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クーラーのない寝室で昨年の夏の夜をやり過ごした。大学2年生、19歳。東京の狭い一軒家だった。カーテンがなく朝日が容赦なく差し込む角部屋は私たちを強制的に覚醒させリビングへと追いやった。唯一のエアコンをつけ、彼氏はアイスコーヒーをコップに注いだ。わたしは固い2人がけのソファにどっかり座り、歯を磨いた。特に会話はないのが常だった。外は生命力溢れる緑がこれでもかと繁り、風になびいていた。揺れる葉を通して風の形を見た。
外に出て少し歩くと土手があり、川の近くによると空に遮るものは何一つなくて、遠く遠く空を見渡せた。わたしはその日差しと、肌をすり抜ける夏の風をいつまでも覚えている。風が私ともう1つの肌を結んでいた。言葉がなくてもなんとなく彼が言いたいことは分かったし、わたしが涙を流す寸前の喉の痛みも伝わっていた。

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