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【PODCAST書き起こし】小山ゆうなさんに演劇と演出・翻訳劇の話を聴いてみた(全4回)その3

【PODCAST書き起こし】小山ゆうなさんに演劇と演出・翻訳劇の話を聴いてみた(全4回)その3

【山下】はい。ということで、アカデミアの講師をしていだだけるようになって、本当にいろいろとお話ができて。『チック』で本当にあれになったんだけど、その後のお話もちょっとお伺いしたいと思いますけど。

【小山】はい。

【山下】(劇団)NLT終わってから退団してフリーの演出家になって。

【小山】はい。

【山下】その時にアカデミアの講師にも来ていただいたということになるんですね。

【小山】そうですね、はい。

【山下】それで、そのあと僕も何回か拝見しました、この有限会社パレナージュの雷ストレンジャーズっていう、これはどういう経緯でここに入ることになったんですか?

【小山】これはですね、雷ストレンジャーズっていうユニット的なものを作ろう、っていうのが最初なんですけど。それで作って、最初公演を打って、これ、だからたぶん……あ、そうそうそう、公演をして、でもすっごい赤字になるっていうことが今更ながら分かり……。

【山下】分かったと。演劇公演がね。

【小山】そう。

【山下】やればやるほど赤字で。

【小山】もう、すごくて。あ、これは……あんまり助成金に申請するとかってしたくないなあって……。

【山下】あ、そうなんですね。

【小山】……そういうことじゃなく、収支をちゃんと合わせられる、ビジネスとして成立させたいなと思ってたんだけど、そんなことは言ってられないっていうことに、やってみて気づき。

【山下】分かります。大変ですもんね。

【小山】それで助成金を申請するにあたって、何かちゃんと会社的なものがあったほうがいいんじゃないかというふうに、日本語学校の時の上司の方に言っていただいて。ちょっと休眠していた有限会社を彼女がお持ちだったので、譲り受けたというかたちなんです。このパレナージュという会社を。

【山下】これ何人くらいでやっているんですか?

【小山】社長と私とだけです。あと顧問がいてっていうのが。

【山下】なるほど。

【小山】そうですね、はい。

【山下】じゃ、一応毎年年度決算か何かちゃんとしてるんですか?

【小山】はい、やってます。

【山下】大変ですね。

【小山】大変です。

【山下】最近全然やってないんじゃないですか? 雷ストレンジャーズ。

【小山】そう。あの、今年の頭にやるはずだったんですけど、それがもうコロナの影響で、ちょっといろいろ……。作家に来日してもらってとかっていうことを考えていたので、企画自体がちょっと難しくなり、はい。そうですね、いろいろなので。で、今年稽古して来年、っていう企画もちょっと今厳しくなりつつあって。なのでどうしようかな……なんか違うかたちを考えないと、普通に公演するっていうことだと、なかなか続けていくのは今難しいなって思ってます。

【山下】そうね。急にやめろとか観客半分にしろとかね。

【小山】そうなんです。

【山下】言われると困っちゃいますね。本当に。

【小山】本当に。

【山下】半分だと絶対に採算取れませんもんね。

【小山】そう、採算取れなくて、お願いしている俳優さんとかにギャラを払えないってなったらもう大変なことになっちゃうから。

【山下】大変ですよね、本当ですよね。

【小山】ちょっとなんか怖すぎてやれないっていうのが。

【山下】分かります。ね、本当に。なんらかのかたちでね、本当文化庁さん含めてね、なんかこう、持続可能にしていかないと本当にいけないと思いますけど。

【小山】ですね。

【山下】そうこうしたように……さっき話してた『チック』の話にちょっと戻りますと、2017年の8月ですね、初演が。

【小山】はい。

【山下】で、人気があったんで。あれ2019年ですか? 再演したの。

【小山】そうですね、再演を、はい。

【山下】いきなり、一気に再演やって。で、読売演劇大賞などを受賞されたと。優秀演出家賞ですね。

【小山】はい。

【山下】この、小田島雄志・翻訳戯曲賞も『チック』?

【小山】はい、『チック』です。

【山下】これ翻訳戯曲を書いたのは、えーと、小山さん? 

【小山】えーと、翻訳を、『チック』は……。

【山下】上演台本。

【小山】そうですね、演出と翻訳と両方やったので。そうですね、その翻訳についても賞をいただいた。

【山下】すごいですね。なんか、ちょっとここから僕が質問をいくつか書いてきたんですけど。 

【小山】はい。

【山下】まず、小山さんのお芝居は最近翻訳劇が多いんですけど、上演台本を書かれることが多いですよね?

【小山】はい。

【山下】それはなぜ?

【小山】古典に関しては、雷ストレンジャーズに限っていうと、基本的には1時間半で見終わる物を作ろうと思ってたんです。

【山下】なるほど、そういうポリシーにしたんですね。

【小山】あんまり小劇場で、なんかもうすごい何時間とかって辛いなあと思っていて。

【山下】ケラさんとか長いやつありますよね。

【小山】まあ、ケラさんはね、本当ケラさんは面白い。

【山下】長いけど面白い。

【小山】そう、長いけど面白いし、もう覚悟が決まって行くから。

【山下】あははは(爆笑)。

【小山】でも絶対面白いから、ケラさん書かれてるものはね。

【山下】昔ケラさんの芝居で『ナイス・エイジ』っていうのを観たんですけど、「えー、本日の公演は3時間30分、3時間30分・・。3時間30分を予定しています」って言って、そしたら劇場が笑う、沸くんですよ。またかよ、みたいな感じで。あはは。

【小山】うんうん。

【山下】そういうとこありますけどね。でも90分くらいがいいですよね。

【小山】そう、まあ、うん、私たちのやっている感じだとね。ケラさんの作品はもう3時間でも4時間でも観られるからいいんですけど。はい。で、だんだん変わってくるんですけど最初の頃はそう思っていて、なので、そうすると古典でなかなか1時間半っていうものはないのでカットをしなきゃいけなくなり、カットしていく中で「何をこの作品の中で伝えたいか」って抽出していく作業になるので。なので、あんまり「その作家の作品です」って言うとちょっと失礼にあたるかな、っていうことで上演台本っていうかたちを。

【山下】上演台本という表記、増えてますよね。

【小山】うん。

【山下】さっきお話に出たケラさんも自分で上演台本を書いてますから。

【小山】そうですね、ええ。

【山下】翻訳劇は。

【小山】ええ。

【山下】やっぱりそこの翻訳劇の上演台本書くときに、小山さんが気にされているところとかってあります?

【小山】特に古典は、日本でやる時に分からないことが多すぎて。海外のものである……例えばロシアのものだっていうだけでもいろいろ分からない。プラス、時代が違うことで更に分からないので、なんかその「分からない」っていうことをそのままにしておきたくないなっていう。

【山下】なるほど。

【小山】ま、多少いいんですけど。

【山下】「ロシアの貴族がいたときのチェーホフの話が分からないじゃないか」ってね、普通にやると。

【小山】そう。なんかそこを……ま、塩梅ですけどね。全部説明してくのも違うし、でもお客様にある程度、日本のお客様に観てもらうっていうことを意識したときにどうなるかっていうことですよね。うん。

【山下】いや、でもそれはうまくいってるんじゃないかな。この前あの、あれなんでしたっけ? 俳優座で僕見せていただいた。

【小山】ああ、はい。

【山下】あれは誰の戯曲だったの?

【小山】あれはケストナー。

【山下】ケストナーか。

【小山】はい。

【山下】ケストナーってドイツの?

【小山】ドイツのですね。

【山下】あれも上演台本書かれてるんですか? すげー分かりやすくなったから。あれは成功だと思います。

【小山】ありがとうございます。
(※「雪の中の三人」劇団俳優座No.345 2021年3月公演 )
https://haiyuza.net/past-performances/2020year/yuki2021-3/

【山下】やっぱ、小山先生が上演台本書きながら翻訳劇を演出するっていうのは、ひとつのブランドになってきてるんじゃないかなって気がすごいしてるんですね。その時にやっぱりあの、翻訳劇の演出多いじゃないですか。それはやっぱり今までの(劇団)NLTも含めて、みんなそういうのを含めて、その中で上演するなら翻訳劇だよね、って話がやっぱりこう、話し合いの中から起きるんですか?

【小山】うーん。いただくお話に関しては、結果、翻訳劇が増えてしまっている。でも日本の作品ももちろん好きな作品もあるし。なので「翻訳劇がどうしてもやりたい」っていうわけではないんですけれども。

【山下】なるほど、なるほど。

【小山】ただまあ、作品を選んでいく中でどうしても自分がよりよく知っている世界観っていうと、ヨーロッパのものが多くなるっていうところありますね。

【山下】なるほどね。あの、お好きな作家さんとかっていうのは、イプセンとかもよくやられてますけど、どんな作家さんがお好きとか。

【小山】えーと、古典だと、チェーホフとかイプセンは好きですね。なんかすごい面白いセリフだなあ、と思うセリフがあったりするので、面白いなとは思います。

【山下】そうですよね。あとはね、小山さんはニール・サイモンもよくやられてますよね。

【小山】ニール・サイモン。でもね、「よく」でもない。この間、東宝さんで、はい。

【山下】あとなんかここにあったけど、テレンス・ラティガン? 

【小山】はい。

【山下】ラティガンも時々されるんですか?

【小山】そう。ラティガンもシリーズでやり始めたんですけど、1本で今止まってて次のやつがやれていないんです。

【山下】ラティガン、昔、鈴木裕美さんかな? 演出されたラティガン三部作良かったですね~!

【小山】ですよね。私もあれ2本観ました。

【山下】あれほんと良かったですよね。

【小山】良かったです。

【山下】で、ラティガンっていうともう、鈴木裕美演出を思い出すんですよ。本当に。

【小山】ああ~、ねえ。ラティガンをまた鈴木裕美さんは最近もやってらしたんじゃないかな?

【山下】あ、そうなんですね。

【小山】小川さんのたぶん翻訳で。

【山下】あ、小川絵梨子の。なるほど。いや、面白いですね。

【小山】ね。

【山下】あの、新しい……『チック』とかも含めて、本を探すのってどういうふうにされているんですか?

【小山】『チック』はドイツ文化センターの演劇文化の担当の方がいらして、その方と話してる中で、いろいろと今ドイツで上演されて流行っている作品をあげてくださる中で。

【山下】なるほど、そういう方がいらっしゃるんですね。

【小山】そうですね、はい。リサーチしていった中で出てきたものです。

【山下】最初はあの、日本語の翻訳なんか、それドイツ語のやつを見るんですよね?

【小山】はい。

【山下】あ、そうか。大変だなそれ。へえ。

【小山】『チック』はただね、14歳の男の子たちの本なので、すごい簡単なんです、ドイツ語が。

【山下】あ、そうなんですか? うわあ、僕は全く分からないけどすごいなんか。

【小山】そんなになんか難解なことが何もないので、うん。

【山下】へえ。あの、ドイツ演劇っていうものに対して、なんかこう、独特ななんか個性みたいなのがあるんですかね?

【小山】うん。

【山下】『チック』以外の。僕あんまりドイツ演劇詳しくないんですけど。

【小山】ドイツ演劇ってご覧に、ね……どうなんですか?

【山下】いや、もう本当に新野守広先生とかに聞かないと分からないんですけど。

【小山】そうですね。なんか難解なものが多いっていうイメージが私はあって、読んでもちょっとよく分からないなっていう作品が多い。

【山下】なんか、ドイツ演劇って公共劇場でやってることが多いじゃないですか。これ、ドラマツルグの人が必ずいて、ドラマツルグの人と演出家と作家とやるじゃないですか。そのドラマツルグの人は何をやってるんですか?

【小山】劇場とか作品によってだいぶ違うかもしれないんですけれども、カンパニーの中で、でもいちばん偉い人で。

【山下】いちばん偉い人なの?

【小山】はい、いちばん偉い人。で、作品をこう読むとか、こういう方向で作っていくということを最初に決める。最初にっていうか…。

【山下】クリエイティブ・ディレクターみたいな感じだね。

【小山】あ、そうかもしれないね。

【山下】CMでいうと。

【小山】クリエイティブ・ディレクター、はいはい。そうですね、まさにそうだと思います。

【山下】クリエイティブのリーダーみたいな人?

【小山】はい、そうですね。

【山下】それをドラマツルグって言うんですね。

【小山】そうですね。で、常に客観的に稽古場にいてくれる人なので。

【山下】ああ、そうですね、

【小山】演出家と俳優がなんかもめたりとかしても、作品をこういう方向に持っていきたいという立場から、そこを客観的に導いてくれる人。

【山下】まさにクリエイティブ・ディレクターだわ。

【小山】ああそうですか。

【山下】プロデューサーでもあるけどね。

【小山】うん。

【山下】お金とかはその人はやらないの?

【小山】やらないです。

【山下】じゃ、内容だけやるんだ。

【小山】うん。

【山下】楽しいね、それ。

【小山】そうなんですよ。

【山下】めちゃめちゃ楽しいじゃないですか。

【小山】この人はね、必要だと私は思ってて。

【山下】日本でも最近ね、少しずつですけど。

【小山】ただね、なんか厳密な意味……予算もそんなことにかけられないっていうのもありますけど、時代考証したりとか、いろいろこの作品の背景を調べて教えてくれたりする人がドラマツルグみたいに日本では割となりがちなんですけど、もうちょっと……だからクリエイティブ・ディレクターっていう方がいらっしゃるんですね、CMだと。

【山下】広告だとね。で、クリエイティブに関する表現? テレビCM、グラフィック、WEBとか全部、イベントも含めてこの方向で行くと。分かりやすい例でいうと、この前、『佐藤可士和展』ってありましたけど、佐藤可士和さんはクリエイティブ・ディレクターなわけですよ、アートディレクターで。だから、ユニクロのロゴはこれ、ユニクロは全部これでやる。で楽天の「R」っていうマークは全部レギュレーション持ってる。それを使わないとだめです、ってやるからブランドが統一するじゃないですか。たぶんそういうような人のような気がしますよね。今聞いて僕もそう思いました。

【小山】そう、でもだから必要だって思いますね、その人。

【山下】ドイツでは普通なんですね?

【小山】普通ですね。うん。

【山下】それは他の海外でもそうなんですか? ちょっと僕はあんまり詳しくない。

【小山】どうなんだろうな? ちょっと私も分からないです。あの、ドラマ……。

【山下】ドラマツルグっていうのはドイツ語?

【小山】ドイツ語からきてると聞いてます。

【山下】ああ、やっぱそうなんですね。なるほど。

【小山】ドイツの、たぶん。ただなんか、ベルギーでもドラマツルグがいるよっていう話は聞いて。自分の作品にはいるよって話は聞いたことがあるので、いることはあると思うんですけど、必ずいるかはちょっと分からないです。

【山下】なるほどね。いや、僕はドイツっていうと、もうピナ・バウシュくらいしか思いつかないですよ。公共のお金でやっていたじゃないですか。やっぱりその、各場所に劇団があって、劇場があって、それが紐づいてる。日本はあんまりないですよね。この前静岡にちょっと行ってきたんですけど。「SPAC」。宮城(聰)さんが芸術監督でおやりになっているところはたまたまそれができてるけど。あと、新潟の「Noism」とかくらいかなあ。

【小山】そうですね。

【山下】なんかそういうのができるとね。小山さんもだから公共劇場的なところにこれから関与していくと、なんか面白いんじゃないかなあっていう気もちょっとしてるんですけどね。本当に。アフターコロナかもしれませんけど。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

担当:木村 晴美
いつもご依頼をいただきありがとうございます。
『チック』という作品は存じ上げなかったので、紹介されているHPを拝見しました。
出演者5名で、複数の役をこなす演出もあり、劇場からは観客の笑い声や、深く言葉を聞き入る様子などが見られ、舞台と観客と一緒の気持ちになって楽しめる作品だと感じました。小山さんはじめ、出演者の方の動画コメントも拝見しました。14歳は日本でも中二病と言われる多感な年頃で、海外でも同じような感覚の年齢、そして誰もが共感できる気持ちを描いていて、というお話に、私もその頃の気持ちを思い出して感じてみたいと思いました。コロナが終息し、みんなが舞台を楽しめる日が早く来ることを願います。

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