見出し画像

【PODCAST書き起こし】オフィスエムズの加藤浩さんに和田尚久さん、三浦知之さんが落語会と寄席などについて聴いてみた(全5回)その2

【PODCAST書き起こし】オフィスエムズの加藤浩さんに和田尚久さん、三浦知之さんが落語会と寄席などについて聴いてみた(全5回)その2

【和田】私ね、加藤さんが主催されている会で、日本橋の日本橋亭っていう小屋があって、そこは僕の個人的な感想なんだけれど、あまり好きな小屋じゃないんですよ。

【三浦】日本橋亭っていうと……あのお江戸日本橋亭?

【和田】コレドのすぐ裏のところにあるんですけれど、お江戸日本橋亭です。

【三浦】狭いところですよね?

【和田】音がね、あまり響かないし、なんか座っていてもちょっと窮屈だったりして、個人的にはあまり好きじゃないんだけれど、その中で本当に今日は良い会だったなっていうのが、加藤さんが主催された『三遊亭生之助独演会』っていうのがあったんですよ。三遊亭生之助、圓生師匠の弟子の。その人の会に僕は行ったんですよ。そしたら本当にお客さんが20人ぐらいしかいなくて、1人で畳3畳くらい占有してゆったり見られて、内容も良かったの。だからこれは良い会だなと思って。こういう空間で聞けたら本当に素晴らしいなって。あれが僕の行ったなかで日本橋亭のベストです。

【加藤】私もあの会が理想郷ですね。

【和田】あれ良かったですよね。

【加藤】これから続けていこうという矢先ですよ。師匠と音信不通というか、まぁ……ご入院されて、患われて。

【和田】じゃああれはレギュラーっぽくしたかったんですか?

【加藤】もちろん。あれはああいう会をいくのが私の落語会をやる目的ですから。ところがもう……、ああいう会ってなかなか伝わりませんかね? 私の……、なんて言ったらいいかな? これ。

【和田】まぁ、よくこういうところを捕まえて来たね、みたいな。

【三浦】今は赤坂のビルの6階でしたっけ? あそこでやられている会とかはやっぱりそこに通じるものはありますか?

【加藤】そうですね、理想的です。私の家の近くにその小屋があって、自由に使えるっていうので使わせてもらっています。 

【三浦】そこは私も何度かお邪魔したことがあるんですけれど、とてもゆったりして良い空間で聞けますよね。

【加藤】逆立ちしてもあそこでは儲けにならない。

【三浦】ですよね。

【加藤】だけど、空間が良いから。

【三浦】そんなにたくさん入れていないですもんね、そもそも。

【加藤】そうですね。

【三浦】それこそ、20人とか30人ぐらいですよね。

【加藤】そうですよね。小里ん師匠だってね、あそこでやったり。いやぁ……なかなか難しいですね、そういうの……。

【三浦】そういうところで続けていくためにもやっぱり残りの6割、もっと広いところで、まったり人気のある……。

【加藤】そうなんですよ。このコロナ事情ではどうしてもね、経営が成り立たないので。一応、前面ではこういう会話をやりますけれどね。人気者のね。ここの収益でこっちで好きなのをやって。このメジャーなお客さんをこっちのちょっとマイナーなほうに持っていくというのが……。で、「ああ、落語ってそういうもんだ」って。今は聞いて、「わぁ、志の輔っていいねぇ」でしょう? 「談春はうまいねぇ」「○○はいいね」っていう演者にいっちゃう。

【三浦】そこにいっているお客さんってなかなか赤坂の6階のところには行かないですもんね。

【加藤】これを聞いて「あ、落語って良いな。他にどういうものがあるんだ?」っていうのまでくるのにはもう……ちょっと難しいですね、今の時代ではね。志の輔師匠の会を見てビックリしましたもん、私。あそこで1回、会をやらせてもらってうちの会のチラシを入れたんだけれども、無視ですもんね。「志の輔さん、いいなぁ、素晴らしいなぁ。じゃあ今度これを聞いて、ちょっと落語を聞いてみよう」「寄席にも行ってみよう」っていう客は1000人いて1人もいないんですから。「次の志の輔はいつ?」っていう。

【三浦】そうですよね。志の輔さんを聞くことに命をかけているみたいな感じですもんね。

【加藤】志の輔さんを聞いて追っかける自分にうっとりしている。これは……、そのことには気が付いていないけれど。落語にいかないんですよね……。

【和田】加藤さんに質問なんですけれど、私も素人主催者としてなんだけれど、300の席があるとするじゃないですか、例えば国立。ああいうところでうまくやったら儲かります?

【加藤】うまくやったら儲かります。

【和田】儲かりますか。

【加藤】もちろん、ええ。

【和田】じゃあ300くらいの分母で払うものを払ってっていうので、それはだからやっぱりやりようなんだなぁ。

【加藤】やりようなんですよね。「儲からない、儲からない」って私も言っていますけれど、儲ける方法はいくらでもあるのでね。

【和田】そっか。

【加藤】300の会場に和田さんが好きな人を5人並べたら終わりでしょう? これ。

【和田】だからそれだと儲からないでしょう?

【加藤】簡単に言えばね、うん。じゃあ呼べるのは1人、ほかの無駄を省く。そうすりゃあなんとか儲かるでしょう。

【和田】あぁ、そういうことなのかな? だからそこが多分……、なんか奥義があるんだと思います。だからさっき言ったあるかたが700以上だよっていうのは、その計算は僕にはわかりやすいんですよ。その規模じゃないとお金が浮かないよっていうのはわかりやすいんだけれど、加藤さんのほうが僕から見たらミステリアスなんですよ。ありかたとしてね。

【三浦】どうやってやっているんだろう? と。

【和田】そう。でもそこがやっぱり大きなものも今度の国立大劇場みたいなのもあり、赤坂とか浅草の見番でされているのもあったりして、それは本当に両輪でおもしろいなと思っていて。生之助さんってかたがさっき言った圓生師匠の高弟とういか、古いお弟子さんなんだけれど、『花筏』という落語をそのときにされたんですよ。で、『花筏』って相撲取りじゃないやつが相撲の取り組みに出ることになってしまって、前の晩に心配で心配で寝られないみたいな場面があるんですけれども、そのときに「ご飯ものどを通らない、お酒ものどを通らない、新幹線も通らない」って言うんですよ。

【三浦】ははははは。

【和田】ね。それをなんか僕は圓生師匠の速記かなんかで読んだことがあるんだけれど、これをなんか今そのままやる人がいるんだっていうのがね、逆に感動したんですよ、僕。

【三浦】おもしろいですね。

【和田】「新幹線も通らない」っていうのがね。これは良いなと思って。

【三浦】それは自分がその話をやっている場所をかけているわけでもなく、もうその通りにやったっていう……。

【和田】圓生師匠の当時は新幹線が通った時代だった。

【三浦】そうか、そうか。

【和田】あと圓生師匠が「盆と正月とカーニバルが一緒にやってきた」っていうね……。生之助師匠ってそういうノリでして。

【三浦】そのままやる?

【和田】そう、しかもわざとやってるぜっていう雰囲気じゃなくて、サラッと本人は別に何とも思っていないと思いますね。

【三浦】当然そういうふうにやるのが当たり前だと。

【和田】うん。あれは忘れがたいな。あの素晴らしい会は。

【加藤】そういうのはちょっと今は聞けないね。師匠がたの話はね……。

【和田】これは僕ちょっと自慢も入るんですけれど、前に『en-taxi』っていう雑誌に連載して、そのあと本にしたんですけれど、1回につき1人の落語家をフューチャーしていて、それを論じるみたいなのをやったときに、10人書いたんだけれど、柳家小満ん師匠を僕はいれたんですよ。「柳家小満んさんの落語は素晴らしいと思う」っていう内容なんだけれど。小満ん師匠ってもちろんそれ以前から独演会とかされていたし、普通に寄席とかもいっぱい出てらっしゃる人なんだけれど、ここ20年くらいでもの凄く評価とか、スポットライトが改めて当たった感じがするんですよ。そのきっかけの1つは僕の文章もあったのかなぁ? というのを自分では思っていて。

【加藤】そうかもしれないね。

【和田】小満ん師匠って生之助さんほどマイナーじゃないんだけれど、ある種、通好みな存在だったのが、あのかたの場合は凄く、ここ10年・15年くらいでステージがあがりましたよね。

【加藤】あがりましたね。

【和田】なんかそんな感じがしますよね。

【加藤】小満ん師匠のポジションにいるかたが1人いなくなり、1人いなくなり……って、今は上から数えても、もう小満ん師匠しかいないですよね。

【三浦】そうですか。年齢的にっていう? 

【和田】ですよね。

【加藤】あの年齢的に。キチっと落語を……いまだにネタおろしをしたり、新しいことにチャレンジしたりされていく……うん。

【和田】だから、ああいう小満ん師匠とか生之助さんとか、あと……誰だろうなぁ? 加藤さんが「よくぞ」って言うような……。

【加藤】今はね、八光亭春輔師匠。林家のね。ええ。

【和田】春輔師匠ね。

【加藤】「よくぞご紹介してくださった」ってお客さんからもメールをいただきます。「よく見つけてくださいました」「聞かせてくださいました」「こんな人がいるんだ」って……。ちょっと語り口が古風ですけれども、林家で1番ね、それを受け継いでいる師匠ですね。

【和田】やっぱりこういうかたがいてくれて、さっき言った凄い花形のかたではいるわけだけれども、それの1番のかたが、例えば横綱がパルコ劇場でやっている志の輔師匠ですよね。その素晴らしい世界があってでも、寄席の中で育った花といいますか、そういうかたを見つけて来られてっていうのもやっぱり本当にエムズさんも凄い値打ちのあるかただなって思いますね。

【加藤】どうしたらお客さんをひきつけますか。

【和田】どうなんだろうなぁ……。

【加藤】こういうのを並べてお客さんに来ていただくようにはどうしたらいいかな?

【和田】1つには、「これがいいんですよ」っていう……本流の考えかたじゃないかもしれないけど、有力な紹介者がいれば、レコメンドする人がいれば、違うかなって。例えで言うとね。ここ1年・2年神田伯山がいじり半分なんだけれど、神田愛山のことを言うわけですよ「うちの先輩でもの凄く暗くて、なんかネガティブ思考な人がいて」って言うんですよって言って。そしたら、愛山さんが落語カフェでやっている会とか、小さい会ですけれど、今は完売するようになっていますよ。

【三浦】「愛山先生、愛山先生」ってよく言いますもんね。

【和田】よく言うでしょう? ネタにするじゃないですか。それで「なんか聞いてみよう」みたいなふうになって、でもそこで来たお客さん、入りかたはそういうルートかもしれないんだけれど、でも僕は結果的にプラスになっているのかなって気がするんですけれどね。

【加藤】でもよほど講談が好きな人だよね、来る人は。

【和田】そういう流れはあるかなって。あとは例えば、今の浪曲界に沢村豊子師匠という三味線の名人がいて、それは僕とか加藤さんとか、みんなそのへんの人は「豊子師匠の三味線はいいよね」っていうように当然わかっているんだけれど。

【三浦】奈々福さんと一緒にやっている人ですよね?

【和田】それはだから今、奈々福さんなんかが「この三味線のお師匠さんが凄いんです」って言って。

【三浦】それ毎回言いますもんね、奈々福さんは。

【和田】言います。

【加藤】豊子師匠を聞きに来ますもんね、お客さんは。 

【和田】それを「このかたに背中を押されて私は節をやっているんです」っていうのを、もの凄くアナウンスすることでやっぱり豊子師匠にも目が行くようになったように僕はみえるんです。それはやっぱり凄く良い流れだなぁって思いますけれどね。

【三浦】奈々福さんの会に行くといつもそういう印象ですね。まずはやっぱり豊子師匠、「この人がいるおかげで」っていう……浪曲界の重鎮……。「この人がいるからこそ私が……」っていうふうに言って始まりますもんね、必ず。

【和田】僕ね、加藤さんにちょっと伺いたいことがあって、加藤さんってプロフィール……、さっきのは途中までだけれど、そのあと寄席に勤務されていたわけですよ。つまり、明日お席亭になれるって言ってなれるもんじゃあないから寄席で働かれていて、そのあとがエムズになるわけなんですけれども、よく落語家さんとかと話すと、「あなたがたはホール落語でたっぷりした話を聞くのは良いと思っていると思いますが、本当の醍醐味は寄席にあるんですよ」っていうことをよく言われるんです。例えば菊之丞師匠なんかも彼が若いときに話していて、二ツ目(ふたつめ)くらいのときに「自分が本当の出る側になっても楽しみとか醍醐味は寄席のほうにあると思います」って彼は言ってる。

【三浦】演者が言うっていうことですか?

【和田】演者が言います。それが「わかるなぁ」っていう面と、でもプロじゃないから本当にはちょっと飲み込めない部分といろいろあるんですよ。あと僕は立川談志スクール育ちなので、それもあるわけ。

【三浦】寄席に出ていなかったですからね。

【和田】うん。加藤さんは寄席の勤務というかたちで結構何年も中にいらしたでしょう? そうするとホール落語とか独演会には無い寄席の醍醐味とか、凄さっていうのはどの辺にあるんですかね?

【加藤】ホールだと25~30分ですけどね、寄席も15分で何組か出てきますでしょう? この流れがね、楽しくて。昔はきら星のごとくいたんですよ。私が好きだった寄席の頃は。今はもうテレビのチャンネルをひねれば画像で出るような人ばっかりでしょう?このあいだ宮治さんの襲名に行きましたけれど、爆笑問題は出てくるは、山田邦子は出るは、もう人気者ばっかりで。昔はそんなこと全然なかったのに。うまい人もいるし、その中で下手な人もいるし。で、もう1つはね、奇妙な人がいたの。

【三浦】変な人が?

【加藤】よくわかんない。「この人本当に大丈夫か?」って。本当に落語をやって生活……。なんか心配になってくるの。私はその寄席が好きで。そういうのが好きで。

【三浦】そういう人もいてこその寄席っていうことですね。

【加藤】そう、そこで談志師匠が急に出てきたりね。その楽しさったらなかったですね。で、代演制度っていうのがあります。私は談志師匠を目指していったら、めくりで違う人が出てくる。これはね、最初の頃は怒りましたよ、私も。今のコロナの状況で政府に文句を言うような感じでね、「冗談じゃないよ」って私言ったけれど、だんだん寄席の中毒患者になっちゃったから。だんだんそれが快感になってきて。そのすべてを受け入れられるようになって来た。

【三浦】寄席のすべてを。

【加藤】こういう人がいてこそ、こういう人がいる。他の領分を荒らさないようにうまーく引き継いでいくわけですよ。最後のトリまで。「凄い世界だな」って。でもって生の三味線で生の太鼓でしょう? そんな空間が……。私はね、子供のころから寄席で生活をしたいと思ったの。小学生のころ。

【三浦】そこに住み込んで?

【加藤】大須演芸場に住みたいと思っていた。

【三浦】大須演芸場のお近くなんですね。

【加藤】そこで絶対に俺はこの席亭をやってみたいと思っていた。あのトイレの臭いとね……。なんか寄席っていうのは悪所っていうか悪いところって言われていて。

【和田】色川さんとかがよく書いていますけれど。

【加藤】女性が1人で行けるような……。はっきり申し上げると。落語の芸能こんなこと言っていいのかな? 技術も腕もあがりましたよね。

【和田】それはそうだと思います。

【加藤】音楽でもどの業界でもみんなそうでしょう? 「あの圓生はよかった」「小さんはよかった」っていうけれど、かなりあがっています、もう。おもしろいし、画期的だし。みんなに刺激を与えるし。私はあまり好きじゃないんですよそういうの、一言でいえば。

【三浦】みんな横並びでうまいっていう……。

【加藤】刺激を与えられるのが嫌なの。「上手いでしょう?」とか「どうだ」とか。談志師匠にも言いましたもん。「『芝浜』が何を言おうが、あんなもの関係ない」って、「師匠のあとに三橋美智也が『哀愁列車』を歌ったら、我々はそっちのほうに全部持っていっちゃうよ」って言ったら談志師匠は笑っていましたよ。「その通りだ」って「落語なんかそんな芸能じゃない」って言っていましたよ。「あんなもの」って言いましたよ、落語のことをね。

【三浦】談志師匠が。

【加藤】私も「あんなもの」ですもん。こんなものね、1カ月も2カ月も前からチケットを買ってね……。そんな芸能じゃないって。

【三浦】本来は。

【加藤】落語なんて1年に1・2回行けば十分。「あんなもの」ですよ。こんな大したことない。それが好きなの、私。

【三浦】寄席はそういう感じがかつては溢れていたっていうことですよね。

【加藤】そうです。寄席はそうでしょう?

【和田】今の話をちょっと纏めてしまうと、寄席っていうのは1つの高座っていうよりは、流れ感のなかで楽しさがあるっていうことですかね?

【加藤】そうですね。

【和田】そういうことですよね。A・B・C・D・Eって流れていく……、繋いでいくなかでおもしろい……。

【加藤】ハプニングもあればっていうね。

【和田】あればっていうことですかね。

【加藤】ホール落語はキチッと「今日は『らくだ』を圓生師匠がやる」とか決まっていますもんね、そういうのがないね。

【三浦】寄席は確かに何が出てくるか全くわからないですもんね。もちろん出演者は事前に調べることはできますけれども、なんならそれを別に調べないで行ったほうがおもしろいっていうこともありますよね。パッと行ってみて演芸ホールの入り口に立って、「あっ、今日はこの人たちか」っていう、「この顔付けか」と思って、それはそれで楽しみで入ってみるっていうのは……。

【加藤】寄席の夜のトリは凄く大変ですよね。朝から夜までずーっとネタが並んでいるネタ帳を前座が師匠に見せて、これが出ているなって直前で「このネタできないな」って。そういうのを含めて寄席って楽しいですよね。

【三浦】臨場感ありますよね。

【和田】例えば、寄席で働かれていると本当に何百日とか、寄席を客席ではないにしろ聞くわけじゃないですか。そうすると、そこから「この人凄いなあ」みたいになってきて開眼する、みたいなのあります? そういうのって……。

【加藤】あまりにも変わらない人っていうのも素敵ですよね。同じことばかりやっているっていう。

【和田】逆にね。いや、だからそれは僕が寄席で働いたこともないしたまに行くだけでも、例えば僕が高校生のときに行ったときの桂小益さん、今の文楽さんとかって本当に一言半句変わらなかったですよ。「じっと待つ、耐えて待つ」とか言って「また『六尺棒』やってるわ」みたいな感じで。でも、まあまあまあまあ。あの、それはそれで……っていうことですよね?

【加藤】そうですね。

【三浦】いつ行っても同じ?

【加藤】あるいはご年配の師匠で、亡くなられた圓右師匠。

【三浦】圓右師匠って、あのツルツルの。

【加藤】そう。談志師匠なんかは「圓右はうまい」って言いましたけれどね。10日間、私は1度も同じ話を聞いたことがない。10日間トリをとると。10日間ネタが違うんですよね。凄いなと思った。逆にそういう感心をしたこともありましたしね。

【和田】寄席で働いている人とか、前座さんってよく「別のことをしながらも耳は落語を聞いている」とかいうじゃないですか。やっぱりそうなんですか?

【加藤】そうですね。

【和田】やっぱりそうですか?

【加藤】うん、どうしてもね。そういう今の文楽師匠のそういうフレーズじゃないけれど、それが耳に入って、仕事しながら「またやってるわ、文楽師匠。『六尺棒』のここだ」っていうのがもう……、そういうのが入ってきちゃう。

【和田】やっぱりその楽しさがあるんだよなぁ。

【加藤】楽しいね、寄席は本当に。それで、ホール落語がそこから出てきて。2つに分かれちゃうのかな? お客さんが。

【和田】分かれましたよね……。特に僕は加藤さんとちょっと世代が違うのは、80年代以降なんですよ、私は71年生まれだから。そうすると談志師匠が立川流を作ったのが83年なので、談志さんにはまって聞きに行くと、当時はもう寄席に出ていなかったので、「寄席なんかでちゃんとした芸なんかできねぇんだよ」って言っておられて「俺は30年やったからわかる」って言うわけ。今になって見れば、そういうふうにわざと言っているんですよ。強がりでね。でも、そのとき、こっちも高校生とかだからそれで、「あそこでトリをとるって言ったって限界がある」っていって。で、独演会でって、そこで『らくだ』とかなんとかっていうのをやるわけですよ。そうすると、「あ、なんか凄いな」って、こっちは作品だっていう感じがするわけなんですよ。それが好きな人……僕も含めて、今で言う志の輔に通う人みたいなそれがファン層っていうか、塊になります。で、寄席の人がいる。現実的には両方行ったりするんだけれど、でも加藤さんがおっしゃったように、ホール派の人と寄席派の人っていうのが割と分裂している状態が僕は長かったと思う。例えば東横落語会に毎月行っていますっていう人が毎月浅草演芸ホールに行くか? っていったら、多分あんまり行かないですよね。

【加藤】行かないですね。

【三浦】当時からもう分かれていたんですね、そういう客層が。

【和田】と思います。ただ、僕のここ1・2年の感想なんですけれど、「寄席っていうのは全体を知らない人も含めて楽しむんだよ」っていうのが復興してきている感じがするんですよ。それは特に芸協の寄席に感じていて、さっきも名前が出た伯山なんかが自分が出ることを、例えば「何時に仲入りに出ます」「トリに出ます」って……。

【三浦】ラジオでしゃべったりもしますからね。

【和田】それで「自分じゃ関係ない人も含めて楽しんでね」っていう、そういう言いかたじゃないんだけれど……。ってなことを打ち出すわけですよ。そうすると、お客さんも本当にダメな客っていうのはそこの1時間だけで帰っちゃうみたいな人もなかにはいるんだけれど、今はお客さんのレベルが上がったかたら、ちゃんとそこは「他も見ようか」っていう人が増えたと思うんですよ。で、「あ、なるほどな」っていうふうになってきたように……、なんとなく空気ですけれどね。

【加藤】少しはね。少しはそっちだよね。

【三浦】でも実際は伯山が寄席に出る日っていうのは、結構早くから行って並んでいないと入れなかったり、現実的にはなっているんですよね?

【和田】まあ、普通の出番のときはそうでもないと思いますけれど、披露目のときはそうでしたけれどね。襲名のときはね。

【三浦】今はそうでもないんですか?

【和田】うん。今だって出ていますよ、どっかに。

【三浦】案外コンスタントに寄席に出ていますよね。

【和田】あと例えば、萬橘(まんきつ)さんとかいう人が寄席に……芸協にしょっちゅう呼ばれて出て、それを凄く大事にしている。で、そのなかでの役割、例えばバッターでいうと9人いる中で7番の打順をもらったからそこでときには送りバントかもしれないけれどね、役でやるっていうのを……。

【加藤】満喫師匠はそういうの大好きですよね。自分の役割をね。

【和田】だからそういうふうに寄席の逆襲みたいなのは、僕は流れとしては結構感じるんですよね。

【三浦】寄席の逆襲。

【和田】どうですかね?

【加藤】だから、良くなってきましたよね、そういう意味でね。

【三浦】観客の質も少しずつ変わってきているっていうことですかね?

【加藤】そのレベルがどうかは知りませんけれど、変わってきてはいますね。

【三浦】今、寄席の客層って若い子っているんですかね?

【加藤】多いでしょう。

【和田】まあ、以前よりは。出る人に左右されますけれどね。

【三浦】寄席によっても違うでしょうね。演芸ホールの客層と鈴本とかも……。

【和田】今、エムズのお客さんはどうですか?

【加藤】やっぱり内容が……。うちの会が終わって飲みに行くでしょう? 「今日のあの『富久』よかったね」って作品の話で、「あそこの『品川心中』のお染はね、○○師匠はこうだけれど、あれはこうなんだよなあ」って。

【三浦】マニアですね、それね。

【加藤】もう、そういう話がしたくて仕方がないから。桃太郎師匠みたいな内容のない人はダメなんだよ。良い悪いは別ですよ? 本来はあっちが本当の落語なんですから。

【三浦】そうですよね。おっしゃることはわかります。

【加藤】聞いておかしくて終わりっていうのは、それは爽やかですよ。落語の健康的な……。今の人は終わってから「おい、どうだった? 権太楼の……、さん喬とはちょっと違うだろう?」。

【三浦】それが話したいんですね、みんな。

【加藤】それを話したくて来ている人がいる。みなさんブログをもっていたりね、感想を書かれたりしていますけれどね。たまらん……そのことには楽しいんでしょう、それが。 


 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)
---- 担当: 榎本亜矢 ----
いつもご依頼ありがとうございます。
寄席とホール落語の違いのお話しでしたが、違いを知らなかったので今回知ることができて知識が1つ増えました。このご時世、ライブ会場が閉鎖したりなど、まだまだ寄席などの会を開催するのはなかなか大変だと思いますが、日本の伝統的な芸なので「あんなもの」でも途絶えることが無いようにおもしろさを伝えていくのは大事だなと思いました。
素敵なご縁をありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?