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【1000文字エッセイ】#4 煙草 ~そこに静かにあるものたち~

これは、わたしの大好きなエッセイ集、江國香織さんの“とるにたらないものもの”に憧れて、憧れすぎて、書いているものです。


煙草を吸う女性に憧れていた。

わたしが人生で初めて見た煙草を吸う女性は、母方の親戚のおばあちゃん。当時70近かったおばあちゃんは可愛らしい目をして、いたずらっ子のような表情を浮かべていた。

でも、煙草を吸うときだけは別人のよう。大きな目を静かに細め、ふぅーーっと細い細い煙を吐く。その横顔は、テレビで見る女優さんみたいにオンナの匂いがして、小学生のわたしはどきどきした。

おばあちゃんが吸っていた煙草は、若草色の“わかば”。大人になって“わかば”はヘビー級の煙草だと知り、半分驚いたけど半分納得した。

大正生まれのおばあちゃんは、東京から駆け落ちして結婚するくらい情熱的な女性で、ヘビー級の人生を歩んだ人だったからだ。

大学のサークルに誰が見ても美人の先輩がいた。

その先輩は、お酒が入ったときだけ煙草を口にする。細いブレスレットがシャラリシャラリと光る手首の先には、細身のメントール煙草。ワンレングスの髪をかき上げながら、灰皿に口紅のついた煙草を押しつける細い指先は、女のわたしでもドキリとした。

灰皿で山をつくる吸殻の中に、コーラルピンクの口紅のついた吸殻がある光景は、艶っぽくてセクシーだった。

わたしが1度も煙草を吸ったことがないのは、吸ったらやめられなくなりそうで怖かったというのもあるが、煙草を吸った自分が、あんなふうに色っぽさを醸し出せる自信が全くなかったからだ。

だから、煙草を吸う女性に憧れていたし、吸いながら1点を見つめるようなあのうっとりしたまなざしと、少しすぼめる唇の色っぽさに、心を惹かれた。

社会人3年目、当時つきあって2年くらいの彼がいた。

休日は、1人暮らしの彼のアパートに行くのが定番で、わたしの身の回りのものが彼のアパートに少しずつ増えていったころだった。

休日のお昼ごろ彼のアパートに合鍵で入ると、彼は「おはよー」と言いながらモソモソ起きだして、着替え始めた。

ふとキッチンの隅を見ると、灰皿が山盛りになっている。彼はヘビースモーカーだった。片付けようと近づくと、その灰皿に、口紅のついた吸殻を数本見つけた。ショッキングピンクの口紅だ。

なにこれ?

コーラルピンクの口紅のついた吸殻は色っぽかったのに、ショッキングピンクの口紅のついた吸殻はドギツくて、全然色っぽくなかった。色気どころか、いやらしさを感じた。

これ、どういうこと?

静かな声で彼を問いただす。

その日以来だ。煙草を吸う女性に、憧れなくなったのは。

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