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いぶし銀のルーキー、相澤さん

10年以上豚を焼き続けた僕に代わり、2020年から「ぼうずの2代目店長」に就任した相澤さん。八王子出身で、現在は埼玉県の川口で妻と息子の3人暮らし。彼もまた若い頃からずっと飲食業界に携わってきたタイプだが、20代の頃はバイクで世界を旅をしていたりと珍しい経験も持っている。何気にスポーツマンだか、今はもっぱら観戦専門。仕事終わりの一杯をいかに美味しく飲むかにストイックで、夕方からは水分補給を控えている程の酒好きだ。


相澤さんとは2019年の秋に、ある求人媒体を通じて出会った。

彼が元々勤めていた職場の事業編成により東北への転勤を打診されたが、家族で話し合った末に話を断った。そして退職と同時に次の就職先を探していたタイミングで僕と出会った。

僕の想いや会社のビジョン・勤務環境などには賛同してくれたが、長年勤めた前職と比べるとどうしても給与がだいぶ下がってしまう。個人の気持ちと世帯主としての立場を天秤にかけて悩んだが、「一緒に頑張って会社大きくして、みんなで給与上げていこう!」と僕がラブコールを送り、入社に至った。


僕には創業当初からのぼんやりしたビジョンがあり、「ぼうず」「こぼうず」そして「まごぼうず」の3店舗を近場でやる「ドミナント出店」という構想を持っていた。

既存2店舗が安定してきた2019年。翌年には東京オリンピックもある。3店舗目をやるならこのタイミングだ!そう感じていた。

ビジネスの言葉で「人・モノ・金」というキーワードがある。最近ではここに「情報」も加わったりするが、つまりは経営者にとっての基本的且つ重要な項目のことだ、大事な順に並んでいるそうだ。

相澤さんの人柄や経験値は次の飛躍を見据えた僕にとって、是非とも欲しい「人」だったので、入社を決めてくれた時は嬉しかった。


どの仕事でも同じかもしれないが、転職したり職場が変わったりすると、その先先でそれぞれの場所にやり方の「色」がある。

料理においては「味付け」や「見映え」などは共通の数値では測れないし、「こうあるべき」や「こうしていこう」などは、どの選択肢も正解になりうる。

相澤さんの中にも自分なりの「色」があるはずだが、僕が10年以上やって来た既存店「ぼうず」を引き継ぐにあたり、まずは既存の「色」を極力そのまま引き継いでもらうことで合意した。

もちろんそれを実行できる相澤さんの柔軟さがあってのことだ。

おかげでスムーズに多くの作業を効率よく引き継ぐことができた。

僕は少し余裕ができた時間を、情報収集や戦略を練るといったことに使い始めた。

2019年の忘年会シーズンが終わり、年が明けて2020年。不動産屋へ足を運ひ始めるなど、3店舗目へ向けた具体的な行動も増えていった。

だがその頃、僕らが気付かない間に少しずつ背後に迫っていたコロナの牙が、3月頃には本格的に猛威を振るい始めた。その後は皆さんの知る通りだ。


相澤さんとの付き合いは現時点でまだ約1年間。前回書いたこうた君と比べるとエピソードはまだまだ少ない。しかもその大部分がコロナ下での付き合いだ。

既存の「ぼうず」の引き継ぎも終わり、さあこれからという頃にやってきた未曾有のコロナ。お客さんがいないという状況に、気持ちが萎縮してしまった部分もあっただろう。

相澤さんは過去に僕が出会ってきた人達の中でも、トップクラスに優しい。

その優しさ故か、はたまた気持ちの萎縮故か。元々端的に思いを伝えることが苦手なのかもしれない。

とても人当たりは良いので、酒でも酌み交わしながらの語り合いなどでは存分に本領発揮できるが、営業中のお客さんとの接点は多くの場合短時間で、それもタイミングが何度もある訳ではない。

帰り際のお客さんに「ありがとうございました!」と言って見送った後、僕に「あのお客さん、こないだも来てくれてありがたいですね!」とか言ってきたりする。

できればこの場合は「こないだも来てくれて嬉しいです!ありがとうございました!」とそのお客さんに全部伝えてあげてほしい(笑)


外食産業における今の世の中を大海に例えると、小さな船が航海を続けていくには本当に厳しい大時化だ。

そんな中でも船の舵を握るのは常に船長である。仮にその船にオーナーが乗船していたとしても、航海中の乗員乗客を守る責任者はやはり船長なのだ。

そのために船長は船の設備や船の状態、あらゆる知識と情報を基にこれから起こり得る事態を想定したり、時にはオーナーの指示を待たずに独断で舵を切る場面もあるだろう。それが船長の責任だからだ。

店長の責務は先ずは仲間とお客さんを守ることなのかもしれない。それが結果的に業者さんや大家さんや自分たちの家族へと広がり、その波紋の総称を「店を守る」と呼ぶのかもしれない。

「人・モノ・金」。ここでもやっぱり「人」が第一だ。


今回のnoteで記した後半は、今チーム全員で向き合わなければならない事で、相澤さんだけに対する事ではない。

どうする事が正解かなんて、とりあえずは後回し。

それぞれ自分が置かれた立場での意見を前向きに交わすことが、よりチームが強くなるためには重要だ。

そして実際の行動に移す際には、必ず自分達なりの根拠をもっていたい。

なんとなく秋だから「かぼちゃのスープ。」をやるのではなく、

(季節感を出すための一品を作りたい。でもその一品でお腹いっぱいになって客単価が下がるのでは本末転倒。時期的にも寒くなってきたので温かいスープはどうだろう。お店としては特に早い時間帯のお客さんを増やしたいから、先着◯名限定にしよう。どちらかと言えば女性客を狙いたいので、旬を迎え美味しくなり、価格も下がってきたし、ロスも出にくいので…)「かぼちゃスープ。」と言った具合になってほしい。

きっと成長と正解は、それを繰り返す中から生まれてくると信じたい。


我々「ぼうず・こぼうず」チームは、店長は店の舵を、社長は会社の舵をしっかり握りしめ、暗闇の航海の中においてもコンパス(前向きな気持ち)と海図(おいしい料理)を手放さず、まだ見ぬ向こう岸に必ず辿り着いてみせます。

励ましの意味を込めて「この街にぼうず・こぼうずは必要だよ!」というみなさま一人一人の灯台の光を、僕らに向けて照らしてくれたら嬉しいです。

春なって僕らが新大陸に辿り着いたら、何かお返しさせて下さいね。


改めて、炭火焼き豚肉料理専門店 ぼうず 店長「相澤 伸一」を、今後ともよろしくお願い致します。

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次回は「ふわとろ和風オムレツの作り方」

最後までありがとうございました!


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