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【PODCAST書き起こし】新作落語って何だろう!和田尚久さん三浦知之さんと語ってみた。(全4回)その4

【PODCAST書き起こし】新作落語って何だろう!和田尚久さん三浦知之さんと語ってみた。(全4回)その4

【和田】いわゆる純粋な新作と言っていいかどうか分からないんですけれども、白鳥さんがやる『メルヘンもう半分』っていう話があるんですよ。

【三浦】それ面白そう。

【和田】あれは、僕はすごく好きです。それで『もう半分』って話ってご存じですか?

【三浦】知ってます。ちょっと怖い話じゃないですか。

【和田】そうそう。居酒屋に忘れていったお財布を「ないよ」って言って取っちゃって死んじゃってっていう話なんですけど、それはどういう話かというと、江戸のある居酒屋があってそこに客が来るんですよ。あの『もう半分』とちょっと違うのは、その来た客っていうのがある村からわざわざ江戸に出てきたやつで古い知り合いなんですよ。

【三浦】その居酒屋のやつと。

【和田】夫婦と。それで、その居酒屋夫婦及び訪ねてきた人が全員ムーミンの登場人物なんですよ。ムーミンの国からムーミン国を立て直すためにやってきたんですよ。それでその村のみんなのお金みたいなのを袋に入れて。

【三浦】すでに面白いです。

【和田】それをまとめて、これで何とかテコ入れをするみたいなふうにやるんだけど。

【三浦】それはでも、知り合いが居酒屋にそれを頼みに来たわけじゃないですよね? たまたま来たんですよね?

【和田】でも、知ってて訪ねてくるんですけど。

【三浦】訪ねてきて、でも立て直しをその居酒屋に頼むわけではないですよね。たまたまその立て直しのお金を持っていた。

【和田】その資金を持って来ているわけ。だけど、居酒屋の夫婦がもう江戸に染まっちゃってて、悪の感じになっていてみたいなので元の話と同じような感じになっていくんですよ。

【三浦】ムーミンの国の人たちはピュアですものねみんな。

【和田】そうですそうです。ていう話なんだけど、これはすごく面白くかつ落語と言えどもこういうキャラクターを無断引用してもいいんですかみたいな気もしないではないんだけど、面白いです。

【三浦】トーベ・ヤンソンにできないですものね。

【和田】これね、僕、逆に、コンテンツものが詳しい皆さんに聞きたいんですけど、映画とかを落語も含めテレビのコントも含め、割とそのまま引用とかパロディーとかコントにする場合ってあるじゃないですか。そのときにご本家の、例えば『ダイ・ハード』なら『ダイ・ハード』の映画会社、監督、『E.T.』なら『E.T.』のスピルバーグ、ユニバーサル映画会社が容認しているのか、それは生でいいのかどうなんでしょうか?

【三浦】どうなんでしょうかね。

【和田】ていうのは志らくさんそれめちゃくちゃやってるんですよ。

【三浦】そうですね。志らくはやっていますね。『E.T.』やってますし。『ダイ・ハード』もやってますものね。

【和田】『ダイ・ハード』やってるでしょ? その他もやってるんですよ。それ僕、念のために言っておきますけど、やめろっていう話じゃなくてむしろ僕はそれを面白いと思っているんだけど、ムーミンも面白いと思っているんだけど。

【三浦】本来だったら一言言いますよね。

【和田】やっぱりそうなんですかね?

【三浦】どうなんですかね?

【山下】固有名詞の引用は割とよく行われているんですよ。だからそれは特に問題ないと思うんですけど。

【三浦】でも志らくさんの場合は結構筋立てとかをちゃんと借りてくるわけですものね。映画の。

【山下】ストーリーの構造とかストーリーの流れですよね。それも僕は、基本そのストーリーをベースに言ってるっていうのを志らくさんが言ってるから引用に属するのかなと?昔から似たような例えば『ロミオとジュリエット』から似たような時代の対立構造があって、あれは『ウェストサイドストーリー』とかにも展開されてるし、そういう意味でいうと物語の構造はパターンがいっぱいあって、それを志らくさんは例えば『E.T.』のようなお話とか、『ロッキー』のようなお話みたいな感じでシネマ落語とかを作ってらっしゃるような気がしていて。
ちょっと漫画の話になるんですけど、コミケという文化が日本にはあって、そこから優秀な作家がいっぱい生まれているんですけど、やっぱりそこは二次創作というものがあって、これは著作権的にはすごく微妙なところがあるんですけど、たぶん今の話をすると二次創作的なものをよしとする文化がないと新しいクリエイティブは生まれないという前提はすごく大切ですよね。その時にこういう時代なので、著作権で金銭がかかわってくるからちょっとややこしいことになっているんですが、実は漫画の作家の人とかは二次創作でコミケ出品っていうのはいいんじゃないかと。それをあまり著作権法で規制すると自由な創作が生まれてこなくなるから、漫画の作者の人たちはそれに危機意識持ってる。劇作家の人たちも、平田オリザさんとか言ってるんですけど、あんまり許可を厳しくして上演ができなくなっちゃうと、それはクリエイティブの死につながっていくと言っていて。そういう意味ではすごくグレーな部分があるんですけど、容認する文化がある国に僕はいることが嬉しいなっていう気はします。

【三浦】なるほど。志らくさんの場合はちゃんと映画の題名も明らかにして、そこから引用してやっているからっていう意味ではむしろいいのかもしれないですね。

【和田】だから、あれは全然隠してないんですよ。

【三浦】そうですね。黙ってオブラートに包んで、よく聞くとこの話『E.T.』じゃないかとか思われると良くないということですね逆に。

【山下】かもしれないですけど、もし言われたら、じゃあもうやめますということなのかもしれないけど。

【三浦】本人、映画も撮ってるから、もしかしたら何か映画会社に一応言ってるのかもしれないですね。

【山下】志らくさんとか映画愛に満ちているじゃないですか。大好きだから。

【三浦】だから、許されるんですかね?

【山下】そこまで言わなくてもいいんじゃないのっていうふうな場所の方が生きやすいかなっていう気はしますよね。

【和田】当然そうです。二次創作は、江戸の歌舞伎の台本て、ほとんど二次創作なので、先行作品をさらに書き換えているわけね。今の例えでいうと、白鳥さんの『メルヘンもう半分』は完全な二次創作です。ムーミンとかスナフキンが出てくるんだけど、そのキャラクターを借りて勝手な殺人事件とかも起きちゃうわけだから、作っているわけですよね。文字通り二次創作ですよね。志らくさんの方は、筋を江戸版にしているということなので、割とつくりは素直っちゃ素直なわけですよね。それで僕もいいと思うんですよ。

【三浦】そう思います私も。あんまり目くじら立てるような。

【和田】だってそれ言うとさ、昔、毎週やってた『タケちゃんマン』とかだって、あれスーパーマンの無断引用だよねって言いだせばそうなわけで、でもそれはいいじゃないですかってなったところが僕はいいと思いますね。

【三浦】そうですね。誰もそんなそこに突っ込む野暮なことはみんなしないっていうのは。

【山下】そうですね。だから昔、裁判であったけど、マッド・アマノさんていう人がパロディをしていて。パロディは著作権違反かっていう闘争がありましたけど、それをやっぱりダメだからやめろっていう権利はもちろんあるんだけど、まあいいんじゃないのっていうふうに、笑って過ごすのが落語が好きな人たちの集まりのような気がするし、そこは微妙なところです。

【三浦】だから落語の世界、落語が好きな人の集まりだとそれはそれでいいんですけど、そうじゃないところから別の解釈を持ってくるわけですものね。そこらへんも持ってこられたほうの、提供した側がそんなに別にいいんじゃないのっていうふうに思っていてくれれば非常にいい、度量の広い。

【山下】なんか言われたら「すみません」ていうことのような気はしますけどね本当に。

【和田】ついでに言うと、明治期でもこれは夏に話したいけれども、圓朝の翻案ものっていうのがあって、『錦の舞衣』とかあれは『トスカ』の翻案だったり。

【三浦】『死神』もそうみたいですね。

【和田】『死神』は完全にそうですあれは。

【三浦】その話は夏にしましょう。

【和田】それはもう普通にありますね。

【三浦】そう言われてみると……そういうのを見つけていくのもちょっと楽しいかもしれないですね。元ネタってどこにあるんだろうとか。圓朝って人は結構勉強してたんですね。

【和田】それはもうけた外れにそうだった人だったと思います。

【山下】お二人のお話を聞いていて新作落語ってなんだろうって分からなくなってきて。

【三浦】今、新作落語を俎上にあげて話そうと思ったときにまずそこがあったんですよ。新作落語ってなんなのかなって。

【山下】だからね、題材として割と複雑性があって深くて面白かった。すごく。

【三浦】新作落語といってもその言葉は言葉としてあるけど、その中身っていうのは実に変幻自在であり、深みのある。

【山下】グラデーションがすごいあるんだなっていう気がしていて。私、実は勉強不足だったんですが、『代書屋』は古典落語だとずっと思っていました。

【和田】どういうことですか?

【山下】『代書屋』を新作落語という意識が全くありませんでした。あの当時にああいうのがあってやっていたんだなって感じで。

【和田】でも代書屋って言っているくらいだから、文明開化以降ですよね。

【三浦】だから時代でいうと、文明開化以降で創作されたものってある種新作感があるのかなっていう気もするので。

【山下】だから割と、新作落語だったものが古典になっていくものが少しあるんでしょうけど、その間のグラデーションがものすごくあって、さらに新作落語を古典落語の世界に置き換えるアレンジもあるし。だから逆に新作落語を自分なりに解釈して別の新作落語にしていくみたいな。

【三浦】あと、古典落語を新作っぽくやるっていうのも結構これが普通にやられてますね。

【和田】『メルヘンもう半分』とかもそうですか?

【三浦】あと、談笑さんとかはそういうの積極的にやってますよね。

【和田】そうですね。

【三浦】『薄型テレビ算』とか。あの『壺算』を……。

【和田】それはね、それは新作落語論というよりは演出論なんですけど。

【三浦】そうですね。時代に合わせてどう演出していくか。

【和田】これが僕すごく面白い事例だと思うのは、今まだもうちょっとしゃべっても大丈夫ですか? 『替わり目』っていう落語があって、あれは酔っ払った男が人力車に乗って家に帰ると。家に帰っておかみさんが「もう寝なさいよ」ってなるまでお酒を飲むっていう、そういう筋の話なんだけど、米朝師匠が1960年代くらいにやってた『替わり目』の録音っていうのがあって、それは主人公がタクシーに乗るんです。人力車屋ではなくタクシーの運転手と話を交わして、乗ってチップをあげますとかそういう会話があって家に入ってっていう筋なんですね。
つまり何を言いたいかというと、米朝さんって現代版をやるべきとそのときは考えていたわけですよ。『替わり目』の筋を使ってお客さんが人力車じゃ分かりにくいだろう、タクシーだろうっていう判断もあって、そのとき吉本系の寄席に出ていたっていう事情もあったけど、そこに、合わせてたっていうのもあるけど、つまりさっきおっしゃった談笑さんがやってるみたいな作業をしてたんです。だけどある時期にそれをやめて、やっぱり人力車、お金も何円とか何銭ていうふうにして、全部クラシック寄りに直したんです。旧来の『替わり目』にした。だからそれは判断なんですよ。もう離れてていいんだってことなんですよ。

【三浦】だから60年代っていう、その時期がやっぱりちょうどタクシーだってみんな結構乗るようになってたり、そこの時代に合わせても面白くなったのかもしれないですよね、そのときはね。

【和田】そうです。その録音聞いても普通にウケてるし、結果は出てる。

【三浦】今になっちゃえば、もう人力車でも全然我々も理解してるから、それはそれで昔のかたちで、オリジナルのかたちでやってもらうほうがすんなり受け取れるのかもしれないですけど、タクシーも面白そうですよね。『替わり目』がいい話ですものね。本当に。

【和田】それからさっきの山下さんから名前が出てきたけど、柳家花緑が何年前だろうな、へたしたら20年くらい前なんだけど、鈴本演芸場で10日間トリを取ったときに企画公演でネタの予告をして、平田オリザ作『ヤルタ会談』。

【山下】『ヤルタ会談』やってましたね。

【三浦】あるんですねそれ。

【山下】花緑さんはラッパ屋の鈴木聡さんが時々新作を書き下ろされていますね。

【三浦】オリザさんとか聡さんも落語書いてるんですか?

【山下】いや、オリザさんの『ヤルタ会談』は元々戯曲があるので、その作品を花緑さんがやりたかったのかもしれないですけど、鈴木聡さんが書いたのは書き下ろしですね。

【和田】『ヤルタ会談』も戯曲そのままではなくて、僕見に行ったんですけど、落語版に一応していた記憶があります。

【山下】そうなんですね。チャーチルとかが出ているやつですね。

【三浦】面白そう。

【和田】ただ、落語の成果としては、僕はあまり認めない。

【三浦】落語としては。

【和田】落語としては面白くなかった。でもすごくいろんな課題が含まれていると思うんですよ。つまり平田オリザさんという柳家花緑とは完全に分離した人の作をやると。それから背景も長屋とかではなくて戦時中の『ヤルタ会談』、文字通りの、チャーチルとかが出てきてみんなでやるっていう話ですね。そこの分離加減っていうのが落語でやったときにこういう課題がめちゃくちゃ出てくるんだなっていう10日間だったと思うんですよ。

【三浦】そうですか。普通の古典のネタもやってたんですか?

【和田】いや、そのときはそれで通したんです。ちなみにこれは福田和也さんが媒体は忘れましたけど見に行って、感想みたいなのを書いてます。週刊新潮だったかな? ちょっと忘れましたけど。

【山下】ちなみに今日の収録のために新作落語ちょっと調べてて、これやるときに。新作落語というと必ず三遊亭圓丈さんの名前が出てくるんですけど、圓丈さんていうのはどういう方なんですか?

【和田】圓丈さんというのは、今、70代の方なので、僕の世代よりも上なんですけれども、さっき言った例えば3代目圓歌さんに代表されるようなサラリーマンの「今日は月給日です」なんとかですっていう世界があるとするじゃないですか。そうじゃなくて、もっと私に寄せた世界観を初めて出した人なんですよ。

【山下】私ってことは私小説みたいな感じですか?

【和田】圓丈さんの私小説というよりも、すごく変わった人がいてその人の共感度は薄いかもしれないんだけれども、でもそれにピントを合わせる面白さみたいな、だから例えばイッセー尾形の一人芝居みたいな。あれはどこにでもいるというよりも、そういう人物をこういうイメージどうですかって言って提示するわけじゃないですか。だからある意味お客も選びますよね。それを落語でやった人なの、圓丈っていうのは。だからものすごくみんなにうけて、わかりやすくいうと圓歌さんが出たテレビの視聴率が上がりましたみたいな感じではないんだけれども、これは、彼のファインアート作品だよねみたいなふうに見えるんです。だからすごく影響を同業者に与えた人。

【山下】噺家さんの間にですか?

【和田】だから喬太郎師匠なんかは完全にそうです。圓丈さんの功績は落語を作ったのもあるけれども、喬太郎さんとか白鳥さん含めてですけどああいう人たちを出したっていうことだと思う。

【三浦】白鳥さん弟子ですものね。

【和田】白鳥さんは完全なる弟子だし、こういうのもありなんだということを示した人。

【三浦】結構喬太郎さんは圓丈さんのネタやりますしね。

【山下】そうなんですね。

【和田】例えて言うと、会社の『ぺたりこん』というネタがあって、それはあるサラリーマンのあんまり上役じゃない人がいるんですよ。デスクワークしていると手が机にくっついちゃうんですよ。手が机にくっついてはがれなくなっちゃうんですよ。

【山下】不条理劇ですね。

【和田】それではがれなくなっちゃって困ってるんだけど、上司が「何やってんだおまえは」って言って、「ただでさえこの忙しい時期に」って言って、親身になってくれないわけ。だからおっしゃる通り不条理劇的なんだけど、ものすごく困っているんだけれども、「おまえは本当にダメな社員だな」みたいな会話でその上司が去っていっちゃったりして、最後にはがれないまま彼は捨てられるのかな? 捨てられるんだかクビになるんだか、そういう扱いを受けちゃうわけ。それこそカフカ的にね。最後に彼は会社からいなくなりましたっていって、そのあとの処理をした書類にこう書かれておりましたっていうのが、「使えなくなった机を破棄しました」っていう1行の処理がされていたっていう。

【三浦】一緒に破棄されちゃったわけですね。

【和田】そうそう。

【山下】すごい。同一化していくわけですね。面白い。

【和田】だから人間ではなくて、ものとして1個の備品を破棄しましたって書かれていましたっていう終わり方をする。

【三浦】本当に不条理ですよね。

【山下】そうですね。カフカみたいな。

【和田】それがだから圓丈さんの体験ではもちろんないんだけど、『月給日』とか『浪曲社長』の世界観と相当違うんです。だからそれを出した。どうですかっていう出し方をしたわけですよ。圓丈さんは。

【三浦】むしろ今に近いかもしれないですね。その感覚はね。社員をものとして扱うって、人柄じゃないですものね。

【山下】革新的な感じなんですね。それお客さんは普通に「なんだこれは」って思ったんじゃない?

【三浦】『ぺたりこん』は結構有名な作品で、喬太郎もよくやってますね。僕1回喬太郎さんで聞いたことあります。ちなみに3年4年くらい前に圓丈さん渋谷で聞いたときはやっぱりお年を召されて話覚えられないので、見ながらやってました。

【山下】なるほど。本を見ながら。

【三浦】それはそれでよかったです。

【和田】分かりやすく言うと、圓丈さんってそういう昔の三平さん、圓歌さんとかあの世代の柳亭痴楽とかと違うのは、圓丈さんって暗いんですよ。暗いのをまんま出しちゃう。もっと上の世代って嘘でも明るいキャラをやるんですよ。嘘であってもね。その芸人キャラみたいなのをやるんだけど、圓丈さんっていうのは暗さと、そういう私からこういう作品が出ましたっていうのを割と見せる。それで別に悪くないでしょっていう。

【三浦】高座暗いですものね。だから劇画に紗がかかっているような感じあるじゃないですか。あんな感じですよね。高座がね。明るくないですしね。

【和田】そう。だからあれも、ああいうあり方を成立させちゃったのは圓丈さんじゃないかなという気はしますね。

【三浦】圓丈さんて圓生の弟子なんですよね。

【和田】そうですそうです。

【三浦】これがすごいと思いませんか?

【山下】全く違う世界ですね。師匠とは違う世界に行ったという。

【和田】圓丈さんが書いた『御乱心』ていう本があって、分裂騒動書いた本があるのであれはすごく名著ですので。圓丈さんの角度から見たドキュメントなので。

【三浦】圓丈になる前の名前が「ぬう生」でしたっけ?

【和田】ぬう生。

【三浦】ぬう生ってなんなんですか?

【和田】なんなんですかね。

【三浦】圓生がつけたんですかね。

【和田】そうそう。

【三浦】ぬう生ですよ。ぬうって平仮名。

【山下】平仮名で「ぬうしょう」?

【三浦】生は生きるなんだけど、よく分からないですよ。ぬう生ってなんだろう。

【山下】動物のぬうと関係あるんですかね。

【三浦】どうだろう。単純に意地悪なんじゃないかと思いますけどね。

【和田】そうかもしれない。

【三浦】圓生さんて、すごい意地悪だったっていう。

【山下】音は面白いですね。ぬう生。

【三浦】ぬう生面白いですよ。

【山下】口言葉、しゃべり言葉で。

【三浦】ぬう生っていうと、さっきから言ってる古典落語の『長屋の花見』とかやりそうじゃないじゃないですか。『子別れ』とかやりそうじゃない。ぬう生って言った時点で、なんだ変なことやりそうだなっていう。そういうようなイメージで圓生さんが意地悪でつけたのかもしれないですけど。全然何の確証もないので。

【山下】でも圓丈さんのことが聞けて良かったです。

【和田】あと圓丈さんは例えば足立区の誰も知らないような、足立区何丁目に公園があって、埼玉とも隣接しているんだけどこの足立区のは本当に東京の中でも悲惨な土地ですみたいな話をするわけですよ。それは区分すれば地話かな? 彼自身足立区民なんだけど。

【山下】『翔んで埼玉』みたいな感じですね。

【和田】そうそう。自虐も含めて自分も足立区民だから、そういう話があるんだけど、それも昔の人だったら例えば都庁とかスカイツリーとか浅草寺とかみんなが知っているものをネタにして、行ってみたらエレベーターがこんなんなんだよって言って笑いを取るわけですよ。

【山下】逆ですね。

【和田】逆なんですよ。誰も行ったことがない足立区のあるブロックの、そこの悲しみをクローズアップするっていうのやらなかったわけですよ。でもその誰も知らないところにピントを当てて、ここの角にいるおばあさんがみたいなこと言い出すのはやっぱり喬太郎師匠とかに継がれていると思う。

【三浦、山下】そうですね。

【三浦】喬太郎さん、確かに池袋のほんの外れの話とか、高島町の話とか面白いですものね。

【和田】だからこれは確か小林信彦さんが書いたような気がするんだけど、椎名誠さんが出てきたときに国分寺のオババを誰も知らないんだけど、それをモチーフにして面白くなっちゃうっていう時代の感じがあって、確か小林さんは円丈とかとも同じ共通のモチーフの持っていき方があるみたいなふうに書いてらした気がします。

【三浦】視点が近いんだ。

【山下】椎名誠さん、以前『本の雑誌』の編集長をされていました。そこで『極私的』っていう、北極の極に私的。そういうところが通底しているのかもしれないですね。

【三浦】『極私的』っていうのはあの辺から出てきた言葉ですものね。考えてみれば。

【山下】そうですね。僕は毎年、年末に『極私的ベスト』っていうのを皆さんにメールで送っているんですけど、それはそこからの引用です。本の雑誌リスペクトで。

【三浦】それが、さっき和田さんがおっしゃった圓丈さんに私っていう私的を感じるっていうのはそういうことなんですね。

【和田】だからそういう意味ですごくフォロワーというか、今の喬太郎師匠とか白鳥師匠とかその他いますけれども、特に東京落語が、こういうものでもいいんだっていって、マニアックでちゃんとそれを支持する人がいればいいじゃないかっていうふうに進化できたのは、圓丈さんの功績はめちゃくちゃでかいとは思います。

【三浦】面白い話がたくさん聞けて今日は。

【山下】本当にありがとうございました。ぼちぼち時間なので終わろうと思います。最後にちょっと1個だけ気になったことがあって、今日この時間だと語りきれないと思うんですけど、さっきナイツの塙さんが言った、「この人が書いたものを演じてるんだ」っていうことに対する、そうじゃなかったら観客は少ししらけたり引いてしまうっていうのが面白いなと思っていて、噺家っていうものに対して観客とか落語ファンは作家性みたいなのを感じてリスペクトしているのかなっていうふうに思ったんですね。それは例えばアレンジして拡大解釈して違う話にすれば、それはその人の作家性であり、作家性をお笑いを志向する人は求めているのかなって。割と本質的な話なんですけど、これをすごく今日感じたんですよね。これは新たに、また日を改めて話ができれば、お笑いっていう話でくくってもいいかなっていう気がしてすごく勉強になりました。

【和田】笑いに関しては、僕は他のジャンルよりも強く、こういうこと考えられる頭の良さがあるんだ、こういうこと考えられるセンスがあるんだっていうのを客が感じたいんですよ。そこ込みで見たいんですよたぶん。でも、今度僕もお話したいですけれども、私は今ある若手のお笑いコントやってる人がいるんだけど、週刊少年ハートっていうコンビがいるんだけど、そこと組んで年に何回かライブをやっていて僕が何本か台本を書いた。コントのね。それで、チラシ上はそのコンビの片方が作者でもあるので、僕と連名にして現実の上演では例えば7本ネタがあったら僕が3本、すなお君ていうんだけどすなお君が4本。3本と4本で7本みたいなふうにしてやってるんだよ。だから僕は実演家が作者ですっていうのをすごく分かる半面、それじゃ面白くないよなとも僕は思っていて、だから台本書いて彼らと一緒にやって結果も出したいし、演劇とかは普通にそうなっているわけで。

【山下】僕は、演劇が好きだから、そうなのかなって最初思っていて、塙さんの話がずーっと残っていたんですよね。

【和田】塙さんは彼の『関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』っていう本があるんだけど、それとかを読むとすごく分かるけど、とにかく漫才師はネタを作れなきゃ話にならないっていう彼の哲学。

【山下】彼がそういう哲学を持ってらっしゃるのですね。なるほど。

【和田】それは塙さん自身だからね。土屋さんだとまた違う意見だと思うんです。土屋さんネタ書いてないので塙さんの哲学なんだけれども、それはすごくうなずける部分はあります。でもそれで100%になってしまうと僕は台本を書く必要もなくなってしまうので、そうじゃない部分も私は思っております。

【山下】面白いですね。最近オードリーの「あちこちオードリー」という番組があって毎週見てるんですけど、この前オードリーの若林さんとロンブーの田村淳さんが話をしていて、MCで回していくの大変だよねっていう話をしていて、たぶんあの二人は、漫才の原作というかネタも考える人で、オードリーのムキムキした春日さんは「春日はいいよね。天然で」って言っているんだけど、作家と演じるだけの人のどっちが好きかっていうのがいろいろ分かれると思うんですけど、こういう話も面白いなと思っていろいろ考えるところがあったんですよね。

【三浦】その辺のことがすごく、お互いの出会いから成功するまでの話として非常に良く描かれていたのが、サンドイッチマンの『プロフェッショナル』ですよね。あれは本当に感動しましたね。

【山下】良かったですよね。両方いいところがあると思うし。

【三浦】お互いがお互いのことをよく分かっているっていう。

【山下】そうですね。両方ともリスペクトし合ってるのはサンドイッチマンさんの素晴らしいところだと思いますけど。だんだん漫才のほうに話が移動してしまいました。

【三浦】爆笑だってそういうところあるでしょうしね。

【山下】そうですね。あの二人の役割の差っていうのはあるでしょうね、本当に。

【三浦】漫才で「おまえ楽でいいな」っていうのは普通のいわゆる常道なわけですからね。

【山下】そうですよね。お笑いについてもうちょっとちゃんと考えないといけないなって思いました。

【三浦】また次の。どんどんいろいろ話題が出てきますね。

【山下】今日はすごく盛り上がってしまいましたけど、最後に和田さん三浦さん何かありますか?

【三浦】私はまたさらに三語楼さんの話とかがすごく面白いし、いろんな新作の話も教えてもらったのでまた楽しみが増えました。圓朝に向けていろいろ学習しないといけないなっていう。

【山下】そうですね。私も勉強します。和田さんはいかがでしたでしょうか。

【和田】やっぱり「新作とは何か」って本当にすごく難しい話で、かなり巨大なテーマなんですね。今日はすっきりしない部分が多いわけなんですけれども、そこはいろんな課題が出たという意味で面白いんじゃないかなという。

【三浦】だから今後も常に新作ということはきっとどこか念頭に置きながら話すようなことにもなっていくし、っていうくらいにたぶん大きな概念だったのかもしれないですね。

【山下】本当にそうだったとあらためて気づかされました。
ということで、時間がもう2時間超えてしまいました。ありがとうございました。ではTFC LAB PRESENTS、Podcast BRAIN DRAINでは、これを書き起こしたものをnoteというメディアに掲載していまして、この前、三浦さんと和田さんの話で上方落語のやつも先週noteにやっと上がりました。この二人のお話もまた1か月後くらいにはnoteで読んでいただけますし、もちろんYouTubeとかPodcastでお聞きになったり見たりすることができます。ということで、お二人ありがとうございます。また来月もよろしくお願いします。

【三浦、和田】よろしくお願いします。

【山下】さようなら。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

担当:越智 美月
ご依頼ありがとうございました。
いつもいろいろな落語のお話が聞けてとても楽しく取り組ませていただいております。中でも『ぺたりこん』の話は思わず笑ってしまい、今度是非見てみたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

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