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獅子舞(ショートショート)

 TVを見ていたら、玄関チャイムが鳴った、正月早々、誰だ、と思って玄関を開けたら、獅子舞が来ていた。これはご祝儀をあげないといけないと思い、女房に用意させた。中身を確認すると3000円だった。まあそんなもんだろう。獅子舞の口から祝儀袋を渡すと、獅子舞は気をよくしてひと踊りすると、向こうへ行った。
「最近珍しいな。獅子舞なんて来るなんてさ」
 俺がそう言いながら家の中へ戻ってきた。
「町内会が今年から始めるって、いってたような、いってなかったような」
 女房はあやふやな返事をする。
 また玄関チャイムが鳴った。ドアスコープから覗く。また獅子舞であった。
「どうなっているんだ、また来たぞ。獅子舞で破産しちまうぞ。帰ってもらおう」
 俺はそういうと、玄関を開け、先程の一件を話し、2度はやらない、と断った。
「えっ、それは偽物ですよ。畜生、先越されちまった」
 どうやらこっちの方が町内会の獅子舞らしい。
「追いかけて、とっちめてやります。どっちへ行きました」
「隣の林さんの家の方へ行ったな」
「わかりました。ありがとうございます」
 そういうなり獅子舞と太鼓打ちと笛吹きは急いで走り出した。確かに見た事のある顔ぶれだ。こっちが町内会だろう。
 林さんの家まで、隣といっても距離がある。ここは田舎なのである。間に広い田んぼがあった。距離があるといってももう出会っているだろう。今頃きっと大喧嘩だ。
「しまった。見にいけばよかった。間に合うかな」
「正月早々、やめときなさいよ。みっともない」
 女房がそういったようだが、聞こえないふりをして、俺は大急ぎで、林さんの家の方へ駆けだしていった。
 さてもさても早速喧嘩になってやがる。周りにはどこからかぎつけたのか、野次馬がいっぱいいいる。
 見れば何と獅子舞が3体もいた。どうなってやがんだい、これは。だがここは町内会の顔見知りがいる方が強い。カネを置いてでていけ、さもないと警察を呼ぶぞ、という話になった。しぶしぶ1組はカネを返し始めた。だがもう1組だけはどうしても返さない。どころか最初からこいつだけ獅子舞の仮面を外さずに、何もしゃべらずに突っ立っていただけであった。
「おい、早く返せよ。その前に仮面を脱げよ」
 町内会の意気のいいのがいった。
 致し方なく獅子舞は仮面を脱いだ。するとなんと獅子舞の中に入っていたのは毘沙門天と福禄寿であった。太鼓を打っていたのは。布袋で、笛を吹いていたのは弁天に姿が変わった。
 そこへ宝船に乗って残りの3名、恵比寿、大黒天、寿老人が迎えにやってきた。7神は宝船に乗って、そのまま笑いながら去っていった。
 みんな、七福神を拝みながら願い事をつぶやいた。
 なんて正月らしいオチなんだろう。
 新年あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。💛してくださいね。
 

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