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非投球腕の使い方

導入

非投球腕とは、投球する腕とは逆の腕。つまりは利き腕とは逆の腕のことです。グラブ側の手です。
投球する際、非投球腕の使い方は非常に重要です。

この記事では、

日本では「グラブ側の手を強く引くと、ボールを持った方の右肩が勢いよく前に出てくるから右腕もより強く振られる。」 と指導されることが多く、野球の教則本にも「グラブを持った方の手を勢いよく後方に引くように使おう」と記されていることが珍しくない。
しかし、アメリカでは「グラブは体の前に置いておき、そのグラブに対して体を寄せていきなさい」 と指導された。

と書かれています。
その結果、球速のアップや制球力の向上、球質の改善などが得られたとのことでした。

今回、この非投球腕の使い方について議論していきたいと思います。
ここから後は、グラブを身体の後ろに引くフォームを「引くフォーム」、グラブを身体の前に残すフォームを「残すフォーム」とします。

残すフォームのメリット、引くフォームのデメリット

結論から言いますと、残すフォームの方が合理的で引くフォームは非合理的だと考えられます。

この2つの違いとしては、
①身体の開き
②エネルギーを十分に伝える
③回転中心の違い
が挙げられます。まあ言っただけではわかりませんので、ひとつずつ見てみます。

1, 身体の開きが抑えられる

まず残すフォームのメリットとしては、身体の開きが抑えられることが挙げられます。
ある研究の結果では、止めるフォームのほうが肩の回転の開始が遅いことが報告されています。

http://www.waseda.jp/sports/supoka/research/sotsuron2006/1K03A215-2.pdf

すなわち、止めるフォームのほうが肩の開きを抑えることができ、一気に回転することができていることが考えられます。
肩がしっかりと回転することで、リリースポイントが前方になり、球質が改善するメリットもあります。

2, エネルギーを十分に伝えられる

リリースまでに地面反力や下半身・上半身の回転などから得られたエネルギーを、ほぼロスなくボールに伝えることが球速のアップにつながります。
引くフォームでは非投球腕(グラブ側の腕)が身体の後ろにいってしまいますので、身体の後ろにエネルギーが逃げる形になってしまいます。
結果、エネルギーが分散してしまい、得たエネルギーを100に近い形で伝えることができません。ですから、グラブ側の腕は身体の前にできるだけ残した方が効率的です。

しかし、残しただけでは不十分です。
グラブを残しただけだと、投球腕+その側の半身しか使えないフォームになってしまいます。

右投手だと、右半身しか使えないような手投げのようなフォームになってしまいます。

グラブ側の腕を身体の前に残しつつも、グラブ側の腕(肩)を引きながらその反動で投球腕(肩)を前に振りだす形がベストだと考えられます。
左肩を引くと、反対側の右肩が反動で出やすくなるのはやってみれば体感出来ると思います。

3, 回転中心の違い

投球動作をひとつの回転運動として見た時、引くフォームだと下のようになるのではないでしょうか。(画像の投手がそうとかではなく、イメージです。)

おそらく回転の中心が脊柱軸(身体の真ん中)になると思います。画像だと青い点のあたり。

残すフォームだと、

グラブ側の腕の肩が投球腕の回転の中心になると考えられます。

この2つを比べると、引くフォームよりも残すフォームの方が回転半径が大きくなっていることが分かります
回転半径は回転中心(青い点)から投球腕の手の先までの距離のことです。

このように回転半径が大きくなると、2つのメリットが生まれます。
慣性モーメントが大きくなることと、リリースポイントが安定することです。

慣性モーメントとは「回しやすさ」を主に表しています。慣性モーメントが大きいと回しにくく、しかし回した時の勢いや回転のエネルギーは大きくなります。
そして慣性モーメントは、回すものの質量と回転半径の2乗に比例します。
ですから、回転半径が大きくなると慣性モーメントは大きくなり、回しにくいが回り出すと大きなエネルギーを持つことになります。

また慣性モーメントを大きくすることで、腕の振りの再現性を保ちやすくなるというメリットもあります。
慣性モーメントが大きくなると、回転する物体のブレが少なくなり軌道が安定するということがあります。
ヒモを振り回すことをイメージしてください。
先に重りをつけた方が回しやすいし、安定して回ってくれます。これは慣性モーメントが大きくなることで、軌道が安定するからです。
この寄与によって腕の振りの軌道が安定して、制球力の向上に繋がるのではないかと考えられます。

結果、回転半径が大きくなることでエネルギーを大きくすることができて、腕の振りの再現性が保てるので、球速アップ・制球力向上に繋がるのではないかと考えられます。

もう1つのリリースポイントの安定についてですが、下の図を見てみてください。簡易的に腕の振りの軌道を円で表してみました。

黒の矢印の方向に投げるとしたとき、この黒い線上でボールがリリースされればいいことはわかると思います。
この時、青い矢印が”理想的なリリースポイント”だとすると、半径の小さい黒い円だと黒の矢印上をすぐ離れてしまいます。
しかし赤の半径の大きい円だと矢印上に長く乗っていることが分かります。半径が大きいとカーブが緩やかになり、円周が直線に近づくからです。
このことからわかるように、回転半径が大きい方がリリースポイントを投げる方向への矢印上に長く乗せることができます
このことが制球力改善につながったのではないかと考えられます。

まとめると回転中心がグラブ側の肩にくることで回転半径が大きくなり、慣性モーメントが大きくなってエネルギーをより伝えることができ、またリリースポイントを安定させることができます。

以上が、「残すフォーム」と「引くフォーム」の比較です。

まとめ

グラブを身体の前に残すフォームは、球速アップや制球力の向上、球質の改善などにおいてかなり効果的だと思われます。また怪我防止にも役立つと思います。
途中で触れましたが、グラブ側の腕を残すだけでは不十分で、身体の前に残しつつも非投球腕の肩に回転中心があることを意識して腕を引く必要があります。

読んでいただきありがとうございます。
メカニクスに詳しいわけではないので間違いのご指摘、ご意見などお待ちしております。

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