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予告のようなもの(習作)

とある酒場にて。
「ネメシスを知ってやすかい? 言い換えるなら、夢の万能物質ってとこです。よくあるでしょう、アニメとかで。とにかくあれは燃料にして、材料。いまじゃありとあらゆるもんが緑だか紫だかわからん石から生まれてまさあ。空飛び車に超軽量化バッグ、疑似多次元コンピュータ。アレは全部ネメシスからできてるんです。本当ですぜ。もはやこの手のアイテムはオタクの寝言じゃありゃしません」
或る夜、とある日本の都市は壊滅した。海に呑まれ、火に焼かれ、ついには爆散したのだった。
「この街がおかしくなってから、数年の事でさあ。ゴテゴテしたネオンだとか、まあフィクションはあながち間違いじゃあないって事ですよ。高速道路の混乱具合はどうにかして欲しいですが。とにかく、ネメシス様様ですよ。わっちが商売できるのもね」
街の名は新名古屋市。クレーターとドームにあふれんばかりの高層ビル、それを取り囲むスラム街、そして人工島から構成される人種のるつぼだ。
過剰な資本主義が支配し、人間が機械と置き換えられるこの街は、有名なフィクションになぞらえて、「ネオナゴヤ・シティ」と呼ばれている。
「ええ?こんなビル群嫌ですかい?ネメシスの話も?夜景は確かに喧しいし、雨だってあまりやみません。良い場所がありますぜ。ここから西へ数キロ行った所に、大きなコンビナートがありやしてね。そいつが突然三倍の面積に膨れ上がったんですよ。そしたらその地域丸ごとこの街のバッタもんみたいになりやがりましてね。特別自治区って言うんですかい?とにかく、夢の街が生まれたんです。リゾートやらなにやら揃ったね」
彼の話を思い出しつつ、女はバイクを走らせる。日も落ちる。
ナゴヤ・ポートタウンを超えた奥、かすかながらにカジノホテルのきらびやかなネオンが躍る。
「あの街こそ、人呼んでニューナガシマ、あるいは北伊勢の楽園。ですがね、現実はそう甘くはないんです。いつでも温泉とか入って、ダラダラとカジノで散財できるような甘さはね」
つり橋の下、重化学工場は地平という地平を埋め尽くし、煙突からは炎を噴き出し悪臭を放つ。妖しげなピンクとブルーの光が夕日に負けじと輝き続ける。心なしか薄暗い。
「あそこはあんたのような女が休みに行くようなとこじゃあ、ありません。欲と暴力が足りない荒くれの街でさあ。現代のフロンティアとも言われてます。なにせネメシスが一番採れる場所ですからねえ。つまり、命がいくつあっても足りないって事です」
つり橋を降りる。「WELCOME NAGASIMA/ようこそ 三重特別行政都市第一区ナガシマへ」……海の手前、ヤシの木と人工光に彩られ、摩天楼、堤防、薄汚いスラムに工業地帯、湾岸高速で成り立つ、ここは日本一の悪徳の街。
「それはなぜかって? 化け物も出るんですよ。ええ。とんでもないね。懸賞金だって懸けられてますが……まさか退治しに行くんじゃないでしょうね」
バイクは巨大なジェットコースターの隙間から差し込む夕日を受け、直線道路を走り抜ける。
「とにかくあの街はまともじゃありやせん。今に理解できまさあ」

ようこそ。最狂のバカンスへ。頼るか、成るか、呑まれるか。ここは英雄の来るべき場所ではない……

試作長編シリーズ2 「GENKAI GIRL GAIDEN : SIN CITY」


コインいっこいれる