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【2号エッセイ①】元カレ

昔、SNSで見た、「バンドマンの彼氏になると歌詞にされるぞ」
という言葉は友達の間で長きにわたって流行した。

 実は今思いつく中で面白い話となるとどうしても「元カレ」というワードが欠かせないのだ。
 私は今、元カレのことをエッセイにしようとしている。
それはきっと、昔私たちが常々口にしていた、
「バンドマンの彼氏になると歌詞にされるぞ」と同義・・・皆、元恋人を面白おかしく。または幻想として思い描き、昇華する以外の術を持っていないのかもしれない・・・

 「ちんこくさい様」
 そんな元彼のあだ名は、「クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望」から由来している。
 忍たま乱太郎から由来していると思った人もいるかと思うが、
ここはあえてクレヨンしんちゃんと言わせていただきたい。(私がクレヨンしんちゃんのファンだからである)
 実はここではどちらからの由来かどうかは重要な部分ではない。
 友人の彼氏の股間部分がとにかく臭かった。それが今回重要な部分となる。

 まず、(包み隠さず言葉にしていきますが、まず。も糞もなく)オーラルセックス。
 これは本当に難易度が高い。大きさやなにそれは関係なく、香りが厳しいのだ。
これはそもそも友人の話だが、咥えた時にえづいてしまう(らしい)。
そして、途中経過で吐しゃ物がこみあげてしまうとも。
(これは今後のお付き合いに影響してしまう・・・。)そう考えた彼女はまず洗い残しが無いかを徹底的に調査した。お風呂に一緒に入り、念入りに彼の体を洗った。
 しかし彼の香りが消えることは無く、むしろ。

彼女の心配はより増し、性病検査へ連れて行った。
もちろん婚前ということを踏まえて、早めのブライダルチェックという名目で、だ。
 そしてその結果、何も問題が無かった。
 本来であれば心を落ち着けられるシーン。しかし彼女は焦った。「この臭いがまさか、病気ではない。」
 考えられる要因はもう洗い残し(溝などが無いか)か先天性の香り。
局所的にそこまで人体から臭いを発するとは思えないが、原因の特定を急ぐべく、あろうことか彼女はお風呂へ中性洗剤を配置し、なるべく彼に分からぬよう、彼の股間を念入りに洗った。
一度ではない。何度も何度も。
しかし、案の定臭いが落ちることは無く、そのままえづく日々が続き、その生活に終止符を打った。
(私からすると、中性洗剤で股間を洗った場合相当痛いと思うので、恐らくこの話はフィクションだと思うが、彼女は大真面目に「中性洗剤で洗った」と言い張るので、そういうことにしておこう。) 

何年かたったとき、SNSで私たちはちんこくさい様の結婚を知った。
もちろんだが、しばらくの実の席では彼のことは話題となった。
果たして彼が「ちんこくさい様」でなくなったのか、臭いに寛容なご婦人を見つけだしたのか。はたまた私たちの友人が臭いに滅茶苦茶敏感だったのか。

職場の同僚に囲まれ、彼と新婦は微笑ましく画面の中で手をつないでいた。

その香りを確かめられない今、私たちに真偽のほどは分からないし、分かろうとするような野暮な真似はしない。

 ただ、「臭い」に捕われているような幼い私たちに一つだけわかることは、夫婦には夫婦の数だけ答えがあり、その答えに正解は無い。
その事実だけだった。


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