2020年ボカロ10選

明けましておめでとうございます。ぼうはちです。今年も年10選に参加しました。

というわけで、今年出会った中で最も心を動かされた10曲です。順番はプレイリストとして流したら良さげなやつです。


01.パラレルレイヤー/lumo

スマホゲーム「#コンパス」のテーマソングとして提供されたこの曲。1番の部分はゲーム内BGMとして聴くことが可能で、その時点で「良いなあ……」と思っていたのですが、フルバージョンでも期待を超えてくれました。2番Bメロの編曲の変化からラスサビまで間断なく繰り広げられる怒涛の展開にワクワクしっ放しだったのを今でも覚えています。

02.バラードじゃ物足りないわ/Noz.

2020年、「知らぬがイム」「星命学」とヒットを生み出してきたNoz.さんが10月に満を持して(?)投稿した本曲。気付かぬ内に体を揺らしてしまうグルーヴ感溢れるリズムと、魂の底から唸り上げてくるような鏡音リンの歌声のシナジーが完璧です。

03.Convenient Singer/ワカバ

歌詞が最っっっっっ高。
1番で「道具」としてのミクを淫乱な性奴隷に喩えることで表現して、Cメロからラスサビにかけてその初音ミクによる「救い」を描くのが大好きです。卑しさの象徴であった「都合の良さ」が、それが究極的なものである故に「人間の醜い部分も全てを受け止めることができる」という神性すら帯びた圧倒的な包容力にひっくり返るのが良いんですよね……。
この曲と似た構成を持っている(と個人的に思っている)曲としてナノウさんの「ハッピーホロウと神様倶楽部」があるのですが、この曲がニコニコ動画という場における自由な表現手段としてのボーカロイドを示したのに対して、「Convenient Singer」ではよりパーソナルな、一対一の「初音ミクとマスター」の関係が描かれている気がします。どっちも大好きです。

04.ボッカデラベリタ / 柊キライ

冒頭から最大音量でがなり立ててくるv_flowerの声が暴力的なキラーチューンって感じで良いですね。そのあと3回目のアイアイアイヘイチューのところ(ここは1番のサビで良いんですか……?)でピアノとクラップ音が中心になって一旦大人しくなってからサビの二段階目に進むのがたまらなく好き。

実は私は去年の3月から7月までボカロをほとんど聴いておらず、この曲の存在も8月になって初めて知りました(みんはやのフリーマッチに異常な頻度で出てくるなあ……と思ってました)。自分がボカロから離れていた時期にアンセムになった曲ってどうしても他の曲よりハードルが上がってしまうものですが、この曲はそれを乗り越えてくれた感があります。

05.瀬戸際/____natural

今年の2月にボカロシーンに現れるや否や、圧倒的な歌唱力とそれに見合わぬ手軽さでボカロシーンを震撼させたAIきりたん。1年を通して今年の「顔」と言って良い程の存在感を見せつけていたようです。
しかし私は、当初彼女の声にあまり魅力を感じていませんでした。

↑こんなツイートもしてた

そんな状況を変えてくれたのが、この「瀬戸際」です。物静かな朗読パートから一転して、合成音声とは思えない程伸びやかで張りのある高音を歌い上げるその姿に、一瞬で心を掴まれてしまいました。

思うに当時の私は、AIきりたんの持つ完璧さというか、「一番良い歌い方」を選択することによって生まれる個性の無さみたいなものを恐れていたのでしょう。しかし、この曲を聴いたことによって彼女の合成音声としての「クセ」を知ることができ、他のVOCALOIDやUTAUに対して抱くような愛着を持つことができるようになったのだと思います。

06.グリーンベリル/田中B

コバルト穿つ太陽
立ち並ぶ送電塔
羽虫の向かう暗渠
彼方で鳴るサイレン

Cメロの体言止め4連発が何より好きです。それまでの歌詞ではほとんど出てこなかった情景描写が登場することで、楽曲を通して見える世界がすぅーーーーっと広がっていくような感覚があります。田中Bさんらしい、どこか退廃的で哀愁のある歌詞なのですが、そこから開放感のあるラスサビへと展開していくことで、えも言われぬカタルシスを味わうことができます。

07.ラヴィット/ピノキオピー

先日開催された「マジカルミライ2020」でテーマソング「愛されなくても君がいる」を担当したピノキオピーさんが、MVにえいりな刃物さんを迎えて制作した本作。応援している「推し」に振り回されているうちにファンの心にぽっかりと浮かんでくる虚無感、という極めて「最近」っぽいテーマを、上質なレトリックを用いながら描き切る手法は流石ピノキオピーという感じです……。サビの「自分のいない 月を見上げ幸せそうなラヴィット」という歌詞に胸を衝かれた方も多いのではないでしょうか。

08.さよならジャックポット/いよわ

どなたかが「最近のいよわさんの曲は作者の思想が強く出てる」というようなツイートをされていたのを見たことがあったので、この記事を読んだ時に「それじゃん!!!!!!」と声を上げてしまいました。それは置いといて、いよわさんの表現者としての姿勢は本当に格好良いですね……。

この曲においても、複雑な音使いや考察要素といった「いよわ節」は健在なのですが、以前の楽曲に見られた物語性や「死」の匂いは影を潜めています。間奏部分で表示される手書きの文章とイラストも、完成された世界観を見せていた以前の作品では見られなかったものです。しかしこれらの表現が、どことなくヤケクソ気味に人生観を綴った歌詞とマッチしていて、人間としてのいよわさんの感情が直に伝わってくるような、独自の魅力があります(「フィクション」だと明記されていますが)。

ちなみに私はこの曲のMVに出てくる女の子が歴代のいよわガールズの中で一番好きなのですが、それも彼女が持っている(と思われる)価値観や信条が歌詞に色濃く表れており、その人となりを詳しく知ることができたおかげなのかもしれません。

09.各駅停車で新宿へ/yamada

Bメロでメインボーカルとは違うミクの声による主張強めなコーラスが入って、その声のままメロディーを歌うところが好きです。そのあとの「漕ぐスピードを上げるよ」という歌詞と相まって、サビへと繋がる緩やかな疾走感が味わえます。

そしてなんと言っても、この曲の魅力を大きく向上させているのが、作曲者のyamadaさん本人によるMVです。白を基調とした主線の無いアニメーションによって、爽やかな青春の風景が切なくも優しいタッチで描かれています。中でもラスサビの「たらったったった」に合わせて動画の女の子がニコッと微笑むシーンが一番好きで、自分はこの曲の中にある「物語」をあまり理解していないのですが、このシーンを見ると、何かひとつ映画を見終わった時のような幸せな気持ちになれます。

最近人間歌唱の楽曲を中心とするソロプロジェクトを開始されたyamadaさんですが、ボーカロイドの使い方がとても上手な方というイメージがあるので、ボカロの方も続けてくれたらなあ……と願ってます。

10.再生/青屋夏生

創作物というものは公開された瞬間に作者の手元から離れて、それに触れたひとりひとりの中で新しい物語を紡ぎ始める———基本的に惰眠を貪り続けた一年でしたが、その中でも得られた僅かな知見(というか信条)だと思います。



……ごめんなさい、ちょっと格好付けました。いやでも本当に素晴らしい曲ですよね。ノスタルジックな「まち」の風景をバックに、ミクの声によって綴られたひとつひとつの言葉が、本当に心に沁みます。「音楽を聴く」ということの意味を、今一度噛み締めさせてくれるような曲です。




以上が、今年私が出会った中で、最も好きな10曲です。

わざわざ太字で「今年私が出会った中で」と強調したのは、2020年の曲全然聴いてねえな……という自覚があるからです。たぶんこの記事を読んでいる皆さんとは、聴いた曲数の桁が一つか二つ違うんじゃないか、というくらいには。

ただ、あまり深い掘り方をしていなかったからか、今年の10選に選んだ曲はいつも以上に普遍的な「良い曲」が多くなっていると思います。個人的にボカロを聴く作業って、自分にとっての「ここ好き」を見つける「価値の創造」としての側面が強いと思っているのですが(10選もそういう基準で選ぶことが多いです)、今回選んだ曲は多くの人たちにとってそれがやりやすい曲な気がします。まあ小難しいことは置いといて、もし聴いてない曲があったら聴いてくれ!という話です。

以上、拙い文でしたが、最後まで読んでいただいてありがとうございました。



おまけ

タイトル通りなのですが、マイリスコンピ(@mylist_compi)さんの「#今年好きになった今年以外の曲10選」というタグに便乗する形で、2020年に好きになった、2019年以前に投稿された楽曲を30曲選ばせていただきました。「今年よく聴いた曲」の総括としては、こちらの方が適任かもしれません。


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