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16の思いも天にのぼる⑤大輔(3)

【湯本へ

俺は、お前が嫌いだ。だけど死んで欲しくはなかった。
本当張り合いのない生活になっちゃったよ。
 思えば、お前とは小学生からの仲だな。随分長い腐れ縁だな。
 まぁその腐れ縁もあの世に行っちまったら、きれいに切れるけどな。
 お前は、いつも正義感を振りかざしていて俺は、それが気に食わなかった。
 そのまっすぐで、飾らず、分け隔てなく仲良くすることができるお前が羨ましかった。
 その羨ましさから、憎まれ口を叩くこともあった。
 いつだったか、クラスの女子をいじめた時もお前は、俺らにくってかかってきたよな。
 あれは、小学生が好きな女子によくやるいたずらだったのに。
 そのせいで、その子はお前のことを好きになって、俺は嫌われ者だよ。
 あの時から俺はお前が嫌いだった。
 あれから、お前のやることなす事、鼻についてイライラして、つい反抗していた。
今思えば、ガキみたいだよな、俺。
 でもそれが、面白かったりもしたんだ。
 お前はクラスの人気者で、俺はそれに逆らって悪態をつく、嫌われ者。
中々バランスが取れていたと思うんだ。
 俺は、お前が死んで一瞬でも喜んでしまった。ごめん。
 死なんて普段深く考えたこともなかったから、簡単に心の中で、死ねって言っていた俺って凄く、酷いやつだな。
 お前が死んで初めて、死が悲しいものだって知った。
 喜んだはずなのに、涙が止まらないんだ。
嫌いなやつなのに、この世にいないことが苦しくてたまらないんだ。
 毎日の生活のリズムが狂うんだ。
お前一人いないだけで、世界が変わったみたいに思えてしまう。
 お前にこうして手紙を書いているけど、自分でも何を書いているのか分かってない。
 ただ、自分の気持ちをぶつけているだけの文章になっている。
 お前に悪態ついてきたこと、謝らないからな。
死んだからって好きになるわけじゃないから。
 俺、お前のまっすぐさが、眩しくて、羨ましかった。
ただ一つ、お前に言いたいことがあるとしたら、勝手に死ぬなよ。
俺、これから誰に悪態つけばいいんだよ。悲しいよ。
 湯本は、向こうでも、生まれ変わっても人気者でいろよ。
 俺が、そっちに行ったらまた悪態ついてやるからな。
でも、お前はまた軽く受け流して笑いに変えるんだろうけど。
 悔しいけど、俺、一生お前に勝てそうにないや。
                                   井上大輔】
 手紙を書き終わると、大輔の目は、真っ赤になっていた。
「はぁ、俺、すげぇ惨め。」
 大輔は、机に突っ伏して溜息をついた。
 告別式に日、大輔はギリギリまで、行くか行かないかで悩んでいた。
(日頃から、悪口を言っていた俺が、告別式に参加していいのかな。死んだ時だけ、都合がよくないか。以前から好きでしたって、顔して参加するのか。何か、嫌だな、都合よくて)
 数時間ずっと、そう自問自答を繰り返していた。
 数時間悩んだ末、通行くことをやめた。そして、家で広と別れをすることにした。
 大輔にとってのプライドであり、反省でもあり、広への追悼の意味でもあった。        
 大輔は、式が始まる時間に合わせて、窓から外を眺め、長い黙とうをささげた。
 そのまま窓から空を見上げていた。

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