見出し画像

ゴミ屋敷(ショートショート)

 3丁目の角のゴミ屋敷は有名で、この前もTV局がきて取材をしていた。どこかのワイドショーだと思われる。
 ここの世帯主は影野薫という70歳の女性である。この時代、まだ人によっては若くてバリバリ仕事をしていそうな年齢ではあるが、彼女は一人暮らしで、死んだ亭主の少ない年金で暮らしていた。子供はいなかった。
 亭主が存命な頃はゴミ屋敷ではなかったが、亭主が無くなってから、だんだんと認知症の症状が表れてきて、今では家の中に入れないレベルにまでなっていた。
 ではどうやって生活をしているのかというと、大部分は謎であった。ただ本人はゴミの中に平然と入っていき、食事をしたり、トイレに行ったりしているのだろうとは思われるが、水道料金も滞納で止められているので、食事トイレは無理なのではと想像に難くない。
 それ以上は、あまり想像したくない。
 市の職員の人が度々訪問するけれど、埒があかない。強制撤去といっても、意味が通じない。職員もあまりに臭いので、長居は無用と、説明が終ったら早々に帰っていく。
 そんなある夜、影野さん宅から大きな光が発射された。360度光線が出て、夜空を明るくした。
 周囲の住民、並びに消防隊、警察が何事かと、影野さん宅を囲んだ。
 一晩中、光は輝き続け、周りの人達は、ただそれを眺めているだけであった。何事が起ころうとしているのか。皆、緊張の面持ちで身構えていた。
 朝日が差してきた。朝だ。するとだんだん空が明るくなるにつれて、光は弱まり、やがて光を発しなくなった。
 傍観者たちは、そこで意外なものをみた。ゴミが全て金色に輝いているのである。腐れて落ちた木材も、食品の食べかすも、割れた雨どいも、閉じる事のできなくなった玄関ドアも、カップラーメンの空の容器も、ゴキブリも、ネズミも、水道が止められてその場に用を足したうんちも、全てが金色で、しかも匂いがなくなっているのだ。
 早速成分を調査するために科捜研が呼ばれ、全てが純金だということがわかった。
「オーッ」
 どこからともなく歓声があがった。消防隊員がゴミの中に入り込み調査検分を行った。住民の影野さんが昨日から行方不明だったのである。
 消防隊員が部屋の奥から影さんの遺体を発見した。家の外に出してみると、野次馬はまたも歓声をあげた。
 影野さんの遺体は金色に輝いていたのである。まるで菩薩のように。調査をすると、影野さんの体も金でできていることがわかった。
「これは奇跡だ。こんなことありえない」
 近くにいたカトリックの神父が十字架を掲げながらそういった。
 まさに奇跡だった。
 全ての金になったものは管理している市の所有物となり、御遺体はもはや人間ではない以上荼毘にふすには、もったいないので、勝野さんのご遺体は博物館へ送られた。

「っていうのはどうだい」
「それならゴミ問題も解決するし、市も潤いますけどねえ。あるわけないじゃないですか、そんな話」
「やっぱ、無理があるよな」
 臭い匂いを我慢しながら、影野さん宅を訪問した帰りの、市の職員がそういった。

 

 
 
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?