと細美のファルセットが美しい"Salamander"が胸を掻き毟る。そう言えばこの曲のMVを見て、細美と同じVANSのスニーカーを買いに行ったんだ。

過去の思い出が曲とともに鮮明に蘇ってくる。でもこの胸を熱くさせるのは、ノスタルジーではなく目の前の4人から放出される熱量だ。

細美が右手の人差し指を空に向けて伸ばす。"ジターバグ"。 15年前に、この曲で自分はELLEGARDENに出会った。この曲がなかったら、今の自分はいない。

たった一つのことが今を迷わせてるんだ
誰を信じたらいいのか気づけば楽なのに

ジターバグ

当時中学生だった自分は、細美武士を信じていた。ずっと心の中にあって、でも自分では見つけられていなかったものを歌ってくれる彼の言葉に何度も救われた。もっと自分を大事にしてあげて。君は間違っていない。君は一人じゃない。その声はいつだって、暗闇を切り裂いてくれた。あんな人になりたいと思った。でも15年経った今ならわかる。信じるべきは自分自身なんだ。彼を信じた自分を信じた。自分の信じたELLEGARDENというバンドは、約束を守って帰ってきてくれた。自分を信じて生きてきてよかったこれまでの全てが報われていくようだった。そしていつか、そんな言葉を自分も言えるようになりたいと思った。

本編の最後は"虹"。

迷わずにすむ道もあった
どこにでも行ける自由を 失う方がもっと怖かった

細美「そうだろ?」

サビの前で、客席に問いかける細美。

この日歌われたエルレの曲を聴いていたら、まるでこんな日が来ることがわかっていたかのような曲ばかりで驚く。

10年、短くはない。でも、自分に正直に生きることを諦めなかったからこそ、それまでの全てが報われるような、こんな日が迎えられたんだと思う。それはメンバーも、ファンもきっとそうだ。積み重ねた思い出が音を立てて崩れたって、僕らはまた今日を記憶に変えていける。間違いやすれ違いが僕らを切り離したって、僕らはまた今日を記憶に変えていける。最後に笑うのは、正直な奴だけだ。

本編が終了し半ば放心状態のままアンコールへ。アンコールはこの曲。

細美「こんなに人のいるとこでさ、もうちょっと最後にお前らの声聞きたいんだよな。2018年8月15日。おれたちの再結成ツアーのファイナルでもあるけど、今日は終戦記念日でもあります。昔はこれっぽっちも考えなかったけど、ミュージシャンが愛や平和を歌うのは大事だなって。お前の隣にいる奴が、1人になりませんように、今日の帰り、誰かが傍にいてくれますように、すげー簡単だろ?どうせお前ら日頃そんなこと考えて生きてねーだろ?おれもだよ笑。だけどこの3分だけ、付き合ってくんねーかな、おれたちに。」

"Make A Wish"。アリーナには巨大なサークルが作られ、知らない人同士で肩を組み、大声で歌っている。こういう時照れくさくて、自分はその輪には参加しなかった。でもこの歌を、力の限り歌った。例え肩を組まなくても、場内の3万8000人、音漏れを聴きに来た人たち、今日この場所に来れなかった人たちも、みんな気持ちは同じはず。

願い事をしようぜ
簡単なやつを
君が一人きりじゃなくて
そばに誰かがいて手を握ってくれるように
願い事をしようぜ
君が無事でいて
悲しませるものもなくて
そばに誰かがいて抱き締めてくれるように
君が歩く道すがら
そばに誰かがいて抱き締めてくれるように

Make A Wish

エルレの音楽がずっとそばにいてくれたこと。そしてエルレの音楽が、自分と似たような人がこんなに沢山世の中にはいることを教えてくれた。そして繋げてくれたこと。歌が現実になっていく。

細美「あともう1曲だけやらせて」

そして月の真下で"月"が披露される。スタジアムでも、2番にさしかかると全員がしゃがむのを促す細美。

細美「無理しないでいいからね、全員座るまで待ってるから。」

細美「流石に全員が座るのは無理があるな笑」

笑いながらも、全員がしゃがむのを待つ。こんなにも沢山の人が同じことを一緒にしている不思議。居心地は悪くない。月は綺麗で、夜風が気持ちいい。この曲の言う通りだ。こういうものには、きっと勝てない。

ダブルアンコールは"BBQ Riot Song"。湿っぽい終わりは似合わないと言うかのように、最後の最後までカラッとしたアッパーな曲で客席の笑顔を誘う。

Time is always passing by
時間はいつも過ぎ去るだけ
May not be the only way
そうじゃなかったらいいのにさ
I remember you
今でも君を思い出すよ
See you some time on the beach
またいつかビーチで会おうね

BBQ Riot Song

曲が終わると不意にマリンスタジアムの空に花火が上がった。夏の夜を彩る花火は本当に綺麗だ。「晴れてよかったな」。今更そんなことを思う。でも、綺麗だと見惚れている内にあっという間に終わってしまったそれは、このエルレの復活劇のようだった。ワンオクを含めて約3時間。ELLEGARDENの活動再開の旅は幕を下ろした。

周りにエルレを知ってる人は誰もいなかった中学生の頃。友達にエルレを聴かせて「この曲良いね!」と言われると、自分を認めてもらえたみたいで嬉しくなった。そして段々とみんなが知らない音楽を探すうちに、同時に周りのやつを見て「おれは他の奴とはちょっと違うんだぞ」って、勘違いも生まれていった。でも高校生の時エルレのライブに来て、自分みたいな人は沢山いることを知る。自分は何も特別じゃない。ごく普通の高校生。でも同時に、自分みたいな人が沢山いることに安心した。今自分の周りに同じ気持ちの人がいなくても、自分は1人じゃないんだ。10年後の今、マリンスタジアムの景色を見て、それを再確認する。

エルレがこれからどうなるか、それはわからない。メンバーの中で答えは出ているかもしれないないし、出ていないかもしれない。出ていたとしても、未来のことは誰にもわからない。

もしまたいなくなってしまったら、その時は10年前の9月7日のように、寂しさにポッカリと心に穴が空いたような気持ちになるんだろう。泣いたって何も変わらないけど、でも泣いてしまうかもしれない。

もしまた4人でライブをしてくれるとしたら、その時は今年の5月10日のように、すれ違う人全員とハイタッチしたくなるような、生きててよかったなと、自分が報われるような気持ちになれるんだろう。嬉しさのあまり、泣いてしまうかもしれない。

でもどんな未来が待っていたって、一つだけ確かなことがある。周りから浮いてたって、話ができなかったって、理解されなくたって、馬鹿にされたって、絶対に揺るがない確かなこと。

君は1人じゃない

隣に誰もいなくても、それを感じられる。それはこの10年、活動していなくたってエルレの音楽がずっと心に在り続けたように、君が一人きりじゃなくて、そばに誰かがいて手を握ってくれるように、これからも変わることはない。

でも今回待っていたけど見れなかった人が沢山いるから、やっぱりまたツアーをやってほしいな。待っていた人たちみんなが笑顔になれるように。そしてライブハウスで会えた時は、みんなの10年間を聞きたい。本当にそう思う。

待つのには慣れてる。

だからまたいつか、ライブハウスで会えるその日まで。

ELLEGARDENを愛するみんなとともに、その日を信じてる。

ELLEGARDEN セットリスト

1.Supernova

2.No.13

3.PizzaMan

4.Fire Cracker

5.Space Sonic

6.高架線

7.Missing

8.スターフィッシュ

9.Autumn Song

10.風の日

11.Middle Of Nowhere

12.Surfrider Association

13.Marry Me

14.Lonesome

15.金星

16.サンタクロース

17.モンスター

18.Red Hot

19.Salamander

20.ジターバグ

21.虹

EN.

22.MakeAWish

23.月

EN.

24.BBQ Riot Song

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