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「トリックと怪人」製作メモ

人の記憶は儚くしばらくすると驚くほど忘れてしまうので自分の記憶用として製作過程を残しておきます。

「トリックと怪人」は現在オインクゲームズさんから出版されていますが、元はゲームマーケットでジップ袋に入れて売った同人ゲームでした。

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はじまりは「ボトルインプ」のカードサマリーをぼんやり眺めていた時でした。

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トランプは4スートそれぞれ1~13ですが、ボトルインプでは同じ数字のカードはなく1~37のカードに赤青黄3つのスートが振られています。それぞれ色ごとになんとなく黄<青<赤となっているものの、ところどころクロスして必ずしも黄<青ではないし青<赤でもない。これを眺めているうち、「裏向きにカードを出して色だけ宣言。誰が勝つかを予想するポーカーみたいなゲームができないだろうか?」と思いつきました。

試しにボトルインプのカードを使って独り仮想プレイをしてみると、
・枚数を少なくしてカウンティングしやすくした方がいい
 => 1~10の10枚に
・1は絶対に負け10は絶対に勝つのでは面白くない
 => どのカードにも勝てる可能性と負ける可能性を作ろう
ということで、以下のようなカード構成を考えました。

10青
 9青
 8赤
 7青
 6赤
 5黄:得点2倍
 4赤:9を殺す
 3赤:10を殺す
 2黄:自分以外全員5以上なら勝つ
 1黄:10がいたら勝つ

この時点ではまだ怪人がいません。代わりに赤が4枚ありました。
これを4人に2枚ずつ配り(2枚欠け)、いわゆるトリックテイキングの要領で1枚ずつ出して勝敗を決めるという基本構造ができあがりました。最初はブリッジのように4人専用のチーム戦でした。チーム戦にしたのは、上位を殺す系のカード(赤)を出しても自分は勝てないので、チームメイトを勝たせるために使うといいのではと思ったからです。

・・・が、作ってはみたものの、「これって面白いのかな?」という感じで、しばらく放置していました。

そこへ、いつも出入りしているボドゲカフェ「サニーバード」にて突如、自作ゲームブームがやってきます。みんなで自作ゲームを持ち寄りテストプレイ会をするというので、ならば自分もと「つまらないと思うけど…」と言いながら恐る恐る出したところ、「おもしろい!」「これはすごい!」とみんなが絶賛してくれたのです。そのおかげで「ちゃんとカタチにしよう」と思い立つことができました(たしかその時のメンバーは砂川さん、Kくん、でんちゃん、くぼたん)。

しかし、ルールを厳密化し説明書に記載する段でつまづきました。この時はまだ誰が勝つかを予想するのではなく、どちらのチームが勝つかを予想するもので、負けると判断したら次ラウンドに勝負を持ち越す選択ができたりしたのですが、チームによる降りる降りないの意思決定方法、両チーム共に降りた場合の処理などを文章で書こうとすると意外と回りくどく、スマートでないと感じ、結局またしばらく放置となりました。

その頃、人狼好きの友人K君の影響で時々人狼をプレイしていました。人狼は面白いのですが自分的には幾つか不満点もありました。ゲームとはいえ相手を嘘つき呼ばわりしたりするので言葉遣いなど配慮しないと傷つけてしまう恐れがあること。会話のゲームなので無言では遊べないこと。喋らない人を吊るなどキャラ(性格)によって公正でない扱いを受ける場合があること。多数決で意思決定するため、いくら自分の考えが的中しても勝敗に結びつかないこと。など、モヤモヤする部分が自分の中にありました。

さて、この時点ではまだテーマがありませんでした。なんとなく、10を国王、8を姫、1を乞食、3と4を暗殺者などと名付けていたら「ラブレターっぽい」と言われたりしたので、もっと何か良いテーマはないかと考えていたところ、プレイ感として推理ゲームのような印象があったことから、探偵ものにしてはどうだろう?と思いつきました。勝者を犯人に置き換えるという真逆のような設定です。後から思うとこれはオインクゲームズさんの「藪の中」と似ているのですが、そう思ったのは発売後しばらくしてからで製作中はまったく失念していました。

テーマを探偵ものに設定したことで、再びルール・カードリストを全面的に見直しました。この時、人狼をやって楽しかった要素、モヤッと感じた要素などを部分的に取り込めないかと考えました。そして
・チーム戦をやめ自分の予想が当たっていれば得点とシンプル化
・犯人の予想を指差しに
・特定の色を持たない「怪人」を追加
といった変更を加えました。
怪人は思いついた瞬間から面白そうな予感がしましたが、テストプレイの結果は予想以上に効果的でした。それどころか「もっと嘘つきたい」「騙したい」「怪人が手札に来なかった」などという声が上がりむしろそっちが主役になるほどだったので、枚数を2枚に増やしました。

また、ずっと4人専用ゲームとして調整していましたので、最後に2人用・3人用ルールも作りました。

アートワーク

イラストは「麻雀拡張カード」に引き続き赤瀬よぐさんにお願いしました。赤瀬さんは地元長崎で活躍する漫画・イラスト師兼ゲームデザイナーで、代表作は「グラバー」(ニューゲームズオーダー)ですが、この時はまだグラバーが世に出る前のことです。

赤瀬さん自身もゲームデザインをされるだけあって、いろいろと分かってらっしゃるため指示も最小限です。テストプレイで使っていたカードを見せて「こんな感じでお願いします」くらいでした。

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赤瀬さんから送られてきた最初のラフ案。
怪人だけ候補が3つ来ました。

斎藤怪人ラフ02

そこで「江戸川乱歩の怪人二十面相っぽく」とリクエストしたところ、こうなりました。

斎藤怪人本作画途中6

カード完成(大)

後に製品化されたオインクゲームズさんのミステリー小説風デザインもとても気に入っていますが、この初版のデザインも非常に素晴らしかったと思います。

ちなみに赤瀬さんにはテストプレイにも参加してもらっていて、ゲーム終了条件は、最初はスタートプレイヤーを時計周りに変えながら人数ラウンド行うラウンド制でしたが、赤瀬さんが「残りラウンド数的に普通にやっても勝てないから」と、全部得点2倍の可能性がある刑事(黄)を指すプレイをしてきたことを受けて、後に終了ラウンドが読みづらい10点先取に変更しました。こういう「あまのじゃくプレイ」はテストでは穴を見つけるのに重宝します。

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他にも細かいことはたくさんありますが、だいたい以上です。

ちなみにテストプレイでは、テーマを探偵ものに設定してからはワレスの推理ゲーム「P.I.」のイラストをMtGのカードに貼って使っていました。

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絵はテストプレイの段階では必ずしも必要ではないですが、あった方が「そういうゲームなんだな」と直感的に理解してもらえるので、なるべく入れるようにしています。(どれをどのカードとして使っていたかわかるでしょうか?w)

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余談ですが、P.I.のチャイナタウンは長崎の中華街がモデルです。
門に「長崎新地中華街」とハッキリ書いてありますw

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