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ストランドビーストとクラフトビール


 先日、テオ・ヤンセン展を見てきた。
オランダのアーティスト、テオ・ヤンセン氏が制作するストランド・ビースト。
プラスティックチューブを材料に砂浜で風を受けて動く、物理工学を基礎としながら、
有機的になめらかに稼働する生命体を模した作品だ。

ビーストとビール、何の関係が? と思うのだけど、

私自身の仕事の領域や役割など色んなものを、良く言えば、多岐に渡って範囲が広く、より正確に言えば、曖昧で雑多で体系だっておらず、学ぶ範囲を効率的に定められるほど経験もなく全てを手探りでやっていくしかないので
とにかくジャンルに限らず、雑食的にインプットしている。
意識的なアウトプット(と言うか、接続)が苦手で、なるべく避けて通りたいけど
そうも言ってはいられないフェーズなので、仕事と絡めて吐き出すつもり。

さて、ストランドビーストに戻る。
構造や機能に分けられ、変化しながら進化し系統だったビーストの機能美や、有機的な動きは実際に見たほうが良いと思うので割愛して、ストランド・ビーストの繁殖について。
 ストランド・ビーストは自立して生き延びることを目指した、風を食べる人口生命体で、歩行機能や水感知機能、空気の貯蔵や方向転換などの機能を持つが、当たり前の話ではあるが自身で増えることはない。

是非、動いているところを見てほしい。本当に滑らかに歩き出す。

ビーストはヤンセン氏と共に絶えるものか? というと、そうではなくて
ビーストが繁殖、増えていくようにヤンセン氏によってビーストの情報は公開されている。
ヤンセン氏が制作したビーストの様子が、インターネットを通じて拡散し、オープンソース化されたビーストの作り方を見て、他の人が新しいビーストを造り、ビーストは増殖していく。

増えて広がるためには、オープンじゃないとダメということ。

クラフトビールもそうで、勿論ホームブリューが日本では合法ではないといった事情もあって、オープンソース化の必要性の議論とか業界の体質とか以前に、建前上は日本のブルワーは大抵プロ、ホームブルワーではない為普通に忙しい。
オープンソースにするには、フォーマットや場所が必要で、オープンソース化に回す余剰なんて大抵存在していないのです(勿論、これは半径3メートル位の狭い観測によるもの)

キャプションには尾とあったけれど、動いている様子を見る限り頭に見える。犬のあいさつみたいに動く

ストランド・ビーストには尾があるものもあって、思わず撮影したくなる様を見せる。
テオ・ヤンセン展でも、動画も写真もOKで、毎時間行われるリ・アニメーション、展示されているストランド・ビーストが風によって動く様子を案内してくれたキュレーターの方も、撮影と拡散を勧めていた。
興味を惹くための尾は、空気の貯蔵や自立機能とは違い、生きるために必要な機能ではない。
でも、増えるためには必要な機能であり興味を惹くことの重要性を教えてくれる。

クラフトビールも、賛否両論あるけれど大手も含めた各社の興味を惹く戦略と努力によって、だいぶ周知されてきた。
ビーストに倣って次のフェーズ、オープンソース化もすぐそこなのでは?と期待している。

この、オープンソース化の必要性というのは2016年頃から漠然とあって、
2017年ぐらいはビール醸造版Qiitaを作りたいと思っていた。
Qiitaとは、エンジニアに関する知識を記録・共有するサービスで、プログラミングに関するTipsやノウハウを記録や公開ができる。
私自身は、プログラマでも醸造家でもないのだけれどQiitaを利用をしていて、IT系のオープンソースの文化が醸造にもあったらな?と、苦戦するブルワーを眺めながら漠然と考えていた。

ホームブルーイングが合法でないことや、そもそもIT業界よりもずっと業界としての規模が小さく、横の繋がりも強いから、そういった整理やプラットフォームを必要としていない感もあって、結局のところは、あったらいいなの夢物語で私の中では終わった話ではあるけれど、後に自社も係わっているサービスがリリースされて、こっちが現実的なアプローチだったか?と膝を打つことになった。

近年、すごい勢いで醸造所が増えているので、オープンソース化の風が吹いていると勝手に思っている。
醸造所が増えているという事は、ブルワーの受け皿も増えているという事。

で、オープンソースの仕組みによって情報が循環するようになったら人の移動も増えて技術移転して、シリコンバレーみたいにならないかな~IT企業を渡り歩く凄腕エンジニアみたいに、流浪のブルワーが技術移転しながらより美味しいビールを造って、さらに飲む人も増えて〜情報と共に人も巡って業界自体が自立するようになったらと、考えながらビースト同士が尾を振っているのを眺めていた。

オープンソース!技術移転!とかすると、多様性が失われないか?と懸念が出てくるかもしれないけれど、おそらくそんなことはない。

「五感に働きかけるもの」は、やはり感性が占める部分も大きい。
料理と同じでペールエール一つ作っても、ブルワーの感性によって全然別の味わいだ。
ビール醸造の面白いと思うところは、感性といったアーティスティックな部分と生物科学のような部分、工学的な部分が混在した結果として一杯のビールになるところ。

それに、オープンソース、増殖といっても全然そんな安易ではないのだ………
テオ・ヤンセン展のミュージアムショップでは、ストランドビーストのミニチュアキットが販売されている。
勿論、散財して3つも買って早速家で組み立てた。
組み立て方は間違っていない(多分)けど、これが結構風をきちんと送って良い感じに動かすといった再現が難しくて、めちゃくちゃ頑張って扇いだり外に連れ出してみたりしている。
ヤンセン展のリアニメーションで、キュレーターの方が上手く動く機嫌の時や中々動かない機嫌の時もあるんですよ?と仰っていた意味がよく分かった。
オリジナル機構を完全再現されているキットなのに………
おそらく、HPで公開されているビーストの設計から作るともっともっと苦戦するはず………
ヤンセン展で観た波打ち際を、ゆったりと歩行するビーストみたいに動いてくれる日はまだまだ遠い。

ミニビーストとウミナミ、上手に風を与えにくい

大阪での、テオ・ヤンセン展は9月25日まで開催しているので是非。

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