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節分(ショートショート)

 店を出たら大雪だった。ホワイトアウトとはまさにこういう現象をいうのだろう。前が全然見えない。あまりの寒さに俺はもう一度、店の中へと入った。
「外はすごい雪だ」
 俺は店の大将に言った。
「そりゃあ災難ですね。雪なんて天気予報で言ってましたっけ」
「一言もないね。異常気象だよ」
「何なら飲みなおしたらどうです」
「そうするよ」
 俺はもう一度、カウンターに座りなおし、酒を頼んだ。店の引き戸が風でガタガタ鳴った。こりゃあ帰れないな、と半分諦め顔で、尻を落ち着かせて飲む事に決めた。
 そこへ店の引き戸が開き、客だろうか、雪とともに、入ってきた。大きな男だった。しかもこんなに寒いのに裸である。
 鬼だった。俺はビックリして、思わず、コップの酒をこぼしてしまった。金棒を持ってやがる。何しに来やがったのだろう。
「おい、親父、酒だ、酒をくれ」
「へい、ちょいとお待ちを」
 大将は怯えながら酒を用意した。冷で出した。それを鬼は一気に飲み干すと、座敷の方へ向かい、そこで飲んでいたサラリーマン2人連れを次々と金棒で殴り掛かった。
 1人の男は一瞬にして首から上が無くなり、窓の方へ首は吹っ飛んでいった。もう1人は上から金棒で殴られ、首から上が潰れて、血が噴き出した。
 あまりのことに俺は開いた口が塞がらない。一気に酔いは醒め、逃げたくても震えて逃げられない。小便をその場でちびるほどである。
 鬼と俺は目が合った。ヤバイ。これは最高にやばい。だが逃げたくても腰が砕けて逃げられない。
「た、た、た、た、たすけてくれ~」
 そこまでいうのがやっとだった。鬼は容赦なく俺に近づいてきた。俺は思わず叫んだ。よくそんな声が出せたなと感心するくらいの大声で
「鬼は外」
といった。豆が枝豆だったが、丁度あったので、それを奴に投げつけた。鬼はそれにひるんだのか、開いたままの引き戸から、そのまま逃げだした。俺はその場にしゃがみこんだ。助かった。
 大将は引き戸をピシャリと締めて、「あいつ無銭飲食しやがった」とひとこといった。どうやら雪はやんだようだった。

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