見出し画像

【PODCAST書き起こし】オフィスコットーネの綿貫 凜さんへ演劇人生について聞いてみた(全7回)その6 大竹野正典作品について(2)

【PODCAST書き起こし】オフィスコットーネの綿貫 凜さんへ演劇人生について聞いてみた(全7回)その6 大竹野正典作品について(2)

【山下】大竹野さんの戯曲って、何本ぐらいあるんですか?

【綿貫】えーっと、戯曲集に入っているのは、まあ30本ぐらいはありますけど、それ以外。

【山下】それ以外にもあるんですか?

【綿貫】戯曲集に載っていないものも。

【山下】戯曲、あるんですか?

【綿貫】あります。だって元々、「犬の事ム所」というところからで、21(歳)ぐらいで大竹野さんが旗揚げしていますから。

【山下】すごい若い時に旗揚げされたんですね。

【綿貫】そうです。そこから亡くなるまで書き続けていますから。

【山下】はいはいはい。

【綿貫】晩年、『山の声』を書くところあたりが、ちょっとスランプで。

【山下】だったらしいですね。

【綿貫】ちょっと筆を折っていた時期があったんですけど。

【山下】それはなんか読みました。

【綿貫】その時に山登りにハマって。

【山下】ですよね。

【綿貫】加藤文太郎さんと出会って書くという。それはたぶん、大竹野物語の『埒もなく汚れなく』を見ていただければ分かると思うんですけれども。そういう流れで、本当に劇的なんですよね。人生というか、大竹野さん自体の人生も、やがて後々、作品を上演していって、「なぜこの人はこれを書こうとしたのか?」とか。そんなに歳も、10歳ぐらいしか離れていないぐらい。割と影響を受けているものが同じなのと。

【山下】そうなんですね。

【綿貫】興味を持っている題材が同じなのと、割とその混迷している感じもよく分かる。若い時はやっぱり、書きたいということだけで書けるんですけど。
途中、作家も、なかなか筆が進まなくなる時期とか、絶対どなたもあると思うんですよ。

【山下】ありますよね。変化する時にね。

【綿貫】つまり、体験したこと以外は、だんだん書けなくなってくるとか。

【山下】分かります。

【綿貫】作風をガラッと変えるとか。

【山下】変える時とかね。

【綿貫】そういう、スランプじゃないんですけど、誰でも。

【山下】いえいえ、変化する時期だと思います。

【綿貫】私がちょうど迷走していた時もそうだったんですけど。

【山下】それと同じだと思います。

【綿貫】何を創りたいかすらも、もう分からなくなっている状態というのは、誰しもあると思うんですけど。たぶん大竹野さんもそういうことがあって、それが作品の遍歴にすごくよく出てるんですね。

【山下】そうですか。そうすると、編年体で読んでいくと、そういうのが感じられると。なるほどね。

【綿貫】そうですね。で、「犬の事ム所」から、大竹野さんも劇団をやって、そこで挫折して、「もう、ちょっと劇団はイヤだ」と言って、プロデュースで「くじら企画」というのを作って、そこで、「好きな人としかもうやりたくない」と言ってやり始めた。で、その中で書かれていたモノとかの片鱗とか、そういうことがすごく反映されていたりとか。あと、着眼点がやっぱり面白いというか。

【山下】そうですよね。

【綿貫】同じ事件の題材を扱っているんですけど、ちょっと他の作家とは違う着眼点、すごく寄り添うというか、実際の犯罪者に対して、断罪もしないし、擁護もしないし、常に寄り添っていて、痛みを感じながら書いている感じがして。優しい人なんだと思うんですよ。大竹野さんは、とっても優しい気持ちの方で。

【山下】分かります。

【綿貫】そういう自分の中の矛盾みたいな、人間ってあるじゃないですか。

【山下】あります。聖なるものと邪悪なるものと共存していますから、人間。

【綿貫】そうですね。だから、たとえば本だけ書いて生活していけたらとか。大竹野さんはサラリーマンでしたから、ちゃんとお仕事を持たれていて、大竹野さんは、そういう普通の人の目線がなくなったら、自分は本が書けなくなると。つまり、サラリーマンで毎日働いているという中で、仕事が終わったあとに執筆していたんですけど。そういう、本書きに専念したら、とか、要するに、本を依頼されてきちんとギャラをもらえて、という道もあったと思うんですよ。誰しもそっちにいくとか。あとは、なにか生活の基盤を整えるという意味では、どこかへ教えに行ったりとか。家族もいますし、大黒柱としては稼がないといけないと思うので、そういうこともあったと思うんですけど。どうしてもやはり、演劇を創るということに、大竹野さんは、お金に換算したくないというか、それだと自分はできなくなると思うというところがすごく強くて。私自体もそういうことが、迷走している時期にあって。ヒットするものを創るのは意外と簡単で。だから、お客を入れるということを念頭に考えながら、芝居を創らないと。まあ経営もしていけないし、みなさんにきちんと支払いができないということにぶち当たった時に、なんかすごく自分を壊すことになるから、やっぱり苦しんでますよね。まあみなさん、たぶんどなたも。バランスがいい方は大丈夫だと思うんです。シフトできると思うんですよ、バランスがいい方は。ただ、私なんかは非常にバランスが悪いので、そこですごくクラッシュしちゃうというか、やっぱりその矛盾みたいなものに。

【山下】受け入れきれないと。

【綿貫】自分が潰されちゃいそうになって。大竹野さんもその矛盾を抱えながら、ずっと晩年は過ごしていらしたと思うんですよね。

【山下】たぶん、芸術をやっていくという行為と、自分の個が一体となっているんだと思うんですね。

【綿貫】そうですね。

【山下】それは綿貫さんもそうだし、大竹野さんもそう。で、それが分離できると、それは幸せだけど、そんな人なかなか出てこないですよ。

【綿貫】そうですね。まあでもみなさん、割とちゃんとやられている人も多いなとは思いますけどね。

【山下】それはある種の、なんらかの形で、ちょっとだけ分けて考えていますよ。

【綿貫】そうですね。大竹野さんからすごく感じたのは、やっぱり生きるということが、演劇を創るということにイコールなんだなと思った時に。

【山下】まさにそれは純粋芸術の話ですよね。

【綿貫】自分も何のために創るのかと考えた時に、やっぱりそこしかもうないというか、そこからはもう逃げられないんだなというふうに、覚悟を決めたというか。

【山下】すごいですよね。

【綿貫】それはやっぱり、大竹野さんの影響は強かったとは思いますね。

【山下】でも僕達はその時期に、その作品に出会えて本当に良かったと思います。

【綿貫】良かったです。

【山下】で、なんでこんなに深いことが、2人の芝居で、こんな狭いところでできているんだと思って。
で、いろいろ調べて、最後、海で亡くなられたんですね、山じゃなくて。

【綿貫】そうなんですよ。それがもうホントにあれなんですけど。

【山下】『山の声』は山登りだけど、海で。

【綿貫】海の事故で亡くなられたんですよ。だから急だったんですけど。

【山下】ねえ。突然亡くなって、事故で。

【綿貫】毎年毎年。

【山下】海に行かれてたんですよね。

【綿貫】海に「くじら企画」で、自主参加なんですけど。

【山下】あ、「くじら企画」の何か?

【綿貫】メンバー、役者さんとかその家族で、海の日に毎年毎年キャンプに。

【山下】そういうのがあったんだ。

【綿貫】琴引浜というところに毎年行ってたんですよ。自主参加なので、行ける方は自由にという。

【山下】関西の海ですか?

【綿貫】そうです、そうです。

【山下】へえ、琴引浜。

【綿貫】京都の日本海側になるんですけど。

【山下】舞鶴とかあっちのほうか。

【綿貫】そうです。そこに毎年行っていらして、その年も行っていらして。そんなに深い海ではない、遠浅の海なんですけれども、たまたまその日ちょっと。

【山下】荒れてた、ちょっと。

【綿貫】荒れてたというか、台風が近づいていて、そこで溺れてしまった。

【山下】なるほどね。

【綿貫】でもそんなことになるとは、誰も。

【山下】ですよねえ。

【綿貫】予測をしていなかったので、本人が一番ビックリしたと思うんですけどね。

【山下】ビックリしたけれども、その時には意識がなかったという。

【綿貫】「あれ? 俺、どこにいるの?」というぐらいに、ご本人が一番ビックリされたと思うんですけど。

【山下】あれ、おいくつぐらいで亡くなられたんですか?

【綿貫】48歳です。

【山下】ああそう。50(歳)いく前か。

【綿貫】そうです。だから、偶然ですけど、『山の声』が遺作になってしまったということなんですよね。なんか、もうホントに、さっきの話じゃないですけど、「山じゃないんかい!」っていう(笑)。

【山下】僕もね、それはね、それを読んで、へえと思ったんですよ。

【綿貫】そうなんですよね。
まあ、戯曲を上演するにあたって、最初は戯曲だけ読んで知っていたんですけど、そこにエッセイが載っていたり、あと、1に挟まっている小冊子に、『あの日のできごと』というので、大竹野さんが亡くなられた日のことを、その現場にいた人とか、いなかった人とかが、みんなその思いを書いているやつを読んだりとか。

【山下】追悼のなにかモノがあるんですね。

【綿貫】まあ他の本とか、あと大竹野さんのチラシに書いてある文章とかを、どんどん読み進めていったら、なんかものすごく「この人に会いたいな」という思いが湧いて。でも会えないですよね、もう亡くなってしまっているので。
まあ会えないので、せめて知っている方に、どういう方だったのか。まあ想像はいろいろできるんですけど、どういう方だったのかなと思って、まあ一番は奥さんですけど、奥さんにお話を聞いたりとかはしていたんですね。まあもちろん、奥さんは必ず東京にも観に来てくださっていたので。

【山下】あ、そうなんですか。

【綿貫】そうです。1回目の『山の声』から全部。

【山下】じゃあ、綿貫さんが発表している大竹野さんのやつは全部。

【綿貫】全部。他の地方のやつも全部ご覧になっています。

【山下】地方も? 大阪から?

【綿貫】全部です。

【山下】すごいですねえ!

【綿貫】すごいです。

【山下】ははー!

【綿貫】すごいです。

【山下】いやーすごい!
今、何本ぐらいされているんですか? コットーネで、大竹野さんの戯曲。

【綿貫】戯曲で?

【山下】10本ぐらい?

【綿貫】10本ぐらいだと思いますねえ。

【山下】じゃあまだまだ。

【綿貫】でも、『山の声』は相当やっているので、いろんなバージョンを。ホントに『山の声』は。

【山下】『山の声』のバージョンだけでもすごいですよね。

【綿貫】バージョンだけでも、2018年、19年、20年、20年の3月が最後なんですけど、そこからはコロナ以降なのでやっていないんですけど。ホントに相当好きなんだなと思うぐらいやっていますよね。

【山下】あれはもうレギュラーでやっていいと思う。

【綿貫】そうですね。私としては、ホントに『山の声』を全世界に発信していきたいなという野望が。

【山下】海外でぜひやってくださいよ!

【綿貫】ええ。

【山下】なんかねえ、文化庁かなんかにお金出してもらって(笑)。

【綿貫】そうですね(笑)。まず翻訳をしないといけないです、はい。

【山下】あ、そうか。翻訳をしないとね。

【谷】結構、長台詞ですからね。大変ですよね。

【綿貫】そうなんですよ。

【谷】役者さんも大変ですよね。

【綿貫】そうなんです。ただ、やっぱりすごく普遍的な物語なので。で、山登りって、割と演劇界でやっている人多いんですよね。

【山下】そうなんですか。

【綿貫】登山部みたいな。

【谷】ふーん。

【綿貫】なんかハマるんです。

【山下】登山ってね、内向的な人が割と多いんですよ。

【綿貫】登山って、たぶん1人でも登れるんですけど。

【山下】そう、割と1人でも登る。

【綿貫】何人かでも登れるんですけど。

【山下】もちろんもちろん。登れます。

【綿貫】ただ、なんていうんですかね、グループで登ったとしても、あんまり足並みをそろえなくてもいいというか。

【山下】まあ、そうですね。

【綿貫】割とできるし、単独でもできるし、という。で、加藤文太郎さんというのが、足が特別速い人だったので、なぜ単独行しかできなかったかというと。

【山下】他がついていけなかったんでしょ?

【綿貫】ついていけなかったという、体力もすごいあった方で。

【山下】すごい歩荷(ぼっか)もね、いっぱい荷物持って行ってたから。

【綿貫】そうなんです。で、彼自体が、やっぱり、私、加藤文太郎記念館にも行ったんですけど。

【山下】へえ。どこにあるんですか? 関西ですよね?

【綿貫】兵庫県にあるんです。
(※ 669-6702 兵庫県美方郡新温泉町浜坂842−2)

【山下】今度行ってみます、じゃあ。

【綿貫】その加藤文太郎記念館。もちろん育った家とかあって、そこにも行ったんですよ。もちろん、大竹野さんも行ってるんですけど。そこでいろいろ改めて見て。
加藤文太郎さんも普通のサラリーマンで、日曜日にしか登山をしなかったんですよ。元々趣味で。

【山下】昔は、土曜日は半ドンだったから。

【綿貫】そうです。元々趣味で、半ドンの時は裏山に登るとかしていたんですけど。それがなんで、こんなふうにどんどん昭和の単独行のトップみたいに言われるかというと、その当時、昭和初期なんて、登山グッズなんかないんですよね、ほとんど、今みたいに。

【山下】ホント、今ものすごい進化しているから。

【綿貫】進化して、簡単で、楽で、火も起こせる、いろんなものが軽くなっている。その、ない時代に、彼は自分の足と感覚だけで、オリジナルのグッズを工夫していくんですよ。それがその当時の登山家達に、とっても役に立ったんですね。

【山下】木綿じゃなくて羊毛を着るとかですね。そういうのがあって。

【綿貫】ええ。その単独行で、食糧をどう保存して持っていかなきゃいけないかだの、餅を持って行ったらカチンコチンとか、そういう話も全部本当の話だし。
そういうこととかも分かって、ああ! と思ったのと、その登山というのが、演劇を創るという行為にすごく似ているなあと思ったんですね。別に、誰にも頼まれたわけではないし、でも、創り続けるのがやめられないのと、どんどん高い山に登りたくなるっていう、どんどん難しい作品にトライしたくなる、頼まれたわけではないんだけどっていう。

【山下】逆に谷さんとかは、今どんどん深い沼に、演劇のに、ハマってる人ですよね。もう今月15本観ているんです。

【綿貫】すごいですね。

【谷】ヤバイですよ、ホントに。

【山下】もうね、沼にここまできてます。

【綿貫】きてますねえ。でも、似てるんですよね、すごく。

【山下】似てる似てる。

【谷】たしかに、山登りと似ているって面白いなあ。

【綿貫】似てるんですよね。最初に上演した時に、パンフレットにも書いているんですけど、「そこに山があるから登る」みたいなことを普通に言うんですけど、結局、「なぜじゃあ私は演劇を創っているのか」というところの問いと、なんかすごくぶつかったんですよね。

【山下】哲学的ですね。すごいなあ、ホントに。

【綿貫】哲学なんですね、なんかねえ。ホントに、あの時期にあの本、必然なんですかねえ。

【山下】そうですね。たぶん、キャリアとか年齢とかその時の状況とかを含めて、たまたま巡り合って出会ったから、それがバン! と爆発したんでしょうね、いい意味で。

【綿貫】爆発したんですかね、いい意味で。

【山下】プラスの。だからそこはリスク背負ってやっても、やっちゃおう! というふうなところもあったと思います、たぶん。その江古田でね、感触は見ながらだったとは思いますけど。まあすごい稀代なるプロデューサーでもあるなと。明治時代のプロデューサーって、そういう人が多かったんですよ、なんとなく。

【綿貫】あ、そうですか。明治時代ですか(笑)。

【山下】この前、小林一三の評伝を読んでいたんだけれど、阪急電車のなんとか、もちろん宝塚を創った人。あの人、宝塚で歌劇団をやったら当たるんじゃないかって、思いつきでやっているから。

【綿貫】ああ、それであんな、こんな……。

【山下】それで当たったから。最初、少女だけじゃなかったらしいんですよ。

【綿貫】ええ、ええ。

【山下】で、やっていたというのを読んで、「あー似てるな」と。明治時代のすごい実業家みたいな感じですよ。

【綿貫】あ、でも、私はちょっと実業家というか、経済のほうとはあんまり。

【山下】いやいや、そんなことないですよ。

【綿貫】まあ大竹野さんとそこは同じだろうと思うんですけど。

【山下】なるほどね。芸術家だ、じゃあ。

【綿貫】経済に弱い、そろばん勘定が弱いという。そこがまあ、大竹野さんも結構苦しんでいたところだったと思いますね。

【山下】資本主義の社会だとね。なかなか難しいところがありますけど。

【綿貫】そうですね。周りの人は、いろいろ言ってたみたいなんですけど。ちょっとその辺の苦悩も、後々、垣間見れましたね。

【山下】僕はね。『山の声』のあとに観せていただいたやつで、すごく印象に残ったのは、『夜、ナク、鳥』というのですね。看護師の保険金殺人で。

【谷】それ、前じゃないですか? 『夜、ナク、鳥』……。

【綿貫】あ、『山の声』のあとですね。

【谷】あとでしたか。

【綿貫】『山の声』が10月で、その翌年の2月に『夜、ナク、鳥』。

【山下】そうです。たぶんそうじゃないかな。
そこで観させてもらってですね。なんか殺すシーンがあるじゃないですか、保険金で。あれがなんか、さっき、犯罪者に寄り添うじゃないけど、こういうことをやるのが必然でそうなってしまったのかなと。あと、看護師同士の、女性だけの社会の中の上下関係、それは連合赤軍とかに近いようなところもあるんだけど。

【綿貫】そうですね、うん。

【山下】そこを掘り起こしていって。
で、あの4人の女優さんを、よくキャスティングできましたね! 

【綿貫】いやー、ホントに。

【山下】あれは奇跡的な、ホントに。松本紀保さん、安藤玉恵さん、高橋由美子さんと? あともう1人誰だったかな?

【綿貫】松永玲子さん。

【山下】あ、松永玲子さん!

【綿貫】松永さんは、もう一番最初に、旅先のホテルにまで台本を送って、「実はこれをやりたいんだけど、この役どうかな?」みたいなことで、「いつやれるか分からないけどどうかな?」みたいなことを最初に持ちかけていたんですよね。その時はあまり具体的じゃなくて、この本をとにかくやるために、このヨシダという役をぜひやってもらえないか? ちょっと読んでみて、感想をまず聞かせてほしいという話からですね。

【山下】やっぱり、そういうふうにして、俳優さんのキャスティングを口説いていくという感じ?

【綿貫】そうですね。私、同時進行がどうしてもできなくて。

【山下】すごく丁寧でいいと思います。

【綿貫】1人決まったら、次のもう1人の役で。

【山下】いわゆるピンポイントですよね?

【綿貫】そうですね。

【山下】だから、僕のこのゲストを呼ぶのと似てるわ。「次誰にしよう?」って言ってからやってるっていう。

【綿貫】そうですね。同時に10人出ていたら、バラバラに進捗を進めるということができなくて。やっぱりひとつひとつの役が、この人になるから、じゃあこの人は誰がやる、というふうにしか、どうしても考えられなくて。細部に渡ってまで、ちょっとこだわりが強いので。演劇ってたぶん、映像とちょっと違うのは、さっき言ったみたいに、芝居だけ観てキャスティングしてもなかなか難しいところがあって。演劇観とかいろんな意味で。あと、同じ空間で40日なりいろんなことを過ごしていくという意味で、やっぱり人間としてちゃんと向き合えるかとか、いろんなことが関わってくるので、そこまでお会いして見極められるというのはなかなか難しいとは思うんですけど、ある程度そのことも、一緒にモノを創れる人かどうかということはやっぱり。

【山下】一緒の船に乗ってください、ということですよね。

【綿貫】そうですね。その船が途中で沈むかもしれないので。

【山下】でも、乗ってくれるということですもんね。

【綿貫】そうですね。沈んでもいいかなあ?って。

【山下】(笑)

【綿貫】一応言っておかないと。沈むかもしれないけど頑張るよ、って。

【山下】それはそうですよね。

【綿貫】そこまで覚悟を決めてもらわないと、なかなか。商業ではないので。

【山下】分かります。だから、すごい招へいが丁寧だなと思って。

【綿貫】ああ、でもなんか、すごく……。

【山下】1人ずつ、これどうですか? この役どうですか? って言ってやっていらっしゃるんですよね。

【綿貫】そうなんです。時間がかかるんですよ。

【山下】これは逆に、我々から見ると頭が下がります。

【綿貫】ああ、そうですか(笑)。

【山下】素晴らしいキャスティングだと。

【綿貫】でも、想像して、全部ハマったと思ってやっても、一度も想像通りにできたことはないです、やっぱり。

【山下】そうですか。あの4人を見て、これはもうナイスなキャスティングで、これ以上のやつは集められないんじゃないかなと思いましたけどね。

【綿貫】なんかホントに怖い。

【山下】あれ、たまたまですか?

【綿貫】いやいやいやいや! ちゃんと考えて。

【男性】さすがじゃないですか!

【綿貫】やっぱりそれぞれが主演女優でないと、というところがあって。

【山下】そうですよねえ。ホント、面白かった、だからあれ。

【綿貫】でも、やっぱり普通の人がやった犯罪なので、その日常性みたいな。

【山下】もちろんね、普通の。

【綿貫】狂気というよりは、日常の先にいったらそうなったという。

【山下】でも、日常が実は少し歪むと、ああなってしまうという事件って起こるんですよね。

【綿貫】そうなんですよ。誰しもがそこのタガを。

【山下】だからひとごとじゃなくなるんですよ。

【綿貫】そうなんですよ。

【山下】それをね、すごく強く感じさせるの、あの作品は。

【綿貫】そうですね。それは本当にそうだと思いますし、「くじら企画」でやった時なんかも。

【山下】あ、「くじら企画」。

【綿貫】あ、本家本元の大竹野さんが演出した時も、やっぱりそういうすっごい迫るものがあったというふうに聞いてますし。
ほかにももう1本、『海のホタル』という、保険金を自分の子どもにかけて、愛人にそそのかされて、自分の子どもに。

【山下】へえ、面白そう。

【綿貫】最初は旦那なんですけど、それで見つからなかったので、次に子どもに手をかけるんですけど。という『海のホタル』という作品も、2回やっているんですけど。それも本当に、どう考えてもつじつまが、というか、どうして彼女がそんなふうな考えに至るかというのが、もう分からないんですよね、ホントに。なんでそんな短絡的な、「あ、そうか。じゃ、子どもを殺すしかないんだ」というふうになんで思えたのかということは、本当に分からないんですけど。それは、俳優さんの体を通してやってみると、その矛盾みたいなものが、逆に人間ってこういうことなんだなということが分かる。

【山下】身体を通すと、なんか感じますよね。だから、理屈じゃなくなっていく感じはありますよね。

【綿貫】理屈じゃないんですよね。

【山下】それは演劇のいいところですよね。

【綿貫】そうなんですよね。生理的なものが勝っていくとか。

【山下】そう。絶対ある、それは。

【綿貫】そう。うちでは2回、清水直子さんという俳優座の女優さんがやっているんですけど、ホントに稽古場で、もう震えがくるぐらい。

【山下】もう鳥肌が立つぐらい。

【綿貫】怖いし、危機迫る状態になるわけですよ、俳優さんが。

【山下】なります。

【綿貫】それだけのすごい力強い作品なんですけど。清水さんもかなり体に無理が。

【山下】ダメージが。

【綿貫】ダメージが。

【谷】憑依しちゃうわけですよね。

【山下】へとへとですもんね、ホントに。

【綿貫】へとへとになっちゃうんですよ。


テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)

担当:藤本悠野
このたびは、ご依頼いただき、ありがとうございました。
普段、映画やドラマなど、映像作品を観ることが多く、演劇はほとんど観たことがありませんでしたので、とても興味深く聞かせていただきました。
また、作家さんの創作に向かわれるマインドや作品の裏側など、なかなか触れることのできない世界も覗かせていただき、貴重な機会となりました。
演劇もぜひ観に行ってみたいと思います!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?