見出し画像

【PODCAST書き起こし】梅山いつきさん(近畿大学・准教授)に「運動」としての演劇をされている、佐藤信さんについて聞いてみた!(全5回)その1

【山下】皆さんこんにちは。みんなで語る小劇場演劇のお時間でございます。以前ですね、来ていただいたんですけど、また今回新たにお話を聞きたくてですね、来ていただいた近畿大学の准教授の梅山いつきさんです。よろしくお願いします。

【梅山】よろしくお願いします。

【山下】はい。梅山いつきさんは演劇研究をしてる学者さんということでいいんですか?

【梅山】はい。

【山下】はい。演劇を観るのも好きだし。

【梅山】はい。

【山下】演劇の運営にも携わっていらっしゃる。

【梅山】そうですね。はい。

【山下】ということですよね。この前、あれ何月でしたっけ? (東京都)羽村(市)でやった水族館劇場は。

【梅山】はい、えーと、5月ですね。

【山下】5月か。

【梅山】はい。

【山下】まだ涼しくて、雨も降っててね、大変だったんですけど、あれはえーと、梅山さんはもうプレプロダクションのところから関わってらっしゃていたんですか? 公演の前から。

【梅山】いや、えーと、あまり今回は、その、公演の前にはそんなにお手伝いだとかはしていなくて、もうその時私も大阪在住だったので……。

【山下】ああ、そうかそうか。

【梅山】そこまで当日、公演当日も含めてどれほどお手伝いできるかっていうのが、どちらかというとあまりできないだろうと思っていたんですけど、ちょっとコロナの影響などもあって、もうその時大学の授業が全面的にオンラインになって、結果的に、東京の方に自分がいても、その大学の仕事となんとか両立できるっていうことで、公演の期間は、全日お手伝いするっていうふうになったんですね。

【山下】制作部として、コロナ感染対策委員長みたいな感じで。

【梅山】そうです、そうです。なんか嫌な役で。

【山下】いいえ、あれ大事だと思います。「密になるから離れてください」とかおっしゃってて。

【梅山】そうなんですよね。とっても嫌な役を……。

【山下】いやいや、誰かがやらないといけないので。

【梅山】はい。

【山下】本当にご苦労さまでした。

【梅山】ありがとうございました。

【山下】いや、なんか、あのあと……かな? NHKで。

【梅山】はい。

【山下】あれ何て言う番組?

【梅山】ETV(Eテレ)で、ドキュメンタリーですね。

【山下】なんか単発のドキュメンタリー。

【梅山】「ハートネットTV」っていう……。

【山下】あ、「ハートネットTV」だ。

【梅山】その中で、水族館劇場について取り上げるっていうことで、もう撮影クルーの方たちは、もう……。

【山下】前からね。

【梅山】はい、かなり前から、もうテントが建つ前の頃からもう張り付いて、現場入りして建て込みが始まってから、もうほとんど毎日のようにいらっしゃって、稽古だとか、建て込みの様子とか、ずーっとこう撮影をされてましたね。

【山下】あの、なんか、あれを見ると、やっぱり、あのこう……素人だけど、素人がみんなで集まって何か運動するっていう事が、演劇の根源的なもののような気がして、それがすごく出てるなあって。だから一人スタッフだった人が、あれ照明の人かな? 出演とかになったじゃないですか。

【梅山】はいはいはいはい。

【山下】だからそういうのも、なかなかね、普通のプロの集団だと難しいけど、それも運営なのかな。それが逆に面白かったりとか、本人がすごい成長したりとかね。で、演劇ってその活動することによって、人がなんか変化したり、集団が変わっていったりするっていう事が、なんかそもそもだったんじゃないかなあっていうのをね、あの番組を通じてすごい感じたんですね。で、梅山さんもなんか水族館劇場って特殊な集団じゃないですか。

【梅山】はい。

【山下】だからなんかそういう、なんか思いは、なんか感じてらっしゃるのかなあと思って。どうですか? 普通の劇団とちょっと違う感じの。

【梅山】そうですね、まあ、あの今、山下さんがおっしゃったように、例えば失敗してしまうとか、予期せぬトラブルが起きて、その今おっしゃったような代役っていうふうになってしまうっていう事も、プロフェッショナルな方たちから見たらちょっと質的に落ちるんじゃないかって一般的には見られると思うんですけど、そういうのも割とさらけ出すっていうところは……。

【山下】さらけ出すって事ね。

【梅山】集団としての特徴だと思うんですよね。で、まあ面白いのは、そういう事をするとむしろお客さんたちは喜ぶというか……。

【山下】逆にね。

【梅山】その、失敗したから喜ぶとかって意地悪な見方じゃなくて、別に失敗したとか質が高いとかそういう基準とは違うところで、水族館劇場……を楽しんでるっていうか、受け止めてるっていうようなお客さんとの関係なんですよね。

【山下】そうですよね。

【梅山】はい。

【山下】水の中にね、僕と同じくらいの年の人がですね、入ってこれは寒いなと思いながらね、それをずっと最初にやってるからずっと冷たいじゃないですか。よくやってるなあと思ってね。もう、そういうなんか身体が、感じるような事をやってる事自体がね、面白いなあと思って。やっぱりだからそういう意味では、水族館劇場もある種の、アングラ演劇的なものがあるのかな? どうなんですかね?

【梅山】そうですね、それがアングラっていうのかどうかちょっと分かりませんけど、でも、今日お話しする佐藤信(さとうまこと)さんなんかも目指したものとは、やっぱり方向としては似ているところがあって、それはやっぱり芸能っていうもののより原初的なところに返りたいっていう欲求があるんでしょうね。その原初的なものっていうのは、この観る人たちと作る観られる側っていうのが、混然一体となってその場を作り上げていく……。

【山下】その場に一体感があるんですよね。

【梅山】そうですね。

【山下】確かに、確かに。

【梅山】はい、はい。だからそれをこう作り上げていく時のいろんな仕掛けとして、そういう代役になった時もそれももう全部さらけ出してしまうとか、あと、大仕掛けでこれこそ一番見せたい、きれいに決めたいっていうような大仕掛けがなかなか決まらないっていう状態でも、もうそれでも見せてしまうっていうようなのも、結果的にそういうほころびっていうものがあることで、なんかお客さんとの関係が、ただ単にお客さんは鑑賞者としていいもの見せてもらいますっていうような姿勢ではなくてただこう応援するとか、そこでこう、うまく失敗しながらもうまくいくっていうものに何か自分自身を投影させるとか、お客さんとの関わり方って、お客さんの見方っていうんですかね、姿勢もこう、変えていくようなそういう仕掛けが要所要所にあるんですよね。それだから水族館だけじゃなくて、黒テントや赤テントに始まる野外劇に、こう全般的にあるところだと思います。

【山下】ありますよね。結構それはすごく感じて、なんかその人のキャラクターに応じた、なんか事をやらせようと。

【梅山】はい。

【山下】僕とかだったら、髪の毛がこうハゲじゃないですか。だからこの髪の毛がない状態のこのキャラクターをどうやって生かすのかということは、たぶん行われますよね?

【梅山】はい。

【山下】だからそれは僕は面白いと思っていて、そうすると別にそれは区別とか差別とかじゃなくて、「これはそのままこういうやつで受け入れようぜ」っていうような事をなんか、パラリンピックも始まったんでなんかすごいそんな事をね、感じて。なんかいろんなことを包摂(ほうせつ)している感じがなんかいいなあと思って、水族館劇場は寒かったけれど、羽村まで行ってよかったなと。

【梅山】ありがとうございます。特に寒い時に。

【山下】本当に。でもあの日に羽村でラーメンを食べてから行ったんです。
本当にありがとうございました。

【梅山】ありがとうございました。でも今、オリンピック、パラリンピックの話も出ましたけど、そのお客さん入れる入れない問題っていうのが、またフジロックなんかもあったりして……。

【山下】水族館でもあったの?

【梅山】あ、その水族館の場合入れないってことは、無観客上映ってことは全く選択肢としてはなかったんですけど、お客さんがいるっていう事の何が問題なのかっていう事ですよね。あの、いてもかまわないんですよね。だけど、いても結局そこで、こう形式的な感染症対策だけをやっただけでは、結局……感染者は出てしまうんですよね。

【山下】可能性はありますよね。

【梅山】はい、だから何が大事かっていうと、結局そこに集まってきた人たちが、一番この場では何が大切なのか、何が重要なのかっていう事を、こう何らかのかたちで共有してるっていう状態を作り上げることが大事なんだなあっていうのが、今回制作としてお客さんとこう接する中で分かった事だったんですよね。

【山下】ってことはお客さんも、これは、ここは大事だよって事を、やっぱ価値を共有しながら?

【梅山】そうですね。

【山下】そこには分断がないって事なのかな。

【梅山】はい。やっぱりますますそのお客さん側も、ただ自分は観させてもらって鑑賞するんだっていう立場で来られちゃできないんですよね。

【山下】参加意識がないんじゃないかと、いう事ですよね。面白いですね。

【梅山】はい。そこも結局観る側の、何ていうんですかね、その意識っていうものが変わっていかないと、これから先、こういうエンターテイメント業界、またはその飲食店についても私思うんですよね。お店の側がどんなに頑張っても……。

【山下】ね、お客さんの方がね。

【梅山】お客さんの側がそこに協力するっていうような意識がないと……。

【山下】そうですよね、一緒に店を作ってるっていうことをね。

【梅山】はい。で、それができれば、こう別に8時で閉めたり、お酒を出しちゃ駄目とかっていうような事しなくてもいけるはずなんですよね。

【山下】そうですよね。問題意識をね、同列に持って、共同体として認識してやっていくという事ですよね。まあ確かに。

【梅山】はい。それが水族館の場合はこれまでの活動の中で。

【山下】培われて。

【梅山】はい、できていたってそういう下地があったので、今回奇跡的に感染者出すことなく、で、またこっちもかなり窮屈なお願いをお客さんにしながら、それでも皆さん楽しんでもらえたのは、そういう下地があったからだろうなとは思いました。

【山下】なるほどね。いや、でも本当にね事故もなく、いろんな仕掛けもね、多彩なんで、本当によかったと思いますけど。あの、テレビのオンエアのあと反響かなんかあったんですか?

【梅山】あ、そうですね、やっぱりこう……。

【山下】あれは結構な人見てると思います。

【梅山】そうですね。特に今回やってる、上映してるっていうのは分かってても、特に遠隔地、東京以外の方は行きたくても行けないっていう、やはり……。

【山下】あ、そっか、県外をまたいだ移動……。

【梅山】はい、っていうところで、これも制作やってて感じた事なんですけど、常連さんなんかの数がちょっと少なくなってしまったと。

【山下】あ、なるほど。

【梅山】おそらくそれは、感染のリスクっていうのをご自身で判断されて、行きたくても今回は我慢したっていう人が潜在的にかなりいるだろうというふうに感じていて。

【山下】いや、分かります、それは。

【梅山】で、そういた方にああいう1時間も水族館について取り上げるって、前代未聞っていう。

【山下】いや、そうですよね。本当に、本当に細かいちゃんと、やっぱりNHKの取材ってそうですね。本当に丁寧にやってらっしゃる。

【梅山】なので、そうした方たちなんかが特にあの、喜んでくださってるように感じましたね。

【山下】うん、なるほどね。まあ、また次回も制作で関わられるでしょうか?

【梅山】そうですね、ただ、まあなんかまたコロナを巡る状況もまた変わってきてるので、やっぱり、今回できたから来年も同じかたちでできるのかって思っちゃいけないと思いますし、そう、どういうふうにするといいのかな、ってとこですね。

【山下】確かに。ですよね。水族館劇場ってだいたいあれですか? あの何年かに1回とか、1年に1回やるとか。

【梅山】1年に1回ですね。

【山下】だいたいそうなんですか?

【梅山】はい。

【山下】なるほどね。来年は僕もこうやってマスクをつけずにしゃべっていきたいなあって思いますね。

【梅山】そうですよね~。

【山下】というマクラでですね、水族館劇場の話をちょっと終わらせてもらいますけど、で、今日はですね、前回、割とアングラの全体的な話をさせてもらいましたけど、実は、梅山さんはこの、ここに出てくるかな? この本をお書きになって、賞をお取りになったんですよね? 梅山さんの方で、帯付きのいいやつを出して。これですね、『佐藤信と「運動」の演劇 黒テントとともに歩んだ50年』ということで、受賞おめでとうございます。

【梅山】ありがとうございます。

【山下】AI?

【梅山】AICT演劇評論賞という、はい。


【山下】AICT演劇評論賞をお取りになって。で、この前あの、佐藤信さんと対談をされたんですよね? あの、座・高円寺。

【梅山】はい。

【山下】ね。で、ちょっとまあそもそもということで解き明かして聞いていきたいんですけど、ま、佐藤信さんっていうのを、ちょっとざっくりと、知らない人に向けて。どんな人なのかと、どういう人なんでしょうかというのを、梅山さんの言葉でいいので語ってほしいんですけど。

【梅山】ああそうですね、ふふふ(笑)

【山下】どんな人なのか、僕あんまりね、佐藤さんの作品観てないんですよ。

【梅山】ああ。

【山下】そうなんですよ。そうなんです。

【梅山】あの、ひと言でなかなか言えなくて、本当に多方面で舞台芸術に関わるお仕事をされてきているっていうのが、まず言えることなんですけど、特に知られてる事としては、作家としては劇作家演出家であられるっていう事ですね。で、あの、最初の頃は黒テントを中心にテント興行っていうものをやっておられたと。

【山下】そうですね。黒テントと言えば佐藤信ですね。皆さん知ってます、そこはね。

【梅山】はい。で、黒テントに自身の劇作を書き下ろして、演出をしていって、あの喜劇賞、あの世界三部作をはじめとする作品を、70年代勢力的に発表されている一方で、結城座さんとのお仕事とか。

【山下】結城座って、なんかあの人形……。

【梅山】はい、糸あやつり人形の、結城座との作品の演出を長年やられていたり、あとは20代の頃からオペラの演出もずっとやってこられてまして。

【山下】すごい方ですね。

【梅山】はい。オペラのほうもかなりの数、手がけておられます。はい。ですので、演出家としては本当にそういったオペラ、あとは結城座だとか、あとはあの、パートナーの竹谷佳子さんとのコンテンポラリーダンスの監修だったり演出だったりっていうような事も……。

【山下】めちゃめちゃ幅が広いですね。

【梅山】はい、含めますと本当に幅広くさまざまな作品を手掛けられてきてると……。

【山下】ちなみにオペラは既存のなんか有名なオペラを、『蝶々夫人』みたいなやつをやってらっしゃった。

【梅山】そうですね、二期会との仕事が多い……。

【山下】二期会っていうのはなんかそういう団体があるんですか?

【梅山】はい、団体があるんですけど。

【山下】なるほど。

【梅山】はい。

【山下】へえ。それは演出家として参加されてる。

【梅山】そうですね。

【山下】なるほど。じゃあ、普通のテントでの演劇もやるし普通の小屋の演劇もやるし、オペラもするし、コンテンポラリーダンスなんかの監修も。

【梅山】はい、そうですね。はい。あとは観世 栄夫さんと20代の若い頃から、ある種師匠的な、信さんにとっては関わりで、そこの接点で今でも各々能楽師さんと一緒に作品作るっていうような事を……。

【山下】これは能楽師さんと現代演劇を作るんですか?

【梅山】そうですね、そういう事もありますし、そうですね、新作のを手掛けておられた時期もありますね。

【山下】なるほど。それは佐藤信さんがお書きになった……。

【梅山】いや、別の作者、別におられて。

【山下】演出を。

【梅山】そうですね、

【山下】なるほど。

【梅山】はい。

【山下】能の演出とかあるんですね。

【梅山】はい。

【山下】いや、知りませんでした。へえ。

【梅山】なので、そういったご本人の劇作演出、黒テントにおける創作と、それ以外の演出活動っていうものがあって、それとはまた別に、重要なお仕事っていうのが劇場に関わるお仕事なんですよね。はい。で、あの、劇場が企業などが作る民間の企業……あ、劇場と公共劇場とその両方を何らかのかたちで運営に携わって、すごい数手掛けておられまして。

【山下】梅山さんが大きなところの272ページにこうやってね、たくさん劇場の立ち上げ関連などの記録が出てるんですけど、これを読むと本当に、みんながよく知ってるのだと、博品館(劇場)、銀座の。あと青山のスパイラルホール、あとBunkamura。そのあとあれですかね、公共劇場とかもやられてるんですね。

【梅山】そうですね。

【山下】世田谷パブリックシアター。いわき芸術文化交流館(アリオス)、あと、シアターイワト。

【梅山】はい。

【山下】あ、イワトはもうなくなっちゃったね。

【梅山】イワトはそうですね、ここは神楽坂の黒テントを拠点にしてたところですね。

【山下】で、今、座・高円寺と名寄(なよろ)と久留米でさらに最新の若葉町ウォーフを。これはなんか、どういう関わりでこういう、なんかその、劇場の運営とか設立に携わっているのかって聞かれたことあります?

【梅山】あ、えーと、そのそれぞれの劇場で違うようなんですけど、もう本当にアドバイザーとしてどういう設計にした方がいいかとか、機能面だとかについてのアドバイスをされるような関りのものもあれば、芸術監督として……。

【山下】ですね。

【梅山】はい、本当に世田谷パブリックシアターのように……。

【山下】立ち上がりの時に。

【梅山】立ち上げのところから、構想段階から何年間も準備をされて……積み重ねられて、で、いよいよオープンしたあと芸術監督として、その運営っていう面でも指揮を取られるっていうような関わりの劇場もありますね、ってそれが世田谷パブリックシアターや、現在では座・高円寺。

【山下】そうです、高円寺もそうですよね、はい。あれですかね? 佐藤さんってだから演出家であり劇作家だけどプロデューサーでもあるの?

【梅山】そうですね……。

【山下】プロデューサーのところなんですけど。

【梅山】はいはいはいはい。

【山下】だから、まあ、これね、たぶん予算とかスケジュールとか座組も含めて全部やっていかないといけないじゃないですか。これはプロデューサーであり、なんかこの前言おうと思ったんだけど、佐藤信って経営者だよな、と。演劇という業界の? なんかすごくそう思って。

【梅山】ま、あの私もそんな多くの演出家の方をそんなに親しくしてるわけじゃないんですけど、ただその、例えばその、予算を立てて助成金獲得していくとか、いろんな計画書を書いていくとかってものすごく上手というか。

【山下】佐藤さんの……すごいですね。

【梅山】はい。

【山下】じゃ、もうなんか、もう官僚の仕事もできそうな。

【梅山】やっぱりそれは、あの、劇場のこれまでのお仕事の中で、役所との折衝っていうものをやってこられているので、そっちに伝わる言葉っていうものも必要だし、一方でそのアーティストとしての言葉っていうものも絶対必要だっていう事を、結構繰り返しおっしゃって。

【山下】いやあ、珍しいですよね。なんか、その芸術に関わりながら、なんかこう、商業とか社会とうまく切り結んでいく? よく言われたのがジブリの宮崎(駿)さんとか鈴木(敏夫)さん、特に宮崎さんはアーティストでもあるけど、なんか(三鷹の森ジブリ)美術館を作ったり、スタジオ(ジブリ)作ったりとかして、それで徳間書店とか日テレ(日本テレビ)とかと関わりながら、なんかその運動体を大きくしていく。それがある人ってすごく珍しいと思うんですね。で、演劇界で佐藤信さん以外になんか他にいるのかなあと思ってて。なんかどうですか?

【梅山】そうですね、信さんの場合は黒テントの前身にあたる演劇センター(68)っていうものを1968年に立ち上げるんですが、その時から一貫してるところがありまして、自分がこう作品を作ってそれをただ発表するだけでは、なんかいかんだろうっていう考えをずっと一貫してお持ちなんですよね。

【山下】何でなんですかね?

【梅山】そうですね、やっぱりこう、作品を作って人に観てもらうっていう行為に対する考え方だと思うんですよね。観てもらうっていうことはそこで社会性が発生するだろうと。だからただ単にこう個人的な何か……考えだとか思いっていうものを形にしていくだけでは終われないんじゃないかっていう考えがあって……。

【山下】だから、その場ですぐ終わるものじゃなくて、それはなんらかのかたちで繋がっていくからずっと続いてるもんだっていうような感じなのかな?

【梅山】そうですね、その考えの延長線の中で自分とか自分の劇団だけがその劇場とかスペースっていうものを占有するんじゃなくて、どうせその場ができる、あるんだったらそこを共有、他の団体や他の人とも共有していってムーブメントにしていった方がいいんじゃないかっていう事を演劇センターの時から考えているので、それがこう劇場のさまざまな運営とか立ち上げっていうものの仕事の根幹にあると思うんですね。

【山下】なるほど。それはそもそも佐藤さんがそういう事を思ってましたか。

【梅山】そうですね。はい。

【山下】なんか、それを思うと本当に今どきの企業は割とそういう事を大事にして、企業が独善的に利益を得るだけじゃなくて、それのステークホルダーとか企業がある事によって環境とか、あといろんな事? SDGsとかもされるような事をちゃんとしていかないと、みんなもう企業を評価しなくなってきてる。それを佐藤さんは演劇の世界でやってらっしゃったなあっていうのを……。

【梅山】そうですね。

【山下】すごく感じました。

【梅山】本当に、そうですね。ですから座・高円寺の最近の活動も聞くと、よくホワイエの部分で古本市をやったり、マルシェっていう……。

【山下】ホワイエって、あの1階のロビーのところ?

【梅山】はい、1階のあの、ちょっと構造が変わってまして、劇場の入り口は常に開いている状態になっていて。

【山下】あ、そうですよね。あれは前からそういうことにしてるんだ。

【梅山】そうです、そうです、はい。今ちょっとコロナで入る時に検温とかっていうのはしなきゃいけないんですけど。

【山下】でもずっと開いてますね、ドア。あの、ビーンと開いたりもしないですよね。

【梅山】劇場スペースで上映がされていない時間帯でも常に解放されているんですね。

【山下】僕、昔チラシとかもらいに行ってました。

【梅山】はい、はい。で、そこの部分で今マルシェっていうかたちで古本市やったり、その近隣の方に解放して、演劇以外のイベントっていうのをやってるんですよね。

【山下】なるほど。

【梅山】はい。そうするとそこに目的で来た人たちっていうのが、その座・高円寺っていう劇場と接点が生まれてくるだろうと。で、そういうのを少しずつ時間をかけて劇場と近隣との関係っていうものを、こう作っていく必要があるだろうっていうお考えなんですよね。

【山下】そうですよね。劇場は移動ができないから、やっぱり近隣住民とのやっぱり関わりっていうのも、それはひとつの役割じゃないかと。

【梅山】そうですね。ですからこう演劇だけやって、その演劇っていうコンテンツをフックにして、それだけで興味のある人だけ来てくれればいいって事ではなくって、その劇場がそこにあるっていうことが他にどういう役割を果たすべきなのかっていう事を、演劇だからとか劇場だからとかっていうのに縛られずに考えて……。

【山下】広場にしたいんですね。

【梅山】そうですね。

【山下】ギリシャ時代のような広場。だからパルコ(劇場)っていうのはたぶんそういう意味だし。(パルコ=広場)

【梅山】はい。

【山下】(こまば)アゴラ(劇場)もそうかもしれないですよね。(アゴラ=アゴラとは「人の集まる所」を意味し、古代ギリシアでは市場や集会所などがある公共広場を指す。)

【梅山】はい。

【山下】それは佐藤さんもお考えになったんだろうなあ、うん。あの、ね、座・高円寺でもなんか、フリーペーパーをいつも送ってもらっているんですけど、ああいうのもずっと続けてらっしゃるじゃないですか。

【梅山】そうですね、あのフリーペーパーもいいですよね。

【山下】いやあ、すごくいい! で、こんなお店があるのか、カレー屋さんの特集とかね。座・高円寺ってあれは杉並区が建てた……?

【梅山】はい、そうです、そうです。

【山下】あ、なるほど、なるほど。いや、すごいあの、ああいう……だからメディアの出版とかを、佐藤さん以前からそういうのをずっとやってらっしゃるっていうのを梅山さんおっしゃってましたけど、
【梅山】はい、はい。

【山下】メディアにもして、全部残していってそれも周りに援用していくっていうような事をやってらっしゃると思ったらそのなんか一環なんですかね? 佐藤さんのその。なんていうのかな、周りと関わり続けていきたいっていうのを。どうなんですかね?

【梅山】そうですよね、ま、ただやっぱり座・高円寺のフリーペーパーの場合は、座・高円寺のラインナップは一番最後に出てくる程度で、全面……むしろ一面はカレー屋さんとか。

【山下】そうですよね。

【梅山】特集もその商店街の紹介だったり、演劇以外の記事が中心を占めてますよね。そこにも、もう劇場としての態度というか。

【山下】立ち位置がね。

【梅山】はい。表れてると思うんですよ。

【山下】地域に根ざしたっていう感じですよね。

【梅山】はい、はい。

【山下】それは。でもあのね、パブリックシアターの時も、パブリックシアターでもあの、いろいろやってらっしゃったし、僕はあそこの劇評講座で梅山さんと出会ったし、やっぱりそういうなんかいろんな運動体をたくさん作っていく、本当に大企業の経営者みたいな感じがすごいするんですね、うん。


担当:木村晴美
いつもご依頼いただきありがとうございます。
水族館劇場の存在を知らなかったので、YouTubeを検索したらダイジェストの動画を見つけました。お芝居の小屋、想像していたのは、ホールのようなステージと客席を作った、お芝居をするためのスペースかと思っていました。ところが、とても大掛かりな「小屋」、大量の水、炎、光、、、ものすごく大きな空間とまさにお大仕掛けの演出。これは生で舞台を観てみたい! と思いました。何度か舞台は観ていますが、こんなに大掛かりな仕掛けのものはいまだ観たことがありません。想像をはるかに超えました。
そして、お話に出てくる、座・高円寺も、ここを案内するローカル番組のような特集を組んだ動画がありました。
建物の外観だけでもわくわくするような感じで、ホールや阿波踊りのためのスペース、通路の灯り、マルシェを開催する場所、、、劇場というと、その道の方たちが公演を行い、それを観に行く、少しかしこまった感じで出かけていくところ、というイメージでしたが、杉並区のみなさんのために、地域に根付いた場所というのが、案内をされていた方の説明でとても伝わりました。こんな素敵な場所を、区民が気軽に使えるって、使う方も楽しいし、イベントに訪れる方も楽しいし、みんなが集まる「広場」が地域にあるって自慢になりますね。水族館劇場も座・高円寺の場所も、日常の中で、ひとときの非日常を味わえる素敵な時間をくれるものだと感じました。本当にとても素敵です。
ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?