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【PODCAST書き起し】落語本について語る特別編、落語を扱った「マンガ」を語る。(和田尚久:放送作家&三浦知之)

【PODCAST書き起し】落語本について語る特別編、落語を扱った「マンガ」を語る。(和田尚久:放送作家&三浦知之)

【三浦】閑話休題ではないですけど、漫画を1冊持ってきたんですけど、これちょっと書いていない本で、『寄席芸人伝』って、これは古谷三敏さん、1巻から11巻まであるんですけれど、もちろん全部架空な話なんですけれども、おそらく実際にこういう人がいたであろう、というのを前提に描いている落語家の話で、これはとてもおもしろいですよね。

 

【和田】いや、これはものすごく名著だと思っています。

 

【三浦】私は、実は落語本はあまり読んではいないんですけど、この『寄席芸人伝』は、1巻から11巻まで何度となく読み返して、実は落語がとても好きになるきっかけになった漫画ですね。なので、これは非常におすすめしたいと同時に、今でもたまに読み返します。

この中に入っているうそか本当かわからないようなエピソードが、全部いいですよね。

 

【和田】そうですね。だから明らかにモデルがいて、自分が廓通いして体を悪くした初代柳家小せんっていう人がいるんだけど、目が不自由になってしまった方なんですけど、そういうモデルにしたような話も入っていますしね。

 

【三浦】そうですよね。あと生意気な落語家で、私はうまいんでみんなやっかみますけどって、当然ね、家元(立川談志)の話だったりもするんですよね。もちろん全然名前は違う人で出ているんですけどね。

 

【和田】そうですね。時代の設定もおもしろくて、過去なんだけれどもいろいろなネタを持ってきて、ぼんやりした過去の時代に当てはめているっていうような……。

 

【三浦】そうですね。いい風景が描かれていますよね。

 

【和田】そうですね。あと、この古谷三敏さんて『ダメおやじ』とか描いていた人なので、漫画家としても、すごい腕のある人なのでちょっとね、ブラックに見えないブラックな部分とかもあるんですよ。

 

【三浦】それはありますね。

 

【和田】たとえば、あれは誰の話だっけな、円生さんとか彦六さんの話だったかもしれないけど、場末の寄席に行くと、前座だけやっているおじいさん、みたいな人がいて、若いときに2・3年やるんじゃなくて、ずっとそこの寄席にいて、太鼓も打てば幕の上げ下げもすれば、座布団も返したりっていう、前座専門で、年を取っている人がいますっていうのは、実際に昔はいたらしいんですよね。こういう本に出てくるんだけど、それをモデルにした本が、話があって、一人で幕を上げつつ太鼓を打ちつつ……

 

【三浦】足で太鼓をたたいて笛を吹いて、片手で幕をやっていたっていう。

 

【和田】そう、それがものすごいなんか、ちょっとそのコマがグロなんですよ。そのコマが最後のコマなんだけど、

 

【三浦】そうでしたね。

 

【和田】あれがね、ちょっと怖い感じがするんですよ。

 

【三浦】ほかの前座が帰ってきて、プロの前座だっていうふうなコメントで終わるっていう。

 

【和田】そうそう。こういうすごい人だよっていう、ことを言わんとしているんだが、ちょっと怖いイメージがあるんですね。

それからあと、志ん生さんと円生さんが戦時中に満州に行って、それで大変な苦労をして芸をつかんだっていう話があるんだけど、それを持ってきて、大陸で、シベリアとかで放浪しているみたいな、放浪というか戻るのに苦労しているというような。

 

【三浦】シベリアから戻るときに、いくらありゃ乗せてくれるんだっていうのがあって、金がなくて一人分しか乗れないんですよね、若い弟子にその師匠は、おれは酒があればいいからここに残るわ、おまえ行けって、無理やりトラックに乗っけて行かせる、帰すっていう。

 

【和田】だから、現実をちょっと改作していますよね。

 

【三浦】そうですよね。それで酒ばっか飲んでいるしようもない師匠なんだけれども、いよいよソ連が攻めてくるからっていう日の前の夜に、火の出るような高座をするという、するとシベリアの大地の小屋の中で、昭和の日本が現出するという、そういう話があったり。

その改作している創作能力もすごいですよね。

 

【和田】すごいと思いますね。取り込んで本当に落語のことを理解されている人なんだな、という感じが僕はしますね。

古谷三敏さん、今はあのバーのやつ、『レモン・ハート』とか描いているけど、やっぱりダメおやじとか、よく言われるけど、いろいろな編集者回顧とかにも出てくるけど、実は『天才バカボン』て、全体は赤塚不二夫作なんだけど、統括していたのは古谷さんですからね。現場統括というか、本当に進めていたのは古谷さんだと言われているので、あのセンスが入っているので、ちょっとぞくっとするようなね。これはすごくいいと思います。

僕はそれでね、落語がらみのでいうと、まず藤子不二雄のFさんが、やっぱり落語がものすごくお好きだったと思います。落語ネタがけっこう使われています。

 

【三浦】漫画のなかで?

 

【和田】はい。『ドラえもん』のなかで、のび太たちがみんなで使っている空き家があって、その空き家で遊んでいるわけですよ。でも本当のオーナーというのがいて、何かに有効活用しようとするわけ。だけどそれをされちゃうと困るわけですよ、普段の自分たちの遊び場だから。どうしようかって考えて、ドラえもんが幽霊の種をくれるんですよ。それに水をかけると幽霊が、ふわって出てくるんですよ。これを利用して来る人をおどかそうぜって。

 

【三浦】それは、あれじゃないですか。

 

【和田】『お化け長屋』、お化け長屋と同じ筋なんですよね。

 

【三浦】『お化け長屋』ですよね。ふっふっふ、おもしろいですよね。

 

【和田】それから、『21エモン』とかそういう漫画に、未来漫画なんですよ、21世紀に、あるつぶれそうなホテルの子どもがいて、それが21エモンという主人公なんだけど、安いロケットに乗って宇宙を旅する話なんですよ。そのときに連れていくのが、ゴンスケっていうロボットで、ゴンスケに、おれ、汗をかいたから顔を拭きたいなって言うと、雑巾とかを持ってきちゃうんですよね。それで、おまえ、これ雑巾じゃないかって言うと、これで顔を拭けねえことはねえだ、みたいなことを言って、まあ、しょうがないな、みたいな感じで。そのゴンスケっていうのは、落語の権助のキャラを持ってきているわけで、その悪くないんだけど、デリカシーがあまりなくて、平気でたとえば、雑巾を持ってきて、これで顔を拭きなせい、みたいなことを言ったりとかするっていうようなキャラになっているわけ。

それ僕は、小さいとき先に読んでいたんだけど、後で落語を聞いて、落語の下男の権助を持ってきてるんだって。だけど、ある部分では、畑を耕すみたいな部分では、ものすごくパワーがあって役に立つところもあるわけ。てなことで、

 

【三浦】漫画は赤塚不二夫の『おそ松くん』あたりを読んでいると、死神をそのまま持ってきたのもあったし、死神一号・二号・三号・四号って。それでプロレスラーかな、ぼこぼこにやられて死にそうになるところを、その死神四号がろうそくを伸ばして助けちゃうんですけど、すると死神の元締めが、もうおまえは死神をやっている資格がないから、人間世界にいて暮らせ、みたいなことを言うんですよね。たまにおそ松くんも人情話的なものがあったりするので。

 

【和田】それとか、魔夜峰央さん。魔夜峰央が『パタリロ!』で死神みたいなパターンで、落語ネタを持ってきている話があるんですよ。たしかそれだけで、それをまとめた1冊ってあったんじゃなかったかな。魔夜峰央さんも多分、落語をすごく理解されていると思います。

そうね、落語家のセンスと漫画家のセンスって、すごく合っていますよ。指し示しているようなところが一緒だしね。

 

【三浦】そうですよね。やっぱり、わかりやすくないといけないんですものね。

 

【和田】そうですね。あと、いわゆる写実とちょっと違ったセンスがあるというか。

 

【三浦】そうですね。たしかにそこは、そのままじゃないっていうことですよね。

 

【和田】そうですね。変換されている世界っていうことですよね。そうだな……。

 

【三浦】これ、たまたま持ってきたのが第8巻なんですけど、これは「質入れ遊喬」っていう上下で2回に分かれているんですけど、すごい廓話が得意な噺家がいて、けっきょく遊び人なんですよね。遊び人で話はすごいうまいんですけど、借金がすごいんですよ、それで遊喬。それでどうしたかっていうと、自分が得意な廓話を質屋に入れて、これまた遊び人の大店の旦那が金を払って受け出すっていう、それをずっと続けているうちに、仲良くなりますよね、それでもう、吉原で遊び続けて、けっきょくその大店の亭主もすっからかんになって、2人で願人坊主の旅に出るっていう。最後は寺のところで亡くなるっていう、その弟弟子の追憶から始まるんですけど。なかなかすごい話ですよね。

 

【和田】それはだから、大阪の初代桂文枝っていう人が、自分が得意にしていた『三十石』っていう落語があって、それを金借りたいんで質に入れますっていう話があったんですよ。それを持ってきているんです。そしたら、質屋のほうも物体がないんだけど、文枝さんが三十石を質入れされるのなら、お受けしますって、お金を貸してあげたっていう話があるんですよ。そういう話ですね。たしかに、その話も、三十石を質入れしました、ということは、普段の高座でやらないっていうことですよね。そしたら誰かが、お客さんが現れて、文枝、わしが出したるわって、お金払って出してくれて、そこからまた、文枝さんやるようになったという話があるんですよ。

 

【三浦】なるほど。今度は、また入れちゃわないんですね。

 

【和田】そう、そこから先は、この漫画の脚色でしょうね。

 

【三浦】最初、その遊喬っていうのは、廓ネタを全部質屋に入れて、全然違う話の枕を振ったときに、お客はその廓話を期待しているのに、なんでやらないの? って聞いたら、質屋に入れてできなくなっちゃったんですよって言うと、お客がみんな、遊喬の廓ネタが聞けないんだったら今日寄席に来ている意味がないから、おれいくら出すからって、みんながわーわー言ってて、そしたら後ろから、その大旦那が、私が全部受け出しましょうっていう展開になるんですよね。でも元は、その『三十石』の話ですね。でも、よくちゃんと調べていますよね。

 

【和田】そうですね。多分この古谷さんがいいのは、おそらくこれのために調べているんじゃないんですよ。それの蓄積があるわけですよ。

 

【三浦】なるほど。それで、その蓄積を基に一挙にこれを描いたってことですかね。

 

【和田】多分そうだと思いますよ。これのために調べた部分もあるだろうけど、それだけだと多分そうならない感じがしていて。

僕はね、井上ひさしさんの『円生と志ん生』という芝居を見たときに、あれはまさに、この漫画にも出てくる満州に2人が行っている時代、その1年ぐらいを背景にした話なんだけど、正直言って、井上さんはこのためにいろいろ資料を集めて、それを使ったなっていう感じが、僕はしたの。だから、落語は嫌いじゃないだろうけど、志ん生のこういうのがあった、円生のこうだったっていうのを覚えていて戯曲にした感じは、僕はしなかったんですよ。

 

【三浦】なるほど。それを書くために集めて、

 

【和田】集めた。それで、これは『寄席育ち』から取ったな、これは志ん生さんのこっから取ったなっていうのが、だいたいわかりました。それを合わせた感じがしています。

 

【三浦】なるほど。古谷さんの場合は、そうじゃないっていうことですね。

 

【和田】……のような。体質的に、もう体に入っているような感じが、僕はしますね。

 

【三浦】この『寄席芸人伝』は小学館ですかね。とても読みやすいし……。

 

【和田】小学館ですね。いろいろなバージョンがありますからね。たしかコンビニ本みたいなのもあるんですよね。いろいろな方法で読めると思います。

 

【三浦】そうですよね。私はこの単行本のシリーズで11巻まで一応買って、ただ、今しまった所がどこかわからなくなっちゃって欠番しているので、もう1回そろえようかと思っているようなところです。これは普通に手に入りますよね。

 

【和田】入りますね。

 

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/

 

担当:N.Yamabe_BW

ご依頼いただき、ありがとうございました。

私も『ドラえもん』や『おそ松くん』を見て育った世代です。

日本のアニメ作品も、落語という伝統芸能が大きく影響しているのですね。

大変興味深く拝聴しました。

今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

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