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【PODCAST書き起こし】落語本のおすすめについて語ります。(和田尚久・三浦知之)全5話 その1

落語本のおすすめについて語ります。(和田尚久・三浦知之)全5話 その1

【山下】みなさん、こんにちは。
「集まれ!伝統芸能部!!」のお時間です。
「落語・講談 お後がよろしいようで」ということで、本日もゲストの放送作家の和田さんに来ていただきました。和田さん、よろしくお願いします。

【和田】よろしくお願いいたします。

【山下】ポッドキャスターのうちの三浦です。よろしくお願いします。

【三浦】三浦です。よろしくお願いします。

【山下】今日のテーマは「落語本」ということで、このお2人がたくさん読んでいらっしゃるので、いろいろと面白い落語本を紹介してもらおうと思っているのですけど、私も1冊だけ持って参りました!
立川談春さんの『赤めだか』という本です、これは最初に落語を聞き始めたころに読んでとても面白かったので、私の1冊でございます。
ということで、和田さん、三浦さん、よろしくお願いします!

【三浦】よろしくお願いいたします。

【和田】どうもです。

【三浦】では、和田さん。今日は落語の本の話ということで、よろしくお願いします。
今、山下さんが持ってきていただいた『赤めだか』。『赤めだか』は売れたんですよね、すごく。

【和田】あれは10万部以上売れたはずですね。

【三浦】10万部!

【和田】談春さんがこれを『en-taxi』というのに連載していた時に、『談春のセイシュン』というタイトルだったんですけど、連載時代は。僕もその時『芸と噺と』というのを連載していまして、落語が2本ありましてね。僕も扶桑社に本にしていただいたんですけれども。
談春さんはどういうあれだっけな? こっちの『赤めだか』のほうが先ですね。連載自体はかぶってるんですよ。確かこちらが先に本になってすごく売れて。それからリリー・フランキーの『東京タワー』というのが同じ『en-taxi』という雑誌で、あれは100万部売れましたね。

【三浦】10倍ですか。

【和田】そうそう。
『赤めだか』はすごい名著で、「講談社エッセイ賞」というのを取ったんですけれども。

【三浦】賞を取ってるんですね。

【和田】取りましたね。
最初の連載のバージョンを見ると、物語というよりも、その1回1回のエッセイみたいな、たぶんご本人もそういう意思だったんですよ、前座時代を回顧するエッセイって。でも、回が重なっていくうちに、全体がストーリーになってきたんですよね。結果的に1冊の、二ツ目になるまでの、そのパーティーの場面で終わるんですけれども。

【三浦】そうでしたねえ。

【和田】すごく面白い。前座時代にフォーカスを当てたという意味でもちょっと珍しいし。

【三浦】私も『赤めだか』を読んで印象に残っているのは、築地市場に行かされてからの話って、結構印象深いですよね。

【和田】そうですねえ。

【三浦】自転車でシュウマイを配達しようとしていたら、転んでシュウマイがぶちまけられたとか(笑)。

【和田】はい、はい。

【三浦】そういう話が。志らくさんは築地に行かされなかったですよね?

【和田】「築地に行って来い」と言われたんだけど……。

【三浦】「イヤです」と言ったんですよね(笑)。

【和田】「イヤです。落語家の修行に来たので、魚河岸で働くために来たんじゃありません」と言って断った。「イヤならしょうがねえや」と言って。だったらみんな断ればいいんじゃないのという話で。

【三浦】そうですよね。談春さんは行ったんですね?

【和田】談春を含めて、関西さんとかその辺の人がいるんだけど、その辺の人達は行って。志の輔さんは行ってないんですよ。

【三浦】志の輔さんは行ってない?

【和田】志の輔さんは行ってない。志の輔さんは優秀だったし、ちょっとだけ先なんでね、入門が。そのあとの世代の談春達のところが、辞めた人も含めて結構人数がいるんですよ。それがいろいろ……「なっとらん」と談志師匠に言われて。
これ、本を読めば分かるんですけど。魚河岸と言っても魚河岸のシュウマイ屋さんなんだけれども、そこに修行に行くんだけれども、落語の修行もやってるんですよ、同時に。

【三浦】それは築地ではなくてということですか? 戻って来て?

【和田】戻って来て。というのは、築地ってものすごい朝早いから。朝、築地に行くわけです。そのあと、終わって、練馬に行って。

【三浦】談志師匠の家に来るということですね。

【和田】そう。それがすごい大変だろうなあと。

【三浦】大変ですよね。

【和田】「落語を辞めろ」という話じゃないから。僕も最初にそれを聞いた時に誤解していたんですけど、あとで分かった。

【三浦】まずは築地へ行けと。終わったらこっちへ戻って来て、落語の修行をせえと。

【和田】そういうことですね。

【三浦】すごいですねえ。ちょっと先輩弟子に相談するところとかありましたっけ? 1番最初の総領弟子、何て言いましたっけ? 志の輔?

【和田】1番上の弟子?

【三浦】ええ。

【和田】1番上の弟子は、土橋亭里う馬さんという人ですね。

【三浦】ああ。里う馬さんに何か相談していなかったでしたっけ? 「なんで行かなきゃいけないんですか」みたいなことって。

【和田】それは志の輔さんじゃないかなあ? 志の輔さんが兄弟子なので。でも家元がそういうふうに言っているのだから……。

【三浦】「我慢して行け」と(笑)。

【和田】そう。「我慢して行って来い」みたいな(笑)。割と普通の判断をくだされていますね。みたいな話だったと思います。

【三浦】確か『赤めだか』ってドラマにもなりましたよね?

【和田】ドラマになりましたね。

【三浦】嵐の……?

【和田】ニノ。

【三浦】二宮さん?

【和田】(二宮さん)が談春役で。志らくさんの役者は、ちょっと今名前が出てこないけど、面白い人……。

【三浦】志らくさんは、濱田岳ですよね。

【和田】そうそう、濱田岳がやって、今の市川中車さんが志の輔さんの役をやった。中車さんというか、本名というか、もう1つの名前のほうが有名だけど……香川照之さん……がやったわけ。あの辺の配役でやりましたね。ただ、やっぱり本のほうが僕は好きです。とても好きです。

【三浦】そうですね。談志師匠は(ビート)たけしさんでしたっけ?

【和田】そうでした。鶴瓶さんが本に書いている、六代目松鶴師匠とそこによく出入りしていた新聞記者を怒鳴りつけて追い返した話というのがあるんですよ。『赤めだか』にはないんだけど、それをドラマのほうでは入れ込んだりして、結構脚色しててねえ。

【三浦】へえ。そういうふうにしていたんですね。

【和田】どうなんだろうなあ。でも、ドラマを観て面白かったという人は、ぜひこの本をね。今、扶桑社の親の本もあるし、こっちの文庫バージョンも出ているので。

【三浦】文庫になりましたもんね。これ、文庫になったというのは、割とすぐなったんですかね?

【和田】いやいや、まだ3、4年じゃないかな?

【三浦】そうですか。

【和田】あ、ごめんなさい。これ、25万部突破となっていますね。

【三浦】ホントだ。

【和田】10万部じゃないわ。10万部というのは、僕が10万部の時点で記憶していたんですよ。25万部だ。

【三浦】10万ってキリがいいですもんね。25万ってすごいですね。

【和田】こんなに売れているんだ。へえ。談春さんは談志さんが遺した最高傑作、ビートたけしって。

【三浦】志らくさんは、そういう帯を読んで、どう思うんですかね? あんまり関係ないですかね?

【和田】うーん。いやいや、思うところはあるでしょうね、それはね。
ドラマ版でね、全体的に、これフィクションというか、脚色したモノだよと言われればその通りなんだけど。
最初、談春さんが高校を辞める覚悟をして、談志さんのところに、家をお訪ねするという場面から始まるんですよ。その時に、ピンポンって最初インターフォンを押して反応がない。あれ、どうしたものかなと、ドラマの中の談春さんがピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンって押すんですよ。だけど僕に言わせれば、入門する人はそういう押し方をしない。

【三浦】まあそうでしょうね。

【和田】テレビだからそれでいいんだよ、という考え方かもしれないけど。

【三浦】失礼になりますもんね。

【和田】失礼だし、そういう心理じゃないだろうし。そういうところが全体的にあって、割り切って観ないと、ちょっと僕は引っかかる部分もあります、ドラマ版はね。

【三浦】ではみなさん、もしまだお読みでない方、あるいはドラマを観ておられない方もたくさんいると思うんですけど、まずドラマは観ないで本を読みましょう。

【和田】まあいいですけどね(笑)。

【三浦】ドラマってどこかで観られるんですかね今?

【和田】観られますよ。パッケージになっているはずなので。
(※https://www.amazon.co.jp/%E8%B5%A4%E3%82%81%E3%81%A0%E3%81%8B-DVD-%E4%BA%8C%E5%AE%AE%E5%92%8C%E4%B9%9F/dp/B019SX9XA2  )
【三浦】パッケージになっているんですね。すごいですね、それは。

【和田】確かなっていたんじゃないかな。でも確かにあのドラマがあったことで、ジャニーズダン流れと言いますか、そちらのほうも「落語って面白そうだなあ」という流れができているので、それはすごい功績だと。でも、そうだよなあ。1回きりなんですけどね。1回きりというか、前後編だから2回か、2夜ですね。

【三浦】オンエアも1回だけでしたよね?

【和田】だったような気がしますけどね。それにしてはインパクトがとてもありましたね。リリー・フランキーも出ていますね、役者として。

【三浦】出ていましたね。年末とか正月明けとかにやったんでしたっけ?

【和田】だったかもしれない、何か特番的な。

【三浦】なんかそんな記憶がありますね。
で、談春さんが書いたのはこの『赤めだか』……。

【和田】そう。あと談春さんが、随筆とかインタビューとかそういうのをまとめた本が新潮社から……すごい難しいタイトルなんだよなあ。古今東西みたいなタイトルで『古往今来』と確かいうんですけど、出てます。

【三浦】へえ。『古往今来』?

【和田】うん。確かね、なんか四文字熟語です。

【三浦】へえ。ちょっと調べてみます。

【和田】調べてみると出てきます。わざとそういうタイトルにしているんだと思いますけど。

【三浦】弟弟子の志らくさんも結構本を出していますよね?

【和田】志らくさんはかなり出していらっしゃいますね。

【三浦】今日持ってきていないですけど、私が記憶しているのは『全身落語家読本』というのと……。

【和田】新潮社ですね、あれは。

【三浦】あと、この『赤めだか』のあとに出たのが、『雨ン中の、らくだ』という……。

【和田】はいはい。あれも志らくさんの落語論というか、談志の落語論みたいな本なんだけど。
『雨ン中の、らくだ』はねえ、僕、編集者もちょっと知っている人で、初版の時に確かいただいたんですよ。あの本ってチャプターが『長屋の花見』、『らくだ』……。

【三浦】落語の題名になっていましたね。

【和田】で、『三軒長屋』というのがあるんだけど、それが『三軒茶屋』ってなってるの。

【三浦】それは間違いですか?

【和田】間違いです。

【三浦】誤植?

【和田】誤植も誤植で、しかも目次の『三軒茶屋』がそのまま残っているってマズイだろうって。

【三浦】それ、誰も気がつかなかったんですか?

【和田】よく誤植はすり抜けると言いますけどね。ここまですり抜けたかという感じで。

【三浦】もう絶対そんなところ間違うはずないだろうというぐらいの間違いですね、それね。

【和田】そうなんですよ。

【三浦】見逃しちゃったんですね。

【和田】うん。でも、この間も、1、2年前に、あれは何の本だっけな……河出(書房新社)から出た『二朝会』か。『二朝会』、柳朝・志ん朝の会のCDのボックスが出たわけ。それで、僕も書きましたけど、僕の先輩の方が寄稿したんだけど、名前を間違っちゃった。

【三浦】ああ、それは痛いですね、結構ね。

【和田】痛い。「次の版で直しますから」と言ったって、次の版なんてないですからね、そんなに売れませんから。

【三浦】それはチェックが働かなかったんですかね?

【和田】それが謎ですよね。そういう名前もそうだし、『三軒茶屋』もそうだしさあ。
だから、志らくさんもいろいろ書いていらっしゃいます。

【三浦】和田さん、それはDVDですか、間違ったのは?

【和田】CDボックスの解説本ですね。

【三浦】和田さん、他にも本を結構書かれていますけど、和田さんはそういう誤植とかそういうのってなかったですか? チェックを全部して、指摘したりされましたか?

【和田】単純な間違いは特にないかなあ? 編集者の人とのやりとりで、ちょっと間違ったあれが、朱入れのヤツが出そうになっちゃって、ギリギリ間に合って戻してもらったりとかはありますけども、幸いなことに。

【三浦】良かったですね。最後のチェックが見落とされて出ちゃうとやっぱり厳しいですよね。

【和田】そうですよねえ、うん。

【三浦】ちょっと脱線しますけど。私、広報室というところに以前いまして、社内報の本というか冊子を出すんですけど。そこでとある写真を使った時に、その写真の提供者の方から「この写真は誰が撮りました、って必ずⒸ入れてね」というのを言われていたのをすっかり忘れまして。ホントに最後の最後で気がついて、印刷をする直前に、そのデザインをしてくれている人に、社内の人なんですけど、お願いしたらギリギリ直った、という冷や汗をかいた経験がありますね(笑)。

【和田】それは良かったですね。

【三浦】ええ。結構冷や汗でしたね。

【和田】そういうのありますよね。

【三浦】もし間に合わなかったら、ちっちゃいのを貼ったりしなきゃいけないのかなって。

【和田】昔の本だとたまにありますよね、貼ってあるヤツね。

【三浦】ありますよね。なんかありましたよ、最近買った本で。松之丞さん、伯山になる前の松之丞の、自分の講談本が間違っていて、貼ってありましたね。

【和田】それもあれでしょ? 確か河出のヤツじゃないかなあ。

【三浦】そうですか。高座で松之丞さんが……あ、そうそう! その講談本の発売記念の講談会で、「みなさん、来ていただいて大変有り難いんですけど、お詫びがあります。今日みなさんにお渡しした本には誤植があって、上から貼り紙がしてあります」と高座で謝っていました(笑)。

【和田】それ、聞いたことあります。それ、逆に貴重なバージョンですよね。

【三浦】むしろそうかもしれないですね。

【和田】そういうのって……ごめんなさいね、今日の主題と違っちゃうかもしれないんだけど。新橋演舞場で、林家正蔵さんとか米團治さんが、「鹿芝居」といって落語家がやる歌舞伎みたいなものをやった時があるんですよ。『勧進帳』をやったんですよ。
で、「今日の『勧進帳』は、本職の坂東三津五郎さんに全面的に指導していただきました」と書いてあるわけ、そのパンフレットというか配られたモノに。「ありがとうございます」と書いてあるんだけど、その坂東三津五郎さんが「板」になっちゃってるの、「坂」じゃなくて。

【三浦】ああ、それも……。

【和田】「板」東になっちゃってて。

【三浦】それ、大変じゃないですか。

【和田】僕、普通に受け取ったから、「これもしかして気づいてないのかな?」という。シールも無しで。だから気づいてないと思うんですよ。

【三浦】気づいてないんですね。

【和田】さすがに「板」東だったら、刷り直すか、何か貼るかしたんじゃないかなと思っているんだけど。

【三浦】それはそのまま配られて終わり?

【和田】配っていました。僕は手にしてしまいました。

【三浦】以上、終わり?

【和田】終わりですね。

【三浦】そういうのって、意外と変な話、後世に残って妙な価値が出たりすることがあるんですよね。

【和田】かもしれませんね。
まあでもとにかく、志らくさんの本のあれは、結構衝撃でしたけど。

【三浦】そうですか。『雨ン中の、らくだ』でしたよね? それ家にあったから、もう1回見直してみます。

【和田】最初のバージョンはそうなっているはずです。

【三浦】割と出てすぐに買ったので。

【和田】はいはい。

【三浦】では、談春さんと志らくさんの本の話をしたところで……。
和田さん、今日はいろいろ落語の本を持ってきていただいて……和田さんのご推薦図書というのでしょうか……。

【和田】今日はこのぐらいしか持ってこなかったんだけど。私の個人的なことなんですけど、今、本とかいろんな物を茨城県に置いているんです、家じゃなくて。

【三浦】そうなんですか。それは書庫みたいなことで?

【和田】書庫……まあ倉庫。

【三浦】倉庫? 家を借りてるんですか?

【和田】そうです。誰も使わなくなった家を。廃屋と言ったらあれだけど。空き家を借りて、そこにいろいろ入れて、まあいろいろ整理したいんですけど、そっちにかなり実は入っちゃっているので、記憶に従ってという感じでおしゃべりします、今日は。

【三浦】はい、お願いします。

【和田】今も話に出ましたけど、私は談志さんの本がとてもいいと思っていて。談志さんの本というと、若き日に書いた三一書房の『現代落語論』。

【三浦】あれは面白いですよね。

【和田】そうですね。あれがすごい名著だと言われていて。あれは真打になって割とすぐに書いた本なんですけど、「落語論」というかエッセイみたいな本なんですけどね。

【三浦】エッセイですよね。いろんなエピソードであったり、自分の芸に対する思いとか、映画のこととか、いろいろ書いてありますね。

【和田】当時、例えば上方落語というのが「滅びる寸前だ」という書き方になっているんですよ、あの本の中では。

【三浦】あれが出たのは1960年代ですか?

【和田】60年代ですね。60年代のいつだ? 談志さんが真打になっているわけだから……60年代の後半だと思いますけれども。
だから「上方落語はとても衰退しているのだけれども、実はとても魅力があって、東京落語にも伍する内容を持っている」というふうに書いているんですよ。それはその通りなんだけど、当時そういう感じだったんだろうなということが分かります、あれを読むと。存在感が薄くなっちゃっていたんだろうなと。

【三浦】上方って当時そうだったんですか?

【和田】そうです。落語家全員で20人ぐらいしかいなかったから。だって今の月亭八方師匠が入門した時だって、30人いなかったんですから、全員で。

【三浦】それは少ないですね。

【和田】少ないです。
出ます? 談志さんで。

【三浦】『現代落語論』は、1965年に初めて書き下ろした作品にして、と書いてありますね。

【和田】出ていますか、三一書房、65年ね。ビートルズが来日する1年前です。あれは66年なので。まあその辺が名著だと言われているんですけど、僕は自分がぶつかったという意味でも……ごめんなさい、今日現物を持ってきていないんだけど……講談社から出ている『談志百選』という本、これが僕はすごくいい内容だと思っていて。90年代に週刊現代に連載した……。

【三浦】週刊現代に? 週刊誌への落語関連の連載というのは、ここのところあまり聞いたことがないですね。

【和田】珍しいですよね。これは落語だけじゃなくて、談志がいいと思った100人の芸人を論じますという、毎回見開きで、論じたり思い出話を語ったり、時には批判したりというようなことなんだけれども。見開きの2ページで、山藤章二さんのイラストレーションが付くんです。

【三浦】ホントだ。立川談志、山藤章二・画と書いてありますね。

【和田】何年ですかね、これ。連載していたのは90年代なんですよ。

【三浦】発売されたのは2000年になっていますね。2000年3月6日。

【和田】ですよね。だから90年代の終わりごろに連載をしていて、本にしたということだと思うんですけれども。

【三浦】もうこれにはダウンタウンとか爆笑問題も登場しています。

【和田】入っています。ダウンタウン、爆笑問題、それからもちろんビートたけしなんかも入っているし、あとは当時の中村勘九郎、後の勘三郎とか……。

【三浦】先代の勘九郎ですね、お父さんの。

【和田】それから、タレントもいろいろ入っていると同時に、落語家で言えばやっぱり志ん生、文楽、小さん、それから神田松鯉とか……。

【三浦】講談師も?

【和田】はい。松鯉さんって、前の松鯉ですね。それから、例えば浪花節でいう春野百合子とか、神田伯龍とか、あと米朝さんも入っていたかな? そういう人達を論じている本で……。

【三浦】「芸人論」ということですかね?

【和田】そうです。これはすごくいいです。当時のリアルタイムで、正確に評価している部分と、「こういう芸がいいと言われている、いいと言われていた」「今の基準に合致させると、照らし合わせると、ここが合わなくなっているんだ」とか、そういうのをものすごく論理的に、論理的にと言ったらいいのかな……談志さんのジャッジで選んでいる。基本的にここに選んでいる100人というのは、自分が良しとした100人なので、そのチョイス自体も面白いですよね。

【三浦】そうですね。

【和田】林家木久蔵、今の木久扇さんも入っているんですよ。

【三浦】そうなんですか?

【和田】僕からすると、入れるのはとってもよく分かるんだけど、談志師匠は後々まで「あれは原稿を落としそうになった時に木久蔵をしょうがないから書いておいたんだ。一瞬体調が悪くなっちゃった時があって、それを出したからあれが入っているんだ」と言っていましたけどね。入っている理由というのをね。

【三浦】原稿を落としそうになった時ってどういう意味ですか?

【和田】どこかに出かけて帰ってこられなくなっちゃうとか、そういう時のために予備で1回分書いておいたと。

【三浦】予備で書いたんだ(笑)。

【和田】それがなんか出ちゃったんだよとか言って、その言い訳をするのも彼らしいという感じがして。面白いですね。

【三浦】円楽さんのこととかも書いているんですか?

【和田】円楽さんは100人の中には選んでいなかったはずです。言及している部分はあったと思いますけどね。

【三浦】円楽さんは選ばれなかったけど、木久蔵さんは選ばれたというのはいいですね。

【和田】そうですね。例えば鶴瓶が入ったりとか、だけどこの人は入っていないみたいなのもあるんだよな。例えば小三治なんかは入っていない。

【三浦】小三治? そうですか。志ん朝師匠は入っているんですか?

【和田】志ん朝さんのことは言及していて、100人の中に入っていたと思います。その時に面白いのが、当時90年代で、談志さんも志ん朝さんも現役です、現役同士。志ん朝さんのページの最後のほうに、「志ん朝の逆襲を期待する」と書いているんです。

【三浦】逆襲?

【和田】つまり「志ん朝は俺のことをもっと脅かさなきゃダメだ」と。現状、90年代の終わりごろはそうなっていない。そうなっていないと言い張るわけ、談志さんは。だから、彼の逆襲、それから飛躍を期待するみたいなことが最後の1文。

【三浦】面白いですね。

【和田】面白い言い方です。

【三浦】談志師匠は、真打になるのは志ん朝師匠が先になって、若いのになって抜かれて、でも自分はそれに反発して、という言い方が正しいかどうかは分かりませんけど、すごい頑張るわけですよね。それでぐいぐいいくんだけれども、志ん朝はそれに正面から向かってこないというような言い方なわけですかね、それは?

【和田】彼のやっているモノが停滞しちゃっているというジャッジなんですよ、その本の中では。

【三浦】志ん朝の落語が……。

【和田】だけど、もっと上に行けるはずなのに、行ってもらわなきゃ困るんだよ、だから彼の逆襲に期待するというふうに……つまり、逆襲に期待するということは、余裕のあるポジションですよね、書き方としてね。

【三浦】そうですね。自分はもう上に行ったよって。

【和田】そうそう。そこの上にいて、上がって来いよ、みたいな言い方で。そういう位取りも含めて面白い本だなと思います。

【三浦】面白いですね。自負がありますね、やっぱり談志師匠の。

【和田】そうなんです。週刊誌に書いていたから、リアルタイムっぽさみたいなのもあるし。

【三浦】週刊現代でしたっけ? 確かに毎週毎週、現代に連載されていたら買いたくなりますね。

【和田】あれは僕買っていましたよ。
それから馬生さんのことを書いていてね。十代目馬生がホントに早く亡くなったのが惜しいと。上の世代、上の世代というのは圓生とかああいう世代と、自分達の世代の間をつないでくれる人だったと。あの文章はストレートに書いたよな。
それから高田文夫さんを100人の中に入れているんですけど、これはすべての行がジョークというかほら話になってるの。

【三浦】ホントに?

【和田】ヤツはベトナムの生まれで、日本にボートに乗ってやって来たとか。

【三浦】面白いですね(笑)。

【和田】拾い食いとかをしてだんだん大きくなって……。

【三浦】それ最高に面白いですね。

【和田】東京のカラスを先導してね。カラスがこれほどまでに東京を鳴きまくって荒らすようになったのは高田が仕掛けたんだと。

【三浦】高田文夫の仕業だと。

【和田】そうそう。

【三浦】それ最高に面白いですね。

【和田】面白いです。

【三浦】高田文夫も嬉しかったでしょうね、すごく。

【和田】嬉しかったと思いますよ。その中に入って、しかも他のページと違う趣向で、全部を洒落のめすという書き方で書いて。

【三浦】それは嬉しいでしょうね。

【和田】でも、あのページの最後のほうのほんの数行で、高田先生のことを書いているのはすごい鋭い論だと思って、ヤツはすべての会話を洒落のめす、マジメに言わないと言って、そう言わなくてはならないような背景があるのだろうと書いているんですよ。

【三浦】そこはズバッと言っているわけですね。

【和田】それはすごい高田論だと思いますね。でもすごい名文ですよ。
それから亡くなった人もいろいろ入っておりますし。

【三浦】それはぜひ、必読ですね。

【和田】あれはすごい名著。今言っていて思い出したけど、あれ文庫にはなっていないですね。

【三浦】そうですか。

【和田】文庫にはなっていないなあ。講談社から1回出て、これすごい立派なモノなんですよ。紙質とかもちょっと……。

【三浦】見た感じ、立派な感じがします。

【和田】四六判というのかな。
そのあとの、僕は晩年に出た、これが亡くなる十数年前なので、2000年ということは11年前ですよね。

【三浦】そうですね。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)


担当:藤本ゆや
いつもご依頼いただきありがとうございます。
私も嵐の二宮君のファンで、『赤めだか』のドラマを観て落語を知った1人です。今回のお話を伺って、原作も読んでみたいと思いましたし、落語の世界にもっと触れてみたいと感じました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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