宇宙船団(ショートショート)

 宇宙船が群れを成して日本にやってきた。すわ、何事かと日本は大パニックに陥った。どうやら侵略戦争の意思はないようだが、なにせ言葉が通じず、お互いに翻訳機の開発を手掛けてはいるものの、すぐにできるものでもない。
 身振り手振りで会話をしようとしても、笑顔が相手には怒りに間違われ、怒った表情をすると、逆に喜んでいたりする。また微妙な表情に過敏に反応したりするので、全く会談はできなかった。
 とりあえず専門の科学者を数人出して、翻訳機ができるまで、何とか意思の疎通ができないか、やってみることにした。
 1年たった。何とか翻訳機が出来なくても、簡単な会話ならできるようになってきた。相手は言語というよりは顔の表情で会話をするのだ。
 それによると、どうやら宇宙人は日本が大事にしているなにかを、必要としていて、それがなければ、星の命運にかかわってくるらしい。
「日本が大事にしているもの?」
 総理大臣がいった。
「何だろうな。金とか銀とかそういうものなら、他国に行くだろうからなあ。日本の技術かな。でも相手の宇宙船を見る限り日本より技術も高そうだしな。誰かわかるものはいないか」
 閣議で総理が閣僚に聞いたが、誰にもわかるはずはなかった。
「実際にこれだ、と教えてくれればいいのですが」
 大臣の1人がいった。
「そうだな、向こうに派遣している科学者に何とかそういう風にしむけてもらえんものかな」
 官房長官が発言した。
 とにかく先方に派遣している科学者まかせである。
 内閣の意向を受けた科学技術庁長官が科学者のリーダーにそう伝えた。
 科学者たちは何とか会得した会話を駆使して、そのことを宇宙人に伝えようとした。
 ところが会話がうまく伝わらなかった。何か勘違いされたようだ。急に宇宙人たちは忙しそうに動き出した。そして宇宙船団は一気に飛び出していった。
「何が始まったのだ」
 報告を聞いて総理は顔を青ざめた。
「とにかく奴らの向かうほうに自衛隊を向かわせろ」
 防衛大臣は赤い顔をして汗を流しながら、お辞儀をして命令を自衛隊にかけにいった。
 宇宙船団は福島についた。福島の海にたくさんの円盤が集まった。福島の住民たちは恐れおののいた。
 自衛隊は住民たちを避難させるのに手間取った。
 宇宙船から光線のようなものが出て、福島原発に向かって充てられた。原発そのものや放射能廃棄物の入っている貯蔵庫もまるまる光線が充てられた。
「一大事じゃないか。放射能がもれたら、どうする」
 総理が叫んだ。
 だがそれは杞憂であった。やがて船団は去っていった。去っていったあとに原発や放射能廃棄物が消えていた。まるまるなくなり、放射能濃度も普通の場所と変わらないレベルになっていた。
「奇跡が起こった」
 総理大臣がいった。
「あれだけ厳重にしていたので、我が国にとって大事なものだと思っていたのでしょう。喜ばしいことではありませんか」
 官房長官がいった。
「そのお荷物の放射能が、彼らには必要な物質だったのですね。でも何に使うのでしょう」
 それは永遠の謎であった。

 

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