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知らない街に行きたい

昔テレビで流れてたある女の人のドキュメンタリーを思い出す。彼女は海沿いに住んでいてコットンのワンピースを着ていて、朝ごはんには決まってバナナヨーグルトを食べていた。詳しく何をしている人なのか、名前すら覚えてないけど彼女みたいに悠々自適に暮らしたい。昔から女が海沿いや森に1人で住んでいる話に惹かれる。何かを諦めたのか、疲れたのか、はたまたただ自然が好きなだけかわからないが、とびきり美しく見える。魔女みたいだ。
私がこうして文章を書くときは大概恋愛で何かがあって感情の波が体の外に流れ出している時なのだが、今回も例に漏れずそうである。
なんともありきたりな悩みで恥ずかしいが、前の彼氏に新しい恋人ができたらしい。

知らない街に行きたい。私の体からモヤが取れるまでどこまでも行きたい。大きな悲しみと軽蔑と嫉妬で体が固まっている。恋なんてするもんじゃないと本気で思う。わたしは相手の都合のせいでいつまでも時が止まっているのに、彼だけ前を向いて新しい愛を見つけられるなんて正直本当に頭がおかしいと思う。バカだ、普通自分の人生に集中する。別れた後にそういった人間性を見ることになるとは思っておらず、ショックが大きすぎて今耳が半分聞こえなくなっている。どうしてくれるんだ。

しかし彼と出会って、江國香織が嘘をかいてるわけじゃなかったんだと、彼の頬に光る私の化粧のラメを見て思った。体が戦慄くほどの大きい生身の心を貰ったのだ。それだけで十分なのだ。これから、その愛を享受できる女のことを思うと気が狂いそうになるが、彼女もまた今日の私と同じ気持ちを迎える日がくると思うと本当に不憫だ。余計なお世話だが。

いまは彼に愛された18歳の私をひたすらに抱きしめていたい。何があっても、彼が離れても私がずっと付いてるからね、と伝えたい。私だって負けないくらい初めて人を愛したのだ。自分のことくらい自分で愛せる。

それに再来年の初夏くらいには、南フランスでハンサムな男の子と川辺でアイスクリームを食べているだろう。わたしは大丈夫だ。遠い街の魔女になるのだから。

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