点対称操作とステレオ投影図
みなさんこんにちは!ぼっちゼミです。
この記事から物性物理に使われる群論について学習していこうと思います。
この記事のポイント
点対称操作には5つの操作がある
点対称操作はステレオ投影図を用いて表すことができる
初めに
物性物理・化学で扱うような結晶・分子はいくつかの対称性を持っており、系が持つ対称性によってさまざまな性質を記述することができる。そのなかでも今回は点対称操作について考えていく。
まずは点対称操作の定義をしていこう。点対称操作は「図形の1点を固定しておいて行う対称操作」である。簡単な例でみてみよう。
図1にはアルファベットのAとHの点対称操作が表されている。まずAについて考えていこう。Aは左右対称であり、図1のように中央に鏡をおいて左右を入れ替えても元の図形と変わらない。このとき、Aは鏡映線(3次元の場合は鏡映面)を持つという。
次にHについて、図1に示すようにHは縦と横に2つの鏡映線をもつ。また中心に紙面垂直な軸が立っているとし、その軸周りに180° 回転させても元の図形と変わらない。このような軸を2回回転軸という。つまりHは2つの鏡映線と1つの2回回転軸をもつ。
ここで「点対称操作なのに鏡映線や回転軸を考えるのは変でないか」と考えられる。しかし点対称操作の定義は1つの点が動かなければよいのである。例えばHの場合は中心の点は3つの点対称操作で動かない。ある図形において、ある点を動かさない対称操作の集合を考えているわけである。
ステレオ投影図
ではどのような点対称操作が存在するのか?
その疑問に答える前に、まずは点対称操作を表す手段としてステレオ投影図を導入しよう。
図2左のように球面を考える。上部の半球を北半球、下部の半球を南半球とする。ステレオ投影図とは球面上の点を赤道面の円に投影した図である。今、北半球に点(赤い星)があるとしよう。この点を赤道面に投影するためには、この点と南極を結ぶ線分を引き、線分と赤道面の交点をとる。逆に南半球に点(青い星)があるときは、北極との線分を考える。
実際のステレオ投影図は図2右のようになる。ここで黒丸は北半球からの投影を、白丸は南半球からの投影を表す。もし、北半球と南半球からの投影が重なってしまった場合は白丸の中に黒丸を書いて表す。
点対称操作
さて、いよいよ点対称操作を導入していく。点対称操作には次の5つの操作がある。それぞれをステレオ投影図を用いて順にみていこう。
恒等操作 $${E}$$
反転操作 $${i}$$
回転操作 $${C_n}$$
鏡映操作 $${\sigma}$$
回映操作 $${S_n}$$
恒等操作
恒等操作$${E}$$とは何もしない操作である。ステレオ投影図は図3に示すようになる。恒等操作は操作の前後で図形が動かないので、あらゆる図形に含まれる対称操作である。
ここでステレオ投影図について、基本的に初めの点は北半球上の一般点にとる。ステレオ投影図上では右下に書くことが多い。図3では初めの一般点が右下にあり、恒等操作の結果、(当たり前だが)初めの点と重なるので1つの点のみが書かれている。
一般点とは対称操作上に無い点のことである。例えば1つの鏡映面が存在するような図形を考えたとき、一般点は鏡映操作によってほかの点に移る。もし点が鏡映面上にある場合は鏡映操作をしてもほかの点に映らない。このように対称操作上にある点を特殊点という。
反転操作
反転操作$${i}$$は点を原点に関して対称な位置に移す操作である(図4右)。ステレオ投影図は図4左のようになる。反転操作によって点が南半球に移ることに注意する。
反転操作がある場合は、ステレオ投影図の原点に白丸を書いて表す。対称操作により移った一般点ではないことに注意する。
回転操作
$${n}$$回回転操作$${C_n}$$は、ある軸周りに図形を反時計回りに$${2\pi/n}$$だけ回転させる操作である。ステレオ投影図を図5に示す。
例えば2回回転($${C_2}$$)の場合は180°回転、6回回転($${C_6}$$)の場合は60°回転である。回転操作を続けて行うことで様々な角度の回転を表すこともできる。6回回転を2回行えば($${C_6^2}$$)120°回転になる。
回転操作が存在する場合、回転軸と赤道面の交点にに楕円・三角形・四角形などを付ける。図5-1,2では回転軸は原点を通り、紙面垂直にとっている。図5-3では回転軸を紙面が含むようにとっている。
鏡映操作
鏡映操作は点を鏡で映した位置に移す操作である。鏡映面にはいくつかの種類がある。
回転軸を持った図形を考える。回転対称性の高い軸を主軸という。主軸に垂直な面での鏡映操作を$${\sigma_h}$$で表す(図6-1)。主軸を含む面での鏡映操作を$${\sigma_v}$$と表す(図6-2)。主軸に垂直な2回回転軸が存在する場合、主軸を含み、2回回転軸がなす角を2等分するような面での鏡映操作を$${\sigma_d}$$と表す(図6-3)。
鏡映操作はステレオ投影図で太線を用いて表す。(なお、図6では鏡映操作で移る点のみを示した。本来であれば回転軸が存在すれば鏡映面も複数存在するはずだが、それも示していない。)
回映操作
回映操作$${S_n}$$とは$${n}$$回回転操作ののちに回転軸に垂直な面での鏡映操作を行う。従って$${S_n=\sigma_hC_n}$$が成り立つ。また$${S_2=i}$$である(図7-1)。
ここで$${S_n}$$が存在する場合でも、$${C_n}$$と$${\sigma_h}$$が存在するとは限らないことに注意する。
回映操作が存在する場合は、回転操作に白丸を組み合わせたような図形をステレオ投影図に付ける。
まとめ
今回は点対称操作とステレオ投影図について学習した。点対称操作は恒等・反転・回転・鏡映・回映の5種類あり、それらをステレオ投影図を用いて表すことができる。
次回からは、これらの点対称操作がある集合(点群)を組むこと、結晶では32種類の点群が存在することを学習していく。
参考文献
G. バーンズ、物性物理のための群論入門、中村輝太郎・沢田昭勝 共訳、培風館、1991