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『雨が降ると必ず来る』。中谷真史がお客様を振り向かせるために実行した、新人時代の営業手法

「私の未達時代」では営業の第一線で活躍するトップセールスを訪ね、彼らの考える営業の極意を語っていただいている。今回は、現場やマネージャー、第三者として営業組織へのコンサルティングなど、様々な角度から「営業」に関わってきた中谷真史さんを取材。前半では、彼の新人時代にまで遡り、これまでの営業人生についてお伺いした

後半では、売れる営業になるために大事にしてきたポイントや、心を開いてくれないお客様に対してとった行動について紹介してもらった。果たして、中谷さんはトップセールスに上りつめるまでに、一体どんな戦術を実行してきたのだろうか。

「ターゲティング」し、キーパーソンだけを狙う

——営業プロセスの中で、特に注力していたフェーズはどこでしょうか?

まず一番大きかったのは「ターゲティング」ですね。

ターゲティングとは、商品を売る相手を絞り込む“戦略”のこと。市場全体をいくつかのグループに分け、最もニーズが高いと思われるグループにターゲットを定める行為です。「モノを売る」ことにおいては、最初のステップとも言えます。

——中谷さんは、どのような基準でターゲットを絞っていたのでしょうか?

まずは、ポテンシャルと波及力があるかどうか。そして、医師自身が新しいものを受け入れやすい“アーリーアダプター”かどうかも、ポイントにしていました。

また、会社が持っているデータを活用し、それぞれの製品がどこの地域でどれほど売れているのかなどを分析していました。例えば、港区の〇〇エリアにおいては▼▼円ほどの金額が動いているなど。データによって、市場の動きが分かり、各地域でどれほどの金額が動きそうか検討がつくようになります。市場データから必死に電卓と手書きメモで分析しました。(当時はまったくと言っていいほどPCスキルがなく、Ctrl+Cのショートカットキーすら知りませんでした。。)

ここから狙うべきターゲットを定め、対策を練ります。僕は担当している取引先が約100軒あっても、そのうちの最注力先3軒に活動リソースの大半を投下していました。その分、どうやったら話を聞いてもらえるか、商材に関心を抱いてもらえるかを綿密に考えていました。

——なるほど。そう聞くと、一人当たりのリード数が2~3件の「エンタープライズ営業」とも、重なる部分がありそうです。

そうかもしれません。

医師の中でも、キーパーソンとして一定のパワーを持っている方がいるんです。その方が「良い」と言えば、周りにいる方が動くといったような。

なので、ターゲットを決める際には、その医師の方をフォローしている人がどれほどいるのかを分析して、その方を重点的に狙っていました。 

趣味の知識を蓄え、お客様の「信頼」を得る

——まさに前半でも語られていた「選択と集中」ですね。しかしターゲットを絞っただけではうまくいかないこともあると思います。

そうですね。そこで僕が特に大事にしていたのは「信頼関係を築く」ことです。
そもそも医師の方々は賢い方も多いですし、薬について知らない若僧が来ても、一瞬であしらわれてしまいます。だからこそ会話をするためには、まずは彼らに信頼してもらわなければいけないと思いました。

——たしかに。そのために何をしたのでしょうか?

まずは彼らと対等に話せるように知識をつけようと、医学や薬学の勉強から始めることにしました。その知識を持って、営業しに行きましたね。

——おお。反応はどうでしたか?

それが意外にも逆効果で(笑)。「どこぞの若者が分かったように薬を語って偉そうだ」と言われてしまったんです。

彼らに気に入られるにはどうしたらいいのだろうと悩んだ末、次に彼らが関心がありそうな「趣味の知識」(業務以外にニーズのある話題の知識)をつけることにしました。山登りや釣り、ワイン、日本酒、料理、レジャー、ゴルフ、スーツ、バッグ、時計、車、芸能など。女性誌まで読みましたね。それらの話題をアイスブレイクにするようにしたんです。

すると、反応が変わりました。

——どういうことでしょうか。

プライベートで顧客が興味のある話題にことごとく対応できるようになると、だんだんと心を許してくれるようになりました。

地域の場所やご飯、最近できた商業施設などの地元の情報。職業柄裕福である医師たちのために、誰よりも地域のことに詳しくなりました。多忙でなかなか行けない方には、「この間オープンした店のものを買ってみました」とレビューをしてみたり。

「論文」を読み、お客様と同じ目線に立つ

——他に何かやっていたことはありましたか?

世界中の論文をリアルタイムに読み、その情報を提供していました。どんなに経験がある医師でも、リアルタイムに英語で読んでる人は少ない。例えば、高血圧についての製品を担当していたとしたら、「高血圧(Hypertension)」のキーワードが含まれる海外論文をピックアップして読んで、情報を共有していましたね。

——共有した後はどうするのでしょうか?

「この論文についてどう思いますか?」と聞くんです。そこで返ってきた言葉に対して、「これはこういう解釈もできませんか」「こういうパターンについてはどうですか」「こういう別角度での論文もありますよね」と、自分なりの見解を述べてみる。

すると「こいつはちゃんと業界を理解しているやつかも」と、思ってもらえるんです。

——なるほど、勉強になります。

ディスカッションする際、医師と同じ目線で会話できるかどうかはポイントです。そのために、自分が情報優位に立てそうな領域を理解して、ひたすら勉強し、相手に情報として渡すと。

全ての話題において、医師と情報格差がない状態を作るよりは、どこに情報格差が生まれるのかを突き詰めていくイメージです。

会ってくれないお客様には『雨の日』作戦を実行

——それでも、なかには全然心を開いてくれない、話を聞いてくれない方もいると思うのですが。

たしかに、いらっしゃいました。

午前の診療中に行ったら、患者さんだらけでそもそも会えない。午後の診断が終わった後に行っても、「早くご飯を食べたい」「会食の予定が入っていて時間がない」と全然時間を作ってもらえない。

そんな方々に対しては『雨が降ると必ず中谷が来る』作戦を実行していました。

——『雨が降ると必ず中谷さんが来る作戦』ですか?

はい。雨だけではなく、大雪が降る日や台風の日、めちゃくちゃ暑いもしくは寒い日も。要は、患者さんが少なくなる日を狙う作戦です。

ただ、天気のいい日もあえて伺って、しっかり受付で断られる。そこで製品紹介のパンフレットと「今日はお忙しそうなのでまた来ます」と、直筆のメモを書いて毎回渡す。

逆に天気が荒れた際には「よし行くぞ」という気持ちで、行くと。すると医師たちも、だんだんと「何回も来てくれたのに」と申し訳なくなってきて、時間をかけてくれるようになる。それを5回、10回と繰り返していくと、まるで『パブロフの犬』状態へ。(大変失礼に捉えられかねない表現で申し訳ありません。)

——天気が悪いから、そろそろ中谷が来るんじゃないかって。

そうです(笑)。逆に今度は天気が悪い日に僕が行かないと「あれ来ないな」と。

——「選択と集中」をしているから一軒ずつ時間をかけて、試行錯誤できる。中谷さんだからこそ、生まれた戦術なのだろうなと思いました。

ありがとうございます。

「会えない」と言われても、「じゃあ、どういう手段を使えば会えるようになるのか」と考える。逃げずに、ルールをハックする方法を考える。そういう場面を乗り越えられるかが、トップセールスになるための勝負どころだったなと思います。


 ライター:フジカワハルカ

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