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【PODCAST書き起こし】新作落語って何だろう!和田尚久さん三浦知之さんと語ってみた。(全4回)その3

【PODCAST書き起こし】新作落語って何だろう!和田尚久さん三浦知之さんと語ってみた。(全4回)その3

【三浦】代書屋とかもあれですか、新作ですか?

【和田】代書屋は、四代目桂米團治が戦前に作った話です。戦前というか戦中といっていいのかな。日中戦争の。

【三浦】うん。要は、字が書けない人のためにっていうね。

【和田】そうです、そうです。あれは米朝師匠の四代目桂米團治という人が、一時ほんとに代書屋やってたの!

【三浦】おお!

【和田】字がうまかったらしいんですけど。で、いろんなお客さんがきて「履歴書、書いてください」とか。

【三浦】昔はそういう人いっぱいいたんですよね?

【和田】でしょうね。代書屋もそこにカテゴライズしていいんなら、すごくおもしろい作品ですよね!

【三浦】うん。でも、代書屋って今そういう意味でいうと、そういう人あんまりいないじゃないですか。字書けないとかそういうのって。でも、話聞くとおもしろいですよね。

【和田】おもしろいです、おもしろいです。

【三浦】そういうのってなんでなんですかね。時代はいろいろ変わっててもそこの“本質的なおもしろさ”っていうのは変わらずに。

【和田】そうですね。

【三浦】そういう話が残ってきているんですかね?

【和田】うん。代書屋が非常に傑作なのは、“字の書けない人を笑いのネタにしている”よりも、つまりあれってきた人のプロフィールを聞く訳ですよ?

【三浦】そりゃそうですね(笑)

【和田】その自分の人生を捉え方変な人って今もいるはずですよね?

【三浦】いますね。

【和田】自分のヒストリー語ってるはずなのに「なんで、そんな捉え方してんの?」とか。「覚え方変でしょ!」っていう。

【三浦】ああ、そうか。面接をやってて変な人がくるのと一緒なのかもしれないですね!

【和田】その感じかなと思う。だから、今無筆の人ってほぼいないと思うんだけど。

【三浦】いないけど面接で変なこという人はいっぱいいますもんね?

【和田】います、います。

【三浦】普遍的なんでしょうね、そういうことが。

【和田】そうですね。だから、「それはいつですか?」っていった時に「いや、あれはですね。友達と花火をやった次の日で」っていう、いっちゃう感じの人今もいるじゃないですか?

【三浦】います(笑)

【和田】それじゃ分かんないでしょっていうような、そういうおもしろさですよね。あとは、ちょっとごまかしたりとか。そういうくだりがあるんですよ。女房との年の差みたいな……生年月日いってください、それをいうたらバレるがな。みたいな話があるんだけど。「それを聞いてんだろ!」って話なんだけど。そういう心理って今もあるし。

【三浦】あります、あります(笑)

【和田】だから、そういうおもしろさじゃないですかね。

【三浦】そこをちゃんと取り上げて話してるのが『落語』なんでしょうね。

【和田】落語であり、だから代書に関しては作者もはっきりしてる。作られた年代もはっきりしてるんだけど、古典というか普遍性がある。

【三浦】ありますね!

【和田】あるものですよね。

【三浦】ほんと、そう思いますね。だから、今たくさん生まれていってる新作落語でこれから残ってくものっていうのがどのくらいあるんですかね?

【和田】演者を超えてってことですか?

【三浦】そうですね。言い方変かもしれないですけど、“古典となりうる”っていうんですかね。古典にはならないかもしれないですけど。

【和田】そういう意味で、皆がレパートリーにしてるって意味でいうと、例えば『猫と金魚』とかも代書屋みたいにすでにそうなってますよね。

【三浦】そうですね!

【和田】あれはだって10人以上演者はいますし、普通に定着してると考えていいんじゃないかな~?

【三浦】でも、例えば川柳師匠の『ガーコン』っていうのは、あれは誰もやれないですよね。やっぱ、ああいう川柳さんの自分史みたいなのないと?

【和田】そうです、そうです。自分史のね。だから、今、柳家小せんさんっていう人が許可を得てガーコンやってるんですけど。それはやっぱり、なんていうのかな……戦後になって軍歌ばっかりだったのが、ジャズが流れ込んできたっていう実感は当然小せんさんはないんで。小せんさんって僕と年変わんない人だから。その高座からのガーコンになりますよね。

【三浦】そうですね。だから、それがおもしろければいいんですよね。だから、川柳師匠がやるとリアリティがものすごくにじみ出てくるじゃないですか?

【和田】はい。

【三浦】きっとそれがおもしろいんだろうけども、ある種川柳さんっていう人格から離れて、その話を小せんさんがやってもおもしろくなるようなっていうことになっていけば、きっとまたやり手が「やらせてくれ!」っていう人が増えるのかもしれないけど。その戦中が軍歌で戦後がジャズっていう、その感じが今にどれだけ一般性があるかっていうと、なかなか難しいですよね?

【和田】そうですね。あとは、柳家金語楼がやっていた。

【三浦】そう、金語楼さんの話も聞きたいと思って。金語楼さんって新作の人なんですか?

【和田】両方やります。

【三浦】両方やるんですか!

【和田】ええ。

【三浦】僕はもうテレビでしか見たことがなくて。

【和田】はいはい。

【三浦】金語楼さんの落語って知らないんですけど。

【和田】僕も当然リアルタイムでは知らないですけど。ただ、幸いなことに晩年タレント活動が主だったんだけども。

【三浦】ええ。

【和田】偶に、落語をやったりもしてたんですよ。で、それの音が残っていて、やっぱりおもしろいですよ!

【三浦】ああ、そうですか。

【和田】で、自分の自叙伝みたいなことをやってる落語もあるんですけど。それと別に例えば『身投げ屋』って話があって。これなんかは金語楼さん、たぶんそれの元凶になる小話がありそうなんだけど、これは非常におもしろいです。つまり、わざと身投げをする振りをして、止めてもらうのを期待して川の上でとかっていう話なんですけどね。

【三浦】こんなしつれいなこといっちゃいけないんですけど、金語楼さんって当然真打ちなんですよね?

【和田】もちろん、もちろん。

【三浦】ですよね。桂小金治って真打ちじゃなかったとか?

【和田】小金治さんはね、途中でやめましたから。

【三浦】途中でテレビタレントになっちゃったからっていう。

【和田】そうですね。真打ちのお披露目はしてないですね。

【三浦】金語楼さんはちゃんと真打ちで、そうやって自分の新作も作りながら。

【和田】そうです。あの辺金語楼の作とか。あとは、ちょっと限定的なんだけど『英会話』っていうネタがあるんですよ。柳家金語楼の英会話。

【三浦】ここにちょっと出てますけど(笑)

【和田】これからは英語だぞ、とかいって。

【三浦】おもしろそうですね!(笑)

【和田】それはなんといったらいいんでしょう、一周回った意味ですごくおもしろいです。

【三浦】すごくおもしろそうですね。

【和田】今、古今亭寿輔さんっていう、僕がすごい好きな落語家の方がいて。その方、金語楼さんの弟子とかではないんだけど、金語楼のスクールっていうか、大きくいうとそっちの影響下にある人なんで金語楼ネタをやるんですよ。英会話を。

【三浦】金語楼さんって弟子いたんですか?

【和田】いや、いないです。そっちの系統いないんだけど、落語芸術協会っていうところにいて、金語楼のネタを皆継承したいのに連なってる人なんですよ。

【三浦】勉強会みたいな感じですかね。好きな人が集まって金語楼のネタ勉強しようぜみたいな感じですか?

【和田】……そうね。勉強会っていうほどのあれじゃなくて、許可を得てやっているみたいなものだと思うんですけど。

【三浦】やっぱり、許可がいるんですね。

【和田】近い人の場合はそうですよ。だから、例えば今「代書屋」っていうのをあれおもしろいなっていって、誰かが無断でやっちゃうのはまずいんです!

【三浦】「代書屋」もそうなんですね!

【和田】まずいです、まずいです。誰かに習うとか。

【三浦】習わなきゃいけないんですね!

【和田】立川談志が「代書屋」をやってたんだけど、あれにしたって一応形式上は春団治さんだか誰だかに許可を得ているっていってましたから。無断じゃないっていってましたから。

【三浦】なるほど、無断じゃない。だから、今いわゆる普通の古典落語のネタって誰にも許可取らなくてやりますもんね。もちろん、その一門の中で……一門の中でっていうか、落語会で「お前、そのネタやるの早すぎる」みたいなことはあるとして。そうじゃなくて、別にある日「私、落語やります!」っていってやってもいい訳ですもんね?

【和田】まあでも、古典落語も習ってやるのが原則です。

【三浦】そうか、習ってやるのが原則なんですね。

【和田】ただ、この原則っていうのがちょっとあいまいで、例えば談志さんが『黄金餅』っていうのをやってて、これは僕すごい傑作だと思うんだけど。黄金餅って基本談志さんの前の世代って志ん生さんしかやってないんですよ。

【三浦】そうですね。

【和田】で、談志さんが晩年に志ん生さんの黄金餅大好きでやって、別に習ってないっていって、めっちゃ普通にいってる訳。それは、ほんとはいけないんですよ。習ってなくてやっちゃっているから。

【三浦】でも、習い用がないですよね。亡くなってるし!

【和田】存命中だったと思うんだけど、初めてやったのは。

【三浦】そうですか!

【和田】はい。それとか小三治が『船徳』の芸談をインタビュー受けて、これは聞いて覚えてやったっていってる訳。それもダメなんですよ。聞いて覚えて船徳やるのはダメなんだけど、そこで何が分かるかっていうと、結果ちゃんとしてればいいんですよね。つまり、談志さんとか小三治さんにツッコミを入れる人いない訳ですよ!

【三浦】そうですね。

【和田】お前、何、勝手にやってんだ。っていう人がいない訳ですよ。だから、それが別に推奨される訳じゃないんだけど、結果いいみたいなことだと思うんですけど。で、新作の場合はやっぱりダメです!

【三浦】そうですよね。やっぱり、それは作家なり作った人に。

【和田】そうです、そうです。だから、英会話とか……英会話はね、これからは英語だよっていってね。家のお父さんがいってる訳ですよ。それで、その家の子供に金坊っていうのがいるんだけど。

【三浦】そこはやっぱり落語ですね!(笑)

【和田】そう。金坊が帰ってきた時に「おい、ゴールデンステッキ!」とかいって「お前は今日からゴールデンステッキだ!」とかいって、金坊(=棒)だからね。

【三浦】金坊だから(笑)

【和田】それで、お辞儀をするのも「しゃれこうべダウン!」っていうんですよ。

【三浦】なるほど、しゃれこうべダウン!(笑)

【和田】しゃれこうべダウンとかいって、全編そんな感じなんだけど。

【三浦】めちゃくちゃおもしろいじゃないですか。

【和田】そのしゃれこうべダウンっていう。

【三浦】ルー大柴よりおもしろいじゃないですか!

【和田】そう、ルー大柴的なやつですね。でも、イメージのグロテスクさとかが僕はすごいやっぱり金語楼って人の才能を感じるんですよ。言葉をルー大柴的なのを作るにしても、このチョイスでくるんだっていう。ゴールデンステッキとかしゃれこうべダウンとかって毒々しいじゃないですか?

【三浦】毒々しいです。

【和田】っていうのがおもしろくて、それから……ただ、これはいわゆる一周回ったおもしろさですよね?

【三浦】そうかもしれないですね。

【和田】あと『ラーメン屋』っていう話がありまして、これは普通にいい話。

【三浦】へえ。

【和田】金語楼の。

【三浦】人情噺なんですか?

【和田】人情噺です。この話したいですね、「ラーメン屋」っていうのはね、金語楼作である屋台のラーメン屋さんね。街角に出ているそこに客がくるんですよ。若い客が。で、お金がなくて食い逃げをしようとする。で、店の側もそれが分かる訳ですよ。「お前、金ないんだろ?」っていって、食い逃げしようとするんだけど、それでも全然驚かないで「じゃあ、いいよ。もう一杯食いなよ」みたいな感じで。で、いろいろ話を聞いてくと、非常にうまくいかなくてお金も一文無しみたいになっちゃった青年な訳ですよ。で、その老夫婦がラーメン屋やってるんだけど、そしたら「お前、手伝ってくんねえか?」っていって。

【三浦】ラーメン屋を?

【和田】ラーメンの屋台をやるのも俺ちょっとしんどいんでっていって、ちょっと手伝ってくれよっていって、いろいろあってその青年を俺たちの子供っていうことにするから。明日からも一緒にやってくんねえかっていって、そういう温情を見せる訳です。で、その青年のほうも「そんなあったかい言葉掛けられたの初めてだ」っていって擬似親子みたいになるって話なんですよ。それは、僕すごいいい話だと思っていて。

【三浦】そうですね。

【和田】で、今の五街道雲助さん。雲助師匠がこの「ラーメン屋」をおもしろいなと思ったんですね。それで、金語楼のご遺族だか権利の人がいるらしんですけど。そこにちゃんと許可を得て雲助師匠は「夜鷹そば屋」っていう題名で江戸時代の背景に直してやってる。

【三浦】ちょっと改作して?

【和田】改作して。で、ほんとはラーメン屋の屋台、街角に出ている東京の屋台なんだけど、江戸の夜鷹そば屋の屋台で江戸の片隅で職のないあぶれ者、未宿者みたいなやつがくるっていう話にしてる訳。だから、これはある意味で「ラーメン屋」以上にいいんですよ。これはすごくおもしろいと思う。

【三浦】「夜鷹そば屋」?

【和田】うん。

【三浦】雲助さん?

【和田】そう。「ラーメン屋」以上にっていっちゃうと違うかな。新たな想像がなされてるといったらいいのかな。で、これが雲助さんの価値観よく出てるなと思うのが、その「ラーメン一杯くれよ、親父さん」っていって「100円です」とかね。「もう終電だから客がこねえな」みたいな世界観じゃないほうを雲助さんはやりたい訳ですよ。

【三浦】そうですね。江戸にして?

【和田】そう。

【三浦】落語らしい世界観にしている。

【和田】そう、筋は一緒なんだけど。

【三浦】なるほど。

【和田】だから、それはすごく分かるし、さっきいった落語……歌舞伎なんかもそうなんですけど。背景と内容、実生活が分離したという歴史があるんで、どっちに寄せていくかっていうことですよね。だから、江戸のほうに寄せてる訳。雲助さんは。

【三浦】それはよさそうですね。

【和田】夜鷹そば屋はすごくいいと思いますね。あとは、なんだろうな……個々にいえば、おもしろい話ありますよね。

【三浦】金語楼さんって師匠は誰なんですか?

【和田】柳家金語楼は、いろいろ師匠が変わってると思いますけど。柳家三語楼って人がいまして。戦前のね、すごい巨人だったんだけど。その人の弟子です。だから、三語楼の『語楼』から金語楼がきている訳です。柳家金語楼、柳家三語楼。ほぼ似た名前でしょ?

【三浦】そうですね。

【和田】三語楼から金語楼にしてる訳。この三語楼って人はすごく謎めいた人で、戦前の昭和13年まで存命でいたんだけど。例えば、亡くなった五代目柳家小さん師匠は、自分が客で聞いていた時に「ほんとにおもしろかったのは三語楼だ」っていってるんですよ。

【三浦】そうですか。

【和田】あとは、うちの師匠も好きだったっていってた。四代目小さんね。うちの師匠も好きだったけど、客受けもあるし、ギャグとかもおもしろかったのは三語楼さんだなっていって、ていうぐらい、五代目小さんはおもしろかったっていう訳。だけど、当時の例えば新聞とかには邪道って書いてあったりもするんですよ。邪道落語みたいな。

【三浦】そうなんですか!

【和田】で、例えば明治だか大正のころに、英語入りの落語やってたんです。

【三浦】おお、それは新作っぽいですね!

【和田】そう。ある種、破壊みたいなこともしていたらしいのね。逆に、おもしろいのは柳家三語楼って人は弟子が何人もいたんだけど、その弟子っていうのが今いった柳家金語楼、古今亭志ん生。志ん生が当時金語楼の弟子の時。

【三浦】そんなことがあったんですね?

【和田】あったんです。それから、初代柳家権太楼、柳家三亀松。

【三浦】すごいですね。

【和田】すごいメンバーなんですよ。だから、この4人がいるってことは、この4人の師匠だからすごくない訳ないんですよ!

【三浦】そうですね。

【和田】どう考えてもすごいんですよ。この4人を出してる訳だから。で、皆当時を見てた人がいうのは、志ん生さんのギャグって『寝床』とかでね。北海道に行っちゃったとかそういうのあるんだけど、あれは三語楼がやってたんです。

【三浦】なるほど。

【和田】三語楼のをめちゃくちゃ取ってるっていうふうにいわれてて、っていうような人ですね。金語楼はそのモダンセンスをすごい継いだ訳ですよ。

【三浦】英語入れたりとかそういう?

【和田】英語入れたりとか、それがだから英会話とかにも繋がってたのかもしれないし。ちょっとよく分かんないですけど。

【三浦】三語楼って名前ってそういえば今の小さんが一時三語楼でしたよね?

【和田】そうですよ。だから、つまり五代目小さんは客でいた時に三語楼めちゃくちゃおもしろかった訳。だから、そのすばらしい名前を自分の子供につけた。

【三浦】つけたんだ!

【和田】自分の子供につけたの。だから、三語楼さんはほんとは僕にいわせると、三語楼はものすごいいい名前だから。改めて小さんになんなくてもいいのになって。

【三浦】そうですよね。

【和田】という気もするんですよ。でも、小さんになったんだけど。っていうぐらいすごい巨人ですね。

【三浦】巨人なんですね。

【和田】談志さんも晩年に「三語楼っていうのはすごい重要人物だと思う」って。ただ、データがないんでよく分かんないけどっていって。

【三浦】もちろん、聞いちゃいない訳ですもんね?

【和田】残念ながら聞いてないんですよね。ただ、志ん生とか権太楼のを考えていくと、三語楼がどう考えてもルーツだと思うっていってますね。

【三浦】それは、何か書いたものを当たることはできるんですか?

【和田】できますけども、これも非常におもしろいんだけど、三語楼っていっぱい伝説が残ってるんですよ。で、SPレコードはとても少ないんです。とても少ないの。だから、これは本人が出す意思がなかったのか、当時のプロデューサーとかが選ばなかったのかよく分かんないんですけど。SPレコードは時期的には普通にあっていい時期なんですよ。

【三浦】ラジオとかはあった訳ですもんね?

【和田】うん。なので、昭和10年代っていったらSPレコード普通にありますから。

【三浦】そうか、録音されてても不思議はない?

【和田】不思議はないです。三語楼は謎めいた人なんだよなー。それで、志ん朝は美濃部強次って名前なんですよ、本名が。

【三浦】そうですよね、美濃部ですもんね。

【和田】志ん生さんが子供生まれた時に、これもやっぱりすごい話なんだけど、三語楼さんにうちに子供が生まれましたっていって、名前つけてくださいって頼んだんですよ。

【三浦】そうなんですか!

【和田】そしたら、三語楼さんが陸軍記念日だったんだけど、強い次で……戦時中だったってこと関係あるかもしれないけど。強次っていうのをつけて、だから名付け親なの!

【三浦】そうなんですか。志ん朝の?

【和田】志ん朝の。それもだからすごかったことを示唆してる訳ですよ!

【三浦】そうですね。

【和田】志ん生さんが名付け親に頼んじゃうんだから。自分の子供生まれましたっていって。

【三浦】なんで自分でつけなかったんですかね?

【和田】ほんとですよね。でも、そのぐらい尊敬してたんでしょ、三語楼さんのこと。

【三浦】そうですね。じゃあ、馬生師匠の名前は自分でつけたんですかね?

【和田】でしょうね。馬生師匠さんは清だからめちゃくちゃ普通ですね。

【三浦】普通の名前(笑)

【和田】美濃部清……美濃部清と美濃部強次ってけっこう違うから。

【三浦】似てますね。清と強次って。

【和田】ああ、いわれてみればそうかもしれませんね。

【三浦】三語楼さん、ちょっと興味ありますね。

【和田】僕はね、話を戻すと、やっぱり雲助さんみたいな……僕もそっちにやや近いんですよ。だから、完全なる現代物でなんだろうな、スマホが鳴って「ああ、呼び出し掛かっちゃったよ」みたいなのよりは、昔の背景のほうが落語には合致してるんじゃないかなと思う。

【三浦】落語の世界観、風情はありますよね。

【和田】と思うんですよね。

【三浦】どうしても圓丈さんとか、けっこういろんな人今やったり、喬太郎さんやったりするじゃないですか。おもしろいんだけど、果たしてこれ今後どうなってくのかなと思ったり。もうすでに古くなってたりする話もありますもんね?

【和田】まあね。それはだから、新作……要するに、今80年代のコントとかを見たら、トレンディードラマを見たら今じゃない訳ですよ。

【三浦】そうですね。

【和田】じゃないですから。

【三浦】一番、古さを感じるぐらいなことなのかもしれないですね。

【和田】逆にね。それはありますよね。だから、僕は喬太郎師匠よりも先輩になって、圓丈さんよりはちょっと後輩の落語家がいて。その人って新作の人なんですよ。その人の寄席にいくと、偶にぶつかることがあって聞いてると、出てくる女の人が「ラッキー」とかいうんですよ。

【三浦】今、いわないですね(笑)

【和田】ラッキー、ポッキーとかいうギャグがあるんだけど。それは、僕にいわせると寒い。僕の好みですよ、それはね。

【三浦】それってけっこうありますね、寄席で。

【和田】あるでしょ?

【三浦】あります。あ、これ寒いわ、っていうのありますね。

【和田】で、わざと80年代のノリをやってるんならある種いいけども。

【三浦】わざとじゃないですよね?

【和田】たぶん、アップデートされてないだけなんですよ。

【三浦】ええ、そうですよね。

【和田】だから、そこが寄席っぽいちゃ寄席っぽいんだけど。

【三浦】それも寄席の良さではあるのかもしれないですけど。

【和田】でも、それを見せられた時に、すごい古びてる感じは正直するんですよ。

【三浦】進歩ないなって感じですよね?

【和田】うん。だから、今の素で例えばワンレングスの人が出てきたんですね。平野ノラならいいですよ!

【三浦】ええ。

【和田】平野ノラはネタとしてやってる訳だから、その違いってあるじゃないですか?

【三浦】本気でやってるのとね。

【和田】そうそう。っていうのは、新作落語の……

【三浦】しょってるものかもしれないですね?

【和田】しょってるものですね。

【三浦】古典落語は別にないですもんね。もう世界観できてるし。

【和田】厳密にいうとあるんだけど、見えにくいですよね。

【三浦】それに対して別に「なんで、そんな古い話してんだよ?」って難癖つける人いないですもんね?

【和田】そうです。

【三浦】吉原なんかないだろっていう人いないですもんね。

【和田】これはですね、聞いてる人に意識してほしいことがあって。古典落語ね、いわゆる江戸とか明治を背景にした古典落語ってあるじゃないですか。『居残り佐平次』とか『替り目』とかああいうもの。あれも実は演技内容は現代版になってなくちゃいけないんですよ。

【三浦】なるほど。

【和田】それはどういうことかというとですね、例えばこれは談志師匠がしゃべっていて僕はすごく頷いたんだけど、酔っぱらいの演技っていうのが昔の落語のレコードとか、映画とかもそうなんですけど。昔の酔っぱらいっていうのは「なんとかなんとか持てこい、べらぼうめ! 冗談じゃねえ」っていう、一つの型があるんですよ。

【三浦】型が。

【和田】うん。だけど、談志師匠がいっていたのは「今、こういう酔っぱらいはいない!」と。「世の中にこういう感じでくだ巻いてるやついない」っていって。だから、酔っぱらいの演技は今は俺はこうやってるんだっていって。だから、アップデートバージョンな訳。

【三浦】酔っぱらいのアップデートバージョン!

【和田】そう。つまり、今くだ巻いてるやつが「てやんでえ、べらぼうめ!」っていった時に、すごくずれが出ちゃう。

【三浦】そういう酔っぱらい、確かに、いないかもしれない。

【和田】そう。これなんかはすごいおもしろい考え方だなと思って。別の考え方をするならば、これ明治時代だから昔の酔っぱらいスタイルでいいじゃん。っていってもいい訳でしょ。だけど、そうじゃなくて聞いてる人のリアリティが大事なんだって彼はいう訳。僕も確かにそうだと思うんですよ。それから、談志師匠がいってたのは、談志さんがある時期まで『芝浜』の女房が最後にいろいろ五十両を隠してたって話をしたあとに、「捨てないで。私のこと捨てないで、お前さん」ってセリフを入れていた訳。だけど、これはたぶん堀井憲一郎さんが雑誌にここのセリフピックアップしたことがあるんだけど、それが影響してると思うんだけど。談志師匠が晩年に僕に会った時に、「今は捨てないでっていう女の人いない」と。

【三浦】そうかもしれないですね。

【和田】うん。「捨てないで」って70年代とかだったらいうかもしれないけど。今いないっていって、そこのセリフやめて「私と別れないで。お前さんのことが好きなんだから」っていうのに変えたんですよ。それは、僕はすごいおもしろい話だと思ってて、だから器は芝浜なんだけど、そこの男女の会話はちゃんとアップデートされなきゃいかんっていう話な訳。

【三浦】はい。

【和田】で、それは僕も頷けるんですよ。それは底本がない落語の良さだと思うんで。

【三浦】そうですね。そこ変えてもいい訳ですもんね?

【和田】変えてもいい訳です。それは、すごいおもしろいなと思って。

【三浦】なるほど。

【和田】ちなみに、堀井憲一郎さんはその時の話で、「分かれないで」っていう女の人に私は会った……「捨てないで」っていう女の人に私は会ったことがない。って彼は書いてるんですよ。だから、要するに今の時代にいないだろう。という指摘をしてるんですよ。それをたぶん談志さんは読んだんじゃないかなと思ってんだけど。

【三浦】そう思ったんでしょうね?

【和田】そう。

【三浦】気付いたんですね。

【和田】だから、ある時期まではそれを、ナチュラルにやってた訳。それとかね、『権助提灯』って話があるんだけど、それは本妻さんがいて、お妾さんがいて。権助って下男が提灯を持って往復するって話なんだけど、その時の本妻さんのセリフとかがほんとになんていったらいいのかな……? 昔の昭和のドラマみたいな感じなんですよ。「なんとかざます」とはいわないんだけど、「あの子のはちゃんとしてやんなきゃいけないと私はもう分かってるんです」みたいな、ちょっとうまくマネできませんけど。なんていったらいいか、これは談志さんが手がけた時のリアリティなんだろうなと思って。

【三浦】ああ、なるほど。

【和田】語尾とかも「今の感覚だとこうじゃないよね?」っていう。あれに関してはアップデートしなかったんですよ、談志さん。

【三浦】権助提灯?

【和田】うん。

【三浦】あれ、権助提灯って旦那が結局それでどうしたんでしたっけ?

【和田】両方どっちにも行けない。

【三浦】両方どっちにも行けないって話ですよね。たらい回しにあって。

【和田】そうそう。

【三浦】まあまあ、あなた行ってらっしゃいってなって。こっちは奥様のところへっていってって話ですよね?

【和田】うん。

【三浦】今、そういうことがないですもんね?

【和田】そうですね。設定自体がね。

【三浦】でも、全然聞いたら普通にさもありなんで聞けますもんね?

【和田】そうですね。

【三浦】その話は。ちょっと今の新作の人たちの話になるんですけど、例えば白鳥さんの『任侠流山動物園』っていうような話を三三さんがやったりするんですけど。

【和田】そうみたいですね。

【三浦】そういうのっていうのは、やっぱり三三さんとしてはこれがおもしろいからやるってことなんでしょうかね?

【和田】当然、そうでしょうね。

【三浦】本人に聞いたほうがいいんでしょうけど(笑) 確かに、白鳥さんのって白鳥さん本人よりも他の人がやったほうがおもしろい場合がありますね。

【和田】ありますね。だから、『鉄砲のお熊』っていう話を一年ぐらい前によみうり落語会っていうのがあって、そこで雲助師匠がやったんですって!

【三浦】え、ほんとですか!

【和田】それは、企画公演で白鳥作品を皆でやっちゃうよみたいな企画で。

【三浦】それはおもしろいですね!

【和田】そしたら雲助師匠が……あれってなんか相撲取りが絡むやつだったと思うんだけど。

【三浦】だったかもしれないですね。

【和田】ものすごい型とかもちゃんとしてて、めちゃくちゃいいできだったっていう噂を聞いて、むしろ御本家以上にものすごいすばらしい作品になってたというですね。ありうるなと。

【三浦】演者によって命がまた吹き込まれるんですね。でも、それは元々白鳥さんのちゃんとしたプロットなり、そういうことがきちっとできてるっていうことなんですかね?

【和田】そうでしょうね。白鳥さんってある種、講談っぽいっていうか、こうなってこうなってっていう筋みたいなのめっちゃ作る人なんで、むしろ過剰なくらい。こんなに転回しなくてもいいだろうってぐらいやる人だから。いろんな取り組みがいはあるかもしれない。

【三浦】例えば、暫定的に素話ってことでいうと、白鳥さんってむしろかっちり自分の作風というか、そういうのを持っていて。今後、残っていく可能性があるんじゃないかっていう気はするんですけどね。白鳥作品って。

【和田】そうですね。具体的にいうと、何が残るんだろうな? 彼の中で。「流山動物園」とかかな。

【三浦】「流山動物園」とかけっこうおもしろいなと思いますし。

【和田】はい。

【三浦】慣れちゃえばおもしろいなって。

【和田】いわゆる純粋な新作といっていいかどうか分からないんですけど。

◇◇◇
 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

このたびは、ご依頼いただきまして、誠にありがとうございます! 起こしを担当しました佐藤です。まず、自分が学生時代に芸術鑑賞会で聞いた落語は古典落語だったんだ! ということを今更知りました。当時は、落語家さんの語りにただただ圧倒されたことと、落語という大きな括りでしか捉えられていませんでした。今回古典と新作の落語があるという、基本的なことを知ることができてとても勉強になりました。そして、お話の中でも出ていた「英会話」のように、あまり背景に囚われず、全く知らなくても親しみやすそうな落語があるということで(概要を聞いているだけでもくすっときたり、お話の流れはどんななのかなと詳しく検索掛けてみたり)、入りやすそうなところからいろいろ調べてみたいなと思いました!またのご利用お待ちしています。


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