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ハウステンボスにて

  若かりし頃は毎年最低1回は、ハウステンボスに妻と遊びに行っていた。最近はとんとご無沙汰であるが、妻のほうは仕事なので、度々訪れてはいるようだ。ただし最近はただ券をもらえず、中に入ることができずにいるため、外の駐車場で待機が多いという。妻は言い忘れていたが、バスガイドである。
 昔、僕の誕生日の記念にと、ハウステンボスに行った時の話だ。今もバースデー割といって誕生日の人に割引サービスをしているようだが、当時のバースデー割は買い物、食事が10%引きくらいじゃなかったかと思う。
 今はシールをどこか目立つところに貼って、私誕生日ですよーとアピールするようになっているみたいだが、当時はテディベアのぬいぐるみのバッジが目印だった。バッジなので、ぬいぐるみといっても全長10㎝もない。
 それを胸につけて歩くと、すれ違うハウステンボスのスタッフがみんな、「おめでとうございます」と声を掛けてくれる。こそばゆいような恥ずかしいような感じだ。その度に横を歩く妻がクスクス笑う。
 店に入っても「おめでとうございます」だ。何か特別な人物にでもなったかのような錯覚を覚えてしまう。
 彼らはもちろん仕事だから声を掛けてくれるわけで、それ以外の理由はなにもないのだが、「おめでとうございます」が何だか不思議な魔法の言葉に聞こえる。
 そのたびに「どうも」とか「ありがとうございます」とか返事をするわけだが、不思議とこちらも優しい気持ちになっていくものだ。
 日帰りなので、5時間も滞在はしない。そろそろ帰る時刻になる。
 名残惜しくも、バッジは出口で返却され、オランダの家を形どった小さな置物と交換になる。それが誕生プレゼントの粗品?であった。
 ゲートをくぐり、外へでると、もうバッジはしていないので、誰も「おめでとうございます」なんていわない。ハウステンボスの敷地の中でだけ通じる魔法であった。
 何となく名残惜しそうにしている僕を見て妻がいった。
「おめでとうございます」
 
 

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