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【PODCAST書き起こし】オフィスコットーネの綿貫 凜さんへ演劇人生について聞いてみた(全7回)その4 オフィスコットーネ プロデュース公演の始まり

【PODCAST書き起こし】オフィスコットーネの綿貫 凜さんへ演劇人生について聞いてみた(全7回)その4 オフィスコットーネ プロデュース公演の始まり

【綿貫】今おっしゃったみたいに、はっきりオフィスコットーネプロデュースというふうにチラシに最初に書いたのは2009年だったと思います。

【山下】2009年にオフィスコットーネプロデュースと。
【綿貫】そこまでは合同とか○○劇団+オフィスコットーネとか、何か単独ではないというかたちなのですけど。明らかに自分の中の認識として、そういう名前で始めたというのはあります。あと、自分でやはり、違う名前のユニットを作って演出家と活動をしたりそういうのも。すぐに消えた団体もありますけれど、作ってすぐになくなったとかだから作っては壊し。いろいろな出会いと別れがありました。
【山下】赤色エレジーとかが?
【綿貫】そこも一過性に作って。でも3回で終わってしまったのですけど。そこはユニット名だったと思うのですよね。ナッターという。
【山下】プロジェクト ナッターですね。最初の2009年のプロデュースは何て言う作品でされたのですか?
【綿貫】なんだろう……?
【山下】ここではないのですか?
【綿貫】それは合同公演ですね。だから、赤色エレジーがプロジェクト ナッターではあるのですけど、正式に船出をしたところかもしれないですね。認識としては。自分で全部、役者さんに一から声を掛けて作品も選んで。
【山下】それはプロデュースですね。まさに。
【綿貫】でも1人で全部仕切ったのはそれが初めてかもしれないですね。いつも誰かと一緒に、作家と一緒に演出家と一緒に、劇団と一緒にその劇団、ユニットを生かすのに+αオフィスコットーネみたいなことなのですけれど。
【山下】では、いきなり「スズナリ」デビューなのですね? これを見ますと。
【綿貫】そうですね。
【山下】エレジーは演出は誰だったのですか。
【綿貫】ドイツ人の演出家ピーター・ゲスナー。
【山下】赤色エレジーって昔の……
【綿貫】別役さんのです。
【山下】別役実さんの本を探してきてゲスナーさんに演出をやらないかと話をしてセッティングしたということですか。
【綿貫】赤色エレジーはもう、だいぶ前に読んだことがあったので面白い本だなと思ったことがあったのですけど、いくつかセレクトがあって、これを日本人ではない人がやったらどういう感じになるかなというのもあって。赤色エレジーは私がやるまでほとんど上映されていないんですよ。
【山下】僕も1回も見たことがないです。
【綿貫】かなり難しいと思うのです。人数も多く出ていて、みんな1シーンしか出ていないので。
【山下】いやー。大変ですね。
【綿貫】そう。劇団、文学座に確か書き下ろしていて。
【山下】ああいうところだと俳優の層が厚い。
【谷】いっぱいいますものね。
【綿貫】劇団はやはり、たくさん俳優を出さなければいけないということがあるので、プロデュースだとやはり1シーンしか出ていなくて、通りすがるおやじのシーンがあるのですよ。通りすがるだけ。
【山下】厳しいな、それ。
【谷】別役さんらしいわ(笑)。
【綿貫】でも頼みましたけどね。
【山下】それは、しようがないですよね。記録に指定があるから。
【綿貫】すごい役者さんに頼んで「ぜひ、後ろ姿で芝居をしてください」とか言って(笑)認識としてはもう、それがすごく。何でかと言うと、そのときに初めてチラシで。普通は作・演出しか名前を載せないではないですか。でも、そのときに作・演出プロデューサーというふうに。
【山下】ああ。本当だ。
【綿貫】おこがましく、また。本当に何を勘違いしたのか別役さんの隣に名前を載せてしまうという。
【山下】演出プロデューサー綿貫凜という名前が出ています。
【山下】入っていますね。
【綿貫】なんか本当に……勘違いって怖いですね。本当に(笑)。
【山下】でもプロデュースをしているわけですから。基本的にはお金のリスクも多少は背負っていらっしゃるわけですよね。それはもうプロデューサーではないですか。
【綿貫】プロデューサーという仕事の範囲とか、やっていること自体がよく分かっていなかったのです。いわゆる現場制作と企画、経営というものがプロデューサーという言葉にどういう責任があるのか。割と多かった。後半にすごく出てきたのが受付だけ請け負うとか。そのあと、ここ10年くらい経ったら当日運営みたいなかたちで。
【山下】最近よく、そういうふうにクレジットされていますね。
【綿貫】すごく制作は仕事の範囲が広くて。どこの分野なのだということなのですけど。
【山下】弁当の手配からありますね。
【綿貫】企画とか経営とか。
【山下】経営もプロデューサーですからね。
【綿貫】でも、それをはっきり認識して。それに対して責任をどう取っていけばいいのかなと思ったわけです。つまり、逃げられたら、逃げられやすいかなと。少し引き気味にすれば誰がやっているか分からないという何となく、責任の所在が総合芸術だけにあって。割と責任の所在が明らかにならないところがあったりするのです。
【山下】作、演出は別にして。
【綿貫】別に作、演出ははっきりしていますよね。本があって、それを演出しているということなのですけどプロデューサーの責任というのは何なんだろう、どうなのだろうと考えたときにやはり、名前を出して、要するに核となる。原子という中の位置づけたときに芸術的な責任。もちろん、経済的な責任は。そのイメージのほうがたぶん強いと思うのですけど。
【山下】いいえ、それだけではない。
【綿貫】もっと作品の質とか核となるところの責任を担っていきたいなと思ったので、そこから自分が逃げないように。何か足かせを付けるような感じで名前を出したらいいのではないかなと。それも正直言って思いつきですよね。ほかにやっていないから。じゃ、やろう! と思って。結構、最初はからかわれました。すごく何人かは。「名前をこんなところに書くなんて、おこがましい」とか。
【谷】チラシにですね。
【綿貫】そうですね。
【山下】そのころは、そうだったのかもしれないな。今は割とプロデュースというものがすごく大事だとようやく分かる。
【綿貫】何かいろいろな分野でようやく、認められてきましたよね。
【山下】僕らも「プロデューサーって何をやっているの?」とよく聞かれますけどね。「いや、営業部長です」とか言っていたのですけど(笑)。
【綿貫】「宴会部長です」とか。
【山下】でも本当は先ほど綿貫さんが言っていたみたいに、やはり核となる企画とかクオリティの。そこのところの責任を、やはりお金と共に担う人だと。経営者もそういうところがあるのだけど。
【綿貫】経営者の場合はどちらかというと、お金の責任のほうが大きいと思うのです。
【山下】でもステークフォルダの幸せも含めてだと思うのです。だから、それは似ていると思うの。
【綿貫】やったからには支払いを当然しなければいけないのですけど、公演は出来ていないものを売らなければいけないではないですか。
【山下】そうですよねえ。
【綿貫】そうなのですよ。
【山下】まだ何も商品できていない。
【綿貫】まだ何も商品ができていないですから。
【山下】チラシだけできましたという話でね。
【綿貫】売らなければいけなくて。何もないものを。普通だったらできた物を店に並べるわけなのだけど。棚に紙が貼ってあって「こういう商品ができあがります」みたいなものを売らなければいけない難しさとか。実際、私なんかは資金がないので個人でやっていたので。だから赤字があったときとか…資金繰りですよね。それがやはり、かなり厳しいということもこのあと、現実として身体に。あとから気がつくのです。そういうこともね。
【山下】いやいや、それはやってみないと分からないところがある。あと支払いサイトとかいろいろ。劇場は借りるときには先にお金を払うのですか?
【綿貫】予約金。
【山下】(予約金)だけを払って。終わってから払う?
【綿貫】楽日に払うところがほとんどなのと、初日に全額を払うこともあります。
【山下】ということは楽日までのキャッシュが厳しくなってしまうこともある?
【綿貫】厳しいですから。それも含めての資金繰りですよね。
【山下】出演者とかスタッフは終わってから払う?
【綿貫】あとからですね。ただ、いろいろ助成金とかができれば。
【山下】それは事前に申請するのですよね?
【綿貫】(事前に)申請をして。あとはスポンサーとか、それ以外にいろいろ助けてくれる人も周りにいたので個人的に有ししてくれる人とかもいたので何とかしたのですけど。やはり、もともとそんなに資金がないのです。貯金があるわけでもないし、自分の生活もあるので。やはり、その現実というか生活の基盤というものを何も考えずに。結構そのあと、やはり苦労したのです。もう少し資金を貯めてからやるとか考えをしっかりして、計画をしっかりしてから普通はたぶん、やるのでしょうけど。それを考えずにスタートしてしまったのです。
【山下】それで、この30年近く続けてこられたというすごさが逆に、ひしひしと伝わってきます。大変なこともあったのだろうなと思いました。
【綿貫】現に深さを確認しないで「あ、大丈夫だ」ボン!! みたいな。「ふぉ、溺れる!」みたいな。そうしたら誰かがロープを投げてくれて。「もおー」って言いながら引き上げてくれて。
【山下】「もおー」と言ってくれる人がいてよかったですね。
【綿貫】まあ、いた! いるのですよ。何人か。
【山下】いるんだ。
【綿貫】そういう、すてきな周り。
【山下】すばらしいですね!
【綿貫】周りの方がやはりすばらしいのだと思います。
【谷】それは、だけど綿貫さんの人徳なのではないですか。
【山下】そうですね!
【綿貫】いや、迷惑かけまくりですよね。本当に。
【山下】それは、でも助けようと思える人だから。
【谷】助けたいと思う人がいるということではないですか。
【山下】本当そう思いますよ。
【綿貫】「しようがないな」という感じなのではないですかね。
【山下】でも、それはそれで。
【谷】助けたいなっていう感じなんだ。
【山下】「しようがないな」という人を周りに置くことの才能ということかもしれない。
【綿貫】そうなのですかねえ。
【山下】それはある。
【綿貫】本当にもう、思いますけどね。深さ、図ってやろうよって。思うのですけど。
【山下】その思い切りの良さが、他の人がやらないようなプロデュースにつながっているのかもしれませんよ?
【綿貫】それもちょっと最近、気がついたのですけど「あ、やはり、もしかしたらバカじゃないとできないかもな」って。深さが分かったら飛び込めなくなってしまうという。
【山下】だから本当に石橋を叩きすぎる人は挑戦できなくなってしまう。
【綿貫】なんかバカだからこそ、飛び込める。飛び込んでみて、あとは何とかなるという。
【山下】いい意味で演劇バカ。
【綿貫】ただ、やはり周りを巻き込んでいくし。
【山下】それは、しようがないです。プロデュースとはそういうことだから。
【綿貫】金銭的なことでやはり、周りに迷惑をかけることも多かったので。そこだけですね。やはり私が欠けているというか、少し足りないところは。
【山下】でも持続はされているわけですから。
この前、落語会を主催している加藤さんという人にきてもらったのですけど、その人が「公演は赤字は絶対にある」と。「10勝0敗は無理だけど6勝4敗で勝ち越していけば何とか生きていけるよね」とおっしゃっていて。その話を聞いてなるほどなと思ったのです。
【綿貫】おー。6勝4敗。
【山下】そう。「とにかく利益が少しでも出ていれば年間で。次の講演にはつながるから。生きていけるし、みんな幸せだよね」という話をされていました。それを僕もえー! と思って。
もしかしたら綿貫さんも、そういうギリギリのところでうまく、少しずつ持続可能にされているのかなと思って。
【綿貫】そうですねえ……。
【山下】だから決して儲かっていない、損をされるお仕事もあるでしょう?
【綿貫】ありますね。本当に。
【山下】でも、そうではないものとプラマイで少しずつ持続可能にされているのかなと。
【綿貫】でも、どん底になったことは2回くらいありますけどね。本当に、本当に……どん底という。
【山下】それは今回のコロナもですけど、東日本大震災とか?
【綿貫】全然、関係ないです。演目が当たらなかっただけですよ。当たると思ってやったら全然、当たらなかったという。
【山下】そこはもう、やってみないと分からないという感じですか? 当たるもの、当たらないものというのは。
【綿貫】やはり作りながら徐々に感覚として、何かツボを。粘土を捏ねてツボを触りながら形を整えているみたいなところから。でも実際、薬液を付けて釜に入れるけれど、それが一体どんな色に上がるかというのは上がってみないと分からないというところまで含めてかなり不安定なのですよね。ただ1個、1個やはり手で、感覚で、確認をしながら物を作っているので。
【山下】そこは自分の手の感覚を信じていらっしゃるということ?
【綿貫】やはり自分の感覚を信じています。
【山下】でも、それで「いけるかな」と思ったけど、なんかお客さんが入らないということがあるということ?
【綿貫】ありますね。
【山下】でも割とたくさん見ている人、演劇ファンの人は「これ、よかったね」とおっしゃっているということもある?
【綿貫】何か自分では面白いのですけど、自分ですごく、これはよかったなと思う作品はあまり、お客さんに評価されないという。
【山下】難しいですねえ。
【綿貫】「もう、これは最高によかったぞ。最高な作品だったな」と「いやー。本当にもう、よかったなあ」と思う作品はあまり評価されないというのもあるし逆に「これは、どうだったかなあ……」と少し反省とか顧みてしまうもののほうが後々「あの作品は本当によかったよ」とあって。逆に賞をいただいたりすることもあるので、客観性みたいなものが何か違うなというのはあります。

-------ここまで
テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)

担当は、松田昌美(まつだ まさみ)でした!
いつもご依頼ありがとうございます!!
綿貫さんがおっしゃっていた「もう、これは最高によかったぞ。最高な作品だったな」と「いやー。本当にもう、よかったなあ」と思う作品はあまり評価されないというのもあるし逆に「これは、どうだったかなあ……」と少し反省とか顧みてしまうもののほうが後々「あの作品は本当によかったよ」とあって。逆に賞をいただいたりすることもあるので、客観性みたいなものが何か違うなというのはあります。」というお話。職種は違うのですが、ブラインドライター(反訳業)をしている私も、この感覚がよく分かります。思わず、文字起こしの作業をしながら「それ! むっちゃあることだよね! 分かる~!」と頷いてしまいました。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします!!

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