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【PODCAST書き下ろし】谷さんの観劇日記2021年8月(全2回)その2

【山下】これから折り返しますが、5本目。またこまばアゴラ劇場で、ムニ『カメラ・ラブズ・ミー!』より『須磨浦旅行譚』。須磨は神戸の近くの須磨かな?

【谷】はい。ポップでお洒落な感じのちらしなんですね。『カノン』の最初に行く日が取れなかったんで、最初は行く予定なかったんですけど、急遽取った作品なんですね。

【山下】なるほど。これ、『須磨浦旅行譚』のあとに『回る顔』、『真昼森を抜ける』というのもあるんですか?

【谷】同時上演で、この『回る顔』と『真昼森を抜ける』というのが2本立てでやって、その他は『須磨浦~』をやって。僕は『須磨浦~』を。

【山下】ああ、そういうことか。で、谷さんは『須磨浦~』だったんだ。

【谷】そうです。宮崎玲奈さん、青年団の。「ムニ」って今は名乗ってるんですけど、無隣館にいたんじゃないかな。これまでにカメラが登場する作品3作品を今回選んでやった。

【山下】そういうふうに決めたんですね。

【谷】宮崎さん自身は作品の再演は初めてらしくて、もうあまり残っていないので、戯曲を頼りにリクリエーションしたようです。

【山下】どんな話だったんですか?

【谷】兵庫県の須磨浦地区を旅行する女性二人、それとヒッチハイカーの……須磨浦が実家らしいんですけど、その人は乗せてもらって、女の子たちが運転してるという、ロードムービー的な話なんです。

【山下】ああ、『ドライブ・マイ・カー』みたいな。映画、すごく良かったですよ。

【谷】僕、そっちの中身はよく分かっていないんですけど。役者の距離感……本当に美術が何もないんですよね。動きと照明で見せる作品で、役者の距離感とか日常会話的なせりふを、しかもわざとなんですけど、リフレインでやってくるという作品で。宮崎さんはまだ若いんですよね。19年に明治大学を卒業時に製作して学校で上演したそうなんです。1時間の作品です。この冬に、今度は春風舎で新作をやるようで楽しみです。

【山下】はい、楽しみですね。これ、豊岡演劇祭に行く予定だったんだけど……。

【谷】行く予定だったんですよ。

【山下】これ、無くなったんですよね。残念ですよね。

【谷】無くなりました。それで、一応持ってきました。これが豊岡演劇祭の……。

【山下】今年も行けそうで行けなかったのがとても残念な……。

【谷】去年は第1回だったのかな。0回があって1回があって、今回2回目だったんですけど、今回がそういう意味では1番大きくしてやる予定だったんですけど。

【山下】来年こそはですね、本当に。

【谷】なかなか良かったんですけどね。さすがに移動させるのがまずいっていうことですから。

【山下】県外移動ね。

【谷】ちょうど今やって……9日だからまだか。

【山下】そうですね。今週の木曜日からって感じですね。来年はぜひ豊岡へ行きますので、宜しくお願いします。ということで、ムニ『カメラ・ラブズ・ミー!』。「ムニ」っていうのが劇団名か。

【谷】一人劇団ですね。

【山下】はい。6番目がティーファクトリーの『4』という、あうるすぽっとでやった作品ですけど、これはどんな?
【谷】これは再演なんですけど、川村毅さん、ご存じです?

【山下】知ってます。この渋い顔の人ですね。白髪の。

【谷】お隣が小林隆さん。

【山下】俳優の小林隆さんですね。川村毅はティーファクトリーですね。ティーファクトリーをやる前は別の劇団名だったんですけど。(※「第三エロチカ」)

【谷】ああ、そうですか。これも去年上演予定だったんですけど、延期してやって。死刑制度をテーマにした劇で。再演なんですけど、2012年に白井晃さんが演出して高橋一生さんが主演されたやつで。

【山下】へえ、すごいですね。

【谷】この作品で川村さんは、鶴屋南北戯曲賞を受賞されています。これ、ちょっと変わった作品で、死刑制度の話なんですね。男が5人いるんですけど、出るのは4人なんですね。裁判員と、死刑執行人と、死刑囚と、法務大臣。役柄を入れ替わって死刑制度についてモノローグのかたちで……だから会話じゃないんですよ。

【山下】役柄が入れ替わるんですよね。ということはモノローグで、でもこれ俳優さんが5人いて……。

【谷】くじをひいてやるんです。

【山下】えっ、じゃあ即興でやるんですか?

【谷】いいえ、違いますね。あれはデキレースだと思います。

【山下】じゃあ一応脚本として書いてある。

【谷】そうです。それでやって、1回終わるじゃないですか。それで2回目をやって途中で終わるっていうかたち。だから、最初小林隆さんが全然出てこないからおかしな作品だなあ、と思っていたんですよ。ただ亡くなった死体だけ引きずってる役で「これおんなじギャラかなあ」とか思っていたんですけどね。そしたらなんと2本目では準主役、主役級でしゃべり出す、という作品で。

【山下】へえ、変わった構成なんですね。

【谷】それでこの日はたまたまポストトークがありまして、過去に演出をされた白井晃さんと川村さんだったんですけど、海外での上演ですね……この作品、結構外に行っているんですよね。ニューヨークとかデンマークとかソウルなどでいろいろとやってきた歴史が語られていて。また死刑制度自体についても触れられていました。

【山下】死刑制度自体の是非についてですね。

【谷】はい。「死刑」って、言葉ではありますけれど、自分もあんまり意識したことがなかったんですけど、現実的には欧州ではほぼなくなっているんですって。だからこの間が、その意味では、元号が変わる前に「平成の掃除」って言ってましたけどね。

【山下】言い方がちょっとあれですけど。松本智津夫さんとかが死刑になりましたよね。

【谷】はい、それに関していろいろ考えさせられましたね。川村さん自身はこの作品……数字の4って書くんですけど、「フォー」でも「よん」でも「し」でもいいらしいんですよね。

【山下】ああ、なるほどねえ。

【谷】だから限定してない。ぼくもちょっと調べたら、現在……いつ現在か分からないけど、日本の死刑囚って113人ぐらい。もちろん執行停止の人とか再審請求中の人もいますけど、拘置所に113人の方がいるということだそうです。いろいろと考えさせられる作品です。

【山下】死刑制度は、森達也さんなどもいろいろとずっと書かれてますけど。これの是非を語り続けるというのは、とっても意義のある。 見に行けて良かったですね。

【谷】はい、これはお薦めしたかったんです。ちょっと期間が短かったんですよね。1週間くらいしか。

【山下】本当ですね。という、ティーファクトリーの『4』でした。続いて7番と8番は一緒でいいですね。DULL-COLORED POP『丘の上、ねむのき産婦人科』AバージョンとBバージョンです。これがちらしですね。

【谷】はい、丘の上にある病院ですけども。DULL-COLORED POPの主宰の谷賢一さんが。

【山下】今しゃべっている人も谷さんです。

【山下】はい、そうです。この人は『福島三部作』で有名になっちゃったんですけど。岸田國士戯曲賞と鶴屋南北戯曲賞をダブル受賞して。

【山下】すばらしいですね。

【谷】明治(大学)を出られて、海外でも学んで、英語も堪能なんですね。翻訳などもやられてる。日英の演劇学を基本にしてやってらっしゃいます。今回は産婦人科ということで、妊娠、出産、不妊と中絶について、産婦人科を訪れる7組の男女の……。

【山下】色々なケースがあるわけですね。

【谷】そうですね。基本は二人芝居で、それが7場あるという感じですね。

【山下】そっか、男女で。

【谷】そこで生々しい本音が出て。これ自体は30人ぐらいの体験を聞き取ってオムニバス風に仕立てたということで。そしてテーマは、「自分と異なる性(sex)/生(born)を想像する」ということで、それに基づいて、男女を入れ替えてAバージョン、Bバージョンという2バージョンでやった。

【山下】あ、そうか。ぼくは普通のバージョンを観たんだ。ぼくも観たんですけど、男女が入れ替わっていないやつを観たんです。

【谷】そうですね。Aバージョンは普通に男が男、女が女を……。
【山下】ですよね。両方観てどうでした? 印象変わりました?

【谷】うーん、結構……。この流れでちょっとしゃべっていきますけど……「論座」ってご存じですか?

【山下】分かんない。

【谷】朝日新聞の言論サイトがあるんですけど。それと、両方観た人の特典でもらったんですけど、谷賢一さんいわく「役と俳優の性別を入れ替えると、男性が演じる女役は、ヒステリックで、感情的で、情緒不安定になる。女性が演じる男役は、軽薄で無責任。それはそれぞれの相手方をコピーしていた」ということを分析で語っているんですね。

【山下】へえ、おもしろいねえ。

【谷】それで「論座」に明確に書かれているんですけど、「女性が女性を演じる際に、その年齢や地位の上下関係を繊細に感じ取り、自然と愛想笑いを入れたり、少し冗談めかしたり、なにかしら気遣いや気配りをしながら話していた」と。それを男がやるとすぐにはできない。一見対等に見えるカップルでも、実は小さなところでちょっとずつ女性を威圧していることに気が付いた。気遣い、気配りができる、柔和で共感的で優しい、笑顔が素敵で場を明るくする、実はしっかりしていて芯が強いなどの、いわゆる女性らしさとされてきた特徴、特色は多々ありますけれども、それらの大半が、女性が自然に振る舞った結果のものではなく、女性の視点から世界を見た時に、そう振る舞わされていたものであった可能性がある。

【山下】それは社会が女性をそういう風に規定していたから、そういうふうに振る舞わないといけないよっていう……。

【谷】という可能性があるんじゃないかと、演技の研究を通じて気が付いた。

【山下】なるほど。

【谷】そのあと、谷賢一さんも大阪行ってもやってますから、また新たな発見や後日談があるかもしれませんが、私が観た時点での彼が書いていたことは、こういう言い方をしてましたね。

【山下】カンヌで、CMなんですけど「DOVE」っていうシャンプーだったかの広告キャンペーンがあって。オーディションをするんだけれど、いろんな世代の女性に「普通に走ってみて」っていうとこう走って、「女の子らしく走って」っていうとこういうふうにして走る。でもこれが、8歳ぐらいの女の子に「女の子らしく走って」っていうと、普通に走るんですって。それで「あなたはどう思いますか、女の子らしさは社会が規定しているんじゃないですか」っていうキャンペーンなんですよ。それをすごく思い出した。だからもしかしたら、我々が知らず知らずのうちに、近代になることによってそういったことが……。だから50年代のアメリカ映画ってそうじゃないですか。専業主婦が家にがいて。だからそれが無意識としてあったのかなあ。

【谷】最後のほう、今回7編あった中で、一つ作品だけ古い話だったじゃないですか。あれなんかまさしく昭和の浅い頃の。

【山下】家父長制のね。向田邦子さんとかがエッセーで書いてるような。

【谷】だから結果的に、ぼくが観て単純にどうだったかっていうと、Aバージョンの方がやっぱり違和感は感じずになじんだっていうのが本音です。

【山下】でも、その実験をやったのはおもしろいね。

【谷】まあ話が分かっちゃっているってこともある。最初にAを観ましたから。やっぱりね、女性が演じる男性の気持ち悪さ、男性が演じる女性の気持ち悪さっていうのを感じちゃったので。そっちの違和感は持ちましたけどね。

【山下】そうかあ。

【谷】だけどいかに……この話って最初に言ったような、妊娠とか出産とかの話を色々な角度で話してるんですけど、ぼくも20数年前に子供ができて、いかに自分がジェンダーロールを果たしてなかったなあ、っていうのを痛感しましたね。やっぱり男ってなんにもやってないんですよ。

【山下】ああ、そういうことかなあ。でもこれからそれが……。

【谷】当たり前になってくる時代になると思いますし。

【山下】変わっていくだろうし。

【谷】本当にね、育休なんていうのも当時なんか考えられなかったけど、今はまさに「取れ取れ」なんていう話にもなっていますから。

【山下】ヨーロッパの人なんかは割と普通で。逆に今、アフガニスタンがタリバン政権になって、女性が外に出る時には色々と、規制され、アフガンの女性が国外へ、とかっていう話があって、その辺のところにも通底するようなところがありましたけど。DULL-COLORED POPの谷賢一さんは、いろんな人に話を聞いて、それをうまく構成してまとめていくのが本当にお上手ですね。ということはネタが枯れないということですね。

【谷】そうですね、その前にやったのはインタビューじゃないんです。コロナ時の自分の生活を赤裸々に。

【山下】シアター風姿花伝で。

【谷】一人芝居を。

【山下】あの焼酎を、甲類焼酎を飲んで。まあ、私も人ごとではありませんが。
谷賢一さんはとてもおもしろい作家さんだと思います。
これで谷さんが観た8月のやつは以上なのですが、
最後に、東葛スポーツ『イーストサイド物語』中止っていうのがあるんですけど。

【谷】これは、金山寿甲さんがされている東葛スポーツという団体があるんですけど。

【山下】はい、私も大好きです。

【谷】ミニシアター1010でやる予定だったんですけど、金山さんご自身がコロナにかかってしまって、「体力的にやる自信がない」ということでやむなく中止になったと。『ウェストサイドストーリー』ならぬ、『イーストサイドストーリー』ですね。「東葛」だからイーストサイドなんだろうな、と思いつつ、またいつかやってくれるものだと思っているんですけど。

【山下】東葛スポーツ、予約するんだけどなかなか観られなくて。

【谷】東葛スポーツはちらしが無いから、お見せできるものは無いんですけどね。

【山下】本当、1回行くと私もはまって、ずっと予約してて。最近は予約したら中止になるというのが繰り返し……。

【谷】そうですね。金山さん自身は、去年の岸田國士戯曲賞にノミネートされて、結構いいところまで行ったんですけど。ラップなんですよね、話がね。

【山下】そうですよね。社会に対する批評もちゃんとあるから。ミニシアター1010さんは、何回も何回も東葛スポーツさんに場所を提供してあげてほしいと思います。
ということで2021年8月の谷さんの観劇日記でした。ありがとうございました。

【谷】ありがとうございました。

【山下】それでまたこれを書き起こしをしていただいて、BRAIN DRAINではnoteに上げていますので、そちらも併せてごらんください。ということで谷さん、また来月もよろしくお願いします。

【谷】はい、来月は15本予定です。

【山下】おっ、すごい。15本。じゃあ谷さん、画面に向かって。皆さんありがとうございました。さようなら。

【谷】ありがとうございました。

担当:猿野 創
この度はご依頼を頂きありがとうございます。
今回、とても興味深く仕事をさせていただきました。
特にジェンダーの問題は印象深く、また考えさせられました。
女性だけではなく、男性も子供もお年よりも、ステレオタイプ的な考え方にがんじがらめになっているのではないかと思います。そして私たち「障害者」も……。
パラリンピックの放送では「障害を乗り越えて」というフレーズをよく耳にしました。しかし私は、「障害を乗り越え」た先にはなにがあるのかと思ってしまうのです。
「障害を乗り越え」た先には健常者があるのでしょうか?
当たり前ですが、答えは「No」でしょう。障害者は明日も明後日も、そしてたぶん死ぬまで「障害者」です。つまり「障害を乗り越え」るなんて、無理なんです。
この言葉はなにを意味するのでしょうか。その裏には、ステレオタイプなものの考え方が染みついているように思えるのです。
そんな型どおりの考え方から抜け出して、人の「多様な生き方」を大切にする社会になってほしいと思っています。

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